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パラレルチェンジ  作者: あまやき
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ようこそ異世界の入り口へ



今俺は夢を見ている。


いわゆる明晰夢というものだ。昔から夢はよく見る方でいつしか自分が夢を見ていることを自覚できるようになっていた。

いつもは自分が主人公になりきり、ファンタジーの世界で魔物と戦ったりする夢を見ていたが今回は違う。


体は自由に動かせるが、見たことのない空間にいる。それは完全な夢ではなく、夢と現実の狭間にいるような感覚だ。

今俺がいる空間は八畳ほどの広さで中央に大きなシャンデリアがある。






「ようこそ、異世界の入り口へ」


後ろから急に大きな声がして、俺はビクッとしながら後ろを振り向いた。

そこには小学生くらいの女の子が立っていた。彼女は水色のワンピースを着ていて、手にペンと紙を持っている。


「ようこそ、異世界の入り口へ」


少女は、驚きのあまり呆然と立ち尽くしていた俺の目をジーっと見つめながらもう一度そう言った。




「えーっと……異世界の入り口?」


「はい、あなたは異世界に行きたいと願いましたよね? 私はそれを叶えるためにここへ来ていただきました」



俺は必死に目の前の少女が何を言っているのか理解しようとしていた。

五秒ほど考え、思い出した。俺は今日寝る前にネットの掲示板に書かれていた異世界への行き方を試していたんだった。


やり方は簡単で、紙に『パラレルチェンジ』と書いてそれを手に握りながら寝るだけだ。

どうせ誰かが適当に考えた方法だろうと半信半疑だったが、まさか本当に異世界へ行けるとは。



「これって現実なの!? 本当に異世界に行けるの!? 」


状況を理解した俺は、少し興奮して前のめりになりながら小さな少女に問いかけた。



「はい、一応現実です。しかし、あなたの意識と会話をしているのであなたからすれば夢の中で私と話している感覚でしょう」


「異世界に行けるのかという質問に関してはあなたの意志次第です」


「ぜひ行かせてください! 」


俺は食い気味に即答した。



「分かりました。 しかし、いくつか注意事項があるのでお話しします」




「まず始めに、一度異世界へ行ったら二度と戻ってこれませんのでご了承ください」


俺は頷きながら一度行ったら戻ってこれないパターンか、と納得した。




「次に、このことは他言無用です。まぁ、仮に口が滑ったとしても誰も信じてくれないでしょう」


少女は一切、表情も口調も変えずに淡々と説明を続ける。




「最後に、これはよく聞かれることなので言っておきます。あなたは転生や転移するわけではありません。もう一人のあなたと交換していただきます」


うんうんと頷いていた俺は首を傾げた。



「……もう一人の俺? 」




「ええ、簡単に言えばパラレルワールドのようなものです。詳しくお話しすることはできませんが、あなたは違う世界にもう一人いて、意識こそ違いますが身長体重など身体自体は同じです」



「それじゃあ、そのもう一人の俺と意識だけを交換するということ? 」



「その通りです」


なんとなく少女の言っていることを理解したが、交換されたもう一人の俺は急に世界が変わって驚くんではないだろうかと考えていた。



「今あなたが考えていることがなんとなく分かるのでご説明します」


この子は人の心も読めるのかと少し驚いたが、そんなことは今更どうでもいいだろう。




「もう一人のあなたも違う世界に行きたいと願っています。そして既に異世界へ行くことへの了解も取っておりますのでご安心下さい」



「なるほど、お互いの思いが一致したときに異世界へ行けるということか」


紙に書いた『パラレルチェンジ』という言葉の意味を理解した。きっとこれはこの女神様が用意してくれた人生の救済措置なのだろうと思った。




「そういうことです。それではこの紙にあなたのフルネームを書いて下さい。そうすればあなたは異世界へ行くことができます」


正直俺は今の人生に不満があるわけではない。ただ、漫画やアニメで見る異世界というものに憧れが強く、今まで色々な方法を試しては失敗を繰り返してきた。







「俺、異世界に行きます! 」


覚悟を決め、俺は少女に渡された紙に名前を書いた。すると、紙は溶けるように徐々に消えていった。



「はい、確かに承りました。今回は異世界交換人アリーが担当させていただきました。あなたの異世界生活がより良いものになると願っております。さようなら、宗谷 航さん」


アリーと名乗った少女はさっきの紙と同じように消えていった。

俺はついに念願の異世界へ行けるのかとワクワクしていると、明晰夢が覚めるときと同じように意識が遠のいていった。








―――あの時、なぜもう一人の俺は異世界へ行くことを望んだのか深く考えるべきだった。










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