わわ、もう後戻りはできないんだよ 殺人鬼連合 対 異端者連盟 其の三)
紅子っす。
今、メンバー達は緊急招集。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺してやる、殺す、殺す・・・・・・」
タシイさんはあれ以来ずっとこうして呟いてるっす。
「タシイ、後少し堪えな、もうすぐシストくんが来る」
爪を噛み、全身を震わせながら自分を必死に押さえ込んでるっす。
一人で特攻しようとしたタシイさんを抑えたのは目黒さん。
暴れるタシイさんをきつく抱きしめてなんとか宥めたっす。
シストさん以外で唯一タシイさんに対処できる貴重な人。
「みんな、いるね」
程なくシストさんが現れたっす。
「お疲れ様ですっ!!」
私、空音さん、古論さんが頭を下げ。
「おネニー様っ! どうするつもりよ、これっ!」
タシイさんは立ち上がるとシストさんに詰め寄ります。
「タシイ、まずは落ち着こうか」
「これが落ち着いてられるっ!? 仲間がやられてるんだよっ!」
「・・・・・・奏、芳香、美沙は今だ意識は戻らず予断を許さない状況は続いている。で、首謀者は九條家現当主の孫娘が主体の異端者連盟」
「そうだよ、そこまで分かってるなら後は簡単だ、関わったやつ全員殺す。あいつらが受けた痛み、何倍、何十倍、何百倍にして返してやればいい」
「・・・・・・九條家はこの国でうちと双肩をなす名家中の名家。その孫娘に手を出せば僕達だけの問題じゃ済まなくなる」
「はぁああああああああああああ??? だから何?」
「九條家だけじゃない取り巻き達のいづれもうちの分家並の権力は要している」
「だからぁああっ、それがなにって言ってんだけど??」
普段シストさんにだけは口調も態度も違うタシイさんが素を見せ始めた。
「おいっ、タシイっ! 例え妹でもシストくんに対して口が過ぎるぞ」
堪らず目黒さんが苦言を呈す。
しかし、タシイさんの勢いは止まらない。
「九條家だかなんだかしらねぇけど、私の大事なものに手出したんだ、ここで何もしなかったらそれこそ本家の名折れだろうがぁあ」
「・・・・・・これはお祖母様の判断でもある。もう話は上まで伝わっていて、当主同士ですでに話は済んでいる。お祖母様達にすればこれは子供のおはじきごっこに過ぎない。もしこれ以上拗れて大事になろうものなら複雑に絡み合い持ちつ持たれつの本家同士の関係性に罅が入る。その時の損害は計りしれない」
シストさんの言葉。怒りに震えていたタシイさんもこれには態度を改めるしかない。
絶対的存在、本家当主、トーラ様の名が出た。
誰も逆らえない、口出しできない、一族ならなおのこと。
「・・・・・・だからって、さぁああ、いくらお祖母様の、って、あいつらのさぁあ、おネニー様は、それで、いいの、あいつらの顔見ただろ、可愛い可愛い、あいつらの顔がさああああ」
気丈に振る舞っていたタシイさんは目を潤ませたと思ったら、その場から走り去った。
「あ、タシイっ!」
それを追いかけようとする目黒さん。
「・・・・・・目黒さん、タシイをよろしくお願いします」
シストさんは一言そういい。
「・・・・・・アタシはシストくんの立場も言い分も分かるよ、だからそれに従う。けどタシイの気持ちも分かってやってよ」
「・・・・・・勿論分かりますよ、痛いほどね。だって兄妹ですから」
それを聞いた目黒さんは瞳を閉じるとタシイさんを追いかけた。
私はというと、どうしようもない無力感を抱え、そのやり場のない怒りにも似たこの気持ちを何もしようとしなかったシストさんに向けてしまいました。
◇
覇聖堂、方舟会室。
「あちらに動きは?」
「今のところ特になし。情報と違うね、殺人鬼連合のリーダーは激情家と聞いていたけど」
「話では参謀もどきがいるとか、こいつの存在がでかいのかもね」
「幹部、眼球アルバムこと目黒。平民でバイト暮らし、ゆえに護衛などいるはずもなく、手を出しても特に問題ない」
「なら次はこいつだろう、もうバイト先も調べは付いてる」
「すでに傲が何人か引き連れ連日言いがかりレベルのクレームを入れまくってる。でもこいつ平謝りするだけで全然食いつかない」
「はぁ?? なんだそいつ本当に殺人鬼か、キャンキャンすら鳴かないなら子犬以下だな」
「このままでは埒があかない、少々強引にいくべきか」
「そうだな、なら・・・・・・」
◇
紅子です。
その連絡は唐突に届きました。
「えええっ! 目黒さんのバイト先が火事で全焼っ!? そ、それで目黒さんはっ!?」
今日はシストさん直々に放課後招集を受け、一人でアジトに向かう途中だったっす。
今の所安否は不明とか。
私は急遽行き先を変更、目黒さんのバイト先へと直行したっす
普段は無意識に絶対近寄らない場所。
でも今はそんな事を言ってる場合じゃなく。
着いた時にはすでに消火作業は終了していて。
それでもまだ消防車や救急車、警察なんかの車両は残ってました。
「はぁ、はぁ、はぁあ、め、目黒さんはっ!」
すっかり黒く変わり果てた店の前に立っていたのは全身ピンクのお婆さん。
「大丈夫なの、か、ちゃんと逃げたな、そうだよな、大丈夫、だな、なぁ」
なんかブツブツ呟いて。
その後しばらくその場に留まってたんすが新しい情報は何も入らないまま、私にはこれ以上どうすることもできなかったっす。
もしかしたらタシイさんなら情報を得てるかもと。
そう思いスマホを取り出した時だったっす。
見慣れないアドレスから画像が送られてきて。
嫌な予感、空気が淀むっていうか、一瞬視界が白黒になった感覚。
それを見た私は思わず大声を出していたっす。
「白雪ちゃんっ!」
間違いない確信があって、その小柄な体、顔は血まみれだったけど、それは私がよく知る人物で。
いつもはみんな一緒に帰ってたっす。
空音さんも古論さんも同じ殺人鬼連合の私の事は守ろうとするけどそもそも白雪ちゃんは関係ない、私がいない場合一緒にいる必要性もない。
色んな事が一気に起こりすぎて頭が混乱する。
「あああああああああああああああああ」
目黒さんの安否も分からず、白雪ちゃんの状態も確認できない、私はどうすれば。
「紅子ちゃんっ」
気が動転していた私に声をかけたのは空音さん達だったっす。
「良かった無事で」
二人はシストさんから私と合流するように言われここに着たみたいっす。
私はそのまま二人としばらく一緒にいる事に。
◇
翌日、ラヴ女、昼食。
本当は学校なんて来る余裕はなかったのが本音っす。
でも、私は逃げるわけにもいかない、奏ちゃん達はあの状況で一切背を向けなかった。
なのに残った私がなぜ逃げられようか。
目黒さんは? 白雪ちゃんは? 何も分からないまま。
「とりあえずフリでもええからなんか注文しいや」
「そうですわ、じゃなきゃ相手の思うつぼですわ」
「・・・・・・そうっすね」
サンドイッチを持ってテーブルに座るも食欲は勿論ない。
「あらあら、これは皆さん、ご機嫌よう、な、だろ?」
「なんだか元気がなさそう、なんですかね~?」
私達のテーブルに姿を見せたのは。
異端者連盟の二人。
「・・・・・・お前らぁあ」
私はその顔を見て、激しく睨み付けた。
が、その視線はすぐに横へと逸れる。
二人の両サイド、明らかに異様な姿が目に入る。
制服こそラヴ女のもの、されどその顔には全体を覆う鴉マスク。
異質、私達とはまた違ったカテゴリーに生きる者、瞬時にそう直感したっす。
「なにか御用ですの?」
「うちらはお前らなんかと喋ってる暇はない・・・・・・」
まだ古論さんが喋ってる途中だった。
二人の顔がテーブルへと激しく叩き付けられ沈む。
「なっ」
やったのは鴉のマスクの二人。
一瞬の出来事でよく見えなかった。
「お、おい! この二人は分家っすよ、お前ら、手を出せないんじゃ・・・・・・」
そんな私の言動に二人は笑う。
「そう、でもそれは昨日まで、お前らのリーダーのお陰、だぞ、な?」
「タシイさんでしたっけ? うちのメンバーの傲についに手を出しました。これにより私達は正当な報復条件を得たというわけです」
そんな、あっちの正式なメンバーということは家柄は少なくともこちらの分家クラス。
タシイさん、ついに我慢の限界だったのか。
そりゃそうっす、親友の目黒さんにまでこいつらは手を出した。
私だってきっと同じ、いやすでにもうこいつらを殺したくてしょうが無い。
「そしてお前は元々条件などいらない、だろ? 盾は消えたぞ、な?」
「お前も友達と同じように、手足の骨を折って・・・・・・あぁ最後まで泣かなかったって、お前の友達、あれ、ただの一般人なの?」
「あぁああ?」
やっぱりこいつらだ。
頭が真っ白に。
テーブルのナイフを握って。
立ち上がり向かいあった時には鴉マスクは5人に増えてたっす。
「べ、紅子ちゃ・・・・・・逃げ」
床に伏す空音さん、その後頭部に鴉の足が振り下ろされる。
「おらぁあ、やめろぉやあ、お目当ては私だろ、異端者連盟、少なくともお前らだけは絶対殺す、殺す、殺すぉああ」
絶対に勝てない鴉マスク達は完全に無視し、あの二人だけを狙う。その間、腕が折れようが飛ぼうが、構わない、首だけになっても食らいつく。
「あらあら、こわいこわい」
「やってみろ、な?」
突撃、飛び込もうとした私、だがすでに左右前方には鴉マスクが壁となり立ちはだかっていた。
途轍もない実力差。
だけど、逃げない。
私は殺人鬼連合。メンバーの誰もこいつらから逃げなかった。
なのに何故私が逃げなきゃならない。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
私の魂の叫びに呼応したように。
壁の一つが視界から消え失せた。
混雑する学食時、この騒ぎに距離を取りつつ人の囲いが私達中心に出来ていた。
私の前にいた鴉マスクの一人は、その人垣すら軽く飛び越え吹っ飛び、そして端の壁に激しく叩き付けられた。
「あぁあ、だりい、だりいいいいいいいい」
今振り上げられた足はそのままで、一人の少女が私の横に立つ。
ラヴ女の制服を着た・・・・・・。
とにかく目つきがとんでもなく悪いでかい眼鏡の女。
「まぁまぁ、これは死事じゃない、ババ様の意志だよ☆ 尾の私達に抗う道理はないよ☆」
うわ、逆にももう一人いた。私と同じくらい小さい女の子。
気配を感じるとかじゃない、二人は瞬間移動してきたように意識の外から現れた。
「しゃあらあああああああああああああああああああああああああ」
前にいた鴉マスクの一人、特に動揺することなく小柄のほうに攻撃を加えるも。
「あ~あ、こっちの方がきついよ?☆」
次の瞬間、そいつは地面で恐ろしいほどに体を痙攣させていた。
「・・・・・・なんだ、こいつら」
情報にない謎の少女達の登場に狼狽える異端者連盟の二人。
そして先ほどまで余裕そうに立っていた鴉マスク達が今では武器を取り構えも見せる臨戦態勢。
「一条様、近衛様、今すぐお逃げください」
二人の傍で付き従っていた鴉マスクの一人がそういい。
「は? は? どういうこと? だ?」
「貴方方は私達という銃を持ち込みました、しかしあそこにいる二人は戦車です。ですので私達だけではもはや逃げる時間を稼げるかどうかも怪しい」
「な、な、な」
二人がそれを聞いて慌てて背を見せる。
「逃がすかぁぁあっ!」
今度こそ私は突っこんで。
もう障害はない。
「だりぃが、壁は取り払ってやる、さっさと終わらせてこい」
「がんばれ=☆」
すでに私の左右に流れる激流が、相手の体を粉砕していた。
鴉マスクのクチバシが体の反対を指し。
膝から崩れ落ちる鴉マスクのクチバシが地面を突いた。
最後に立ちふさがる鴉マスクも。
「「輪廻転死」」」
ただの棒。二人が見つめただけでその身は完全膠着。
素通り。
異端者連盟、逃げる二人の背が見えた。
「お前らは逃げた、この場は・・・・・・私達、殺人鬼連合の勝利だっ!」
横薙ぎに、握ったナイフを、右左。
◇
この時点でもう後戻りできない所まで着てたっす。
どんどんエスカレートする報復合戦。
燃えさかる炎は広範囲と広がり続け。
そしてついに。
異端者連盟の標的はタシイさんへと。