ういうい、一大エンターテイメントなの、だ。(現状確認訓練編 中編の3)
ういうい、円、だ。
今、私達は、あれだ、なんだ。
キラキラ達のばっちゃの家のあれだ。
とにかく凄いバトルをみんなで見てるの、だ。
「全然、動きが見えないの、だ」
「・・・・・・う~ん、九尾に護衛隊、どちらのメンバー一人相手でもうちの実行部隊が束になって掛かっても敵わないね」
種がそう呟く。そうなのだ、私を始め、螺苛、刺苛といった戦闘よりのシスターズと比べても奴らは次元が違う。
一人を除いては、だが。
「ふふふ、鯨ちゃん、また腕を上げましたねー」
一番後ろで微笑みながら画面を見入る女。これこそ葵シスターズの最終兵器、ラストミール。
こいつだけ、こいつだけははっきり双方の戦闘状況を把握していることだろう。
「それにしても、これカリバちゃんの実家の映像ですよね、よく盗撮? 出来てますねー」
確かに、今シスターズのアジトの壁に映されている映像はあちらにすれば重要な機密事項。普通なら絶対見られない品物。
それを可能にしているのは、シスターズの諜報担当、通称スカイアイの雲美。
「お前が、凄いのは、知っていたが、ここまでとは、正直びっくり、なの、だ」
分厚い眼鏡に、口にはチョコバーをくわえる小柄な女。
シスターズで一番年上で姉御の幼馴染み。この中では一番姉御との付き合いが長い。
「円ちゃん、そんなの当たり前だよ。だって雲美ちゃんは本家の人間だもん。じゃなきゃ国家機関でもハッキングなんて無理無理」
「え、そうなの、か、なの、だ」
初めて知ったの、だ。てことは雲美はキラキラの一族という事に。
「・・・・・・葵ちゃんは当然知ってて私に近づいたのかもね、でもそれもどうでも良いこと、私はあの子と出会えた、理由はどうでもいい」
姉御と雲美の出会いは学生時代まで遡る、その時から雲美の有用性を見抜いて引き入れていたというの、か。まぁ、姉御ならあり得るが。
「それでも、本家にダイレクトな接触はリスクが大きすぎる、一応私は失踪扱いだし。だからこれはもっと楽なところから繋いでるの」
ん~、てことは私達の他にもこの映像を見ている者がいて、雲美はそっちから鑑賞券を頂いているの、か。
と、ここで私に着信が。
相手は。
レンレン。
◇
現在、午後一時を過ぎた所。
訓練開始からすでに3時間が経っていた。
老兵が刀を収める。
前方には大の字で倒れるロウトウ。
「ふう、やっと倒れたねぇ、いやはや、末恐ろしい子だよ」
さて、他の戦況はどうなってるかと、前を見ると。
「おいおい、ジジイ、なに一息ついてるんだい? 本番はここからさね」
鯨の髪を掴んで引き摺って近づいてくるババ様。
それを無造作に老兵へと投げつける。
「勿論、殺してはおらんよ。起きたら褒めてやれ、この私をこれだけ足止めしたんだ」
「はぁ、やれやれ、もうリョーちゃん、勘弁して・・・・・・よっ」
再び刀は抜き放たれた。
空気が形をもったように、切り裂かれた空間。
ババ様はそれを軽く首を傾け避けると。
「こんな機会はもうないやも知れんぞ? 胸を貸してやるから全力でこい。恭兵よ」
「そうだねぇ、久しぶりに口説いてみようか、リョーちゃん」
お互い、先ほどまでとは違う、明らかにギアが切り替わった。
◇
訓練開始、数時間前。
当主トーラは自室にある者を呼び寄せていた。
「で、マキナ。ちゃんと仕込みは済んだのかい」
「はい、お母様。以前より監視しておりました懸念材料への通達はすでに済んでおります」
「うまく食いつくかい?」
「ええ、訓練自体は本当ですし、音に聞こえたうちの護衛軍が目の前で弱体化でもすれば必ず好機と捉え行動を起こすでしょう」
「そうかい、なら纏めて害虫駆除だよ。それもタダでね」
◇
九尾、護衛隊の攻防も佳境に入っていた。
双方、今だ、脱落者は無し。
全員、地に立ち、武器をふるってはいるが。
「このデカブツがぁあああああああああああああ」
「むうううううううううううううううううううう」
ククリ刀の刃先がラオユエの肩に食い込む。
と、同時に。
ラオユエの拳が黒鵜の腹にめり込む。
宙高く浮かぶ黒鵜に鎖に繋がれた鎌が半円を描きながら迫るも。
その刃先は小さな玉によって大きく弾かれる。
攻撃の隙、ラオユエのがら空きのボディに飛来するボウガンの矢。
それを回り込み前に出て、サンアンが鉄鋼で叩き落とす。
攻めては防ぎ、防げば攻め、何十回、何百回と繰り返す。
「はぁ、キリがねぇ。おい、ラオユエ、平気か?」
「うむ、しかし、利き手がやられた。血も止めたいが、どうやらそんな暇は与えてくれなそうだ」
「ふっふふー、まだねー、まだこれからねー、もっと血を見せてねー」
白いドレスは所々血が滲むも、愛撫はナタをブンブン振り回しながら一歩も退かず。
その横には腹を押さえつつ立ち上がる黒鵜。
「ちくしょーが、クソ野郎ぉぉ、これ、シャレにならねぇぞ」
何度目かの仕切り直しの中。
「・・・・・・おい、護衛隊ってのはまだいるのかよ?」
「はぁー? それはこっちのセリフねー、あれ、君達の仲間ねー?」
九尾側の後方、正面入り口から駆け上がってくる集団。
手には軍用ナイフを持ち突撃してくる。
「見敵必殺っ! 見敵必殺っ! 見敵必殺ぅうううう!」
叫びながら迫る男達の目は血走っており、皆鬼気迫る表情を見せていた。
「これも訓練の一旦か?」
「本当にお前らの仲間じゃないのな?」
「だからそーいってるねー、そっちこそ違うねー、じゃあどうすればいいのねー?」
状況が飲み込めず、動きを止めざるを得ない双方。
しかし、それを察したかのようなタイミングで邸宅一体に響く音響。
「侵入者有り、見つけ次第始末すべし、繰り返す、侵入者あり、生死は問わず見つけ次第排除したし。これは訓練ではない、生死は問わず見つけ次第始末すべし・・・・・・」
「相手は手負い、全員殺せぇええ、見敵必殺、見敵必殺ぅうううううううううううう」
迫る暴走集団。
その先頭にいた一人の額にナイフが深々と突き刺さる。
「こいつらが侵入者カ、なら殺していいネ」
シャレイのナイフが口火を切った。
その隣にいた男、訳も分からず突然倒れた仲間を見るも。
こめかみに小さな玉が突き抜ける、続いて頬、耳、首、あっという間に体中に穴を開けて崩れていく。
もっとも遠いところにいる護衛隊の攻撃が寸分違わぬ精度で敵を撃ち抜き。
それに対抗したかのように、矢がその近くの男の両目を二連続で射貫く。
「ふふっふううー、一旦中断ねー、これは本気出していいからねーー、こっちのほうが楽ねー」
白いドレスの裾をもって走る愛撫は笑いながら集団に向かっていく。
「ラオユエ、丁度いい、今のうちに止血しとけ、俺は、ちょっと遊んでくるわっ!」
「おいっ!」
サンアンも愛撫を追って走る。
枷が外れた。
ここにきて溜まりに溜まっていた全員のフラストレーションが爆発。
命がけの戦いならいざ知らず、虚無のような戦闘、全力も出せず、制約だらけのこの訓練。
丁度いい憂さ晴らしの相手が出来たと。
特に戦闘狂に属するメンバー達は我先へと獲物に群がっていった。
◇
邸宅より少し離れた場所で。
「よし、これより突入する」
八つの影、準備を終え行動に移そうとしていた。
その場に静かに忍びよる一人の女性。
「こんにちはぁ」
声をかけられて初めて存在に気付く。
それだけこの女には気配が無かった。
「・・・・・・誰だ、貴様」
リーダー格の男が冷静さを保ちながら問いかける。
他の7人はすでに攻撃態勢。
女の耳にはイヤホン。
〈映像確認、そいつらで間違いない。有名な暗殺集団、八天昇華だよ〉
「八天昇華・・・・・・」
女が呟く、それに男達は反応した。
「我らを八天昇華と知っている? これは何が何でも素性を知る必要があるな」
リーダーの言動が引き金になり、仲間の一人がまず先行。
一瞬で女の前へと身を詰めると。
腕を振り抜いた。常人にはおよそ捉えきれない速度で放たれた打撃には。
まるで手応えはなかった。
代わりにあったのは、痛み。
腕が半分、骨ごとあさっての方を見て。
叫びは上がらない。
その前に、首が曲がり。
妙な音が響き。
別の腕が曲がり。
今度は胴が右へ左へと。
くねって、折れて、曲がって、千切れ。
小刻みにダンスでもしているかのように男の体が音を立てて芯が分断されていった。
どこから生き物ではなくなったのか、現代アートのような風貌で辛うじて立つことを許されている男。
それを押しのけ倒し、再び姿をさらす女。
「暗殺集団で有名って、それただのアマチュアじゃないですかぁ。貴方達にあの子たちをどうこう出来るとは到底思えませんが、ボスのボスのお願いなのでねぇ、仕方ありませんねー」
女は知っている、殺人鬼に憧れてはいるものの、やはり自分の根本はここにある。
それは似て非なるもの。
言葉通り指示自体に意味はない。しかし、根深い闘争本能は隠せない。
「ん? 大分待ったんで、今度はこっちから行きますねー」
男達が膠着していたのは僅か数秒だったが。
女にとっては別だった。敵を前にしてそれだけの隙を見せる事自体あり得なかった。
女は適当に相手を選ぶ。
男の前、何もない場所から煙りが上がったかのように女の実態が現れる。
女が両手で男の両耳を掴むと力任せに顔から下へと引き剥がす。
それをすぐさま投げ捨てると今度は両手を男の頬を挟むように添える。
親指が両目に刺さる。深く深く。
顔を掴んだまま、男の体ごと空に向かって持ち上げる。
その後地面へと男の全身を叩きつけた。
絨毯の埃でもとるかのように、容易く、数回固い地面に誘う。
勿論、首の骨、背骨、筋肉の繊維すらグチャグチャに体の中で引き離される。
女はくるっと回ると。
ターゲットを別に変える。
新しい男の腕を掴む。
引き寄せると、腹部へ軽く拳を当てる、密着したまま指で腹を連続で弾く、人差し指から小指までの流れるような連撃。細い指の一撃一撃がハンマーで叩かれたような衝撃を与える。
堪らず声を上げようと口を開ける男。
瞬時にそこの女の両手が滑り込んだ。
上顎を下顎を持つと、無理矢理こじ開けていく。
「あがあああああああああああああああああああああああ」
顎は外れ、頬肉は裂け、男の顔はあり得ないほど大きく開いた。
女はその穴、喉の奥へと片手を突っこみ。
「心臓ってとれますか? どこでしょう、心臓、こっからとれましたっけ?」
探るようにまさぐる、男の体を中からかき混ぜて。
男の口からは大量の血や吐瀉物が溢れ出す。
「これですかねぇ、ありましたっ」
男の体から腕を引き抜く。
同時に男の体が地面へと滑る落ち。
女の手には赤い血の塊が握られていた。
「えっと、ボスのボスさんがですね、良い物見せてもらったお礼だそうで、だから八天昇華、いやもう六天? 五天でしょうか、とにかく皆さんには恨みはありませんが・・・・・・死んでもらってよろしいでしょうか?」
そういい女は手を握り締める。
その隙間から血と肉片が飛び散り弾けた