おや、どこも目が離せませんね(続 頂上決戦編 其の四)
こんにちは、蓮華です。
もはやこの街は戦場、それも最前線。
あちこちで戦闘が繰り広げられております。
中でも注視するは勿論、身内である円さん、そして一緒に行動する謎の女。
そして。
◇
チカチカと。
瞬きの感覚で起こる閃光。
「は、はは、よいぞ、よいぞっ!」
宙にその身を留めたままに。
ババ様の止めどない攻撃。
白い衣を身に纏いし大男は両拳でそれを凌いでいた。
それつまり。
同じ速度で。
一つも取り残すことなく。
世界最高峰の拳撃を見極めているという事。
「なんネ、あいつ、やっぱりおかしいヨ」
「ボソボソ・・・・・・」
「そうネ、ちゃんと戦闘になってるヨ、あのババ様と」
自分達ならまだしもと。
二人は正直驚きを隠せない。
しかし、だからといって感覚が少しでも逸れる事はない。
彼女達もまた超一流。
空気を裂いて高速で飛来する物。
二人は瞬時に察知。
それは小さな鉄球。
一際周囲を振るわす高い音、それと衝撃、光。
一直線にババ様へと向かっていたそれ。
「シャレイ、逃すでないぞ」
遮ったのはリライの鉄の糸。網のように張ってそれを防いだ。
それより前にシャレイが駆ける。
軌道からもう一人の位置を特定。
その場へと、風の如く。
その後、二射、三射と追撃がくるも。
巻き網のように前方へ広げるリライの鉄の糸が絡め取る。
九尾とは文字通り本体であるババ様の尾。
それぞれが矛であり盾であり手足。
自動で動く超高性能な殺人マシン。
シャレイは捉えている。
高い場所で、当初から存在には気付いていた。
だが相手の天然光学迷彩がこちらの索敵能力を上回っている。
まさにそれ用に特化したかのような立ち振る舞い。
それでも今は。
「いるネ、見えてるヨ、もう逃げさないネ」
壁を垂直に、高低差、段差、シャレイにとって全て平地。
柵を跳び越え、着地と同時に横へ飛ぶ。
その場を鉄球が通り過ぎた。
シャレイが同じ位置に一秒でも留まる事はない。
残像をその場に、つねに移動しつつ。
相手と対峙。
下の大男と同じ白い服、そして鋭い歯形のマスク。
間違いない、雰囲気が以前自分が戦った者と酷似している。
なら確実な事が一つ。
「お前も相当強いネ、楽しみヨ」
斜め前でジグザクと瞬動、ナイフを構えて。
やがて二人の距離は皆無。
◇
ういうい、円、なの、だ。
今私はチャイカと自転車に乗りながら坂を駈上っており。
そして。
「ひぇええええええええええええ」
後ろからヒュンヒュン飛んでくる矢を避けているの、だ。
足だけでチャイカの体にしがみつき、体は海老反り。
後方確認。
「な、なんなの、だ。あれは」
ここは斜度でいえば二〇%近くある坂なの、だ。
それをだ、弓を構えているので勿論両手はハンドルから手を離して、立ち漕ぎしながらロードバイクでヒルクライムなの、だ。
と、思ったら、今、私の視線に何かが通り過ぎた。
「追いつかれたか。流石、トレップドマーレ、いいロードだ」
いつの間にかすぐ斜め後ろにもう一人。
こちらは鎖鎌をブンブン振り回している。勿論手放し。
「いいね、まるでゲームみたい、まどっち、視点任せたっ」
「え、ゲーム、え、視点? どういう事なの、だっ」
「そのまんまの意味さ」
◇
チャイカの視界にモザイクが入る。
ドットが世界を書き換えていく。
画面は横スクルールに。
自分と円をのせた自転車、それを追う二台の自転車。
後ろの二台はたまに攻撃を仕掛けてくる、矢が飛び、鎌が飛ぶ。
コントローラーの十字キーを右、左と押してそれを避ける。
血と臓物だらけの戦場で。
いつしかチャイカは見方を変えた。
最近の実写と見違うような美麗なグラフィックはいらない。
懐かしいあのドッド絵、それでいい。
あれなら脈うつ心臓も、蠅のたかる死体も、千切れた腕も足も、ずっと見ていられる。
「矢、来るの、だっ! あ、鎌もっ!」
「オーケーっ!」
下を押して身を屈める、タイミングを合わせて横ボタン。
この世はゲーム。操作さえ間違わなければ全てうまくいく。
しかし、もう追いつかれたのも事実。
ここからはジャンルを変えなければノークリア。
「まどっち、もうすぐ頂上につく、その後はまた坂だと思う、だから一時サヨナラだねっ」
「えっ、どういうっ」
ハンドルを持ってチャイカはその場で逆立ち。
頂上についた瞬間、手を離し後方の弓を構える女へと変則ドロップキック。
円は自転車に取り残されそのまま下り坂へと。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
円の絶叫が遠ざかっていく。
弓使いの黒い女は引き釣り降ろした。
鎌男はそのまま円を追いかけていった。
チャイカの目には一人の女がドッド絵表示される。
もう一人の男にも同時に攻撃は仕掛けていた。自転車前輪のスパークを狙ってナイフを放ったが鎌で弾かれた。
「本当は二人ともここに留めたかったけど。良かったよ、二人がかりだとちと骨が折れた」
相手のステータス、謎の女。レベルは99。
◇
ういうい、円、だ。
なんか知らないうちに自転車を運転してるの、だ。
そうこう言ってる間にも。
「ひぃ、ひょえ、ひぃいい」
鎌がヒュンヒュン飛んでくる。
今が下り坂で良かったの、だ。これが登りならとっくに死んでるの、だ。
マックススピードを出せる分、何とか逃げ切れておる。
ギリギリ、相手の間合いの外をキープ出来ているが、下り切ったらどうなる。
頼りのチャイカとはどんどん離れていき。
そして、その時は訪れる。坂の終わり。
◇
円は知らない、すでに発動している。否、もう過去何回もこれは起こっている。
過保護な、可愛い、愛する、残した、プログラム。
◇
下り坂、平地にさしかかり、惰性のスピードは緩やかに落ちていき。
鎌が首を今か、今かと。
切っ先は迫り、迫り。
黒き死神。
それは届く、まずは後輪。
「ふぎゃああああああああ」
狩りとられ、まだかなりのスピードを要していた自転車のバランスは崩壊する。
制御不能となった自転車から飛び降りる。
地面に足をつけたが最後。
切っ先は迫る、迫る。
黒き死神。
それは届・・・・・・、かない。
弾くは警棒、追い返す。
空からの攻撃、鎌を叩き落とす。
「っ!」
それはユラユラと目を覆う着物柄の帯。
「汐見、かっ!?」
ふわりと身を置くは小柄な少女。
「あぁ、本当面倒くさい。なんで毎回毎回私がっ」
「た、助かったの、だ」
思わぬ援軍にほっと胸をなで下ろす。
しかしそれも束の間。
「いい、そこのクソ殺人鬼、よく聞きなさいっ! 前に格闘大会があったでしょう」
「おうっ?!」
格闘大会、私達が蛇師匠達と前に一緒に参加したやつなのだ。
「本当は分かっていたのよ。分かりやすく言えば、あの時私の強さは五段階で4、他の三人は5だった」
「お、おうっ!?」
「そして今、目の前にいるあいつも5よ。つまり私より強いって事」
「ええっ!?」
なら負けるの、だ。やばいの、だ。
「ちなみに、あんたは2よ」
「・・・・・・・・・・・・」
鎖に繋がった鎌が空気を切り裂く。
ずっと相手の頭上でグルグル回っている。
一応、あっちも見極めているのだ。
まだ攻撃はしてこない。
「どっちにしろ、もう汐見に頑張ってもらうしか、ないの、だ・・・・・・」
他力本願でも私では太刀打ちできないの、だ。
「何言ってんのっ! 頑張れじゃない、あんたも頑張んのよっ! 4足す2はっ!?」
「・・・・・・え、6なの、だ」
「ならギリギリいけるでしょっ!」
大きく息を吐いて。
汐見の纏う空気が代わる。
「そう、か、そうだ、な」
汐見が警棒を強く握り直し。
私もナイフを握った。