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わわ、上には上がいるんだよ。

 パワーバランス二弾。紅子、退院しました。

 広い路地を闊歩する。


 さぁ、道を空けろ。

 

 私を誰だと思っている。


 あの殺人鬼連合、第三殺。


 紅 紅子さまだぞ。


 視線を横に。

 どいつもこいつも。


 気に入らなければいつでも殺す。

 口だけじゃない、どこまでもついて行き、切り刻んでやる。


想像ではない、妄想でもない。

 それが、私にはできるのだ。


 少しでも、舐めた真似をしてみろ、その都度殺す。

 愚民、三下、溝鼠、屑鉄、世の中に溢れる役立たず共。

 せいぜい、私に気を遣え、ゴマをすれ、頭を下げ、顔色をつねにうかがえ。


 じゃなきゃ、殺す。

 苦しめて、苦しめ尽くして。


 そんな事を頭中に巡らせて。


 私は、週末でごった返す、アーケードのど真ん中で。

 両手を広げ、くるくる回る。


 

 朝、部屋で目覚める。

 テレビをつけると、その日のトップニュースが。


「〇〇地区のアパートで9人の遺体が・・・・・・」


 支度をしながらも耳にいれる。


「二ヶ月で、これほどの・・・・・・この数十年で・・・・・・猟奇的な・・・・・・」


 靴下を足に通す。


 は、なんだ、たった9人でなにを大騒ぎしている。

 いくら殺そうが見つかった時点で、そいつはただの馬鹿だ。


 世の中にはいるぞ。もっと殺して、まったく気付かれない奴。


 絶対の自信がないかぎり証拠は残すな。

 糸を垂らすな、足跡も、痕跡も、なにもかも。

 それができないならそもそも殺すな。


「は~、なにが、猟奇的だ、人を殺せば解体するのは普通だろ」


 寝起きも相まって、不機嫌ぎみの表情は。


「ねぇ、みんなも、そう思うでしょ?」


 ころりと変わる。

 振り返るその顔はめいっぱいの笑顔。


 棚には、上段から下段まで、様々な生首が。


 ううん、中身はないの、とっくに捨てた。


 マネキンにつけられたのは顔の皮だけ。


 でも、みんな笑ってる。


おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟、妹。


 私も笑い返して。


「みんな、おはよう」


 あいさつを終えて。


 さぁ、髪を結いましょう。


 お洒落して出かけるの。


 これから、会合がある。


 家族が、仲間が、友達が。


 私にはいっぱい。  

 

 なんて幸せなのだろう。


「でも、お父さんの顔にも飽きたかも。そろそろ新しいお父さんにしようかな」


 今度は少し頼りなさげで、でも優しそうな、そんな人にしよう。



 ポニーテールを揺らし、アジトに向かう。


 今日は殺人鬼連合十殺、つまり全員が揃う。


 その中でも私が認めるのは二人だけ。


 綺麗な顔してやることは誰よりも非道、外道、邪道。

 殺人鬼連合筆頭第一殺、九相図の殺人鬼タシイさん。

 バールで潰した顔は数知れず、最悪のツインテール少女。


 そして第二殺、眼球大好き、目黒さん。

 眼球アルバムの異名で、その名は私達の世界では超有名。

 千枚通しで抉った眼球は数知れず、おかっぱパンダ目の最狂少女。


あの二人だけには敬意を表してるの。

 後は、駄目。

 私の足下にも及ばない。


 他は狂気がまだまだ足りない。

 私を震わすほどの。

 同類の私には一目で分かる。


 全身がゾクゾクと。涎が出て、鳥肌、大洪水。

 これが本物だと。

 まさに人を殺すために生まれてきた選ばれた人。


 そうだね、メンバー以外でも、そういう本物はいるの。


 噂をすれば。


 あちらから。


「ん、お前、たしか、いつかの・・・・・・」

「・・・・・・うげぇ」


 あちらから先に気付いたみたい。そこはさすがでございます。


 頭をこれでもかと下げた。


「あぁあああ、円様ぁぁあ、これはこれはご機嫌麗しゅう」


 満面の笑顔を見せる。


「あ、白雪さんも一緒だぁ~」


 ばったり出会ったのは。

 二人の女。


 右にいるのが切り裂き円さま。金髪、ギザギザの歯。うちのダブルエースと唯一タメをはれる方ですね。レベルブレイカーだけどレコード持ち。あの伝説の殺人鬼ドールコレクターの後継者。

 身内にすら厳しいタシイさんや目黒さんも、この人にはとても穏やか。

 それもそのはず、円様は現役最強。私も尊敬して止まないの。


 左の小さい子が、白頭巾レッドドットこと、白雪さん。私の同級生でもある。

 学校ではとても大人しいけど、その実、クラスメート全殺しの最年少レベルブレイカー。

 いつ見ても本当に麗しい。さすが円様の妹君。以前、白雪さんを虐めてえらい目にあった。もうこの子には私も逆らえない。さっきから私を見て露骨に嫌な顔をしてるけどそんなの気にしない。


「なんだ、また悪巧み、か。うちのボスに目をつけられないよう、せいぜい、気をつける、のだ」

「・・・・・・・・・・・・うげぇ」


 あら、これから会合なのも知ってるご様子。私達の動きは全部お見通しってわけですね。それもこれも、あの人が見てるからでしょうか。

 円様がボスと呼ぶ、深緑深層のマーダーマーダー。

 あの方は殺人鬼ではないけど、一番やばいのです。

 私の中での危険度は、あの狂人だらけの殺人鬼連合よりも上。

 円様と白雪さんの上司なんだから当たり前ですね。


 それにしても私の周りは素晴らしい人ばかり。

 タシイ先輩、目黒先輩、円さま、白雪さん。

 今は、その背中が見えないけど、いつか追いつくの。


 現時点で現役最強の円様も。

 尊敬する先輩達も。


 今トップクラスに君臨する方々を越えて。

 自分だけの世界を築く。

 

 好きなだけ殺して。

 好きなだけ暴れて。

 誰も逆らえず、口出しできず。


 今は蛹の私だけど。


 蛹はいづれ綺麗な蝶へと。


 私の時代はそのうち訪れ・・・・・・。



「お、円じゃないか」


 未来の自分の姿に心酔していると。

 誰かが、円さま達に気安く声をかけた。


 むむむ、誰かな。今、円さまを呼び捨てにしたよね。


 この円さまを現役最強の殺人鬼と知っての態度かな~。


あんまり舐めた真似すると・・・・・・。

 誰であろうが。


 敵意を込めて視線をそちらに。


 その時だった。


 水面に立つ想像の中。

 青かった空が。

 地面いっぱいに広がっていたコバルトブルーの海が。


 血の色に真っ赤に染まった。


 これは、自分の身体・・・・・・?


見えない何かに掴まれた。きつく押しつぶされるかのように。

 

 目をそらしたい、でも動かない。

 全ての命令が拒否される。


「あ、これはこれは、ちゃんリョナさん」

「お姉ちゃんっ!」


 二人のお知り合い・・・・・・?


「お、お元気そうで、なにより、だ、です」

「わぁ、お姉ちゃん、久しぶりっ!」


 あの円さまが敬語??

 あの白雪ちゃんが今まで見た事のない笑顔を見せて・・・・・・。


 いや、そんな事は、もうどうでも、いい。


 な、なんだ、この人。


「ん、こっちは友達?」


 その人が私を見た。


 私の身体は、さらにさらに軋んでいく。音を立て、崩れるように。


 呼吸が苦しい。いくら吸い込んでも足りない。足りない、足りない。

 身体は動かず、目玉だけを必死に動かし、地面を見た。


「あ、は、い、しら、しら、白雪、さん、の、ど、同きゅう、生、で、あの・・・・・・」


 は、は、早く、何処かへ。私は無理。無理、早く、行って、い、今すぐ。


「ふ~ん。そうなんだ・・・・・・」


 あぁ、見てる、見られてる、見てる、見られてる。


 白髪の癖毛眼鏡。


 この人・・・・・・化け、物・・・・・・だ。


「まぁ、いいや。じゃあもう僕はいくよ。円はちゃんと蓮華ちゃんの言う事聞いて大人しくね。白頭巾ちゃん、困った事があったら僕にいいなよ。まぁ二人がいるから大丈夫だろうけど」


 眼鏡は背を向けたが、それでも状況は変わらない。

 こ、恐い、こわ、こわ、恐い、恐い、恐、恐、ははあはやく、どっか行け、もっと遠くへ、できるだけ、見えなくなるまで、お願いします。もう。


「お、お気をつけて」

「お姉ちゃん、またねー」


 夜道で、ガラの悪い数人の男に囲まれても私は怯まない。

 森で、熊と鉢合わせても落ち着いてるだろう。


 でも、あれは駄目だ。

 殺人鬼とかそういうレベルじゃない。


 駄目だ、駄目だ、あれは、こっち側を狩る者なのだ。


 存在が小さくなっていく。離れていく度、今度は助かったという安堵から鼓動が早まる。


 自然に、涙が零れた。

 鼻水、涎、何もかも垂れ流して・・・・・・。


 無事だった。生きている。あんな死と同義のような者を前にして。


 


 のちに知る、あの人の正体。


 この国において法の下、刑罰を与える者達。

 刑罰執行人。


 その中にいて。


 頂点に立つは、現在13人しかいない選ばれた者達。

 

それが特級拷問士。


 あの人は、その中にいて最短で頂上まで登りきった天才。


 私達の天敵で。


 食物連鎖でいえば、間違いなく上の存在。

 そう、尊敬する先輩達よりも、心酔する円さまよりも。


 これを境に私はまた少し変わった。


 井の中の蛙とはこのこと。


 あれを見た、殺人鬼達は二種類の行動を取るだろう。

 

 魅せられて、劣情を抱くか。

 飲まれ、ただただ恐れ戦くか。


 多分、彼女に近いほど、より惹かれるはず。

 だから恐怖しただけの私は。


 まだまだなのだ。

 

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