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わわ、見えない私の代わりにだよ(殺人鬼連合 対 異端者連盟編 其の伍)

ども、紅子っす。


 突然私達の前に現れた色つきの鳥仮面。


 一時的に護衛についてもらっている一人にそいつの足止めをしてもらい、私は絶賛逃走中っす。


 私の護衛してくれているのはもう一人。


 同世代より平均的に小柄な私と同じくらい、いやさらに小さいかも。


 つねに微笑みを崩さず、とても可愛らしい。


 この細い腕のどこからそんな力が出ていくのかと、私はその子に手を引かれ高速で移動させられていて。


「いだああああ、ぬけるううううう、腕がああああ、肩からぁああ、無くなるうううう」


「我慢☆ 我慢☆」


 叫び痛がる私を一切無視してその子は走るのを止めてくれません。 


このまま本当に腕が抜けるのか本気で思い始めていた時でした。


「あらぁ☆ さすがにもう一人いたかぁ★」


 急停止。


 それにより私の体が後方から前方へ、瞬間転移ブランコっす。


「あぁ、まぢで抜けた、私の腕、どっかに、いや、あった、まだ抜けてなかった、私の腕は健在だったっす、ぁああ、よかっだああああああああああああ」


 手は繋がれたまま、私はその場でへたり込んだっす。


 掴まれていた彼女の手、その力がすっと抜けて。


「逃げられないね★ やるしかないかなぁ☆」


 一歩前に出る彼女、それに対峙するは。


 黒い鳥の仮面、纏う外套は鮮やかなオレンジ。


「君はこのまま後ろから逃げて☆ じゃなきゃ死んじゃうよ★」


「え、でも、後ろには・・・・・・」


 そうっす、そもそも私達は数人の鴉マスクから逃げていたんす。今、戻ったら鉢合わせになっちゃいますよ。


「ん?☆ あぁ、追っ手はもうとっくに始末したよ☆ そもそもあそこから離れたのはあいつらから逃げるためじゃなくて、リンシャンの戦闘に巻き込まれないためだもん☆」


 え、もう始末したって、いつっすか。逃げている、もとい場所を移動してる最中にいつの間に攻撃してたって事っすか。


「でもあれはそう簡単じゃないね★ くまった、くまった★」


 黒とオレンジの鳥、見た目の体型は至って普通、さきほどのいかにもな巨体鳥マスクと違ってそんなに強くなさそうっす。


「で、でも貴方ならあんなの余裕っすよね、あのとんでなく強い集団のメンバーなんすから・・・・・・」 


 そういうと彼女は微笑みはそのままに眉を垂らし首を傾げた。


「う~ん、確かに他のみんなは最高に強いんだけどねぇ、私はその中でも最弱なの★」


「え?」


「まぁ一応やってみるよ☆ 勝てるか分からないけど★」


 そう口にし彼女はさらに一歩踏み出したっす。



          ◇


 こんにちは、リョナ子です。


 家でテレビを見ていると、ふとグルメ番組が流れ。


 その中でフグ料理が特集されていた。


「フグねぇ、何だかんだ食べた事ないんだよね、美味しいのだろうか」


 なんか歯ごたえがどうのこうので、味に関しては全く想像できない。


 こういう時はどうしても職業病が顔を見せてしまう。


 フグといえばテトロドトキシン、前にドク枝さん使ってったっけ。


 あの人は中身はあれだけど間違いなく毒のスペシャリストだからね。


 最近だと・・・・・・。



 あれはいつだったか。


 一仕事を終え、部屋から出ると、丁度ドク枝さんの姿が見えた。


「げ、ドク枝さん、お疲れ様です」


「あっ! またっ! リョナ子、いま、げって言ったでしょっ! この大先輩の私に向かって、いつも、いつ・・・・・・」


 あ、やばい、こうなるとこの人はとても面倒くさい。条件反射とはいえ大失敗。


「まぁまぁ、それはともかく尊敬する大先輩ドク枝さんも今執行終了ですか?」


「なにがそれはともかくよっ! まぁ尊敬するってのはまぁね、そうね、うんうん、で、そうなの、今華麗に執行を終えたところ」

  

 よし。


「今回はどんな執行をしたんですか。毒を使ったのでしょうが勉強のためにも是非教えていただきたい」

   

 これはちょっと本当。


 一応、この人も特級拷問士でそれだけは尊敬する先輩で間違いない。 


「う~ん、忙しいのよ、でもそうね、そこまでいうなら教えてあげてもいいわ、しょうがない、忙しいけど、特別にね、忙しいけど」


 うざ。


「今回はホモバトラコトキシンよ」


 出た、キシン。


「これは神経系と運動能力に作用する猛毒。その毒性は非常に強くてテトロドトキシンの四倍とも言われているわ」

 

「ほう」


「これはある生物が持っている毒なんだけど、それが判明したのは結構最近の事で・・・・・・」


 あ、スイッチ入って長くなりそう。ここは要点だけ聞くとしよう。


「えっと、その生物ってなんですか、蛇? 虫? 蛙ですか?」


「普通毒ってのは弱い生物が持つもので、ようは捕食されないための自衛手段だったりするのよ。でもこの生物は極めて珍しく、捕食する側なの」


「へぇ、で、その生物とは?」


「それはね・・・・・・鳥よ」



          ◇


 九尾、スーアン。


 九尾一、小柄で九尾一非力、その他パラメーターも軒並み最弱。


 そんな彼女の武器は毒。


 対する啄み精鋭、名有り 頭黒。


 こちらも偶然にも別の場所で戦っている一組と全く同じ。


 同スタイル。頭黒の武器もまた毒であった。


 オレンジの外套がヒラリと動くたびに光る切っ先。


 そこに塗られるは猛毒。


 同じ毒使いだからなのか、立ち振る舞いからスーアンも気づく。


 相手も自分と同じだと。


 毒は弱さを補うもの。


 明らかに先ほどの大柄鳥マスクとは威圧感が段違い。


 頭黒もまた強者だけが集う箱の中では末席に近い。


 しかし、それでも決して捕食される側ではなく、この毒鳥は補食側。


 その剣捌きは、逃げ遅れ今だに座り込んでいる紅子の目には映らない。


「なんすか、一体なにが起こってるんすか・・・・・・」


 目の前には確かに存在しているはずなのに、体の一部が無いように見える。


「あの人がもし負けたら・・・・・・次は確実に私っす」


 さっきまでとても心強く見えていた彼女が、急に年相応の少女に見えてきて。


 紅子の心は不安に塗りつぶされていく。



       ◇


 リョナ子です。


 ドク枝さんの話はまだ終わらない。


「で、この鳥は伝説のちんていう毒鳥がいてー」


 毒の話になるとこの人は止まらない。


「そもそも毒を持つ生物には元々自前で生成する器官はなくて、捕食する餌なんかから毒素を摂取する、そうね、例えば、ヤドクガエルとかそもそもフグとかもー」


 立ち去りたいけど、たまに興味深い話も出てくるから結局聞き入っちゃうんだよなぁ。


「まぁ要するに食べられないように毒を体内に取り込んでるんですね」


「そうね、だからカモノハシとかの哺乳類とか、今回の鳥とかに毒があるのはとても珍しいのよ」


「へぇ、じゃああれですね、それらより大きくて俊敏な生物がもし毒を持ったら・・・・・・」


「そんなのあれよ、最強じゃない」


 

  


 九尾、スーアン。


 九尾一小柄で非力、その他パラメーターも軒並み最弱。


 だが。


 それはあくまで九尾の中での話。


 目にも見えない毒鳥マスクの剣技、両手から交互に繰り出される毒撃。


 それを完全に見切り避けるスーアン。


 表情は崩さず、擦っただけで致命傷となりえる攻撃の中でもとても落ち着いている。


 スーアンの強みはその強靱な精神力。


 何事にも動じることはなく、以前邂逅した魔神のような者にも、他のメンバーは軒並み畏れを抱き無意識に体が膠着したがスーアンだけは僅かに身構えただけであった。

 

暗殺者してそのアドバンテージは計り知れない。


 他の者が止まっている中、一番最初に動け、その攻撃は九尾の中で最強格。

 


 メンバーの中で一番戦いたくないのは?


 

 仮にこの問いを九尾のメンバーに投げかけたとしたら。


 全員がこう答える。


「スーアン」


 と。


 メンバーは皆自分が最強だと思っている。本気でやれば自分が負けるはずがないと。


 それでも万が一があるとすれば、それは一撃必殺の技を持つスーアンが相手の時だけ。


 高レベル帯の戦闘は一発が致命傷に繋がる、ゆえに戦闘中の重圧がつねに身に纏う。


 なので戦闘中でさえ安定した精神を保っているスーアン、そしてその攻撃は致命傷どことではない死に直結する一撃。


 非力なのはあくまで九尾の中では。


 遅い身のこなしも。


 薄い耐久力も。


 すぐに切れるスタミナも。


 それら全て


 九尾の中での話。


 比べる対象が異なれば。


 持ち合わせているスペックはその全てを凌駕する。


 


 べ、紅子っす。


 目の前の二人が今何をしているか全く把握できずにただ見てるっす。


 動画を早回しした時のように、時折飛ぶんすよ、時間が。


 本来、その場にあるはずの、腕だったり、足だったり、頭だったり、それが気付くと別の場所にあるんすよ、何を言ってるか分からないかと思うっすけど、早すぎて認識が追いついていないというか、もう無茶苦茶なんす。


 でもあれっす。


 何分間すかね、よく分からないっすけど、ずっと見ていたらっすよ。


 その内二人の動きが見えるようになってきたんす。


「み、見える」


 目が慣れてきたからか、それとも私が奇跡的になんか知らないうちに覚醒してしまったのかか。


 なんにせよ、さっきまで何をしてるか分からなかった二人の戦闘が今ははっきり見えてるっす。どんどん動きが遅くなって。


 ん、遅くなって?


「あ」


 黒とオレンジの鳥仮面の動きがついに停止し。


 膝をついて倒れていったっす。


「え、どいうこと?」


「ふう、やっと倒れた☆」


 彼女が息を吐き。


「一段階、各所の痺れ。二段階、運動麻痺、知覚麻痺、言語障害、血圧低下。三段階、全身の完全麻痺、血圧はさらに著しく低下、呼吸困難。そして四段階・・・・・・」


 彼女は相手を観察しながらしゃがむと手を翳します。


「意識消失、呼吸停止、そして・・・・・・死に至る☆」


 かくして少女は立ち上がり。


 私の元へとゆっくり近寄ってきたのでした。


 その姿はやっぱりとても心強く見えたっす。



 九尾 スーアン 対 名有り啄み 頭黒。


 相手死亡により。


 九尾スーアンの勝利。


        ◇


 どうも、リョナ子です。


 ドク枝さんの話は終わりません。


「でね、私のこれからのアジェンダは、とりあえず一に勉強、二に勉強で、最近はよく人気のカフェで長時間ノーパソでー」


 やっば。


「そしてなにより健康よ、私達こんな生活してるでしょ、だから人一倍健康には気をつけなきゃ駄目で、基本オーガニック、あとは足りない栄養素はサプリ、デトックスはやっぱ大事で」


 うげぇ。


「自分磨きってのは大切なのよ、リョナ子もいい加減もっと化粧品とか服装に気を遣って、あ、なんなら今度私が見繕ってあげてもいいわよ、あ、でも私の買う所って結構高級で、ブランド品も多いから、お値段も・・・・・・」


 僕は思った。


 あの口にホモバトラコトキシンを突っこめば静かになるだろうか、と。

全く話進まない回。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒使い同士の戦い、しかし戦力差は歴然でしたか。 前回リンシャンは攻撃を受けたのに対してスーアンはノーダメージで勝つとは。 まあ、敵の強さとか一撃必殺とか色々違いはありましたが。それでもすごい…
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