表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/177

おや、なるほど、こういう事でしたか(一ヶ月位遅れの葵、誕生日記念回)

 こんにちは、蓮華です。


 最近、ある倉庫の一角で偶然奇妙な遺体が見つかりました。


 遺体は二つ、いづれも少女のものと後に断定されました。


 白骨化した二つの骨は混じり合い、その近くには枯れたキンギョソウ。


 キンギョソウは枯れるとまるで人の骸のように見えます。


 ただその中で、本物の髑髏、お互いその片方に摘められていた花だけは。


 時間を忘れたかのように。


 綺麗に咲き誇っていたのです。


 

 思わず連想してしまい、長年点だったものが線として繋がりました。


 これは数年前世間では一時期騒然となった大事件。


 しかし、彼女達にとっては些細な事。


 記憶にも残らないほど小さな。


 私は違います。


 なにかの花を見る度思い出す。


 甘美な香りが鼻に触れる度思い出す。


 彼女を。


 私は忘れる事はできない。


 花にたとえるならそれはきっと。



         ◇


 脳が露出された頭部が見つかり。


 そこに無数に突き刺さる花。


 最初からそこから生えていたかのように。


 二つの瞳はなんとかそれを見ようとしてるかのように上を向き。


 口は半開きでそこには土が目一杯詰められていた。


 被害者はいずれも男性で。


 同様の事件が立て続けに何件も続いたのです。



        ◇


 手を繋ぎ、二人の女が歩く。


「また汚いものが一つ浄化されました」


「そうね、これでこの世界にまた一つ美しいものが増えたわ」


 左右対称に、長い髪で片目を隠した女達。


 風がふいに彼女達の前髪を撫でる。


 本来目がある隠された部分からは小さな花弁が露わになる。


「あら、今日はダリアなのね、とても綺麗」


「花言葉は感謝、これはいつも一緒にいてくれる貴方へ」


「私はブルースター、花言葉は信じ合う心、幸福な愛、これを貴方へ」


 見つめ合い微笑み合う。


  ◇


 こんにちは、蓮華です。


 脳から生やす花々、頭部。


 土に突き刺さり花を天へ掲げる腕。


 腹を割かれその中に土を詰められまたもそこに植えられた大量の花々。


 いづれも遺体に花を添えてあります。


 パーツはバラバラでも全部別人にものです。


 共通するのは全員男性ということ。


   ◇


 激しい息づかい、汚い、臭い、天井さえ見えない。


 口を噤み、耐え、いつしか諦め、でも傷は増えて。


 もう一方は囲まれ、下品、卑しい、いっぱいの目。


 代わる代わる、誰かも知らず、でも全員同じ目をしていた。


「う、ぅげぇえ」


 フラッシュバックのたびに吐き。


「大丈夫?」


 今日は自分が、明日はそちらが。


 吐瀉物を交互に吐き出す日常。


 その度片方がすくい上げ、抱きしめる。


「汚いよ・・・・・・」


「汚い部分なんてどこにもないよ」


 慰めて、嘘で、舐め合うの、でもいくら舐めても舐めても塞がらない。


 それどころがどんどん広がっていく気がしていた。



        ◇


 蓮華です。


 手がかりは今の所なし。


 それもこれも犯人自体は動いてないんですよ。


 被害者のほうからのこのこおびき寄せられている感じで。


 いや、元々被害者側が匿名性を重視した動きをしていて、犯人はそれをそのまま利用しているのでしょうか。


 遺体に添えられた花。


 トリカブト。


 柘榴。


 オトギリソウ。


 クロユリ。


 いづれも花言葉は。


 復讐、愚かしさ、恨み、呪い。


「被害者は全て男性、もし花に意味を持たせているのならこれは男性に対して激しい憎悪の念を抱いている人物でしょうか」


 どちらにせよ、この犯人、とても頭が良く慎重、そして猟奇的なことを何度も繰り返せるほどの精神。このままですとどんどん被害者は増えますね。


「そうなると、彼女達の出番ですかね」


 管理下にあるとはいえ私ですら完全に彼女達を扱えているとは全く思っておりません。


 ですが。


「劇薬には劇薬で対応するのが一番です」



       ◇


 街の隅にひっそりある駄菓子屋。


 店先にある設置型のゲーム機のレバーをガチャガチャ動かす少女。


 色あせた画面を食い入るように見つめ体ごと激しく動かしていた。


「くそっ! こ、この、あ、駄目、だ、なん、だ、この難易度、設定おかしい、のだっ」


 その様子を愛おしい目で見守っているもう一人の少女。


 そんな彼女のスマホが震える。


「は~い、もしもし」


 少女はしばらく会話したのち、通話を終える。


「あ~~~、死んだ、の、だ。なん、だ、このクソゲーっ!」


 同じタイミングでもう一人のプレイが終わり。


「・・・・・・円ちゃん、蓮華ちゃんがねぇ、仕事しろって」


「うあ~、レンレンのは、いつも面倒、なの、だ。やりたくない、のだ」


「まぁまぁ最近遊んでばかりいたし、それにね、今回のは少しだけ面白そう」


「そうなの、か、なんだ、あれか、変態の、あれか、事件か」


「そうだねぇ、どれくらいかな、少々退屈だったから、たまには、ね」


「うくく、そうだな、これはレンレン公認なの、だ。じゃああれだ、そういう事、だ」


 嬉々して立ち上がる少女。


「まずは、見てみないとだね。私達によく見せて。さぁどんな顔してるのかなぁ」



          ◇


 これはいらない。振り下ろす。


 これもいらない。抉り取る。


 飛び散る赤い血を浴びながら、創作していく。


「けがらわしい、なんて汚い、あぁああ、あうう、この手があ、これあがああ、いつも、この手、この腕、あああああ、いいいいあいあいあああ」


 何度もナイフを突き刺す、抑えが効かない。


「この目、似てる、あれと、あれもあれも、あれ、これ同じ、だぁああ、いや、取らなきゃ、いや、見ないで、その目で私をみないああういいいいでえ」  


何も食べて無くても逆流してくる、その度、吐き気だけを催して。


 喉が灼ける、何度も、この身はすでに業火の中で。


 起きてても、寝ていても、藻掻き続ける、焼かれる全身、そこに安寧はない。


「今日はアザミの花にしましょう、そうしましょう、この穢れた体にはよく映える」


 首を切り落とし、その断面に花を差していく。


 土台は胸の半分でいいから、残りは省く。


 作品が出来上がると二人は手を絡ませながらうっとりとそれを見つめる。


「あぁ、なんて綺麗なの、またこの世から汚いものが減り、綺麗なものが増えたわ」


 そこだけ光が差しているようだった。


 いくら周囲が血にまみれ、臓物が飛び散っていようとも。


 紛れもなくそこだけは。


 彼女達の美しい世界そのものだったのだ。



        ◇


 連日報じられる人間生け花事件。


 この日も朝から原稿を呼び上げるアナウンサー。


 またも花を生けられた遺体を発見。


 今度の被害者は女性。


 これも同一犯の仕業か、と。


 

 世間でも注目度が高いこの事件。


 どのチャンネルでも同じような事を伝えられていた。


 さらに話題性を呼んだのはこの遺体の写真がSNSを通して拡散された事。


 これにより不特定多数の人達が目にすることになった。


 勿論、それは犯人達の目にも当然触れることになったのだが。


「な、なによ、これ」


「酷い、これどういうこと」


 唇を震わせ怒りを露わにする少女達。


 遺体は女性、四肢は雑に切り落とされ、逆さで土に埋められたのち、適当な穴に花が突き刺してあった。


「なんなのよ、これっ!」


「私達じゃない、こんなのは違うっ」


 この遺体には意味がない。


 自分達が作りだす物とはあまりにも乖離している。


 そもそも素材は男性のみ、そして添える花にも意味を持たせている。


「そうよ、なに、この黄色い花は・・・・・・」


「タンジー。花言葉は・・・・・・」


「・・・・・・戦いの宣言」


 


どうも、どうも、葵だよ。


 薄暗い倉庫内。


「いいよぉ、円ちゃん、後一体くらい作ってみようか」


「ういうい、これは、これで、楽しい、だっ!」


 拘束して無抵抗の女にナイフが突き刺さる。


「今度は頭部を使おうか、鼻や耳に適当に花をいれればいいから、他は好きにしていいよぉ」


「ういうい、じゃあ、首をまず、いや、それは最後でいいの、だ。まずは、うくく」


 使わない部分は壊して構わない。


 いくら損壊しようと関係ない。


 口は塞いでないから、円ちゃんの一挙手一投足で悲鳴が上がる。


 反響する絶叫。


 黙って見つめる私。


 円ちゃんが楽しそうでなによりだよぉ。


 まぁ一応蓮華ちゃんが五月蝿いから使う素材は犯罪者にしたよ。


 でもなにしたんだっけ、まぁいいか。


 円ちゃんの手によって死ねるならこの人も本望だよね。


響く鳴き声がとても心地よい。




 直近の花遺体。


 相変わらずこちらの意図とはまるで見解違いのまがい物。


 だが。


 使われた花はハナシノブ、花言葉は貴方を待つ。


「誘ってるんだ、私達を」


「どうする、他にも花でメッセージを送ってきてる。たとえば、これ下に映り込んでいるの数字の入った花たちの羅列。私達が花に詳しい事を逆手にとってる」


 並べれると連絡先になっていた。


 これは明らかな罠。


 だけどこれ以上自分達の作品、世界を汚されたくはない。



        ◇


 どうも、どうも、葵だよ。


「姉御ぉ、ホントか、ホントに、来るか、ここに」


「間違いなく来るよぉ、この手の人達は自分の行動に異常なまでの拘りがある、それをどこの誰かも知らない人に無茶苦茶にされてるんだから、そりゃもうそうとう頭にきてると思うよぉ」


 綺麗に育てた花壇を土足で踏み荒らされたように。


「言ってるそばから、ほら」


 倉庫の位置口に人影が見えた。


「・・・・・・・・・・・・」


 同じような髪型、片目で顔半分をかくして。


 二人で二つの目で私達を睨んでいる。

 

「どうも、どうも葵だよぉ」


二人に向かって微笑む。


「・・・・・・どういうつもり」


 あちらも当然警戒はしている。しかしおびき寄せ方がおびき寄せ方なので自分達を捕まえる側とは思ってはいないのかも。


 つまり得体の知れない人物に見えている。


「作品の事かなぁ、あれはね、ここにいる円ちゃんが作ったの、どう、結構君達のに近いと思うんだけど・・・・・・」


「全然、違うっ!」


 言い終える前に大きな声で遮られた。


「あんなのは私達の作品とは全く違うっ! これは冒涜よっ! なんなの、あれ、切り口もグチャグチャだし、なにより、花の位置にも統一性がなくて、美しくなくて、これじゃ汚い物が増えただけじゃないっ!」


「むっ、なんだ、うまくやったの、だっ! よくできたって、姉御は褒めてくれたの、だっ!」


 円ちゃんが身を乗り出したのを片手で抑える。


「まぁまぁ、ならね、これならどうかなぁ」


私達の後方、薄い白い布で覆っていたもの。


布の端を摘まみ引っ張ると中身が露わになる。


 そこには。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 それを見た二人が絶句する。ついでに円ちゃんも目を奪われていた。


「試しに私も作ってみたんだよぉ、どうかなぁ」


 二人の心理は他の作品でだいたい把握できていた。


 そこに至る過程をなぞっていき、トレースする。


 怒り、憎しみ、悲しみ、絶望、数々の負の感情。


 だけど、その中で小さな、小さな、輝き。


 外見も内面も素材にも拘った、二人が一番拒絶する素体を探し、選び、加工し。


 下の穴から口に一本の鉄の棒を通して綺麗に固定。


 

ロベリアの花が全身を彩っている。


「・・・・・・・・・美しい」


「・・・・・・なんて綺麗なの」


 二人がわなわなと震えながらこちらへ、正確には私の作品へと近寄ってくる。


「こ、これなら浄化できる、私達の、世界」


「うん、真っ白に、染まれる」


 二人は私の前に座り込むと、そのまま土下座する姿勢で頭を下げた。


「お、お願いします、どうか、私達を、私達の世界を」


「貴方なら、私達で、私達を救って・・・・・・」


 うふふ、少しは楽しかったし、しょうが無い。


 君達を縛るこの世界の呪いから。


 私が解き放ってあげる。


     

      ◇


 こんにちは、蓮華です。


 一時期世間を賑わせていた花遺体事件。


 ある日を境にピタリと止まりました。


 ドールコレクターに聞くともう解決したから大丈夫だよぉ、なんて言ってましたが、その過程、結末がとても気になります。


 だいたい犯人を捕まえてませんからね。


 まぁ彼女達に任せた時点でこれも想定内としか言えません。



      ◇


 どうも、どうも、葵だよ。


 これで最後の仕上げ。


 二人を抱き合わせるように固定する。


 円ちゃんは残念そうだったけど外傷がないよう優しく二人を旅立たせてあげた。


 全身、所々に挟む花はキンギョソウ、これを選んだのには花言葉とは別に意味があるの。


 二人の髪を掻き分けて、その空洞になった眼球跡に他の花を飾り付ける。


 片方はポインセチア。


 もう片方にはコスモス。


 こちらには枯れないように細工を施した。


 少し離れて、二人の姿を目に宿す。


「うん、二人ともとっても綺麗だよぉ」

  後でもう一つ更新するかもです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 葵ちゃん回。 てっきりシスターズの過去とかかと思いましたが、そうゆう訳ではなかった。 久々の葵ちゃんの活躍。犯人の特徴を理解して逆に魅了してしまうとは。この頃の円ちゃんはダメと言われてしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ