ようこそ異世界へ?
まるで現実のような夢から俺は目を覚ました。
いつもと違う天井、辺りを見渡しても自分の部屋ではなかった。
この非日常的な光景に驚きつつも、期待に胸を膨らませる俺がいた。
「ついに異世界に来た…… 」
俺は念願の異世界へ来れてワクワクしていたが、少し不安もあった。
「何をすればいいんだろうか」
しかし、何の情報もなく異世界へきた俺はこれからどうすればいいのか考え始めた。
こっちの世界にも学校はあるのだろうか。異世界というくらいだから漫画やアニメで見ていた異人種が共存し、魔法などが存在する世界なのだろうか。
しばらく部屋を見回していると、カレンダーの今日の日付の場所に赤丸が付いていた。
もし、元の世界と同じなら今日は俺の一八歳の誕生日だ。
自分の誕生日に印を付けているなんてこっちの世界の俺は可愛い性格だなと思っていた。
しかし、違う世界に自分と同じ名前と容姿の人間が存在しているなんて不思議な感覚だ。
「やはりこっちにも学校があるのか…… 」
机の引き出しを開けてみるとそこには教科書らしきものがギッシリと詰まっていた。
表紙のデザインなどは違っていたが、日本語で『数学A』と書いてあった。どうやら言語は元の世界と同じようだ。
今まで見ていた創作での異世界というものは言語が違い神様が何とかしてくれるパターンや自力で勉強するパターンなどだったが、期待外れだった。
一気に現実へ引き戻されそうになったので、きっとアリーが俺の脳に細工でもしてくれたのだろうと思うことにした。
「……誰もいないのか? 」
部屋を出て、家の中を見て回ったが人の気配がない。しかし部屋数の多い一戸建ての家で、洗濯物が干してあったり食器が台所に置いてあったり生活感のある家だった。
家具や家電製品、家の造りなど特に元の世界と変わったところはなく、本当に異世界へきたのかと俺は疑問を抱き始めた。
「……なんだこれは」
家のドアを開けるとそこは今まで見たこともない光景が広がっていた。
同じ形の住宅が道路を中心に左右対象にビッシリと並んでいた。
それだけでも奇妙な光景だったが、さらに衝撃的だったのは俺が出てきた家の裏側にとてつもなく高い壁がそびえ立っていた。
その壁は空に向かってはてなしなく伸びており、何かから街を守るように住宅地に沿って続いていた。
俺はこの壁で魔物や謎の生命体から街を守っているのではないかと推測した。そう思うと先ほどまで感じていた疑問や不信感は一気に消え去り、高揚感でいっぱいになった。
少し街を歩いていると、車が一台も走っていないことに気づいた。代わりに電車のようなバスが走っていた。
この世界ではこれが移動手段になっているのだろうか。
すると、突然けたたましいサイレンの音が街に鳴り響いた。
東京タワーらしき建造物から放たれたと思われるそのサイレン音はそびえ立つ壁に反響しているのか、耳に残響が残るほど大きな音で身体が跳ね上がるほど俺は驚いた。
「何事だ…… 」
五秒ほどサイレンが鳴り続けたところで俺は一人呟いた。
「本日の流刑執行のお知らせをいたします」
サイレンの後、女性の澄んだ綺麗な声が聞こえてきた。
「……るけいしっこう? 」
俺は今まで聞いたこともない単語に首を傾げた。
「国民繁栄維持法に従い、宗谷航、赤月恭の二人が流刑に処されることになりました」
「……え? 」
俺はあまりにも突然のことで言葉が出てこなかった。頭が真っ白になるとはこのことだろうか。
何分ほど経っただろうか。我に返った俺は今自分が置かれている状況を考えはじめた。
まず、自分の名前が呼ばれたことだ。この世界の俺は何か犯罪を犯したのだろうか。
それならこの世界の俺が逃げたくなったのも頷ける。
次に、『流刑』という聞きなれない単語だ。たしか中学生の頃の歴史の授業で聞いたことがある。その時は島流しのような意味で習った覚えがある。
「まじかよ…… 」
自分は今犯罪者として島流しされようとしているのだろうか。
もし仮にそうであれば俺は捕まってしまうのか。
考えれば考えるほど頭が混乱していく。逃げるべきなのだろうか。しかし見知らぬ土地で逃げ回ったところで捕まるのは時間の問題だ。
「宗谷航君だね? 一緒に来てもらうよ」
考えていると後ろから声が聞こえた。
振り向くと銃のような物を俺に向けた男達が立っていた。3人の男が立っていて、全員スーツを着ていた。
「あの……これはなんなんですか? 」
銃口を向けられた俺は無意識のうちに両手を上げていた。
自分が置かれている状況がますます分からなくなり、声を震わせながら真ん中に立っている男に尋ねた。
「本日をもって君は日本国の国民ではなくなる。理由は君が一番分かっているだろう? さあこっちへ来い」
左右にいた男達が俺の両腕を掴んできた。
「おい、何するんだ! 離せよ! 」
このままでは連れて行かれると思った俺はジタバタと暴れ、両腕を掴んでいる男達の手を振り解こうとした。
「まったく……こうなったのも君の怠慢が原因だろう。残念ながら刑の執行は決まっているんだ」
真ん中に立っている男はそう言うと俺の右脚に銃のような物を向けてきた。パシュッとした音と同時に俺は右脚の太ももあたりに針で刺されたような軽い痛みを感じた。
「おい! 俺が何をしたって言うんだよ! 俺はまだこの世界にきてーーー 」
なんとか振り解こうと動かしていた両腕に力が入らなくなっていた。そして俺はだんだんと目眩がして立っていられなくなり、両膝が地面についた。
「どうして……どうして俺が…… 」
意識が遠のいていくなか、俺は泣きそうになりながら呟いた。
「こいつ、この世界がどうとか言ってましたけど? 」
「まぁ、現実が受け入れられなくてよくこうなる奴がいるんだ。こいつも迫ってくるタイムリミットに焦ってーーー 」
なんとなく聞こえていた声が完全に聞こえなくなった。
それと同時に俺は眠りにつくときのような感覚に陥っていった。