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水色の空の下で  作者: みやこ
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夢の世界 08

 家に戻った頃には午後の三時半になっていた。あと三十分もしたらアイコは眠りにつく。他の子は既に食事を終えていて、ユキノは雑誌を読みながら紅茶を飲んでいた。ナナはみんなよりも少し寝る時間が早いので、もう眠ってしまった。カオリは皿を洗っていた。洗いながらアイコにきいた。

「もう眠りに付く時間だけど、食べるでしょ?」

「うん」

 アイコは普通にしているつもりだったが、ユキノに、「なんかあったの?」ときかれた。ユキノはサバサバした性格なのだが、妙に勘が鋭い。

 ユキノに負の感情を与えてはいけないとアイコは思い、「別に、なんでもないよ。疲れているのかな」とウソを付いた。

 水色の糸が切れてしまうと、繋がっていた相手のことを忘れてしまう。相手への想いが強ければ記憶に残るのだが、そうでないと一瞬にして泡のように消えてしまう。アイコはキョウコの言葉を疑っているわけではないが、本当にユキノがキョウコとの糸を切ってしまったのか確かめなくてはならないと思った。

「寺院で一緒に働いている子がいてね」

 ユキノは雑誌に視線を戻そうとしたが、アイコが話しかけたので雑誌の位置を少し下げてアイコを見た。

「なんかあったの?」

 アイコは思い切って「その子、キョウコっていう名前なんだけどね」と言った。

 ユキノは、はじめてその名を聞いたかのように「うん、で?」と相槌を打った。その声を聞いてアイコは動揺したが、平静を装った。

「えぇっと、眠りが深いみたいで、お仕事に来れなくてね。だから私、いつもよりも多く働いたんだ」

 ユキノは同じ歳なのにお姉さんみたいな口調で「アイコは偉いね」と褒めてくれた。

「ありがとう」

 何分かユキノと話していると、カオリが食事を持ってきてくれた。グラタンとコンソメスープだ。

「アイコ、眠りの時間が近いからね。食器は洗わなくていいよ。流しに置いてね。明日、私が洗うから」

 アイコは熱々のグラタンをフウフウと息で冷ましていたが、中断して、「そんなの悪いよ。私が洗うよ」と言った。言い終わると、パクッとグラタンを口に入れた。

「おいしい!」

 カオリは得意げに「チーズがちょっと良いものなんだよ」と自慢した。

 カオリは正面に座って自分の料理を食べるアイコを幸せそうに見ている。

「アイコには寺院のお仕事があるでしょ。それと同じように私には私の仕事があるの。それにアイコだって家の中では私達に甘えたいって言ったでしょ」

 ユキノは雑誌を読みながら、二人の会話を聞いてニコニコしている。

 幸せな空間。でも、キョウコはこの家に来るのが怖いと言った。なぜだろう? なぜ、ユキノはキョウコとの糸を切ってしまったのだろうか? キョウコのような良い子をユキノが嫌ったりするはずない。なにか違う理由で糸は切れてしまったんだろうか…………

 アイコには別の不安もあった。もしかしたらアイコだって誰かとの糸が切れてしまっていて、それに気付いていないだけかもしれない。

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