おや、でも後悔はしてませんよ。
こんにちは、蓮華です。
執行局最下層の広いワンフロア。
今日もこの街の監視カメラの映像を、何気なく見ていると。
「ん~?」
一人の幼女が目に入りました。
小さなパンダの形をしたポシェットを肩にかけて路地を駆けて行きます。
意気揚々に、軽い足取りでした。
その後、幼女はあるお店へと。
何となくです、気になったので私はそのままモニターを見ておりました。
幼女はすぐにお店から出てきました。
ですが、様子がおかしい。
先ほどの軽いステップはどこへやら、先ほどとは正反対に歩みはとても重い。
トボトボと来た道を引き返して行きます。
「・・・・・・なにがあったのでしょう」
気になった私は、幼女が入ったお店を画像から特定して電話をかけてみました。
「・・・・・・あ、すいません、つかぬ事をお聞きしますが、ついさっきですね、そちらのお店に・・・・・・」
応対した店員に話を聞くことに。
このお店は雑貨屋らしく、幼女は何かを買いに来たのですが、お金が足りなかったようです。
なるほど、それであの幼女はとても悲しそうな顔をしてたのですね。
「ちなみに、何を買おうとしてたのですか?」
これも何となくです。ここは女性が好みそうな品が多く、若い子には人気ですが幼女が一人で来るような場所でもありません。
幼女が買おうとしたのはシュシュでした。
店員が会計と同時に贈り物ですかと聞いたら、そうですと答えたそうです。
その後、お金が足りない事が判明したのですが。
「不足していた金額は僅か・・・・・・」
私は少しだけ考えました。
「白頭巾はまだ学校、円さんも他の任務中ですか・・・・・・」
となると。
「ま、たまには外の空気も吸いますか」
私は外出の準備を始めるのでした。
寒さのピークは過ぎたとはいえ、春の訪れはまだです。
それでも冷たい空気はどこか心地よくて。
「まず、あの幼女の位置は把握しておかないといけませんね」
端末で幼女の居場所をロック。
私は幼女の後追う事に。
ちょっとした気まぐれだったのですよ。
それもすぐ終わるような。
でも、そうではなかったのです。
幼女はすぐ見つかりました。
私はそっと後をつけます。
その小さな背中はとても悲しそうでした。
しばらく尾行を続けていると。
私の背中に強烈な視線が突き刺さりました。
「っ!?」
思わず息を飲むほど。
声を出したいけど出せない。
振り向きたくはない、でもその正体は確認しなければ。
ゆっくり首を後ろへと回して行きます。
そこに立っていたのは。
「・・・・・・ヴィセライーター」
こちらを凝視して口元を緩ませている。
「あら、あら、あら、あら、あら、あら、あら、あら、あらぁあ」
買い物にでも来ていたのでしょうか。
最悪の人物に出会ってしまいました。
シストくんとタシイさんのお母様。
地上最高の執行レベル保持者。
血深泥食人鬼、ヴィセライーター。
ここ最近、私達と殺人鬼連合とは休戦状態です。
ですが、このヴィセライーターは殺人鬼連合ではありません。
つまり放し飼いの猛獣なのです。
「これはこれはぁ~、どこかで見た顔かと思ったら、深緑深層じゃないの~」
私はすぐにバックに手を入れました。
中の銃をすぐに出せるように。
「ごきげんよう、カリバおば様。私になにかご用でしょうか?」
思いつきの単独行動はやはりいけませんね。
こういう想定外の事も起こりえる。
「用? 用・・・・・・そうねぇ・・・・・・」
ヴィセライーターは少し考える、ふりをした後。
「ちょっとおばさんに付き合いなさい~」
口を開いた瞬間、背中がパックリ開いてそこから黒い何かが勢いよく飛び出したように見えた。
あっという間に広がり埋め尽くす狂気の闇。
「・・・・・・うっ」
以前、対面した時は、隣にドールコレクターと円さんがいました。
ですが、今は一人、一身に受けるこの狂気に私ですら耐えがたい。
「お断りさせて頂きますぅ」
私は抗う事を放棄、一目散にこの場から逃げ出しました。
「あらあら、引きこもりの貴方が逃げ切れるのかしら~」
仰る通り、私にはスタミナはありません。
ですが、このヴィセライーター、公衆の面前でも関係なしです、捕まったら最後。
それでも出来るだけ人の多い路地へ。
そこを経由して自分の巣へ戻らなければ。
執行局に入ってしまえば、ヴィセライーターも簡単には手を出せません。
「ほらほら、もうすぐよ、もうすぐ、手が届くわぁ」
聞こえる声がどんどん大きくなってきます。
このままでは捕まってしまう。
殺人鬼サイドの最強クラス。
今は円さんも蛇苺さんも、ミドガルドシュランゲも近くにはいません。
この人に対抗できる人など・・・・・・。
「・・・・・・あっ」
これは賭けです。
一つ思い浮かびました。
相手が殺人鬼側の最強なら。
人混みを抜け、店が並ぶ路地へ。
その中の一つを目指して必死に走ります。
「ほら、あと少し、もうすぐよぉおおおおおおおおおおおおおお」
見えた。
滑り込むように、階段を降り。
「私ですっ! 蓮華ですっ!」
分厚いドアを叩きます。
普段は面倒なやり取りが必要なのですが。
「助けてくださいっ!」
私がそう叫ぶと。
扉がゆっくり開きました。
「珍しいな、どうした?」
ピンクのエプロンを着た女性が顔を覗かせました。
「お千代さんっ!」
無我夢中でその胸に飛び込みます。
私には見えません。
ですが、すぐ後ろにはいます。
きっと二人は対峙している。
目を合わせている。
見えない大きな何かがぶつかり合って。
その片方が急に消え去りました。
「もう大丈夫さね。一体、なんだい、あの小娘は?」
お千代さんの胸から顔を離して、振り返ります。
そこにはもう誰もいませんでした。
ほっとするのも束の間。一難去ってまた一難。
円さんから着信が。
「レンレン、例の集団、その一人が街に逃げ込んだのだっ!」
円さんが追ってる一味の一人ですね。
「あぁ、そうですか。丁度私も外にいます。挟み撃ちにしましょう」
「え、レンレン、今、外なのかっ!? なんだ、どうした?」
円さんは驚いてますが、私は構わず話を続けます。
「侵入経路を伝えてください。そこから追い込みますっ!」
またヴィセライーター出くわしたら溜まったじゃありません。
まず、準備をきちんと整えてから。
そう思ったのですが。
「・・・・・・なんてことでしょう」
そうも言ってられない状況でした。
円さんの追ってる人物は少々厄介でして。
今扱ってる案件のメンバーです。
ようは凶悪犯の類い。
それの予想逃走ルートがかぶります。
私が捕捉している幼女が今いる場所へと近づいていたのです。
何も起こらないかもしれない、でも起こってからでは遅い。
「どうしましょう。今からではまともな増援を呼ぼうにも・・・・・・」
事態は一刻を争います。
近くにヴィセライーターがまだいるかもしれない。
お千代さんは失礼ですが私よりスタミナはないでしょう。
となると、この近くにいて、尚且つヴィセライーターと鉢合わせても何とかなる人物。
「ぴこんっ!」
いるじゃないですか、それもとても近くに。
「お千代さん、助けてもらって上に一つお願いがありますっ!」
私達は現場へ急ぎます。
円さんと常時連絡を取り合いながら。
路地を抜けると、まず目の先に例の幼女を発見。
さらに、その右方向から男が走ってきます。
すでにかなり興奮状態。
手に持つ刃物を振り回しながら人混みをかきわけています。
「どけっ! どけっ! 殺すぞぉおおおおおおおお、おらぁあああああああああああ」
喚き散らしながら、人を切りつけながら、我武者羅に駆けている。
「銃を撃とうにも一般人が多いっ」
うまくこちらに方向を変えて向かって来てくれればいいのですが。
そんな都合よくは行きません。
円さんの姿はまだ見えない。
「深緑深層は銃を構えて待ってな。アタシがこっちに誘導してやる」
ここで隣にいた人物が駆け出しました。
私がお千代さんに頼んで連れ出したんです。
殺人鬼連合、シストくんの片腕。通称眼球アルバムの目黒さん。
黒いおかっぱ頭が割り込むように男の進路を塞ぎます。
「こっちはやばいぞ。アタシがいる」
本能的に感じ取ったのでしょう。
男は急停止し、そのまま、私の方へと向きを変えました。
「くそぉおおおおおおおおお、どけぇええええええええええええええええっ!」
私は蛇苺さんや瑞雀さんのような銃捌きはありませんが。
「さすがにこの距離なら確実に当たりますよっ!」
こうして犯人を取り押さえる事ができました。
こいつは重要参考人です。これで所属してる団体の詳細も少しはわかるでしょう。
「・・・・・・怪我はありませんか?」
何が起こったか理解できずにその場で立ちすくんでいた幼女に私は近づき声をかけます。
「う、うん」
幸い肝心な部分は後ろを向いていたから見ていないでしょう。
「目黒さん、あなたのお店でこれと同じような物扱ってませんか?」
私は最初のお店で聞いていた品物の画像を見せました。
「ん、シュシュか。うちは品数の豊富さが自慢だ。それと同じのあったよ」
「そうですか、では、ラッピングのサービスは?」
「勿論、アタシが丁寧にやってやるさ」
それを聞いて私はにっこり微笑みます。
元々なにか小細工でもして報酬という形で不足分のお金を幼女に渡すつもりでしたが。
お千代さんのお店は値段も良心的です、きっと手持ちで足りるでしょう。
「では、今日のお礼にお客さんを一人紹介しますね」
最後の方でGet Wildが流れます。




