静寂に潜む煉獄の炎なの、だ(人形完成編 其の三)
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
円、だ。
目を閉じる。
いるの、だ。
それはもうミドガルドシュランゲ戦から。
じっと見られていた。
値踏みするように私を。
肌がひくつく。
それはどんどん強く。
気配はない。
でも私には感じるの、だ。
とても大きなもの。
そっと目を開ける。
そこには。
「やぁ、円。久しぶりだね」
いた。
真っ正面。
兎の仮面をかぶった。
「・・・・・・蛇師匠」
強者。
ここまで近づくと。
肌は灼けるよう。
姉御を失って。
ただただ夢中でこの人の元で。
開いた穴を必死に埋めるように。
それは今でも虚構。
「この先に用があるんだろ? でも駄目だよ」
人の体。
否、天高く何所までも続く地平線。
私の前に立ちふさがる。
「・・・・・・退いて欲しいの、だ」
その言葉、もちろん戦うリスクを考慮した結果。
そして・・・・・・。
「それはできない。お前は可愛い愛弟子ではあるけど。こっちもプロだ。そこに私情は一切挟まない」
そうか。
「残念なの、だ」
ナイフを取り出す。
その瞬間、私は考えるのをやめた。
ただ目の前の敵だけに。
戦う事だけを。
それはあちらも同様。
双方、雰囲気ががらりと変わり。
両手を大きく広げる蛇師匠。
「さぁ、ここから先に進みたければ・・・・・・」
それが合図となる。
「私の屍を越えていけっ!」
飛び出す。
一気にトップスピードへ。
瞬刻遅れて、蛇師匠も踏み込む。
程なくぶつかる両者。
左の拳、相手の右。
激しく衝突。
でも、押し負けない。
ウエイトはあちらが上。
これで互角なら。
スピードは私に分がある。
ほぼ同時、右のナイフで斬りかかる。
右、切り返し斜め上、そこから振り下げ、ワンセット。
だがかすりもしない。
「おー、速いじゃないか」
話す余裕があるか。
随分余裕なの、だ。
だが、蛇師匠の蹴り、突き。
こちらも見えている、ぞ。
カウンター含む反撃を全て避けきる。
目で追えなかったあの攻撃が今ははっきり捉える。
蛇師匠の強烈なローキック。
脛で受けると同時に後ろへ軽くステップ。
ダメージは最小限に。
すかさず首元を狙ってナイフを振り抜く。
蛇師匠、下半身そのまま上半だけが反り返りそれをいなす。
なんて、体幹してるの、だ。
普通ならあんな速度で避けたら後ろに倒れるの、だ。
その反動を利用して起き上がりの頭突き。
これは回避不可。
ここはあえて頭は下げずぶつかりにいく。
まともにくらっていたらその時点で意識は飛ぶ。
額が割れたかと思うほどの激痛。
それでもここで怯んだら相手の高速ラッシュで確実ダウン。
受けながらも攻撃の手は休めない。
私のナイフが蛇師匠の首を執拗に襲う。
それを蛇師匠は頭を突き上げる事で防ぐ。
ナイフを持つ拳に打ち付けられる。
頭突きから防御、その間隔は皆無。
それだけで体が押される。
それを逆に利用し一旦距離を取る。
両の足でしっかり踏む立つ。
仕切り直しなの、だ。
ここまで瞬きほど。
額から血が流れてきたが。
まだ大したダメージはない。
二年前ならもう私は死んでいた。
今なら戦えているの、だ。
あの化け物と。
「・・・・・・強くなったね、円。隠れていた間も私のメニューはちゃんとこなしていたって訳だ」
蛇師匠の強化メニュー。
冗談のような馬鹿げた鍛錬。
でも当の本人は大まじめだった。
「いや、やってないの、だ」
ナイフを握り直す。
「やっていたのはその三倍、だ」
再び向かっていく。
今の数瞬の攻防。
これで少し分かった。
やはり私の方がわずかに速い。
一閃。
右は躱されたが。
左手に隠し持っていたナイフ。
いままで無かった物。
振り抜いた刹那、出現。
これでリーチが伸びる。
二閃目。
髪一重。
これすら見切るか。
しかし、これが本来の私のスタイル。
二本のナイフで。
隙間なく切り刻む。
両の腕が空気さえも切り込む。
されど裂くは手応えのない大気だけ。
その身には届かない。
じょじょに速度を増していく。
斬撃は一気に最高速へ。
何撃目か。
ほんの些細な感触。
それは爪先ほど。
掠り傷というにも大げさな。
だが、届いた。
蛇師匠の横腹が切れた。
蛇師匠は回避を最優先。
なら後はスタミナ勝負。
速さはこのまま緩めず。
動きが鈍った瞬間勝負は決まる。
スピードが勝っている分、相手に反撃の隙は与えない。
全身を狙う。
どこに当たってもいい。
少しでもいい、コンマ何秒でも硬直すれば。
そこに全てをぶち込む。
集中するの、だ。
攻撃だけに。
相手を切り裂く事だけを。
全感覚を両腕に預ける。
矮小でも、小さな光が瞬けば手を伸ばし握りしめる。
存在しないような勝機を見逃すわけにはいかない。
ナイフの先の先。
ダメージはまるでないが。
それでも触れている。
それはどんどん増えていく。
伝わる感覚が緩やかに大きくなる。
近づいていく。
ナイフを振る度確実に。
いける。
いけるの、だ。
このナイフは届く。
何百回振り続けた?
自分でも分からないほど。
ついにその時が訪れる。
衝撃。
私の両手が自分の意のしていない方向へと。
勝手に両腕は広がり。
さらに衝撃。
腕はさらへ上に。
手を掲げる。
なぜ、私はいま両手を天高く上げている。
最後に腹部へ熱した鉄でも押し当てられたような激痛。
後ろへ大きく吹っ飛んだ。
空を飛ぶように。
痛みを通り越してもはや快楽。
天を舞う心地。
私はそのまま背中から地面へと激しく落ちた。
呼吸が止まる。
頭は理解していない。
だが、体が先に脅威から逃れた。
なにも考えられないまま体だけが飛び起きる。
立ち上がった私に。
遅れて届く。
穴が開いたような腹部への痛み。
「ぐがぁあああああああああああああああああ」
血が口から吹き出る。
たまらず膝をついた。
なにをされた。
私はナイフを振り続けて。
それを弾かれた。
腕ごと。
それも二回。
「どうした円? まさか今のが限界か?」
速さは勝ってる。
とんでもない勘違いなの、だ。
蛇師匠は私に合わせて戦っていたにすぎない。
上限を見極めるためにわざと。
「ほらほら、来ないならこっちから行くぞ~」
言葉の終わり、蛇師匠の姿は私の目の前に。
膝をついていた私の顔面に。
蛇師匠の膝が顎を突き上げる。
「うがぁあっ!」
また後ろへ飛ばされる。
それを追いかけ。
まだ私の体が地面につく前に。
「そ~ら!」
横腹に蹴りがめり込む。
今度は左に体が吹っ飛ぶ。
地面に削られるかのように擦り落ちる。
危険察知、とっさに倒れながらも横に転がる。
今いた場所の上には蛇師匠の高く上がった踵があった。
振り下ろされる鉄槌。
地面が割れるほどのインパクト。
避けなかったら顔が潰れていたの、だ。
さらに転がりながら距離を取る。
まずいの、だ。
今ので相当のダメージを受けた。
腹を押さえながら無理矢理体を立たせる。
「はぁ、はぁ・・・・・・うぅ・・・・・・」
戦闘中脳内物質が痛みを緩和させる。
なのにこの体が引き千切られそうな痛み。
拳を何度か握り締める。
まだギリギリ動けるの、だ。
しかし、さすがに唯一といっていい蛇師匠に対抗できていたスピードがこれで消えた。
一番自信のあった速度でさえ相手の方が上とは。
やはり化け物。
全身から黒い炎が立ちこめておる。
さて、どうしたもんか、なの、だ。
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