うん、これならなんとか考えられそうです(殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の七)
こんにちは、シストです。
さて、どうする。
これが今はラストシミュレーション。
しかし不完全なまま見たところで未来は大きくずれるだけ。
より正確に知るには情報がいる。それも膨大な、それこそ知り得ないものでさえ。
アジトで一人、僕が頭を抱えていると。
「お困りのようですね」
声がかかる。
この場所でメンバー以外の人物。
振り向く前に見当はついた。
「・・・・・・蓮華さん」
深緑深層。普段決して自分の巣から出ないこの人が何故。
「なるほど、貴方はこうして未来を予測してたんですね。どう考えてもここまで貴方達に都合のいいように進んでいるのが不思議だったんですよ」
「・・・・・・そんな大層なものじゃありませんよ。現にこうして手詰まりです」
「そりゃそのかけたピースだらけで考えても見当違いな未来しか見えませんよ、裏の情報だけでは不完全でしょう」
「・・・・・・・・・・・・」
裏の情報、蓮華さんは僕がマキナおばさんから情報を得ていることを知っているのか?
「実際、第三国を経由してまた奇妙な輩がこの国へ入国してます。これは今回の件に無関係ではないでしょう」
「・・・・・・そんな」
これだ、この僕の知り得ない不確定要素に横槍を入れられるとどうしようもない。
「これは私が国家に属しているからです。マキナバイブル、裏世界はそちらの方が詳しいかもしれませんが、表の情報、おもに国家機密関連は私に分があります」
「・・・・・・それは、期待してよろしいという事でしょうか?」
「表と裏の情報を得ればシストくんの未来予測の精度も増すでしょう。ただ提供するには条件があります」
「それは、なんでし・・・・・・」
聞き返す途中。。
「っ!? ぐあはあぁあ」
僕のお腹に激痛が走り、その体は大きく後ろへと吹っ飛ぶことになる。
「貴方は白頭巾がやられるのを知っていた、むしろそうなるように誘導したんじゃないですか? これはいくら温厚な私でも怒っちゃいますよぉ」
「・・・・・・げほ、げふ、も、申し訳ない、それは、仰る通り、僕は白頭巾が襲われるのを予想しながらも助けるどころかそれを利用しました」
「そうでしょう、貴方はまんまと蚊帳の外だった私や円さんを舞台に引っ張り出したんです」
「・・・・・・それでもまさかあの最強のカードを出してくれるとは思ってもみませんでしたけどね」
蓮華さんは、以前九尾本体に貰った、一度だけ九尾メンバーをタダで行使できるというとんでもない切り札を惜しみなくここで使ったのだ。
「そりゃ使いますよ。白頭巾はね、もう私の大事な家族なんです。大事な家族がやられりゃ、身内としちゃ怒るでしょうよ」
「・・・・・・そうですね。本当に申し訳ありません」
「まぁ貴方も身内をやられたのですから、多少の理解は示しましょう。なので今回は腹パンだけで許してあげます。ですが、直接やった連中は許しませんよ、きっちり落とし前はつけさせていただきますので、ちゃんと協力してくださいねぇ」
「はい、それは勿論・・・・・・」
これで表と裏、ほぼ全ての情報が手に入る。
「しかし、しばらくは立てそうにないですね・・・・・・」
「ふふ、顔はやめてあげました、感謝してください」
「・・・・・・貴方は本当に、なんでもお見通しですか」
さぁ、ここからです。
◇
啄み部隊。
巣立つまでは基本薄暗い室内が世界の全て。
ひたすら過酷な訓練を受け、精神、人格はどんどん破壊されていく。
それでもただ一つ、現当主のお目通りの日、この日だけはこの人ならず鳥に愛が与えられる。
当主だけが啄みの者達に優しく接する。人として扱う。身嗜みを整えられ、食事も豪勢に、そして優しさという未知の扱いを受けるのだ。
最終的に選別され、巣立ちと呼ばれる頃を迎える時には何十もいた雛の数は激減する。
刷り込みを終えた鳥たちは、当主に忠誠と誓い、忠実に命令をこなす殺戮部隊と化す。
中でも特に優秀な鳥たちには、名前を与えられ、より当主の近くに配置される名誉を得る。
それは何もない鳥たちが喉から手が出るほど欲する親鳥の愛。
皆、口を開けて、我に我にと争い奪う。
ゆえに、名を持つということ、それは太陽を目指し誰よりも高く飛び立てた者の総称。
◇
某日、某所。
「どう、これ、美しいでしょう?」
青緑に輝く鳥マスク、それと同色の長いマフラー。
名有り 雨覆。
「いえいえ、私の方がより綺麗でしょう?」
鮮やかな薄紅の鳥マスク、外套。
名有り 雪薔薇。
二人が問いかける相手の姿は真っ黒。
「興味ないネ、やるならさっさとやるヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
一際目立つ様相の二人の質問に、黒い狐は歯牙にもかけない。
ただ油断だけは決して見せず、いつでも反応できるよう全身に力は籠もっていた。
「や~ね、お洒落できるのも名有りの特権なのよ。まぁ貴方達には関係なさそうだけど」
「そうそう、貴方達、なにその真っ黒な格好、そっちの女なんて髪もボサボサで醜いわ」
首を振りながら二人は肩をすくめた。
それに対し。
「お洒落? 美しさ? なんネ、それ強さになにか関係あるカ?」
二人は静かに笑い、構えた。
◇
数十年前、本家、本宅。
「カリバ、こっちに来なさい」
「はい、お母様」
トーラに呼ばれ、幼きカリバが応接間へと入る。
「おう、これがお前の娘か」
本来本家の者しか入れない本邸への来客。普段極端に他人との接触が少なかったカリバにはとても新鮮だった。
「長女のカリバだ。ほら、こいつは私の古くからの友人、リョウイ。挨拶しな」
「は、始めまして、カリバと申します。よろしくお願いします」
「ほう、お前の娘にしちゃ随分礼儀正しいじゃないか」
カリバはリョウイに深く頭を下げたが、興味はもっと別の所にあった。
リョウイの隣に座る、歳も同じくらいの少女。
「歳はうちの娘と同じくらいか? こいつはシンイー。カリバちゃんや、私らはしばらくここに滞在する予定だ。その間仲良くしてやってくれ」
「シンイーです、よろしくお願いしますぅ」
ほんわかとした雰囲気、だが後に知るそれはただ鋭い刀剣を鞘に収めていただけだったと。
◇
某日、某所。
ババ様が孫、現九尾筆頭ロウトウの強烈な蹴りが振り下ろされる。
アンカーでも撃たれたかのような衝撃に、啄み名有り、森忍もたまらず蹌踉けた。
が。
「ちっ」
なぜか攻撃したロウトウが追撃を諦め大きく距離を取る。
地面に付くほど体をすっぽり覆う茶色の外套、それは顔のマスクと一体化していた。
「こいつ・・・・・・」
攻めあぐねていた。
それもそのはず、この名有り、森忍は攻撃のモーションがまったく見えず、いつどんな攻撃が来るか全く分かない。
さらに。
「キューイーーーーーーーーーー」
鳥はもう一羽。
針のような鋭い爪型武器で素早く突いてくる。
こっちは逆に分かりやすい、全部大出血するような部位を狙って攻撃してくる、そうはいっても直撃すればそれは致命傷に繋がるためこちらもつねに注視しなければならない。
その鳥マスクのクチバシは真っ赤で。
名有り、血吸の攻撃はつねに続く。
連打、連打、連打。
それをロウトウは素手で受け流しつつ、そのままカウンターへと繋げ反撃。
しかしそれも届く前に、気配なく死角から仕掛けてくる森忍に対処すべく中断を余儀なくされた。
「くそがっ」
相手がどちらか一方なら的確に対処できる自信はあった。だが、この二羽のコンビネーションは思った以上に噛み合っておりジリジリと押され始める。
当初、二人組で行動していたのだが、少し前に単独行動を余儀なくされた。
その直後にこの啄み部隊の襲撃を受ける事となる。
代わる代わる、時に同時。
目に突きやすい派手な大技、逆にいつ来るか予想できない静かなる一撃。
片方だけに注意を向ければ即座にもう片方が牙を向く。
マシンガンのような連撃、の途中でくるサイレンサーによる銃撃。
それでも最初こそ苦戦していたロウトウだったがその天賦ともいえる才によりじょじょに対応していく。
相手の癖、コンビネーションの穴、戦闘中にそれらを見抜いていく。
「はぁあっ!」
見切りは完璧、同時攻撃に遭わせロウトウは両腕を広げ掌底打ちを二人に繰り出す。
空気の壁が割れて大穴が開いたかのような破裂音。
後ろへ吹っ飛ばされる名有り啄み達。
ロウトウもまた高レベル高難度の戦闘でまた一段階成長しようとしていた。
しかし、その殻に罅が入ったタイミングで新たなる試練が襲いかかる。
それは現時点のロウトウでは乗り越えられないほど高いものだった。
風が吹いた。
そして気付いた時には。
「な、に」
自分が先ほどいた場所よりかなり後方へと移動していることに気付く。
遅れて胸に灼けるような痛み。
前方には新たな人影。
攻撃されたと認識するまで随分遅れた。
あまりのスピード。
先ほどまで交戦していた二人のレベルも相当高かったが。
こいつはさらに頭一つ抜けていると、ロウトウは即座に理解した。
黒褐色の外套、マスクのクチバシは黄色。
名有り、速翼。
啄み部隊のトップスリーに入る猛者。
「いいね、いいね、お前、超レアだ、滅多にお目にかかれないレベルだぞ」
ロウトウにとって、もう勝ち負けは二の次。
今は、この強者と戦える事が純粋に嬉しかった。
「よし、来い、殺し合おうぜ」
不意打ちによるダメージは軽視できるものではなかったが、興奮状態がそれらをどこかに追いやった。
「・・・・・・お前ら、そいつが黒獣達のリーダーだ、できれば生け捕りにする」
深く重みのある声、森忍を血吸はそれに頷く。
当初からまともな戦闘など行うつもりはない。
鳥たちは、三人がかりで一気にロウトウを仕留める気だった。
「は、なんだよ、乗り悪いな。もう終わりじゃねーか」
後一年先でこの状況だったなら一人でも対処できたかもしれない。
それだけが心残り。
後、しいていうなれば。
最後に一目だけでも・・・・・・。
黒紫の霧が辺りを覆う。
月が太陽を喰らうような。
周囲が闇に包まれる。
「輪廻転、死」
ロウトウの体が膠着する。
振り向けない、だが何かが近づいて。
そして通り過ぎていく。
漆黒の長い髪、同色の服の切り込み色は紫。
背中だけでも分かる、見間違うわけがなかった。
辛うじて動いた口元で呟く。
「・・・・・・母上」
狂気と、殺気と闘気がぐちゃぐちゃに混じり合った禍々しいそのオーラ。
「今ので動ける人だけかかってきてください~」
現ラストミールこと、元九尾筆頭。
ババ様の娘、シンイー。
間違いなくババ様を除けば歴代最強。