なんか、無力みたい。(無印リョナ子大台記念回第二弾)
こんにちは、リョナ子です。
朝、職場に向かうと。
執行所の門の前、一人の男が立っていた。
男はじっと空を見上げていて。
手には遺影が。
その写真に写るは小さな小さな女の子だったんだ。
◇
十三年前、とあるスーパーで起こった事件。
当時三歳だった女児が行方不明になり、翌日遺体で発見された。
女児は一緒に買い物に来ていた父親にトイレに行きたいとその場を離れた。
父親はレジ中だったため引き留めはしたものの女児が我慢できないといい走り去る。
この時、すでに店内を物色していた犯人に狙われていて。
障がい者用トイレに連れ込まれた女児は,わいせつの末、片手で口を塞がれ、もう片手で首を絞められ殺害された。
父親はすぐにトイレに向かう、しかし女子トイレに名前を呼んでも返事はない、そして障がい者トイレをノックしまた名前を叫ぶも、「使用しています」という声、それはまさに犯行最中の男の声であった。
トイレから出てきたのは犯人の男一人。そこに女児の姿はなく。
それもそのはず、その時、女児の遺体は男の背負うリュックサックに詰め込まれていたのだ。
◇
リョナ子です。
黒いスーツの遺影を持つ男とすれ違う。
横目で見ると。
天を仰ぐその頬を涙が伝っていた。
僕はそのまま仕事場へ向かい。
そこで他の拷問士から事情を知ることとなった。
「十三年前のスーパー女児殺害事件。そうか、あれは父親で・・・・・・十三回忌の今日、ここへ」
犯人はすぐに捕まり、レベル6の執行を受けて絶命していた。
十三年前だ、勿論、僕はまだ拷問士ではない。
気になった僕は詳しい事件内容と、そして当時犯人を執行した拷問士について調べていた。
◇
父親のこの十三年間は地獄であった。
犯人こそすでに執行を受けたとはいえ、自責の念と悲しみが消えるはずがない。
執行直前に犯人から父親に手紙が届いていた。
当時は読むことが出来なかったその手紙。
ようやく読む覚悟ができた。
そこには裁判でも語れていない真実。
涙が溢れ止まらなかった。こんなものを他の家族に見せられないと。
◇
リョナ子です。
この事件の資料を閲覧、そして犯人、そして執行をした拷問士、そしてその執行内容が記されていた。
「・・・・・・拷問士、お千代さんじゃないか」
お千代さんは僕の直属先輩のさらに直属先輩。
つまり僕はお千代さんの孫弟子みたいなもの。
僕の先輩はカリスマ拷問士と呼ばれ、そしてお千代さんはレジェンド拷問士と呼ばれている。
「十三年前はまだ現役だったんだ、それにしてもこの執行内容・・・・・・」
全身が震え出す。
すでに特級である僕がだ。
この文字の羅列でしかない執行内容を見て。
畏怖の念を禁じ得ずにいた。
◇
十三年前。
妙齢の女性が廊下を闊歩する。
その足取り、踏み終えた足下から無数の髑髏が湧き出てくるようで。
犯人はすでに執行を行う自室において拘束されている。
思いっきりドアを開け放つ。
両手を上に吊されていた男とその瞬間目があった。
「よう」
レベル6は死罪なので拷問士も顔を隠す必要はない。
その拷問士と罪人の瞳がしっかり合わさり。
「う、うあげあああああああああああああああああ」
途端、まだ何もしていないのに男は豪快に吐瀉物を撒き散らした。
「犯行内容見たぞ、なんだろうな、言葉もでないわ」
拷問士のいう言葉は比喩ではない。
その場にあるのは純粋な怒り。
遺族に向けた悲しみ、被害者への憐れみ、全てを取り払って。
この拷問士が選択し、最後に色濃く残った感情。
それが怒り。
それは深く、深く、深く、深く。
特級の中でもその場を支配できるような感情を放てる者は少ない。
罪人は動けない、何も喋ることもない。
それは悲鳴でさえ。
「よし、始めるぞ、お前、グチャグチャにしてやっからな、最後の最後まで苦しめ」
普通なら問題発言、本来なら私情を挟まず黙々と執行することを是とする。
しかし、この拷問士は型破りであった。
「・・・・・・・・・・・・」
ここは奈落。
男の目が、男の鼻が、男の口が、男の耳が、男の腕が、男の指が、男の胸が、男の腰が、男の足が、形を失っていく。
激痛の中でさえ声を出せない。
巨大な手に一刀両断されたように感じるも、現実は細い腕による指の切断に過ぎず。
大木のような杭に貫かれたように感じるも、現実は釘による眼球への打ちこみ。
精神すらも拷問の対象。
「よう、お前、もう二度とこっち(現世)来んなよ?」
最後に拷問士はそう罪人に言い放つと。
男の体が上から下へとゴツンと潰れた。
◇
リョナ子です。
資料にはこう追加事項がのっていた。
この拷問士による執行は熾烈を極め。
罪人の体は腕、足は幾重にも折れ曲がり、およそ成人男性とは思えないほどに小さな肉塊へと変貌していたという。
「これはレベル6以上なのではないかと問題になったようだけど、一応ギリギリ収まったようだね。それまでの過程でうまく調整したんだ。さすがお千代さん、現状できる限界まで執行したんだ」
仕事として慣れているであろう後処理をした職員全員が吐いたっていうんだからよっぽどだろう。
そっと窓を見る。
外にはまだあの父親はいるのだろうか。
犯人はとっくに執行されたけど、十三年たった今も貴方は苦しんでいるんだね。
涙は枯れず、悲しみは癒えず。
こんな時、僕は自分の無力さが憎くなる。
結局僕達の仕事は事後処理で。
「救いにはならないとは思うけど、貴方の娘さんの命を奪った犯人は、現在過去未来、多分一番の拷問士が担当したから・・・・・・うん、だからってやっぱり救いにはならないね・・・・・・」
僕は呟いて。
現在、特級拷問士の僕は。
黒衣を纏う。
リョナ子棒を握って。
今日もまた誰かの救いになりたいと、藻掻くのだ。
実際の事件をモチーフにしております。遺族の方は記事で事件を風化させたくないと仰っていたので少しでもこの事件の卑劣さが伝わればと思っております。作中では犯人は死罪となっておりますが、現実ではまだ生きております。。