ういうい、落とし前はつけるのだ(対ゾディアックファミリー編、其の九)
ういうい、円なのだ。
少々、冷静さを欠いていたのだ。
蛇師匠の声で漸く我に返った。
うくく、だから私は駄目なのだ。
こんなのじゃ、まだまだ姉御には会いに行けそうにない。
銃声と粉塵の舞うここはもはや戦場。
キラキラ達、殺人鬼連合は撤退しようとしている。
私達も同行したい所だが。
「蛇師匠、忘れ物があるのだ、だから白頭巾を頼む、のだっ!」
まずは、あの子を回収しなければ、処遇は後で考える。
比較的安全な場所に隠してきたとはいえ、今は無意味。
退路とは逆に、より危険地帯に単独で向かおうとしたのだが。
「私もいくっ!」
白頭巾が私の傍に駆け寄る。
「!? 駄目なのだっ! お前は、蛇師匠と一緒に逃げる、のだ!」
「いやっ!」
「駄目なのだっ!」
今、キラキラの部隊も、謎の戦闘中隊も無差別に攻撃してくる。
正直、白頭巾まで守って行動する余裕はない。
しかし、言う事を聞かない。
「お姉ちゃんと行くっ!」
頑なに私から離れようとしない。
これは困った、のだ。
「しゃーない、なら私も行くしかないねー」
蛇師匠も私の元へ。
むぅ、それは確かに心強いが。
「そっちは逆方向ですよ。このまま僕達と一緒に来ませんか」
私達を待っていてくれたキラキラが声をかける。
有り難い申し出だが、やらなきゃならない事がある。
私は、軽く首を振った。
「・・・・・・そうですか。なら、瑞雀さんを連れて行ってください。それによりこちら側の攻撃を受けることはないでしょう」
「いいのか。そっちの生存率がかなり、下がるの、だ」
「大丈夫ですよ、少なくとも僕だけは絶対死にませんし」
思いがけず戦力が増えたのだ。私が知ってるだけでこの二人は最強コンビなのだ。
まさか、白頭巾はこれを見越して・・・・・・。
いや、それはない、か。
「なら、行くの、だ!」
私達は、最前線のような中央付近に走り出した。
「切り裂きぃぃぃぃ、帰ったら肉ご馳走してやるよっ、だから、分かってんなぁあ?」
「タシイは気前がいい、期待していいと思うよ」
背中からそんな声が聞こえた。
私は振り向かず、腕を上げて答えた、のだ。
前方、軍服、3。
「円、飛べっ!」
相手の銃がこちらに向けられる前に。
蛇師匠のレシーブの構え、そこを踏み台。
高い跳躍、相手の肩に両足で着地。
首にナイフを突き刺すと、そこを起点にまたジャンプ、隣に移り、またナイフ。
相手が、頭上の私に気を取られてると、低い体勢で二つの影が高速で動く。
瑞雀がスライディング、軍服の一人の体勢が大きく崩れる、そこに待っていたのは蛇師匠のシャイニングウィザード。相手の顔が潰れた。
走る速度は緩めず、8つの目で周囲をカバーしながら進んでいく。
「ねぇねぇ、私、丸腰なんだ、あのレベル相手だと火力が足りない、なんかあったら貸して」
「・・・・・・サブでいいなら」
瑞雀が蛇師匠に、腰から抜いた銃を手渡す。
「お、グロック19。上等っ!」
蛇師匠が銃を装備した。これで攻撃力が跳ね上がる、まさに虎に翼。
敵に出会っても足を止めることはない。
走り抜ける時には相手は倒れている。
この二人、まぢでやばいのだ。
数年前の時点で化け物だったのに、日々怠らない鍛錬が現在を最高潮に引き上げている。
私、一人ならここまで来られただろうか、もはや怪しい。
そんな中、激しいブレードスラップと共にヘリが頭上に見えた。
これは、どっち側のだ。
瑞雀を見ると、すぐに否定、ならあれは敵の方。
これは参ったのだ。あそこから撃たれたら手も足も出ない。
低空飛行、蛇師匠ならもしかして、銃で撃ち落とす事も・・・・・・。
「いやいや、無理だから」
ですよね、なのだ。さすがの蛇師匠でも映画のようにはいかないか。
「散開っ!」
蛇師匠の一声で、私達は瞬時に4方向へ散り、近くの建物の中へ。
このまま、ここで足止めされるのか。
そう思ったら、すぐに轟音が鳴り響く。
「よし、進むよっ!」
なんかと思ったら、先ほどのヘリが煙りをあげて高度を下げている。
「仲間、バレットM82で狙い撃った」
てことは、瑞雀は元々チームで行動していて、サポート何人かが、後方から付いてきていたのか。
これは頼もしい反面、いつでも私達もやれるって事なのだ。完全には信用してない奴らと行動するのは、やはり気が気ではない。
今は、もう信じるしかないのだ。
目標地点はもうすぐ。
「あそこなのだっ!」
建物が見えた。あの中に地下室があった。そこに少女はいる。
「よし、外は私達が警戒してる、円は早く忘れものをとってきなっ!」
「よろしくなのだっ!」
私と白頭巾が中へと。
地下室への扉は目隠しとして周囲の物で覆っていた。それを二人で退かす。
「・・・・・・そういえば、お姉ちゃん、助けにいったあの子の姉は?」
ここで白頭巾からの当然の疑問。
唇を噛む。私は、あの館で知った事を静かに語った。
白頭巾は話終えた後もなにも言わず、ただ黙っていた。
瓦礫を退け、扉を開けると、すぐに声をかける。
「私なのだっ! 早く出てくるのだっ!」
私の声に安心したのか、少女はすぐに姿を見せた。
「あ、ぶ、無事だったんですねっ!」
階段を上り、私の元へ駆け寄る少女。
抱きつくように、私へ飛び込・・・・・・。
「・・・・・・ぎゃうあ」
少女の動きが止まる。
背後には白頭巾。
その手にはナイフ。
それは深々と背中から胸へと。
一瞬だった、白頭巾は続けざまに少女の髪を掴むと、顎を引き上げ、引き抜いたナイフで喉を切り裂く。
絶命した少女の身体が崩れていく。
「な、なにしてるのだっ!?」
唐突な行動に、私はとっさに声を上げた。
だが、白頭巾の顔に変化はない。ただいつもの影を落とすような表情。
「・・・・・・お姉ちゃん、この子はこれで救われた」
「なにを言ってるのだっ!」
白頭巾は俯き、血を流し倒れる少女を見下ろす。
「このまま連れて行ってどうなるの? 私達とはいられないよ」
言葉に詰まる。
私の脳裏にある人物が浮かんだ。
以前、ほんの少し、そう瞬きのような時の中で、一緒にいたあの子を。
姉御は言っていた。
狂った人間と一緒にいられるのは、同じく、狂った人間だけ。
「それにね、真実を教える、教えない、どちらにしろ、この子は辛いだけ。待ってる辛さも、失う辛さも、私達はよく知ってるでしょ・・・・・・」
それは呪い。生きてる限り片時も離れない呪縛。
私にはこの子の人生を保証できない。
居場所がない人間の行く末。
「お姉ちゃんや他の人ならどうするかなんて知らない。私はこれが最良と判断した、だから殺した。気まぐれとはいえ助けたなら最後まで責任持たないと、でも、私が助けたわけじゃないから、お姉ちゃんの重荷は私が取り払うよ」
妹分といって、私は白頭巾をただの守るべき存在、そう思っていたが。
こいつは、紛れもなく、最年少レベルブレイカーで。
歴とした殺人鬼なのだ。
だからこそ、一緒にいられる、か。
その後、手ぶらの私達を、蛇師匠は何も言わずに迎えて。
また来た道を引き返す。
少女の願いは果たせなかったが。
落とし前はちゃんとつけるの、だ。
それからほぼなく・・・・・・。
私は、今回ゲームを主導していた国の隣国へ。
この国は、あそこより随分豊かで。
密入する人が後を絶たない。
でも、それをするには地元のマフィアの協力が不可欠。
そこで必要になってくるのは金。
時は夜も更け、場所は繁華街。
ある一軒のバーに入る。
店内は薄暗く、ネオンの光が目立っていた。
テーブルに腰を下ろすと、すぐに店員が来た。
飲み物を注文、チップを渡すように金を置いた。
「え?」
店員が驚くのは無理もない。
置いたのは小銭ではない。
帯のついた札束。
「・・・・・・これは?」
「やるの、だ」
「え、え、本当に、え、もらって、も?」
札束を手にし、店員の目が輝く。
「ああ・・・・・・」
店員は周りを気にしながら札束をポケットに押し込む。
「葬式代にでもするの、だ」
「え?」
ナイフが店内の明かりで反射する。
鮮血が飛ぶ。
その金は、お前が妹を売って手に入れた金と同額。
手にした瞬間、お前は私のもの。
倒れる女を抱きかかえ、そっとソファに寝かせた。
私はその場を後にする。
お前は妹と同じ場所にはいけないから。
もう、二度とあの姉妹が出会う事はない。
今回は、本当にキラキラ達に体よく使われただけだった。
帰ったら、バールの顔が青ざめるくらい奢ってもらおうとするの、だ。
某国、某場所。
部屋は一面の花。
ダファディル、ブルーベル。
青と黄色。
囲まれるように、手足を縛られた数人の男女。
「あぁ、胸が張り裂けそう。寝ても覚めても、あの顔が浮かんでくる」
ニルヴァーナは今、恋をしていた。
心臓が高鳴り、頭がクラクラするのだ。
今はマスクも取り払い生まれたままの姿、青と黄色の外套だけを羽織る。
「早く、あの顔、あの肌、あの手、あの足、切り刻んで、深く、浅く、幾つも、埋め尽くすように、それが僕の想い、あの身体に・・・・・・」
ニルヴァーナは両手にナイフを握って、中央の男女に近づく。
怯える目から涙が零れる。
口も塞がれているから声も出せない。
「そう、こんな、風にっ!」
突き立てる、切り抜く。
「こんな、風にっ! こんな風に、僕の愛をっ!」
血が宙と、床を、相手の肌を、自分の身体を。
一人、死んだ、でも終わらない。
二人、死んだ、まだ刻む。
三人、死んだ、だが手は止まらない。
四人、五人、ただ流れる血だけが増えていく。
「今回、参加した幹部はオーガスタだけだったけど、すぐに全員、呼び集めなきゃ」
ニルヴァーナは手を止めずに一言呟いた。
漸く、立ち上げるとカーテンの隙間から僅かに覗く空を見た。
「この空の続く先に君がいる。待ってて、すぐに迎えにいくよ」
ニルヴァーナは今、恋をしていた。
お遊び回も一緒に投稿するつもりでしたが時間なくなりました。