ういうい、お前らは私を怒らせたの、だ(殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の四)
ういうい、円、だ。
今、私は。
「円ちゃん、やっと吐いたよぉ」
ボロい建物から種が外へと出てくる。
その手には血まみれのハサミ。
外には私の他に、螺苛、刺苛などの葵シスターズの中でも比較的戦闘向きの者達数人。
「そうか・・・・・・ペっ」
血の混じる唾を吐き出す。
「円ちゃんがいても結構手こずったね。こいつらかなり強かった。こんな事ならラストミールさん連れてくれば良かったかな」
「・・・・・・いや、あの人ではこの程度、手加減しても瞬殺してしまうの、だ。それでは困る」
こいつらは私の見立てではよく分からない強さまではギリギリ達していない。
「そっか。まぁ知りたい事は分かったし結果オーライだね」
「で、どこのどいつなの、だ」
「こいつらは啄み部隊という九條家およびその血族達の暗部組織だね。で、それらはいくつかの分隊に分かれていて、円ちゃんのお目当ては第12部隊」
「・・・・・・居場所は?」
「勿論把握済み、12分隊は一条家に属してる分隊。ちなみに他にも有力な情報が手に入ったよ。これは取引に使えそう」
「まずはその12分隊だ、な。種、あの人に連絡を」
「はいは~い」
「次は手加減一切不要なの、だ」
◇
ども、紅子っす。
空音さんと古論さんは病院へ。
あの後も色々あったんすけど、さすがにあれ以上騒ぎになるのは避けたっす。
鴉の仮面をつけた女子生徒がさらに数名現れたんすけど。
「私達はただの回収部隊。こちらにもうそちらとの戦闘の意思はない」
そういい異端者連盟の二人と倒れている仲間を連れて去っていきました。
「おう、こっちも弱い者虐めをする趣味はねぇ、さっさと逃げ帰れ、クソ雑魚共」
「ふふふ、お大事に~☆」
この場、ラヴ女でのいざこざは一応私達殺人鬼連合の勝利という形で一応の決着は付いたっす。
だけど、これで終わるはずもなく、炎はさらに熱く、激しく、なっていきました。
◆
隣り合う時間軸は縦横無尽に動いていく。
何十畳もある大広間。
九尾の本体が、三つの影と相まみえる。
また別の場所では血まみれになった者達の躯。
また別の場所、炎に中で激突する両者。
駄目だ、足りない。
これでは足りない。
足りない、足りない。
考えろ、足りないなら足すまで。
動かないなら動かすまで。
◇
覇聖堂。
ラヴ女の一連の出来事はすでに九條 色の耳に届いていた。
「聞く話では、うちの啄み部隊ではまるで歯が立たなかったと」
「そうはいってもあそこにいたのは啄みの中でも末端の小間使いに過ぎない」
「その通りだが、そもそも上位部隊である名有りは各当主付きの精鋭。私達が動かせるのはそもそもその小間使いくらいなもの」
九條家、それに連なる血族、協力一族などの当主クラスにはそれぞれ啄み部隊、その上位部達が護衛に付いていた。
特に最上位である九條家当主には啄み部隊名有りのトップ三人がつねに目を光らせている。
「そう、次期当主候補とはいえ私達では名有りは使役できない。だが、メンバーである傲はすでにほぼ当主といっていい立場にいる。彼ならば当家の名有りをひっぱってこれるかもしれぬ」
「そうね、他にも今回やられた嫉と憤の一条、近衛家も動くかも」
「そうなれば少なくとも名有りを三人出せる」
報告ではその規格外の少女は二人。
これなら対抗できるとこの三人は考えた。
◇
ども、紅子っす。
放課後、授業を終え私は病院へと向かってました。
幸い、空音さんと古論さんの怪我は大した事なかったっすけど、一応大事を取って二人とも入院することになりました。
そして同じ病院にはひどい怪我をおった白雪ちゃんもいて、実は私的にはそっちがメインだったりするっす。
「なんか、すいませんね、貴方方まで付き合わせて・・・・・・」
私の両隣にはあのよく分からない化け物少女が二人。
一応少しだけ面識はあったっす。あれは確かシストさんの家に向かう時に、坂の上から。
正直あの前後の記憶が曖昧なんすよね、精神的にとても強い圧力がかかったのでしょう。
「本当、めんどくせぇええ、だけどそういう指示だ、そいつの話が本当ならこれにも意味あるんだよ」
「そそ、だから気にしないで☆」
「はぁ」
よく分からないっすけど、これほど頼もしい事はないっす。
この二人に守られてるという何ともいえない無敵感。
自然と私も気が強くなるってもんす。
意気揚々と。
病院には後少しって時でした。
「む」
「あぁ?」
「あれれ☆」
私達の前にまた現れたっす。
今度は鴉のマスクこそ同じっすけど、服はラブ女の制服ではなく黒い表皮。
人数は10人くらいっすけど。
「おらぁあ、なんじゃいお前らぁ、なんの用じゃい、また痛い目にあいたいんか、あぁあ??」
私はそいつらを睨みつけて大声で啖呵を切ったっす。
なんたってこっちにはとんでもない化け物がおるんじゃい。
お前らなんか何人来ても瞬殺じゃい。
「さぁ、お二人方、こいつらボコボコにしてやってください、なんか道塞いでるんでっ」
私は言うだけ言ってさっと二人の影に隠れます。
「・・・・・・スーアン、そいつどっか連れてけ、あれは私がやるわ」
「・・・・・・は~い☆」
10羽の鴉が道を空ける。
奥から蒼い鳥のマスク。首には赤の首輪。
2メートルは超えるかというかなりの長身。
大きな足が大地を潰す、それほどの踏み込み。
そして、鼓膜が破れるかのような衝突音。
互いの蹴りが交差する。
「ほら、いくよ~☆」
「え、え、え」
「早く離れないと、巻き添えで君、死んじゃうよ?★」
言い終えるなり凄い力で腕を引っ張られる。
その細く小さな腕で、私をハンドバックかなんかのように持ったかと思えば、一気にその場から体が遠のいたっす。
さっきまで近くにいた集団が一気に小さくなり。
「私の輪廻転死が効かなかった、多分あれの力が周囲に影響してたんだね★」
通常の鴉仮面は私達を追ってきてるっす。
理由は多分同じ。
あそこにいるだけで死ぬから。
◇
駄目だ、足りない。
このままじゃ足りない。
後、少し。
もう少し。
じゃなきゃ、全員死んでしまう。
◇
刀で斬り合うような。
あまりにも斬撃に酷似した。
蹴り。
右足、左足、交互、連続、あるいは両方で。
二人の両足、四つのつま先が光りを爆ぜる。
片や、先端には刃物を仕込み、それ即ち振り抜けば斬肉。
片や、重厚な鉄靴。それ即ち振り抜けば破裂。
九尾、リンシャンのおさげが左右に揺れる。
足技主体のスタイル、奇しくも相手もそれは同じであった。
しかし中身は別物、速度特化と重さ特化。
しかししかし、結局は同じ、どちらも一撃必殺。
体に一本の固い固い芯を通し、その身がどの向き、どの体勢を取ろうとも決して崩れない。
世界最強の殺し屋の一員。
彼女と対峙して生きていられる時間は実に数秒。
それも頭を二つに分けられた後での生存時間も含む。
「あぁああああああああああああ、だりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
蒼い鳥との戦闘はすでに5分を経過していた。
普通なら首が何回も落ちてなきゃならない。
本来なら首から血が噴水のように流れている。
しかし、この蒼い鳥、リンシャンの緩急をつけたフェイントや、人間業ではない想定外からの攻撃にもきちんと対処していた。
それどころか。
「あぁああ、うぜええええええええええ」
互いの足が接触する度、相手の重い一撃が確実にダメージへと蓄積されていく。
九尾のメンバーはその特出すべき戦闘能力ゆえに無意識に相手に強さを求める。
しかし、リンシャンはそのような性質は持ち合わせていない。
いかに迅速に、いかに正確に、ただ死事が終わればいいと。
なのでこの状況は、リンシャンにとってただただ面倒なだけ。
「おらぁ、おらぁあ、死ね、早く、死ねよ、あぁああああ、死ねって、おらあぁああああ」
両手を地面に、振り下ろす半月。
防がれれば、腕を駒に今度は横薙ぎ。
それでもなおその全てが防がれる。
「あぁああああああああ、うぜぇえ、うぜぇ、うぜぇえええええええええええええ」
肉体がぶつかる度少しずつ押し返される。
確かに伝わる振動。
それがじょじょに痺れに変化していく。
「あぁあ、それだと、いや、そう、だが、そうなると、いや、いけるが、あぁあ、めんどくせぇええええええええええええええええええええええええ」
九尾メンバーはすべからず高水準の戦闘IQも持ち合わせている。
リンシャンも例外ではなく、口とは裏腹につねに駆け引き、そして数手先まで想定しながら戦闘している。
「もうやめだ」
そのリンシャンが考えるのを止めた。
飛び跳ねて、少しだけ距離をとると。
両足に力を極限まで溜めた。
体を反り、その反動を合図に。
獣の体は一瞬、この世から消失した。
破裂音。
次に生まれた場所は相手の面前。
リンシャンの大きな眼鏡が粉砕されながら宙に舞う。
相手の超反応は強烈なカウンターに変化、それは擦っただけでも顔面の半分は失うほどの威力。
それ即ち、リンシャンの速度が異次元に到達した証。
眼鏡の後に、制服のブレザーが削られ、シャツさえも切り裂かれ。
それでも止まらない。
リンシャンの足が縦に、横に、どちらが先かは本人以外には認識できない。
蒼い鳥の両腕が付け根から空へと舞い上がり。
次の瞬間、リンシャンの体は相手の横へと移動。
空からギロチンが降ろされる。
少しだけ血が奥へと飛び散った。
その数秒後。
先ほどとは対象的にゆっくりと。
仮面が顔から離れていく。
横顔、その丁度半分、静かに下へと、地面へとズレ落ちる。
露わになる赤い断面。
二等分された顔に続いて、その体が追いかけるように前屈みに倒れた。
「はあぁ、ち、くそがぁ」
両手を膝に置き、肩で息をするリンシャン。
その上半身はボロボロのシャツを纏うのみ。
眼鏡も失い、おさげの半分も消え去った。
先端を掠めたのか鼻から血が流れでる。
「くっそが、自分の血を見るのなんて何十年ぶりだよ・・・・・・いや、毎月見てたか」
呼吸を整えて。
息絶えた好敵手を見下ろす。
相変わらず目つきは悪く。
その破れたシャツの隙間からわずかに狐尾の刺青が見え隠れし。
「手こずらせやがって、鳥が狐に敵うかよ、くそがっ」
これでもかと睨みながら吐き捨てる。
九尾リンシャン 対 名有り啄み 火喰い。
相手死亡により。
九尾リンシャンの勝利。
◇
ようやくかもしれない。
これなら足りるか。
それともまだか。
考えられる全てをこの地へと。
想定外に話どんどん大きくなってきちゃいました。