なんか、チョコレートみたい(バレンタイン特別編)
本編まったく進まない。やっつけで書いた特別編です。
こんにちは、リョナ子です。
今日は二月十四日です。
なので僕はまた拉致されました。
◇
静粛と暗闇の中、そのどちらもが反転する。
強烈なライト、そして。
「さぁぁあああ、また今年もこの日がやってまいりましたっ!」
すっかり明るくなったこの場所はなんかどこかの倉庫のようだった。
中央には大きなテーブル。それを複数のスポットライトが照らしている。
まるでテレビの番組のセットのよう。
そんな中、王様のように中央の高い場所で座らされてるのが僕で。
「それではさっそく今回の参加者の登場ですっ!」
仮面をつけたなんか見覚えある人が叫んだ。
これ系のやつでいつも司会やってる人だね。
両袖から人がぞろぞろ出てきた。
「まず左袖から登場したのは、深緑深層のマーダーマーダーこと蓮華ちゃんっ! それに続くは切り裂き円ちゃん、その後ろ、妹分の白頭巾ですっ! おなじみ昆虫採集部の面々ですっ!」
「こんにちは~」
「ういうい~」
「・・・・・・ぺこり」
おっと、やっぱりこの三人が絡んでいたか。
ということは。
「反対からの登場はぁあ、仲良し三人組、タシイ、目黒、紅子トリオぉおお」
「いえい」
「いええいえい」
「・・・・・・な、なんで私まで」
おや、目黒ちゃん、とあの凄い綺麗な子はたしかシスト君の妹のタシイちゃん、後の一人は・・・・・・あぁ多分白頭巾の友達だったっけか。
[今回はこの六人でゲームをして頂きますっ!]
「ちょいちょいちょいぃいいっ!」
おっと、ここでタシイちゃんの物言いが入った。
「内容しだいよっ! じゃなきゃ深緑深層が毎回無双して終わるでしょっ!」
「そうだっ! そうだっ! レンレンはチートなの、だっ!」
「同感っ! 蓮華お姉ちゃんは存在自体が反則っ!」
円と白頭巾も同調して叫んでるね。
「いえ、ご心配なくっ! 今回は個人戦ではなくチーム戦ですっ!」
「はぁああ?! なにがご心配なくだっ! 結局そっちに深緑深層が入ったら同じ事だろうがよぉおおっ!」
「いや、チーム戦は個人の力よりチームワークが大事なの、だ」
「そういうこと。だからいくら個人の力が強かろうがさほど問題ではないよ」
おっと円と白頭巾が自分に有利と分かった瞬間手の平を翻した。
「ふざけんなぁ、ただでさえこっちには紅子という超絶ハンデを背負ってるんだぞっ!」
「う、訳も分からず連れてこられてこの言われよう・・・・・・」
[いえ、チーム分けはランダムです、しかも最後まで誰が味方で敵が分からないようになっておりますっ!]
「どういうこった?」
「つまり今回貴方達が戦ってもらうゲームはこれですっ!」
スポットライトの光が別の場所を照らす。
[第一回、リョナ子さんにチョコレートを食べてもらえる権利をかけて戦う、チキチキっ! キャット&チョコレート、ゲームぅうううう]
ん? 僕は初めて聞いたけどどんなゲームだろう。
「なるほど、バレンタインとチョコレートをかけた訳ですね」
「どんなゲームなの、だ?」
「これ、私知ってる」
「私も」
「アタシも分かるよ」
「う~ん、名前だけなら」
僕の他にもルールをよく知らない人もいるね。
[簡単に説明しますと、イベントカードと使用カードがありまして、イベントカードを捲ると様々なピンチな事が書いてあります。それをあらかじめ配られた使用カードを使って回避するというものです」
いまいち分からないね。
[とりあえずチュートリアル感覚で一回やってみましょう。まずはチーム分けから]
仮面の人がゲームで使用するカードとは別のカードを一枚ずつみんなに配った。
[このゲームはその判定を皆さんの裁量で決めるものなので公平になるよう誰が敵か味方かは最後まで分からないようになっていますのでご了承ください]
なるほど、今配ったカードは最後に確認するのね。
[さて、まず使用カードを皆さんに三枚ずつ配ります]
司会の人が手際よく分け与えていく。
[イベントカードを中央に置きます。これを順番に捲っていきます。その際、山札の下のカードの裏に数字が1から3まで書かれてますので、この数字の数だけ使用カードを使ってください。説明するためにも最初は私がやってみますね]
ここで仮面の人がイベントカードを一枚捲る。
〈パンを咥えて走ってたら角で男の人にぶつかっちゃったよぉ☆ どうしようーー☆〉
古の漫画のようなイベント。
[この下にあったカードの数字が1だったので、これは使用カードを一枚使ってこの状況を回避しろってことです。そして今は全部見せますが、私が最初に配られたカードは、犬のカード、ライター、お金、でした。なのでこの三枚のうちの一枚をその場に出します]
仮面の人は、お金のカードを出した。
[私はこのお金でなんとか示談に持ち込み事なきを得ました。てな感じでこの使用カードをどう使ったかをみんなに説明して納得したプレイヤーは親指を立てます、逆に納得出来なかった場合はなにも出しません]
ほうほう、なんとなく分かったよ。つまりカードも重要だけど、いかにそれをみんなに納得させられるか説明力も大事なわけだ。そして、誰が味方か敵か分からないから忖度はできない。
[さぁ、皆さんルールを覚えてもらった所で本番スタートですっ!!]
こうして、第一回、リョナ子さんにチョコレートを食べてもらえる権利をかけて戦う、チキチキっ! キャット&チョコレート、ゲーム大会は幕を降ろしたのだった。
◇
順番はこうだった、タシイちゃん、目黒ちゃん、紅子ちゃん、蓮華ちゃん、円、白頭巾。
まずはタシイちゃんがカードをひく。下の数字は1。
〈やばいよっ、今日クラスの友達に返すはずだった本を家に忘れてきちゃった、ど、ど、どいしようぉおお〉
僕はゲストだからか全員の持ちカードをここから見られる。
タシイちゃんの手持ちのカードは、母親、鉛筆、スマホ。
この中から一枚使ってこのピンチを回避するんだね。
僕ならそうだなぁ、スマホを出して、誰か家の人に届けてもらうっていう案を出すかな。そのまま母親に頼むってのもいいかも。
「よし、ほんじゃ私の出すのはこれだ」
タシイちゃんが出したのは鉛筆のカード。
え、これでどうやって回避する気だろう。
「もう忘れちゃったもんはしょうがない。そうなるともうこの鉛筆を使ってそのクラスの友達殺すしかないわ」
・・・・・・・・・・・・。
「なるほど」「ありよりのあり」「たしかに」「そうきた、か」
いやいやいやいや、なんでみんな納得してるんだよ!?
「何言ってるんですかっ!? そんなの駄目に決まってるじゃないですかっ!」
蓮華ちゃんだけが反対してたけど。
結果は、他のみんながオーケーを出した。
これで一ポイント。
「いえいっ」
これはもうこの後もやばそうな雰囲気しかない。
気を取り直して、次は目黒ちゃん。
引いたカードは。
〈あっちゃー、カワハギを釣ったと思って骨も残さず食べたら、内臓に猛毒を持つソウシハギだったぁ、どうしようっ!〉
いや、もう手遅れでしょ。
ソウシハギの内臓毒はパリトキシン、これはフグ毒で知られるテトロドトキシンの七〇倍だよ。
これに対して目黒ちゃんの手持ちカードは、自転車、懐中電灯、包丁。しかも今回は二枚使わないとならない。
とりあえず自転車で急いでめちゃくちゃ近い病院にいけばあるいは・・・・・・。
「包丁で腹かっさばいて胃の中取り出すしかないかね。腹の中は暗いから懐中電灯を使って正確な位置を把握しながら」
「なるほど」「ほうほう」「懐中電灯にそんな使い方があったとは」「これは深いね」
懐中電灯で腹の中を見る、なんだこいつら。
一ポイント。
次、紅子ちゃん。
〈友人と四人でドライブの予定だったのに直前になって、悪いな、これ三人乗りなんだって言われたよ、どうしよぉおおおお〉
ス〇夫か。
手持ちカード、縄、目薬、テレビ。使用枚数、一枚。
僕なら目薬で嘘泣き同情作戦、若しくはもう諦めて家でテレビを見ながらどこか行った気分になるか。
「これは簡単すよ、縄っす、これでス○夫を車の後ろに縛って引き摺って行けばいいんす」
死ぬわい。
「なるほど」「そう来ましたか」「紅子にしてはやるじゃない」「見直したぜ」
どうなってんだ、こいつら。
一ポイント。
次、蓮華ちゃん。
〈大変大変、世界では貧困者数が七億人を越えて深刻な問題になってるよ、必要最低限の生活基準も満たされず、まともな教育、医療、就職などが望めないよ、ど、どうしようぉお〉
急に。
この大問題に立ち向かう蓮華ちゃんのカードは、ポケットティッシュ、猫、タイヤ。そして今回は三枚使用なので、この全部を使う事に。
「分かりました、まず私はこのポケットティッシュでペラペラペラ、その後、猫を使ってペラペラペラ、最後にここでタイヤを使う事で環境の劣化、さらには伝染病を抑え、経済とのバランスを保ちつつ、高水準の教育を施し、ペラペラ~」
す、凄い、まさか、ポケットテッシュであれを改善して、猫を使う事で地球温暖化の問題さえも解決し、タイヤのおかげで医療も充実させ、紛争さえも止めてみせたぞ。
この画期的で素晴らしい案なら嫌でもみんな納得せざるを得ないけど・・・・・・。
「説明が長くて途中で寝たの、だ」「訳分からない」「いまいちっすね」「こう頭に入ってこないんだわ」「これは悪いけど納得できないなぁ」
なんてことだ、今の話を理解できるやつがいなかった。
0ポイント。
はい、次、円。
〈あぁ、コンビニで缶コーヒー買ったけど、ブラックだったよぉ、こんなの苦くて飲めないっ、どうしようぉおお〉
さっきとの落差。
これに対して、円の使用するカードは一枚。
砂糖、ミルク、ガソリン。
これは奇跡だ、さすが円、運だけは最強。これは砂糖でもミルクでもいける。
「ういうい、これはもう飲めないんだから燃やすしかないの、だ。どうせなら腹いせに店ごと燃やすの、だ」
「なるほど」「盲点」「そうなるわな」「それしかないかもっす」
異常者ども! 思考回路が人のもう人のそれではない。
1ポイント。
最後、白頭巾。
〈わぁ、クラスメイトが酷い虐めにあってるよ、一体どうすれば!??〉
白頭巾のカードは、スコップ、ノコギリ、ハンカチ。使用枚数は三枚全て。
普通なら泣いてるかもしれないからハンカチと差し出すとかなのかな。
でも、僕もここまで来ればもうそうはならない事は予想できる。
「まずはスコップで穴を掘る、虐めてる人間全員分の穴。そこに顔だけ出るように埋める、その口にハンカチを突っこんだら、ノコギリを渡す、そのクラスメイトに」
「自分じゃやらんか」「あくまで託すの、だな」「いいんじゃない?」「最初の一人くらい手伝ってもいいっすけどね」
これには全員が納得し。
1ポイント。
結果は蓮華ちゃん以外ポイントを取ったから、最後にチームを確認して蓮華ちゃんと別のチームなら勝ちって事だね。
[勝者チームは・・・・・・円ちゃん、白頭巾、タシイちゃんの赤チームですっ!]
「いえいっ!」「やったの、だっ!」「うれしいっ!」
三人は大いに喜んだけど。
[いえ、まだですっ! ここからが延長戦、さっき自分が引いたカードの道具を駆使して最後の一人になるまで戦ってもらいますっ!]
「なにぃいいいいいいいいいいい、どうやって砂糖やミルクで戦うの、だ」
いや、いまこそガソリンを使え。
「よし、ノコギリがある」
これは白頭巾が有利か。
「馬鹿ね、私にはこのお母さんカードがあるっ! これでママを呼べば無敵よっ!」
あぁ、あの人か。たしかに。
[さぁ、最終戦、はりきっていきましょうっ!]
下は終盤戦で盛り上がろうとしてたけど。
「やれやれ、もう帰りましょう」
「アタシも充分楽しんだからいいや」
「あ、わ、わ、私も無理矢理連れてこられただけ、なんで、あの、もう、はい、帰るっす」
いつの間にか敗者の三人が僕の元にきて。
「ささ、リョナ子さんもあんな醜いだけの泥仕合なんか見なくていいので、これから私と美味しいスイーツがあるお店にでもいきましょう」
「あ、それならアタシもいくよ」
「わ、私は、すいません、あの、今回は、遠慮、させて、も、もらいますす」
紅子ちゃんは相変わらず人見知りなのかこっちを一切見ないなぁ。
「まぁ、そうだね、この組み合わせはとても珍しいし、こういうのもいいかもね。よし行こう」
こうして、僕達三人はチョコレートをふんだんに使ったそれはとても美味しいスイーツを堪能したのでした。
その後、残った三人がどうなったかは誰も知らないのでした。