うん、これは訓練みたいです(現状確認訓練編 中編)
こんにちは、シストです。
今、僕ら殺人鬼連合の視線は、前面の巨大モニターに釘付けになっておりました。
「九尾の方はほぼ全勢力で正門から正面突破を目指し、それを読んでいた護衛隊もほぼ全員で対応にあたったわけか」
「・・・・・・別働隊であの女二人がお祖母様の元へいったが、勿論そう簡単にいくわけねぇわな。こっちには魔鏡ちゃん、そして・・・・・・」
「いいですわ、さすがですわ、陸音ー、その女狐どもを華麗にやっちゃいなさいー」
魔鏡さんと一緒にお祖母様を守っているメイドは、空音の身内だ、なので一際応援にも力が入ってるね。
「お、正門組が本格的に衝突し始めたでっ!」
古論が叫ぶ、両者まさにぶつかった瞬間であった。
◇
何人かの白い影が左右から放物線を描きながら突撃。
それは先頭のババ様を避けるように後方の黒い塊へと突入していく。
ババ様はそれを無視、単騎で向かってくる女へ意識を集中させた。
「はぁ、こりゃ特別報酬も一番多くもらわないとやってられないっすねー」
飛びかかりながらも懐から取り出した警棒をババ様に向けて叩き付ける。
「鯨か、まぁ私とまともにタイマンできるのはお前か、そこの爺くらいなもんよの」
警棒はゆっくりババさまの腕を滑り落ちていく。
「う~ん、相変わらずお強いっすねぇ、私もあれから少しはレベルアップしたと思ってたんです・・・・・・けどっ!」
今度は警棒を振り上げる。
されど、またも摩擦がゼロかのようにババ様の腕を滑り登る。
「確かに前回より格段に腕は上がっておる、受け流すも反撃する隙が見当たらぬわ」
「前回は貴方の娘さんに完封されちゃったんすよね、今回是非お礼したかったんですけどいないんすねぇ」
「まぁ家庭の事情ってやつよ、代わりといっちゃなんだが、今日は孫がおる、後で遊んでやってくれ」
「はは、なるほど、あんたの孫、あれの子、それはそれは、壊しがいがあるっすねぇええええええええええ」
警棒が三つに増えた、いや端からそう見えたに過ぎない。
護衛隊、鯨。見た目より若くはなく、その実齢40を越えた古参。
その実力は、前回の訓練で九尾筆頭であったシンイーを一人で完全に封じ込んだほど。
鯨の体がぶれる、腕が、足が、全てに残像が走る。
「あんた相手に出し惜しみはしないっすよ、どうかしばしおつきあいを」
「いいぞ、八割といわず全力でこい、それで丁度良い塩梅よ」
鯨の残像まじりの攻撃、もはやババ様でもたんに受け流すのは不可能、防御は弾くよう強制され、さらに・・・・・・。
極細の世界を分ける線。
すでに後方でも九尾と護衛隊の面々が戦闘開始。
激しいぶつかり合いの最中。
斬撃がその場を駆け抜ける。
護衛軍には元々想定内、なので各々避けるなり受けるなりは容易い。
しかし、九尾メンバーにとってはそうはならない。
「なっ!」
「ちっ!」
目の前の白い難敵との戦闘、その最中に不意打ちのような斬撃が飛んでくる。
「ほらほら、どうしたのねー、どうしたのねー、えええ、何余所見、えぁあ、ちゃんと集中しないいとねー、しんじゃうのねーーー」
白いドレスの女がナタを振り回しながらサンアンに襲いかかる。
「くそ、こいつやりずれぇ」
「ふふふ、傷ねー、もっとつけようねー、おろそいねーーー」
適当に武器を振りかざしているようでそうではない。
護衛隊、愛無。敵の体格、仕草などからもっとも対応しづらい場所をいち早く把握しそこを重点的に攻める。そこには相手の一番嫌がることを率先して行うという昔からの癖が要因していた。
「わりぃが、この傷をつけてんのは一人だけなんだわ、だから他につけられる訳にはいくかよ」
サンアンの打ち下ろした肘がナタを叩く、武器ごと地面へと沈む愛無。
追撃へと移るサンアン、本当ならそれに備えるべきの愛無。
だが愛無のナタがぐるりと関係のない背中へと向かい。
その刹那。
その場全体に強力無比な波状攻撃。
サンアンは無理矢理体を反らせてそれを回避。
近くで戦闘していた者達にもそれは届き。
「うおっ!」
「なんなの」
護衛隊には特に影響はない。
驚愕するのは九尾のみ。
それもそのはず。
最奥で刀に手を置く老兵、目を閉じ、その時を待つ。
時が来れば、その刃は鞘から解き放たれる。
間隔は不明瞭に見えて、すでに決められており。
それを知るのは仲間であるほかの護衛隊のみ。
二撃目は20秒後、次は17秒後、次は32秒後と。
敵である九尾には知るよしがない、いついかなる時にその刃が自分へと飛んでくるのか。
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、あの爺をどうにかしないとまともに戦えないヨ」
「つってもどうする、多分、あのジジイがあの中で一番強い、ババ様を抑えられてるなら誰が相手するよ」
「無論、一人しかおるまいよ」
「そうね、行ってきて、そしてあれを止めて」
全員の視線が一人に集まる。
「・・・・・・やるか」
ロウトウは首元を左右に振ると。
その場から高く飛び上がる。
勿論、護衛隊もその懸念は持っており、遠距離系の者はロウトウを静止しようと動くが。
「「「「「「輪廻転、死っ」」」」」」
残り6人の獣が睨め付ける。
膠着することはできずとも、無視することはできない、態勢は中断、移行させられる。
「見誤らないことネ、お前らの相手はあくまで私達ヨ」
「我とサンアンは前衛、シャレイとユーファンは後方から援護、リライ、ジールイがそのどれらをもサポート」
頷いて、6人が各々の最適な位置へと戻る。
野生の狐は群れない。
だがこの狐たちは互いを知り、協力することで。
狩りの成功率を飛躍的に上げることができる。
◇
当主自室。
ここでも激闘が繰り広げられており。
「おらぁあああああああああ」
リンシャンの腕、地面に密着、常人離れした筋力で体を半回転。
それにより繰り出される斬蹴りが戦闘メイド陸音に向かうも。
「・・・・・・無駄だ」
隙間に入り込んだ魔鏡によって反射。
リンシャンの体が天井へと吹き飛ばされる。
が。
その開いた空間から無数の針が出現。
後方からのスーアンによる毒針。
その中の一本でもかすれば即戦闘不能に陥るであろう強力無比の広範囲攻撃。
魔鏡の反射すらも計算にいれた立ち回り。
一歩間違えれば自滅する破滅の戦法。
しかしそれくらいしなければこの恐るべきコンビには対抗できないと獣たちは理解していた。
「だから無駄だと言っている」
魔鏡は動じない、その一つ一つを正確に、そして確実に獣たちへと返した。
「くそがああああああああああああ」
半分は天井、リンシャンの元へ。
「はぁ、これも駄目なの★★」
半分は持ち主であるスーアンへ。
リンシャンは天井に足を付けると即刻態勢を立て直し針を蹴り散らす。
スーアンも元々自分の物と言わんばかりに、腕を軽く振ると、その指先に全ての針を挟んだ。
「真っ二つーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
リンシャンが地面へと落ちる前。
再び、陸音の鎌が振りかざされる。
「舐めんなぁあああああああああああああああああああ」
リンシャンが踵を落とす、靴に仕込んだ刃と陸音の鎌の切っ先が激しくぶつかる。
部屋全体が眩く光る。
衝突は互角ではない。
攻撃全振りの陸音の方が押し込む力は上だった。
このままではリンシャンの体が崩れる。
そうなると追撃により眼鏡少女の体は二つに別つ。
それを阻止するは、スーアン。
いつの間にか距離を詰め、リンシャンに密着するように体を支える。
スーアンの力を加えて、漸く均衡。
刃同士は大きく震え、ついに弾けた。
双方、大きく吹き飛ぶ。
双方、空中ですばやく身を翻し。
双方、地面へとしっかり足をつけ。
そしてまたも睨み合う。
先ほどからこのような攻防が数回繰り返されていた。
「ち、キリがねぇな、くそがあ」
「う~ん、あの子、本当に厄介だねぇ★」
現状、ここに一人でも仲間が増えれば一気に形勢が傾く。
それはどちらも同じで。
「とりあえずこのままやりあって・・・・・・」
「ここにどっちの仲間が来るかで・・・・・・☆」
勝負は決する。
◇
ロウトウが空から老兵へと襲いかかる。
振りかざした拳は、老兵の顔目掛けて・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
ここでふいに前を向いていた老人の顔が上を向いた。
「・・・・・・・・・っ!?」
ロウトウは何を思ったか、自分で自分の腹を殴る。
空中で無理矢理軌道を変え、急速に地面へと向かい、激しく地面を転がり落ちる。
急いで立ちあがると、改めて老兵と対峙した。
「・・・・・・へぇ、なるほど、君がリョーちゃんの孫だねー。流石だよ、よく今のを避けた」
「危うく死ぬところでした、分かりやすい殺気を出して下さりありがとうございます」
言葉通り、老兵は空中にいたロウトウに向かい神速で三回刀を抜いていた。
そのまま攻撃していたら、ロウトウの体は、辿り着く前に、腕が、足が、半身が、顔が、徐々に斬り落ちて、最後にはバラバラになっていた事だろう。
「残念だけど、君じゃまだ僕の相手は勤まらないかな。僕としても友人の孫は斬りたくないんだよ、だからあっちに戻ってうちの新人達と遊んでてくれない?」
「・・・・・・格が違うのは重々承知しております。それでもババ様以外で貴方の相手は私しかできないのです」
ロウトウが構える。
「そうか、ま、訓練とはいえ真剣勝負、死人を出さないルールだけど、そんなの考えてる奴、ここには一人もいないよぉ?」
老兵の体全体が揺らめく。
圧倒的な闘気がそう見せている。
「おい、ジジイ」
少し離れた場所からババ様が声をかける。
勿論、鯨と戦いながらではあるが、この声ははっきりと聞こえるほど大きく。
「ロウトウは私の孫で・・・・・・娘の子だ。あまり甘く見てるとお前であろうと噛まれるぞ」
二人の実力が今はそうとう離れているのはババ様自身よく分かっている。
その上で決して身内贔屓ではない。
自分の孫の実力は祖母である自分が一番知っている。
それはロウトウが自分自身を思うよりも。
形容しがたい音が飛び交う。
老兵の抜刀。ロウトウに向かい何度も放たれる。
その全てを。
神速の抜刀と全く同じ速度で躱していく。
「う~ん、おかしいね、これ見切られるはずないんだけどな」
空間が何本、何十本と切り刻まれていく。
その線の行き先があらかじめ分かっているようにロウトウは体を傾ける。
老兵のいうように、現時点のロウトウの実力では避けられる速度ではない。
だが、現実でまさにそれは起こっていた。
「じじい、不思議そうだな。なぜ、うちの孫がお前の攻撃をこうも容易く避けているのか。答えは単純、100分の1を連続で引き当ててるからだ」
「100分の1、いったい、どういうことかな・・・・・・」
「ロウトウはまだ未熟とはいえ、才能はずば抜けて高い。なので、その片鱗がたまに顔を覗かせる時もあるだろう。例えば、遙か格上の相手の攻撃を偶然にも見極め避けるなんて事が100回に一回はあるかもしれんな」
「・・・・・・つまりなにかい、リョーちゃんの孫は、今その才能による偶然をつねに発動されてるって言いたいのかな?」
「だからそう言っているだろう。このいつ起こるか分からない奇跡を、お前の戦闘時に運よく連続で引き寄せておると」
ロウトウの体もいつの間にか揺らいでいた。
目の前の分厚い扉を開け続けて、開け続けて。
ようやく、目の前の老兵に立ち向かえる。
剣術をひたすら追求してこの歳まで研ぎ続けてきた侍。
片や、最強の遺伝子を受け継いでいるとはいえ、ロウトウはまだ若く経験もまだまだ浅い。
この差を埋めるにはもはや因果すらねじ曲げなければならない。
「現、九尾筆頭、ロウトウです。少々胸をお貸し頂きたい」
声は蜃気楼、揺らめく体が霧となる。
これ次で終わる気がしませんね。