うん、ここが正念場です。(殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の九)
こんにちは、シストです。
紆余曲折しながらも。
僕達殺人鬼連合と異端者連盟の争いは・・・・・・。
最終局面に差し掛かった所でしょうか。
大局からみて、ここさえ抜ければ・・・・・・。
◇
床も壁も柱も、高い天井さえも全て純白。
まるで宮殿のような開けた通路。
その中央を堂々と闊歩する一人の女。
前方から怒号と共に押し寄せる鳥の仮面をかぶった人の波。
しかし、女はただ歩く。
ゆっくりと前だけを向いて。
歩く以外の事はしない。
なぜなら、鉄砲水のようなそれらは何もせずとも倒れていくから。
現れては即座に床へと沈んでいく。
目を凝らせば微かに見える。
二つの光の軌道。
蜘蛛の巣を張るように縦横無尽に動く影。
女という星を中心に駆け巡る。
鳥たちには女が一人こちらに歩いてくるだけに見えていたが。
「う~ん、いいよ、流石自慢の元部下達」
実際は、三人。
残りの二人が目にも止まらぬ速さで敵を自動的に排除していた。
「隊長、楽しすぎ」
「もう上司じゃないってのに相変わらず人使いが荒いのよ」
姿は見えず、声だけが残る。
長い長い廊下をどれだけ歩いただろうか。
大理石の床には鳥の屍が積み上がっていく。
ようやく弾切れか、鳥たちの怒濤の押し寄せも疎らになり。
ついには残った影は一つだけ。
少し先、見た目からこれまでの鳥とは異なった。
中身も全く別物と確定したのはその数秒後。
反響する二つの衝突音。
今まで見えていなかったナスチャとヴィーカの姿が露わになる。
二人による見えざる双撃。
上から顔面を狙った攻撃、すくい上げるように斜め下から狙った攻撃。
いずれも色つきの鳥は両腕を翳し防いだ。
姿を見せたのはその一瞬。
すぐに元々真っ白な二人が景色に同化する。
追撃、また二人の身が浮き上がる。
再び防がれた二人の迫撃。
もう偶然ではない。
二人の影はまたしても消え。
「隊長、あれだね」
「うん、間違いないよ」
ゆっくりとこちらに歩んできていた女の左右に身を置いた。
「なるほど、私はあれを相手にすればいいわけだ」
三人の前に立ち塞がるは。
白い鳥マスクに黒い外套、見た目のフォルムから女性に見えた。
「この先は立ち入り禁止です、どうかお引き取り下さい」
そういい頭を下げる鳥女。
対して。
「悪いけどそうはいかない、大事な親友からの頼みだからね」
「・・・・・・そうですか、致し方ありません、なら原型が無くなるほどの虐殺を」
空気が一気に重くなる。
景色さえ歪んで見えて。
「ナスチャ、ヴィーカ、お前らは先にいって残りものを片付けとけ、私も後から行く」
「「了解」」
鳥女の左右を抜けるように走り出す二人。
それをただ見逃すわけもなく。
「なにを勝手に通ろうとしてるんです???」
鳥女の内包していた敵意が爆発する。
両手にはその体には見合わないほど大きな鉄製のかぎ爪。
いままさに通りすぎようとする二人の身を切り裂くように手を・・・・・・。
「おいおい、私から目を離していいのかぁああああああああああああああああ??」
鳥女の視線は強制的に中央に戻される。
一瞬たりとも他の事に気を取られている場合ではなかった。
鳥女は息を小さく吐くと改めて体を向けた。
「扇と申します。忠告ありがとうございました」
「元軍人、チャイカだ」
お互い名乗りを終えると。
二人はその場からいなくなった。
◇
素通りできたナスチャとヴィーカが先を走る。
「あれでしょ、事前に言われてたあっちの最高戦力」
「うん、隊長がいなかったら多分私達止められてた」
二人の聞いていた相手の情報。
名有り啄みはそれだけで特別な力を持ち、それぞれが常人を凌駕する手練れ。
その中にあってさらに上位三人が当主付きの名有り啄みに選ばれる。
蛇喰、速翼、そして扇。
皆、当主に仇なす者には容赦しない。
洗脳にも似た高い忠誠心、常識を排除した分、その凶悪、凶暴性は強い。
走り続けると目の先に重厚な扉が見えた。
二人はスピードを落とさず、そのまま蹴破る。
そして一気に飛び跳ねて後退した。
「特に罠はなさそうね」
ここからでも中が見える。
改めて近づいて。
なにかの会場のように広い室内。
一番奥、椅子に鎮座する老婆。
「・・・・・・扇はどうしたのかしら、よもややられるわけもないでしょう」
表情一つ変えずに。
まるで巨大な氷を見ているよう、何故か全身に寒気が走る。
「扇? ああ、あの鳥女の事かな、あれなら今頃うちの隊長とやり合ってる頃よ」
ナスチャがそう言うと、老婆の顔がわずかにほころんだ。
「あら、それはご愁傷様ね。扇と戦って今まで生きてた者を私は見たことがないわ。もういいって言うまで扇は攻撃を止めない、ただの赤の肉汁になるまで切り刻むの」
老婆はよほど信頼しているのだろう、その言葉には絶対的な自信に溢れていた。
「赤ちゃんを運ぶのがコウノトリなら、扇はまさに死を届ける鳥。貴方達のお友達は確実に死ぬわね」
老婆はついには声に出して笑う。
「ああ、可哀想、私に楯突いたばっかりに今日死ぬ、馬鹿な子、貴方達もよ、貴方達にも死が訪れる、ほら、そこまで来てるわ」
老婆の声に、左右から見慣れない軍服を着た連中が二人を囲むように現れる。
「嬲り殺して、最後に餌にするから、粉々にね、喉を詰まらせないように、細かく、細かく」
何かショーでも見るかのように老婆はゆっくり腰を据えた。
「あぁこいつらが双頭討伐か。確かに強い、一人一人、中々のもの」
「でも、私達に死を届けるには少し、いやかなり足りない」
「「だって私達は・・・・・・」」
◇
巨大な鍵爪が地面を抉る。
「おーおー、そんな重そうなのでこの速度、やばいね、君」
扇は体を反転、反動を利用しながら上から振り下ろす追撃。
またも地面に大きな傷跡を残す。
擦っただけで腕の一本簡単に吹っ飛ぶ。
それをチャイカは冷静に一つ一つ避けていく。
されど反撃までには至らない。
「おっと危ない」
加えて刃物のようなクチバシによる時間差攻撃。
「ん~、この子、小細工はない、ただ単純に強い」
攻撃力、体術、高い反応速度、全てのパラメーターが突き抜けている。
それでも針に糸を通すように、ほんの少しだけ現れる攻撃チャンス。
チャイカはそこに全力、巨大な鉄球を打ち付けるような強力無比な一撃を見舞う。
空気の振動が可視化したかのように衝撃という波紋が広がる。
「どうだっ」
扇の体は地面を引き摺りながら後ろへと吹っ飛んだ。
「これは凄まじい、元軍人といいましたが、何者です、こんなに強い人、私初めてでございます」
「無傷かい、そのかぎ爪、攻撃だけじゃなくて防御も完璧なのね」
チャイカの言葉通り、両手でしっかりガードした扇はダメージ所か息一つ切らせてなかった。
「貴方を敵と認め改めて名乗りましょう。私は当主付き名有り啄み、扇。同胞達には死を届ける鳥、死鳥と呼ばれております」
「ご丁寧にどうも、死を届ける鳥、死鳥ねぇ。それ私に届くかなぁ」
◇
暗雲、上がる黒い煙、硝煙と、血の臭い。
戦場を渡る度、昨日まで微笑んでいた仲間の死に顔と対面する。
また死んで、また生き残った。
また生き残った、でも仲間は死んだ。
繰り返し、繰り返し。
いつしか涙も流す事も無くなり。
代わりに腕に名を刻んだ。
また死んで、また生き残った。
生き残って、また刻んだ。
両腕が仲間の名で埋め尽くされそうになった。
そんなある日突然、ぴたりと止んだ。
部隊を渡り歩いて。
最後に行き着いた場所。
そこの仲間は誰も死ななかった。
幾度と共に戦場へ赴いても。
やはり誰も死ななかった。
皆同じだったのだ。
死に抗い、死を遠ざける。
いつしかその部隊は伝承のダンピール集団とされ。
その中でも隊長であるチャイカはこう呼称された。
参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチ。
グリムリーパースレイヤー。
死神殺しのチャイカ。
死が彼女を拒む。
死が彼女を避ける。
死が彼女を恐れる。
死神の鎌は彼女には決して届かない。
無印リョナ子のPVがもう少し? で大台行きそうなので、もし到達した場合は特別編でも書こうかと思います。少しずつなのでいつになるかわかりませんけど。