元ギルド最強のおばさんは、孤児院でもやってみることにする。
「はぁ? あんたのようなおばさんがギルドに登録をしなおす? 馬鹿もやすみやすみにしろ」
ラライヤ・ハンダルは、訪れたギルドでそのようなことを言われて困惑した表情を浮かべた。
ラライヤが最後にギルドの仕事を行ったのは、二十年近く前の話だろうか。子供が生まれ、子育てに専念することにしたラライヤは冒険者を引退した。引き留めるギルドの職員の声を振り払っての引退である。ギルドの仕事を五年受けなければギルドの登録は抹消されてしまう。ラライヤのギルドカードももう使えなくなっていた。
さて、冒険者を引退したラライヤがもう一度ギルドに登録を行おうとしたのは子育てを終えて、暇になったからである。一年前、二人の子供のうちの下の子が十五歳を迎え、家を出た。一年間のんびり過ごしていたわけだが、ラライヤは暇だった。暇だったからもう一度冒険者をやるかと思った。
が、こんな態度をされて面食らった。
「これでも昔はギルドに登録してたのよ。それに今でも私は―――」
「うだうだうるせぇ! お前みたいなおばさんにギルドの仕事なんて出来るはずないだろうが。さっさと帰りな!」
「……そう、ギルドは望むものをすべて受け入れてくれる場だと思っていたのだけど」
残念だと、ラライヤは思う。ギルドは望めば誰でも受け入れてくれる場、二十年前は少なくともそうなはずだった。だけど、この二十年の間にギルドは様変わりしてしまったのかもしれないとラライヤは思う。
ラライヤはこの二十年人里離れた場所で過ごしていた。人里に時々向かっていた旦那も、下の子が生まれてしばらくしたころに病で亡くなってしまった。それからは子供たちと自給自足の生活を行っていた。だから知らない間に、ギルドは変わってしまったのだとラライヤは思った。
実際は、このギルドの者が勝手にいっているだけで他のギルドにいけばラライヤも冒険者登録を出来たかもしれないのだが、ラライヤは冒険者になるのは諦めようと考えてしまった。
周りの冒険者たちに笑われながらもラライヤは冒険者ギルドを後にする。
そして、どのようにして残りの人生を楽しもうかなどとラライヤは考えながらその街の中を歩く。
この街にラライヤが足を踏み入れたのも実に二十年以上ぶりである。ラライヤはあたりを見渡しながら、昔と少なからず変わったなと実感する。
そうして歩いている中で、ラライヤは孤児院を見つけた。
ラライヤは元々孤児であった。両親の顔は知らない。だから孤児院を視界に留めた。
ラライヤは、ふと思った。これからの人生、何もせずに過ごすのは嫌だから、孤児院でもしようかなと。
二人の子供を育て上げた自分なら、孤児を育てることも出来るのではないか。それに子育ては大変だったけれども、子供を育てることには達成感があった。そう思ったラライヤの行動力は早かった。
ラライヤは二十年前にギルドの依頼でためたお金を使ってまずは広い土地を買った。その後、孤児院を自分で建てた。……文字通り自分でである。四十代手前のおばちゃんが大きな家を一人で楽しそうに作っている様子に見る者が目を張ったが、ラライヤは元々他人の視線を特に気にしない人間であった。
孤児院には国が認定しているものと、認定していないものがある。ちゃんと認定されているものだと補助金が出たりとかするわけだが、ラライヤは別にそんなものどっちでもよかった。自分がこの街に住むための手続きと、孤児院を行う届出をだしはしたが、それだけである。
さて、ラライヤはたった数日で二階建の巨大な家を作り出した。……自分一人の肉体労働で。
家を作り出したあとは、孤児院を作りましたと大々的に言ってまわった。元々街にあった孤児院から厄介払いという形で、魔力制御が出来ない七歳の子供がやってきた。
「私はラライヤよ、よろしくね」
「……」
ラライヤが挨拶をしても、その男の子はそっぽを向いていた。
でも男の子が魔力暴走した時も逃げ出さずに、正面から受け止め(物理的に)、男の子―――ライジャンからの信頼を勝ち取っていった。
「おかあさん!」
ライジャンが孤児院にやってきて、二か月ほどたったころにはすっかりライジャンは笑うようになっていた。
ラライヤはライジャンに沢山のことを教えてることにした。ドラゴンの狩り方とか、魔法の使い方とか、魔物の倒し方とか、実の子供たちに教えたのと変わり映えのしないことをである。色々おかしいが、ラライヤにとってそれは普通のことであった。
ラライヤはライジャンと共に狩った魔物や、敷地内で育てている作物を商人に売ってお金を稼いでいた。ほとんどのものを自分で作っているのでお金がなくても生活が出来るがあったほうが色々便利だからという理由からである。
「お母さん! 見てみて、ゴブリンこれだけ退治したよ!」
「ふふ、凄いわね」
小さな子供がゴブリンを大量に狩る、などという行為は異常なのだが、ラライヤはライジャンの報告に笑うのだった。
ラライヤはライジャンの笑みを見ながら孤児院初めて良かったなどと思って、満足げに笑った。
――――ラライヤが冒険者ギルドに素材を売らないことで文句を言われたり、ラライヤが有名な冒険者だとしり勧誘されたり、実の子供たちが襲来してきたりとか、そういうことが起こるであろうことをラライヤは知りもせずに穏やかに笑うのであった。
おっさんものが流行っているので、おばさんが活躍するのもいいかなと思って書き出したものです。
勢いのままに書いたのでまとまってないかもしれませんが、冒険者を引退して二十年経っているけれど全然衰えていない子が主人公です。
ラライヤ・ハンダル
元『剣姫』と呼ばれた最強の冒険者。子育てのため引退。引退しておばちゃん体型になってたりとかするけど、衰えは一切ない。魔法も、剣も一流。一人で建物たてたりとか、基本的に自分で何でも作る行動的な人。
ライジャン
ラライヤのもとに来た孤児。魔力暴走しかかっていたのもあって厄介払いでラライヤのもとに来た。