うん、そろそろ僕の出番ですね(殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の十二)
其の十二て。
こんにちは、シストです。
準備は整いました。
これから挨拶に向かおうと思います。
◇
それは一種の逃避であった。
光を失った瞳も。
腐敗していく肉体も。
煙で染まった黒い空も。
人はそもそも人を殺すようには出来てないのではないか。
いや歴史的に見れば人は戦いを繰り返して来たのも事実。
それは人間性の喪失か、はたまた・・・・・・。
チャイカの選択。
いくつもの戦場を渡り、幾千の屍と対峙しても。
心は、また少女の頃と何ら変わらない。
風光明媚。花を愛で、夜空の星に目を輝かせる。
白いワンピース、さらさらの黒髪、両手いっぱいの草花。
チャイカの心は、あの頃と比べて何ら、変わっていないのだ。
◇
白い白い宮殿のような広い廊下で。
床に血が飛び散る。
「いったぁ・・・・・・」
鋭いかぎ爪から放たれた一撃。
受け流しきれなかった脛に傷が刻まれる。
「ほらほら、さきほどから逃げてばかり、最初の威勢はどうしました?」
当主付き名有り啄み、扇はその頂点。
死神殺しのチャイカであってもその猛攻を防ぐのは困難であった。
「でも、凄い、普通は大体これ一発で人の体なんて三つに分かれちゃうんですよ、でも貴方は避けてる、これ凄い事です」
重厚な両手の爪、本来振るえば大きく隙を見せる事になる。
しかし、扇は逆にその勢いを次の攻撃に繋げることによりノータイムで追撃。
さらにその慣性に身を預けることで極力スタミナの消費も抑えていた。
床、柱、天井に至るまでどんどん削られていく。
傷跡は周囲だけではない、チャイカの体にも着実に突き立てられていた。
少しずつ、だが確実にその体にダメージは蓄積されていった。
「いや、君まじで強いよ、単純な身体能力だけでいえばうちの元隊員より上かもしれない」
チャイカとしてそう言わしめる扇の実力は本物であった。
「こうなるとさすがに無理かぁ」
ここでチャイカが防御のさい、一際強い力で弾き距離をとった。
「おや、どうしました、今更逃げられませんよ、私は一度チャンスを与えたんですからね」
「うん、そうだね。だから私もお返し。もう止めにしよう。そこを黙って通してくれると嬉しいな」
「はぁ? 何を言ってますの、今劣勢なのはそちらの方でしょう」
「うん、今はね。できれば殺したくなかったんだけど、しょうがないね」
「さっきから何を、体も血だらけ、傷だらけなくせ・・・・・・」
言いかけて、ここで扇は気付いた。
確かにチャイカの体は自分の攻撃によって傷が無数につけられてはいたが。
ある部分だけは完全な無傷。
大事な仲間の名が刻まれたその両腕。
「私はね、人が人を殺すのは間違ってると思っているんだ。それは本来潜在的に植え付けられているものでその行為自体忌避するようにできてるんじゃないかって」
「いや貴方元軍人て言いましたよね、なら今まで何人か殺めてきているのではないのですか?」
「うん、それこそ数え切れないほどにね。でも私はそれに慣れちゃ駄目だって、でも直視し続けたらそれこそ精神の方が破壊されてしまう。だから・・・・・・」
チャイカの視界が変わる。
それは勿論本人だけのものだったが。
その世界が書き換わっていく。
「ボタンを押せば簡単に人を殺せる世界がある。最近はどんどんグラフィックが良くなってきてるけど、私は昔ながらのドット絵が好きなんだ」
チャイカ曰く、元々人は人を殺すようには出来ていない。
なので殺人行為には何かしらのストッパーが掛かっているはずだと。
それを突破するには完全に殺しに慣れるか、人間性を捨てるかのどちらか。
「どんな残虐で野蛮で最低最悪な人間でさえ、人間として生まれた時点でその壁の厚さに差こそあれ必ずそこで一瞬の躊躇いが生じている」
チャイカはその本能的な差を世界を作り替える事によって完全に排除する。
目の前の扇がゲームの敵キャラのように見え。
このレベルの戦いにおいてその差は。
「さっきから、何をブツブツとっ!」
扇の突進、それを。
「さっきまでの戦いで君の戦闘パターンはだいたい記憶した。それに対する私の反応速度は充分足りていて、リスク管理も導いた、後はもう倒すだけ」
ここは戦場じゃないから。
できれば殺したくなかった。
人間性の喪失は兵士として有利に働く部分もあるかもしれない。
しかし、それでは部隊を率いることはできない。
仲間を信じ、仲間に信頼されたからこそ。
参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチは。
誰も死なない世界最強の部隊になったのだ。
受け流すと同時に全く同じ力を裏から加え扇の攻撃を相殺。
先ほどまで矮小だった扇の隙が今は顕著に映る。
「人を捨てた者に私達は絶対負けない。人には心がある、それは例え世界一の殺人鬼でさえ多分持ってる・・・・・・」
チャイカがここまでの実戦経験などで組み上げた最高DPSを誇るコンビネーションを繰り出す。
入るたび骨が砕け、体が捻れ軋み壊れる。
「・・・・・・だったらいいなと、私はそう信じているんだ」
天井近くまで吹き飛んだ扇が地面に落ちる。
翼を失った鳥は。
皮肉にも最後はその名に因んだように体が折り畳まれた。
死神殺しのチャイカ 対 当主付き名有り啄み 扇。
相手死亡により チャイカの勝利。総合的な傷は多いもののどれも浅く、戦死した大事な仲間の名が刻まれた両腕に関しては掠り傷一つ付けられていない。
◇
激闘の僅か数分後。
追いかけるように同じ回廊から響く数人の足音。
「前方、人影確認、あれは・・・・・・」
「少なくとも鳥じゃないから敵じゃないんじゃ」
綺麗に着飾った美女、その後ろに付き従う黒服の男女。
歩く先には。
両腕になにやら文字のタトゥーがびっしり入った黒髪の女。
こちらに気付くと。
「うお、やば、あちらさん、敵意剥き出しじゃん、お嬢、あれ話通ってるんで?」
「えぇ、あれとやるんですか、私聞いてませんよ、勘弁してくださいよぉ」
長髪の白髪を後ろで束ねた老人、しかし長身で肉体は鍛えられており、その雰囲気はまさに古の侍の風貌。腰にはそれを物語るように刀を携えていた。
もう一人、実年齢を見事に隠し見た目は若く見える女性。黒いパンツスーツを着こなすもその顔はとても気怠そう。
「知らん、こっちからは手を出すな、だが攻撃してきたら全力で私を守れ」
先頭、赤いドレスの女性、その容姿はまさに絶世の美女をいっても差し支えない。
夜空のような艶やかな髪、どこか気品漂う佇まい。
双方やがて会話できるほどの距離まで近づき足を止めた。
「協力者とお見受けします。あちらの最高戦力の排除、この度の功績を称え深く感謝いたします」
赤いドレスの女性はチャイカにドレスを摘まみ頭を下げる。
「良かった敵じゃなくて、いよいよ死神が迎えに来たかと思ったよー」
「嬢ちゃん、それはこっちのセリフだわ、老体にはちと厳しい所だったね」
「本当ですよ、それこそ特別ボーナス頂かないといけない所でした」
「・・・・・・この先に私の仲間がいるはず、間違っても敵対しないでね」
「はい、気に留めておきますわ」
そういい、三人は先に進んでいったが。
「あぁ、そうですわ、丁度いいお土産が出来たじゃありませんか」
ドレスの女が急に踵を返した。
◇
広い室内で怒号が響く。
双頭討伐数十人の相手をするのはナスチャとヴィーカ。
多勢に無勢だったが、ナスチャ達の方が断然有利な状況だった。
「お前達、小娘二人相手に何をモタモタしてるのっ! あぁ、こんな時扇は何をしているのっ!」
劣勢とみるや当初の余裕がじょじょに薄れていった。
「あと、もう少しよ、ヴィーカっ!」
「隊長が来る前に終わらせましょう」
仕上げとばかりにギアを上げた二人。
しかし、その勢いも止めざるを得なかった。
二人は同時に後ろの扉に向かって振り向く。
今の今まで戦っていた目の前の敵を完全に無視し。
無意識にも、目を見開き、扉を注視したのだ。
「ご機嫌よう、お初にお目に掛かりますわ。九條家当主 九條 祖音様」
そこには赤いドレスを身に纏った女。
一瞬その場の誰もが目を奪われた。それほどの壮麗さ。
しかしナスチャとヴィーカが注目したのはその後ろ。
強者だけが感じとれる圧。
地面から天に向かって噴き出すマグマのようなそれを二人は感じとって目を向ける。
それはあちらも同じか、二組はしっかり瞳が合わさった。
「白い少女が二人、良かった、あれじゃなさそうですね」
「ふぅ、お嬢を守りながらあれと戦うなんて骨が何本折れるか分からねぇところだったわい」
赤いドレスの女が、ふと何かを奥へと投げつける。
「これお土産ですわ。お気に召してくれると嬉しいのですが」
転がるは、鳥のマスクが付けられた丸い何か。
「お、おおお、おおおう扇、まあ、まさああ、そんな、ありええない、え、嘘、そんなはず、そんなはずない、あの扇がっ」
「あぁ、申し遅れました。わたくし、当主トーラ様の名代で伺いました、序列四位 トリムと申します・・・・・・」
トリムは体を小さく震わせる。
そして両手で狂ったように頭を髪毟る。
綺麗な髪がグチャグチャに乱れ。
「すすすす・・・あぁあああああああああああああ、もう我慢できねぇえ、ぁあめんどくせええええええええええええええ、いいか、分かったか、今日、はババァの代わり、だ。私を当主だと思え、例外中の例外でババア専属の護衛部隊もこうして付いてきてる、お前はもうこっからただ頷くだけだっ」
◇
トーラ自室。
「しかし、本当によろしかったのですか。名代にトリム様を選ばれて・・・・・・」
魔鏡が不安そうにトーラに訪ねる。
「ふふ、大丈夫だ、もう小細工とかそういう段階は終わっている。ならあの子が適任なのさ」
「そうですかね、私にはカリバ様やマキナ様の方が・・・・・・」
「あの子達は私から完璧ではないとはいえはっきり受け継いだものが分かれた。カリバは冷酷さや残虐性、マキナは聡慧さ、そしてトリムは見れば見るほど若い頃の私に近い容姿をしている、つまり現時点で一族の中で一番美しいのさ、そうそれこそまだ未成熟のシストやタシイよりもだ」
今頃、どうせ自分で上辺を剥がしてる頃だとトーラも予想はしていたが。
それくらいで丁度良い、眩しすぎると直視できないから。
「全員魅了してこい、それがお前の一族たる唯一の役目で利点なのだから」
さっき見たら無印リョナ子のPVが大台突破していました。それにともない感謝を込めてリョナ子ベースの特別編を書く予定です。いつもありがとうございます。