なんか軽く考えていたみたい。(無印大台記念回)
めちゃくちゃ遅れましたが、無印200万PV達成記念第一弾特別編です。
こんにちは、リョナ子です。
今日もお仕事、朝の身支度を済ませていると、付けっぱなしのテレビから音声だけが耳に届いた。
「またも闇バイトでの強盗事件が発生しました。捕まった犯人達はいづれも若く・・・・・・」
それを聞いてあぁまたかと思う。
最近特に聞くからね。
「これは、今日も忙しくなりそうだ」
僕はそう呟き小さく溜息をつくのであった。
仕事場につき、ルーティンであるコーヒーを飲みながらの書類確認。
「ありゃ、やっぱりか」
僕の予感は当たった。今回最初の執行は例の闇バイトでの強盗事件。
しかも同時執行。
「失礼します、罪人を連れてまいりました」
職員が扉をノックする。
「入って、そして全員椅子に固定してもらおうかな」
すでに黒い白衣、そして黒ニャンのお面はしっかりとつけ、準備は万全。
しかし、改めて実物を見ると全員若いね。
三人中二人はまだ十代だから当たり前か。
これまで僕は何回も同じような犯罪者を執行してきた。
いわゆる闇バイト関連。
SNSなどやネットの掲示板などで高額な報酬を餌に犯罪に荷担させるのだ。
今回の罪状は強盗致傷。
資産家の老人宅に押し入り、住人を縛り上げた上暴行、金の在処を聞き出し犯行に及んだ。
「おらぁ、やるならさっさとやれ」
「そうだ、早く終わらせろやぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
おーおー、若いだけあって元気いっぱいだね。一人は震えて黙ってるけど。
「言われなくてもすぐはじめるよ。しかし、君達も軽率だねぇ、こんなのすぐに捕まるに決まってるのに」
あまりに雑な犯行、この国の警察はとても優秀、逆になぜ捕まらないと思ったのか。
「あぁあ、うるせぇえ、ぶっ殺すぞぉ」
「その声、覚えたからなぁ、ああぁん、絶対探し出してやっからよぉ」
おっと執行官への暴言は追加刑になりうる事案だけどまぁここは聞かなかったことにしよう。
「そうだね、じゃあ、まず右端の五月蝿い君からはじめようか」
僕は自前の道具箱を漁り、ナタを取り出す。
「お、おい、それで何する気だ、あぁあ?」
刃物を目にして粋がっていた男の声が明らかに上ずった。
「一本てとこかなぁ」
「あぁあ? 一本だ、あぁ指か、おお、好きなのいけや、おら、さっさとしろ、こらっ」
若干声は震えていたけど男は覚悟を決めたように指を広げた。
「はぁ? なにを勘違いしてるか分からないけど、一本て指じゃないよ」
「え?」
刃物を男の肘付近にあてがう。
「は? は? はああああ?? え、え、いや、嘘だろ、ああ、おい」
「君のレベルは4だよ、世間が思っている以上に強盗ってのはとても罪が重いんだよ。しかも今回は怪我までさせているんだもん」
振り上げる。
「い、え、いや、でも、あ、うそ、まじ、あ、ごめ、ああがやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
刃先が肉に食い込む。
「ぎゃあがああまあうあああ、おやあがああああああああああ」
まだ一回目なのになんて大声で騒ぐんだ。
「ちょっとさっきの威勢はどうしたのさ、こんなものじゃまだまだ切り落とせないよ、僕はとても非力だからね」
完全に切断できるまで何度も振り落とすことになるだろう。
「ああああああ、ぎゃああ、いでぇえええ、えいええでえ、え、えええええ」
数十分後、男の腕と体は永遠にサヨナラとなった。
「ああああああ」
最初に騒ぎ立てていた真ん中の男も大分静かになった。
「次は端っこの君にしようか」
一番大人しい子だ、見た目も普通そうだから本当に軽い気持ちで募集したのかもしれない。
「君は運転役だからレベルは3だね。三本てとこかな」
「え、え、え、なんで、僕のほうが、え、多いんですかあ?」
「いや、君の場合、指だから安心してよ」
「は、なん、だ、指、ええ、指、だって僕は、ただ運転しただけなんに、なんで三本もっ」
「確かに実行役よりは軽くなる場合もあるけど、実際には共同正犯なら君も腕一本貰うところだったんだよ。今回は幇助って事でレベルは下がってるけど、普通は事情を知ってれば同罪になり得るからね」
ていうことで、チェーンカッターでサクッとやっちゃいますか。
本当はいっぺんにやる方が楽なんだけど,一本ずつだね。
力を込める度、指が床に落ち、悲鳴が上がる。
これが三回続いた。
「さて、最後は指示役の君だ。勿論、この中では一番罪が重い」
この中ではリーダー格、だけどこいつだって捨て駒に過ぎない。
上にはさらに組織化された犯罪集団が蔓延っている。
ようはこの三人も利用されたって事で。
ただそこに一切の同情はない。
「お金は大事だ、いっぱいあればそれだけで幸せだろう。でもね、汚い方法で稼いだお金で掴んだ幸せは一瞬だよ。少なくても、自分の力で毎日頑張って稼いだお金には何倍も価値があるんじゃないかな」
僕もいい大人だからね、世の中の仕組み上、綺麗事だけじゃないって嫌ってほど分かってる。
人は誰しも幸せになりたくて、それは大抵お金で買える。
糸鋸を取り出し、腕にあてがう。
だけど、だからといって。
「一度犯した罪は消えない、この後君が改心してどんなに善行を積もうが、被害者は忘れられない傷を一生負うんだ。君達、まだこんなに若いのにさ、なんでこんな馬鹿な事しちゃったのかなぁ・・・・・・」
刃が肉に食い込み、前後に動かす、少しずつ進む刃先。
「いだああああ、いがあああああああああああ」
血がどくどく湧き出て、刃の滑りが一層増した。
だが、やはりというか中々切断までは至らない。
その内に朝一からはじめた執行時間は正午を越えた。
まだ糸鋸の刃は腕の丁度半分くらいに到達したところでまだまだ先は長い。
「リョナっち、お昼っすよ~、今日はみんなで評判のお店行くって約束っすよー」
扉の外から殺菜ちゃんの声が届いた。
あぁ、そうか、約束の日は今日だったか。
「ありゃ、まだ執行中っすか? それなら改めて・・・・・・」
「いや、大丈夫、一旦中段してお昼にするよ」
「お、そうっすか、じゃあ、入り口で待ってるっす」
糸鋸を握っていた手を緩めた。
「そういうことだから、ちょっとお昼取ってくるから待っててよ」
「はああぁああああああああああ? 何言って、なにいって、このまあああああ、いだええええええよぉお、腕がああいでええええよおおおお」
執行を終えた二人は医療班に任せて、こっちはしばらく放置だね。
お昼で食べたランチはとても美味しかった。
これも自分で稼いだお金で買ったものだ。
飼い猫のソフィを愛でるのも。
大好きな本を読むのも。
毎日のコーヒーも。
一つ一つは小さなものだけど。
それが成り立ってる時点で僕は幸せなんだ。
もし、この全てを自ら失うような事は僕なら絶対しないかな。
犯罪を犯す者、自ら死を選ぶ者。
その心情は単純ではないのは分かってる。
でも誰も悲しんでくれる人がいないなんて事はない。
少なくとも僕はとても悲しいよ。
これもひとえに読者さまのお陰でございます。