うん、僕も信じてみましょう(殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の八)
こんにちは、シストです。
立体的なマップが広がり。
配置された爆弾のような駒が次々と爆発していく。
それは単体だったり。
時に他と誘爆したり。
ほら、ここでも。
◇
シャレイのナイフ、ヒラヒラと。
リライの鉄糸、ユラユラと。
艶やかな二羽の鳥は華麗に避ける。
「なんネ、こいつら、動きが普通じゃないヨ」
「ボソボソ・・・・・・」
絶対避けられないような角度を選りすぐって攻撃してるというのに、この鳥たちに掠りもしない。
常人離れした九尾の二人にしてこう言わせるだけの動き。
「うふう、こちら、こちら」
「いえいえ、こっち、こっち」
駒のように小さく回転しながら地面を飛び回る。
その都度、身に纏う鮮やかな外套が透明な大気に色を与える。
加えて纏う甘美な香りが辺りに漂う。
「こいつら、いちいち、イライラするネ」
「ボソボソ・・・・・・」
「・・・・・・分かってるネ、別に油断してないヨ。こいつら馬鹿みたいに強いネ」
ピョンピョン跳び回って距離を取ったかと思うと。
「っ!」
一気に距離を詰めてからの蹴り。
「ち、ずっと回ってるから全く行動が読めないヨ」
そう、この美しい鳥たちは戦闘開始からずっと回転し続けていた。
遠心力をたっぷり含んだ強烈かつ不意に襲ってくる蹴り技。
百戦錬磨の九尾メンバーですら過去に戦ったことのないスタイル。
「うふう、うふぅ、こちら、こちら」
「どこを見ているの、こっち、こっち」
つねに動き飛び回ってるので、うまく標準が合わない。
二羽は交差しながら攻撃と回避を繰り返す。
ただでさえ目で追うのがやっとというのに二羽はふいに重なりその身をスイッチさせる。
攻撃パターンが全く読めない。
「やりづらいったらないネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、あれやるヨ」
シャレイとリライも飛び跳ねると少しだけ距離をとり。
そして重なる。
黒い影。
「なになに、私達の真似っこ?」
「うふぅ、見よう見まねじゃ同じ動きはできないわよ」
二つの影が一つになり、そして再び別つ。
シャレイの影が上空へと。
「狐に羽根はないネ、でも飛ぶのは得意ヨ」
同じ対角線上で戦っても翻弄されるだけ。
ならばとシャレイは視点を上に。
標的に空から照準を合わせる。
「はー、お馬鹿さんなの? 逆にいい的」
「翼のない貴方じゃ一度空に上がれば無防備よ」
鳥たちにすればこちらの機動力はそのままに相手がただ空から降ってくる状況。
落下時点を見極め、そのタイミングで挟撃を仕掛ける。
二羽の鳥は囀る。
まずは一人と。
しかし。
シャレイの落下するスピードが。
急加速。
角度さえ変えた。
「え?」
血飛沫が上がる。
シャレイのナイフが一羽の鳥を切り裂く。
「ななな、ど、どういう事??」
もう一羽はただただ驚く。
舞い上がった狐に翼が生えた。
「止まっていいのカ? 次はお前ネ」
また狐が獲物を仕留めるために飛び上がる。
「分からない、一先ず距離を・・・・・・」
シャレイから離れた雨覆の判断は正しい。
しかし、もうすでにロックされていた。
地面にいるリライが前に出る。
それは攻撃のためではない。
リライの手元の糸。
繋がる先はシャレイの足下。
「丸見えヨ、もう逃げられないネ」
シャレイがナイフを構え向ける。
リライがそれに合わせて。
振りかぶる。
それによりシャレイの体が一気に地面へと急接近。
落下中、シャレイはナイフを4回投げていた。
極差で四方、逃げ場を無くす。
もはや雨覆の選択肢は迎え撃つしかない。
ただもう身構えるには遅すぎた。
シャレイがジャンプで到達していた高点から得物まで到達する時間。
そのコンマ数秒で。
シャレイは、まず逃げ場を無くすための投擲、そして反撃されないための投擲、さらに攻撃のための投擲、それはつまり。
「ほら、喜ぶネ、プレゼントあげるヨ」
ナイフの雨。
降り注ぐ。
奇しくもそれは名前のように。
雨は覆えても、ナイフは不可能。
突き刺さる、最後にシャレイ自体が落ち。
手に持つナイフが外套ごと頭を吹き飛ばした。
◇
こんにちは、シストです。
今の所、予想通り。
でも、この場面。
正直、僕には少し確信が持てない。
僕は円さんにあちらの啄み名有り、それもトップの三羽に対抗できるだけの戦力を集めるように頼んだ。
だけどその全員の直接的な戦闘を見たわけではない。
正直勝てるのか。
「この三人なら間違いないの、だ」
円さんはちゃんと用意してくれた。
その中でも一番最初に。
彼女が自信たっぷりに名指しした人物。
僕にすれば一番不安ではあった。
◇
九尾 シャレイ&リライ 対 名有り啄み 雨覆&雪薔薇
現在九尾の方が一人仕留めて圧倒的に有利。
のように思えるが。
「そら、トドめネ」
最初に攻撃を仕掛けた雪薔薇には深い傷を負わせたものの仕留めきれてはなかった。
もう片方に気を配っていたのと、最初の攻撃で全てを見せるわけにはいかないと判断したゆえ。
結果、片割れの想定外の反撃もなく、こちらの種がバレる前にすぐに追撃に移れた。
雪薔薇は出血も激しく、当初見せていた機動力は失っている。
引導を渡すため三度飛び上がったシャレイ。
ここから急降下。
「うがああっ」
落下したのは落下した。
しかしそれはシャレイにとって完全に別に意味となった。
地面に激しく叩き付けられたシャレイ。
「・・・・・・っ!?」
離れた場所にいたリライが素早い判断でシャレイの身を自分に引き寄せる。
シャレイが落ちた場所。
そこには先ほどまで存在しなかった人物。
「いい反応だね、さすが、雨覆を倒しただけはあるね」
細長いシルエット。
「・・・・・・あねさま」
夥しい血を流す雪薔薇が小さく言葉にする。
「美しく可愛い我が妹たち、こんな無残な姿にされて、ゆるさない、ちゃんと仇はとってあげる、私が、あの醜い獣たちに、制裁を」
真っ白でしなやかな体。
そのマスクは目元がとても鮮やかな橙色。
その立ち振る舞いも、雰囲気も、その場にそぐわない美しさ。
「ち、あれ別格ネ、今の私達じゃちと厳しいヨ」
リライに抱きかかえられるシャレイ。
先ほどの不意打ちによるダメージも大きいが。
その実、一番の被害は鉄糸が巻かれていた左足。
急降下するために九尾メンバーのリライが全力でその腕を振り下ろしたのだ。
それが繋がっていた足への損害は想像する以上に大きい。
それも三回。
三回目は直前で止められたのではない。
相手の白い鳥は、絶妙のタイミングでシャレイを掴んで、同時に叩き落としたのだ。リライの力さえも利用して。
痙攣しながらも立ち上がるシャレイ。
「どうするネ? お前だけでも逃げるカ? 時間だけは稼いでやるネ」
「・・・・・・馬鹿いわないで」
はっきりと聞こえる怒りの籠もった声でリライはそう言った。
「悪かたヨ。そうネ、たとえ死ぬ時も私達は一緒ネ」
リライもリライとて万全ではない。
宙でシャレイの体に急角度をつけるたび、その両腕の負担が計りしれないものとなっていた。
肉の線維は裂かれ、骨が軋む。
手負いの獣、されど牙は収めない。
「さて、もう一暴れするネ」
「・・・・・・ぼそぼそ」
「そうネ、ババ様よりはだいぶ弱い相手ヨ」
対峙する二組。
その中央に線を引くように横からゆっくり歩いて間に入る人物。
「・・・・・・お前、見た事あるヨ、なんの用ネ」
「ん、あぁ、なんかこいつが出てきたら倒してくれって頼まれてるの」
「・・・・・・ボソボソ」
「・・・・・・そうネ、お前じゃあれには勝てないヨ」
シャレイは根拠がなくこう言ってるではない。
間接的とはいえこの人物とは一度だけ相手をしたことがあった。
あれはババ様の最終奥義が放たれた時。
対象は三人だったが、全員が見事にそれを凌いだ。
それを踏まえてもこの者が、目の前の美しい白い鳥には届かないと判断したのだ。
「悪い事は言わないネ、お前じゃ役不足ヨ」
「へぇ、ならいいじゃない」
役不足の本来の意味、力量に比べて役目が不相応に・・・・・・。
「おい、来てるヨっ!」
呑気に話している場合ではなかった。
美鳥の両足が乱入者の首に絡むと、逆立ちした両腕が地面を押し出す。
飛び立つ白い鳥。
獲物を抱えたまま先ほどのシャレイより高く。
「貴方が誰だか知らないけど、邪魔するなら無理矢理退かす、あくまで私の標的はあの獣たちだから」
太陽と重なり、そして落ちる。
がっちりロックした両足で獲物を下に地面を目指す。
落下のスピードも加えて叩き付ける。
先ほどシャレイが喰らった攻撃と全く同じ。
異なるといえば、シャレイはその人外な反射神経で無理矢理受け身をとってダメージを軽減した事。
対してこの人物は。
「・・・・・・信じられないネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、もしかしたら仮面の下は別人カ」
二人の目にははっきり見えていた。
地面に叩き付けられる瞬間。
あの兎の仮面をかぶった者は。
ロックを力ずくでこじ開けると。
受け身を取るどころか。
「・・・・・・え、なに、これ、え、もしかして口、血、え?」
白い鳥は予想外の反撃を受け、その者から飛び離れた。
「この私に傷、何者です?」
「名前を聞くならまず自分からってまぁ、いいか。私は蛇苺、今はしがない殺し屋さ」
「・・・・・・蛇苺。これは奇遇ね、私は啄み名有り、蛇喰よ」
「ありゃま、こりゃ私喰われちゃうかな?」
改めて二人は臨戦態勢。
そんな蛇苺の背中を不思議そうに眺めるシャレイ。
「・・・・・・お前、落とされる瞬間、カウンターであいつの顔面蹴りつけてたネ。あの時のお前じゃとてもできない芸当ヨ、この数ヶ月でなにがあったネ」
「はぁ? 普通に鍛えてただけだよ。あの時からどんだけ経ってると思ってるのよ」
「・・・・・・もはや別人ヨ。とんでもない成長率ネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「・・・・・・そうネ、こいついつか、届くかもしれないヨ、あの見えない頂きに」
◇
こんにちは、シストです。
円さんは言いました。
「蛇師匠だけは負けるイメージが一切湧かないの、だ。私にとってあの人は最初から最後まで最強、だ」
その目には一切の曇りがなく、純粋に信じているのだ。
だから僕も信じてみようと思います。
名有り啄みにはそれぞれモデルの鳥がいますが、今回の蛇喰のモデルとなったヘビクイワシは本当に美しい鳥なのでもし興味があったら調べてみてください。