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水色の空の下で  作者: みやこ
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現実 04

 自然と雪乃の方に顔を向けていた。別に雪乃を責めているわけではないが、雪乃は愛子の視線に強いものを感じたのだろう。慌てた。

「わ、私だって、嫌いじゃない奴がイジメられてたらさぁ、どうにかするって。私、どんなに嫌いになったからって誰かをイジメようって思ったりしないから、川島の気持ちなんてわからないけどね。でも、柏原はそうなっても仕方がないって思うし」

 イジメられても仕方がない人なんてこの世にいるのだろうか? 愛子は雪乃に強い視線を送ったまま、目をそらさなかった。雪乃はうろたえた。

「な、なんで、そんな目で見んの? 別に私、悪くないじゃん!」

 愛子は落ち着いた声できいた。

「雪乃。なんで柏原さんのことを嫌いになったか、きいていい?」

 雪乃は頭をかきながら「うーん」とうなり、腕を組んだ。

「私と菜々ってさ、二年の時に柏原と同じクラスだったんだけどね。あいつ、菜々のことを一度泣かしたことがあってさ」

 柏原は少し冷たい感じもするが、そんなことをする子には見えない。愛子が菜々に目を向けると、菜々は小さくうなずいた。しかし「でもね」と言葉を付け加えた。

「別に柏原さんが悪いわけじゃないの」

 雪乃は「ふんっ」と鼻から息を漏らす。菜々は雪乃の機嫌が悪くなっていることを気にしながらも、説明を続けた。

「球技大会でね、バレーボールを一緒にやってね。雪乃はバスケに出るから、私達はバラバラだったんだけどね。私、背が小さいし、バレーボールとかそんなに得意じゃないし」

 言葉の途中で雪乃は「菜々って球技、全部苦手じゃん」と茶化すと、菜々は「もうっ」と言ってスネた。そんな二人のやりとりを見ても愛子は硬い表情を崩さなかった。菜々はそれに気付いたようで、すぐに説明を再開した。

「私、ボールとか触っても全然見当違いのところに飛んでいっちゃうし、すごく足を引っ張っていてね。柏原さんってチームのリーダーをやってくれていたんだけど、私が失敗しても全然怒らなかったんだけどね」

 菜々の顔が少し暗くなった。

「私、あまりにもみんなの足をひっぱっちゃうから、球技大会の日に休むって言ったの。代わりに雪乃に出てもらうからって柏原さんに言ったの。そしたらすごく怒られてね。滑舌の良い口調で色々と言われたから、私、泣いちゃって」

 愛子にもその時の柏原の気持ちが理解できる。勝つことが球技大会の目的ではなく、みんなで楽しむことが目的だと思ったのだろう。

「で、たまたま通りかかった雪乃がそれを見て、柏原さんとケンカになっちゃって」

 愛子は無言で雪乃を見つめた。雪乃は更に慌てる。

「な、なによっ」

「私には柏原さんが悪い人には思えないけど?」

 雪乃は机の上に肘をついて、手の平に不機嫌な顔をのせた。

「てかさぁ、人のこと泣かすまで怒ることないでしょ? どんな理由があってもね。そういう、なんていうか、人の気持ちがわからない奴なんだよ、あいつは」

 雪乃の言いたいこともわからなくもないが、嫌いになる理由にはならない思う。黙ったまま雪乃をジッと見つめた。雪乃は自己弁護を続ける。

「そ、それに、言い合っていくうちに私に文句を言うようになってさ。球技大会の時、個々の競技のチームではそれなりにまとまっていたんだけど、他の競技のこととか、なんていうか、横の繋がりが全然なくて、担任とか体育の教師が誰かに何かを言ってもそのことが全体に広まらなかったりさ、そういうことがあったんだけどね。柏原はそれなりに動いていたらしいんだけど、あの性格だからね、練習でグランドとか体育館を使うスケジュールとかでもめることもあったらしくてね。まぁ、イライラしてたんだと思うけどね」

 雪乃は昔話をしていて興奮したのだろうか、身を起こした。

「でもさ、柏原の奴、私に『本来なら、あなたがクラスを引っ張っていくべきでしょ』って言うんだよ? そりゃ、おかしいでしょ? 別に私ってクラス委員でもないし、そもそも球技大会促進係ってすげぇ名前の係まであったしさ。そいつらに任せるのが筋でしょ?」

 雪乃は運動が得意だし、バスケ部ではリーダーシップを発揮している。行動力もあるし、自分の意見をはっきりと言う。かといって、人当たりが強いわけでもない(怒ると話は別だが)。確かに柏原が言ったように球技大会において、クラスをまとめるには最適の人材だと愛子も思う。愛子が納得していないのが雪乃にもわかっただろう。言葉を続けた。

「私が怒ったのはね、文句を言われたからじゃないの。思っていたことをずっと胸に溜め込んで、関係ないタイミングで私に文句を言ったことに対して怒ったの。私としては怒って当然なんじゃないの? 菜々が泣かされてあいつに注意してみたら、今度は私に文句言い出すんだからさぁ」

 もちろん柏原には聞こえないくらいの声で話していたが、雪乃の声には強いものがあった。

 話を聞いていて愛子は思った。性格によって人間関係がこじれることもあるが、その要因は必ずしも性格の良し悪しではないのだなと。

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