008:アルテミシア
「どうするも何にも、おそらく感知しているだろう。大聖堂は今頃大慌てではないのか?亜人が現れたというだけでも大事なのに、その保有加護の数は2つ。その希少価値はわかっているだろ?」
アルビダは呆れたように俺にそう言う。
まあ、問題なのはそれじゃないんだよ。
「・・・まあ、そっちはどうとにでもなる。けど、『南の亜人王』アケーロが来そうな気がしてな」
「あー、確かに。でも洗礼しないといけないから行くのだろ?」
アルビダは彼のめんどくささを知っている。
彼女は女性なのに女性が好きと言う変わり者で、それなのになぜか俺になついている。
理由は聞いても教えてくれず、俺は少しばかり苦手意識を持つ子だ。
―――コンコン
「ギルドマスター、教会よりシスターがお越しです」
「ここに通してくれ」
アルビダがそう言うと扉の向こうのギルド職員が後ろの誰かに話しかけて扉を開ける。
「あ、待て―――」
「クラミチさん?・・・クラミチさーん!」
入ってきたシスターの女性はそのままクラミチに抱き着き彼の顔を埋める。
「や、やっぱり、アルテミシア」
「ああ、もう。何で孤児院の子供達とは遊んでくれるのに私とは遊んでくれないのですか!?それと、シアと呼んでくださいよー」
彼女の名はアルテミシア。
別名:聖女とも呼ばれ、こん棒の武器スキルと回復魔法・治癒魔法のスキルを持つ。
彼女はとある事情で腐れ縁のようになっている。
「カエデ様も、ヒカリ様もあなたからの便りだけでは心配みたいですよ。数少ない同郷の方なのです。たまには顔を見せてあげたらどうなんですか?」
「・・・そうか。でも、もう合わせる顔が無いからな」
「いつまで抱きつているの!シスターシア!」
「あ、アルビダさん!そうそう、この地に使徒である亜人様が降臨されたらしいのです!ただちにギルドにて各ダンジョンに捜索隊を・・・」
シアはそう言ってアルビダに来た理由を話していると、シアの胸ぬ埋もれてぐったりしているおれをソファに寝かせたクマをみて驚く。
「・・・あ、亜人?」
「うん?クマはクマだよ?」
シアはそう言うクマからアルビダに視線を移す。
アルビダはため息をついて「そうだよ」と言った。
「えっと、クマ様?」
「クマでいいよ、シアちゃん。クラミチの友達でしょ?」
「え!?・・・友達、ともだち、・・・えへへ」
「シアちゃん?」
友達と言う言葉にうれしそうに笑うシア。
それをクマは心配そうに声を掛ける。
「・・・話が進まないな。シア、今お前は仕事中だろ?しっかりしろ」
「あ、そうでした。えっと、クマ様。申し訳ないのですが、聖都へともに来ていただけませんでしょうか?」
「・・・いいけど、なんで?」
俺がたしなめることによって意識を仕事モードへと戻したシアはクマにそう言うが彼女は理由を問いかける。
「教皇さま、7聖典に神託が下りました。『ホルス辺境伯の地に使徒を送った。彼女は彼に与えた使徒である。挨拶がすみ次第、干渉すること許さず』、と。それで挨拶をしてもらうために来てほしいのですが」
「・・・えっと、挨拶は大事、だよね。クラミチが一緒ならいいよ?」
クマは困ったようにそう言う。
すると、シアは驚いたようにクマのかを見る。
「えっと、クラミチ様ですか?・・・来ていただけますか?」
「行かなきゃならんだろ。神託の内容は部下にいきわたっているんだろうな?」
「あ、ありがとうございます。クマ様、クラミチさんを同行者に選んでいただきありがとうございます。姫様やヒカリ様が喜びます!」
「シア、私も言っていいかい?」
「アルビダもですか?いいですが、どうしてですか?」
「本部長に報告する」
すると、シアは理解したのか笑って頷いた。
「では、クランチ様の意志が変わらないうちということで今から行きますか。善は急げです!」
そう言ってシアはクラミチ、アルビダ、クマを抱き寄せると胸元の宝石に一度触れる。
すると、宝石が淡く光り始める。
「緊急転移!転移場所、聖都にある大聖堂!」
シアがそう言うと俺たちは光に包まれ、目を開くと白を基調とした神殿のようなところに降り立っていた。