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なんか、また甘えちゃうみたい。(新年特別編)

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 こんにちは、リョナ子です。


 今、僕は。


「ご無沙汰してました、先生」


「りよ・・・・・・いえ、リョナ子ちゃん、本当いつぶりかしらね」


 病院の個室。


 ベッドに横たわりこちらを見る女性。


 この人は僕の先生。


 小中などの義務教育ではなく、つい最近、つまり拷問士を教育する機関の先生。


名を小笠原 香といった。


 先生は主に人体についての授業を受け持っていた。


「お加減はどうです?」


 先生は病気を煩い地元に戻っていた。


 そこで闘病生活を送っていたのだが。


 それがどれほど辛いものかは、先生の今の姿から容易に想像できた。


「少し痩せたかしらね、最近はよく眠れないの」


「そうですか・・・・・・」


 こういう場合にかけられる言葉がいつも思いつかない。


「・・・・・・実はね、もう、治療はしてないのよ。お医者さんもこれ以上はって。だから・・・・・・後数ヶ月持てばいいかもしれないわね」


「・・・・・・・・・・・・」


 突然の告白に頭が真っ白になる。

 

 先生自体医学に精通している、自分の体は自分が一番分かっているのだろう。


「・・・・・・リョナ子ちゃんには言ってなかったわね、なぜ私が刑罰執行人の育成に尽力したのか」


 確かに、先生は元々街医者だったとか。


「いつ死んでもいいとは思わない、それは大きな心残りがあるからよ」


 弱々しい体、だけどその目は。


 その目だけは。



           ◇


 こんにちは、蓮華です。


 新年を迎え、そろそろ正月気分も抜けそうな、抜かさなきゃならない位の日でした。


「どうも、動きたくありませんねぇ」


「ういうい、同感なの、だ」


「まったくもってその通り」


 私たち昆虫採集部はこれでもかってほどだらけておりました。


私はパソコンの画面で適当なニュースを見て。


 円さんはソファに寝そべってゲーム。


 白頭巾はスマホで動画サイトを見てます。


「結局、この国の人間は働きすぎなんですよ。それもお役所に限っては四日から仕事始めとか意味わからないことを・・・・・・」


「そうなの、だ。今は働き方改革をもっと推進すべき、だ。そもそも一週間7日あってそのうち5日働くとか阿呆なの、だ。昔の人はイカてるの、だ」


「仕事も勉強も半分でいいよね。学校始めるのも早すぎる。一月は全部休みでいいよ」


「そうですね、今年は気が済むまで休んでやりましょう。最低でも白頭巾の学校が始まるま・・・・・・おや」


 スマホに着信が。


 これにかけてくる人は非常に限られます。


 基本はここにいる二人が大半なのですが。


 その二人がここにいるって事は。


「はい、蓮華です」



         ◇


 今から三〇年前に起こった事件。


 被害者は当時小学生だった女子児童。


 帰宅途中に襲われ、その体はナイフで何十カ所も刺されていた。


 犯人は今だ見つかっておらず。


 有力な手がかりがないまま事件は風化しようとしていた。


 被害者の名は。


 小笠原祐子。当時八歳であった。



     ◇


 こんにちは、リョナ子です。


 語られたのは先生の過去。


「逃げるように地元を離れたの。起きてても、寝ていても、思い出すの。あの子の最後の姿が」


 先生は顔を両手で押さえ涙を流していた。


 何年も何十年も押さえ込んでいた感情。


「それでも何かしなきゃって、だから私は、医者としてできる事を・・・・・・」


 そうだったんですね。


 先生は明るかったけどいつもどこか憂いを含んでいるのに見えた。


 最愛の娘が酷い殺され方をさえたならそれも当然か。


 しかも、その犯人、今だに捕まってないという。


「・・・・・・私の余命はあと少し、せめてその前にどう、か、どうにか・・・・・・じゃないと」


 先生はもう一人で立つのも困難なほど弱っている。


 もう自分ではどうする事もできない。


「うう、あっちであの子に、どんな顔で、会えばいいのか・・・・・・」


 僕は先生の手を取った。


 痩せ干せた腕、涙で濡れた手。


「辛いのによく話してくれました。僕なりに、できるかぎり力になります」


 いてもたってもいられなくなり、そんな無責任な事を口走っていた。


 僕は拷問士で。


 そんな僕ができる事は犯人が目に前にいなければならない。


 三〇年前の事件。犯人はもう生きてるか死んでるかも分からない。


 でもそれを探し、連れてこられる可能性がある人を。


 僕は一人だけ知っている。 



  ◇


 こんにちは、蓮華です。


 今し方、通話を終えました。


「貴方達、立って下さい。仕事です」


 私は椅子から腰を起こし、だらけている二人に言葉をかけました。


「はぁああ?? なに、言ってるの、だ。今、言ってたばかりなの、だ。仕事なんて、金も対してもらえず、社会福祉で、レンレンのお小言、白頭巾は愚痴ばっかりで、クソ、クソなの、だ、仕事なんて、クソがクソのためにクソがやる事なの、だ」


「そうだ、そうだ、年金もどうせ無くなるし、物価だけ高くなって、働き方改革がぁー、ブラックフライデーでぇー、もう火曜日と木曜日も休みにしろって感じでぇえええええええ」


「リョナ子さんからです」


「え?」

「あんだって?」


「リョナ子さんから直接頼まれた仕事です」


「ほう、なるほど、なのだ。丁度最近体も鈍ってきてた所なの、だ。そろそろ働きたい所だったの、だ」


「そうだね。今この国が豊かなのは社会成長期に身を粉にして働いてくれた先人のお陰だよ。私達も後世のためにも働かなきゃだよ」


「やれやれ、私もです。お国のためにエナジードリンクがぶ飲みで働きますよぉ」


「それじゃはりきって・・・・・・」


「「「いきまっしょう」」」




 こうして私達は旅立ちました。


 とはいえ、そこは私の管轄外の地。


 普通なら結構面倒な場合が多いのですが。


「こんにちは、当時の捜査資料を見せてもらいたいのですがぁ」


 当時この事件を担当していたこの地の警察へと。


 受付でいきなりこんな事をいったので担当者は困惑です。


「はい? えっと、どなたですか?」


「あ、私こういうものです」


 身分証を見せます。


 その瞬間、担当者の対応が変わりました。


「あああ、少々お待ちをっ!」


 この肩書きの威力は絶大ですねぇ。


 しばらくするとここの刑事部長がやってきました。


「これはこれは、ここでは何ですので、奥へとどうぞ」


 応接間に通されました。


「で、国家独立機関であるKSB長官の貴方がわざわざこんな田舎までどのような用件で?」


「えぇ、実は三〇年前この地で起きた連続少女刺殺事件を追ってまして」


「ほう、あれは凄惨な事件でしたね。あ、すいません。当時関わってないとはいえ今だ犯人を特定できてないのは我が署としましても・・・・・・」


「いいんですよ。だから私達が来たのです。なので、当時の捜査資料や証拠等が残っていたら見せて頂きたいのですが」


「ええ、勿論、それは構いませんが・・・・・・いくら貴方達でもいまさら三〇年前の有力情報も乏しい事件を洗い直したとして・・・・・・」


「とても大切な人に頼まれましてね。なのでできるだけはやってみたいと思います」 


 こうして私は三〇年前の事件の再調査を始めました。



 署内の一室を借りて資料に目を通します。


「当時の証拠は靴後、そして体液ですね」


「容疑者はいたの、か?」


「近隣の怪しい人物はそれなりに調べたみたいですね。でも特定するまではいかなかった」


「犯人像は?」


「当時の見解だと証拠も多く、発見できる場所に死体があったことで所謂無秩序型の犯人と推測してますね」


「無秩序型って私に近いんだった、か?」


「そうですね、貴方とドールコレクターは特殊な混合型ですが、ドールコレクターが極めて秩序型に近いに対して、貴方は無秩序型に近いです。ちなみに完全に秩序型なのが雨宮種、そして殺人鬼連合の大半の殺人鬼が無秩序型だと思ってます」


「レンレン的にはこの犯人どう思うの、だ?」


「証拠は残してますが、どれも一般的によく出回ってるものです。そして死体が発見しやすかったのは最初の被害者だけ。短期間で事件を起こしているのにこれです。これは相当計画的に行わないとどこかでボロがでるでしょう」


「わざと証拠を残して混乱を狙った、か」


「でも体液という決定的な証拠残してる、よ。秩序型がこんな事するかな」


「今なら考えられないでしょうが、当時はまだ正確なDNA捜査が確立されていなかったんですよ。あったのはABH式血液型物質を調査するもので、この物質が分泌されない人もいて確実ではなかったんです。もしかして犯人は自分が分泌されない人間と分かっていたのかもしれません」


「あぁ、でも今なら」


「そうですね。三〇年の月日は伊達ではありませんよ。今なら確実に証拠になります」


 そして、昆虫採集部、最大の強み。


「これ殺害現場の写真です、なにか感じます?」


「・・・・・・滅多刺しにしてる割りには血が少ない、のだ」


「これ慣れてる、決して通り魔的な短絡的な犯行じゃないね」


 現役? の凶悪殺人鬼が傍にいていつでも犯罪者視点のアドバイスをもらえることです。


「うむ、めっさ刺しには二パターンあるの、だ。一つは恨みが強い場合。そして反撃が怖く、慣れていないため必要以上に攻撃を加える臆病者のパターン。しかしこれは返り血を浴びないよううまく殺してるし、ただただ楽しんでるだけ、だ」


「この傷とこの傷は確実に致命傷になり得るね。最初か最後か、いずれにせよ、この犯人、いたぶる事に快楽を得ている。なら、止まらないよ」


「この三〇年、何回か捕まってる可能性がありますね、裁判が長引いてるなら執行されずにレベルブレイカーの収監所にいるかも」


 三〇年前に残された体液。


 三十年後、これで確定しますよ。


「この三十年で類似事件を起こした人物全員のDNAを照合します。何人いようが、どれだけかかろうが、見つけるまで続けますよ」


 こうしている間にも新たな事件は起こっている。


 現場の方には大変な仕事を押しつける事になりますが。


 少女達の無念、私も晴らしたいのです。


 

 

 数週間後。


「犯人が見つかりました。やはり、その後も類似の事件を起こしていましたね」


「おー、私達の読みは正しかったの、だ。しかし、よく見つかったの、だ」 


「他国なら死刑や無期が確定したらもしかして過去の犯罪ももういいやって話しちゃうことあるけど、この国はダイレクトに執行に響くから誰もそんな事言わないね」


「この犯人、レベルブレイカーではなく強制わいせつでのレベル2ですでに執行終え野に放たれてました。まぁすぐ確保しましたがもしかしたらこの先被害者がもっと増えていたかもしれませんね」


「再び地獄に戻されたの、だ。それも今度は最下層」


「そこで待つのは・・・・・・」


 頼まれていた私達の仕事はここまでです。


 この先は。


「バトンタッチですね」


       ◇


 こんにちは、リョナ子です。


「犯人捕まりましたよ」


 手を握りながらそう報告した時には先生の瞳は閉じかけていた。


 口が僅かに動いていたけど残念だけど何を言っているのかは分からなかった。


「犯人はレベルブレイカーになるでしょう。その場合、執行できるのは特級だけです」


 今まで必死に努力してきて良かった。


 血を浴びて、精神が黒く染まりそうになるたび撥ね除けて。


 吐いて、泣いて、でも僕はここにいて。


 特級になっていて。


 良かった。


「執行は僕がやります。先生が教えてくれた知識を全て使って」


 蓮華ちゃん達が犯人を捕まえてくれた。


 僕の出番はここから。


 罪人は発狂するだろう。


 痛みで何度も気を失い、痛みでまた目を覚まし。


 失禁するか、泣いて許しを乞うか。


「先生ならご存じでしょう、レベルブレイカーの執行がどのようなものか。だから全部僕に、任せて・・・・・・安らかに」



          ◇


 三〇年ぶりの再会は。


 お互い姿はあの時のままで。


 まるで来るのを今か今かと待っていたかのように。


 顔を見るなり駆け出した少女は。


 懐かしい母の胸へと。


 全ての方に幸多き年でありますように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新年の初めは久しぶりのリョナ子ちゃん回。 本編でシフト君がリョナ子ちゃんヤバイ所は一言で動いてくれる人が沢山いると言っていましたが、それを思い出す回でした。 拷問士関連の仕事に就いた理由の話…
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