ういうい、ゆるポタ中なの、だ。(続 頂上決戦編 其の三)
毎度の事ながら各小道具の名前は微妙に変えております。
ういうい、円、だ。
今、私、いや私達は・・・・・・。
長い長い下り坂を自転車に乗って下ってるの、だ。
「いい風、いい風、最高だね、まどっちっ!」
「いやいや、落ちる、落ちるの、だっ!」
必死にチャイカの肩にしがみつく。
自転車の二人乗りは駄目とかいう以前に、この自転車はそもそも二人で乗るような構造じゃないの、だ。
所謂ロードバイクというもので、今の私はチャイカのリュック? マント? のような状態。
「このまま、追っ手を振り切るよっ! それにしても、このスペチャライズド、M-WORKSターメックっ。私の体にとても馴染むっ!」
纏わり付く視線から逃れるためにチャイカが目をつけたのは、たまたま店頭の外に置いてあった試乗車。
「最上最新モデルの電動コンポ、ディスクブレーキの効きもよく、何より速いっ」
「いや、もうチャイカが乗れば何でも同じなの、だ」
人力というエンジンがまずその辺の一般人とは違うの、だ。いくら車体が軽いとはいえ私が乗ってる時点でアドバンテージは無いに等しい。
「しかし、自転車ならこの町中で小回りも効いて追っ手を振り切るなら好都合・・・・・・」
「いや、全く殺気が途切れない、これは相手も・・・・・・」
そうなのだ、私も後ろを振り向く余裕はないが、確実に後ろ髪を引かれる感覚がずっと続いている。
スピードに乗りながら高速でカーブを曲がる、その時、チャイカが横目で後ろを確認。
「今、ちらっと二台見えた。相手も自転車で追って来てるっ」
「・・・・・・この先は、坂道を終え、逆に登りのきつい檄坂に変わるの、だっ!」
「へぇ、それはいいねぇ、相手の自転車は多分トレップのドマーレ。ならこっからはヒルクライムで勝負といこうかっ」
言葉は弾んで、チャイカはただただ楽しそうだった。
◇
道路のど真ん中で。
二人組同士が対峙していて。
「くすくす、まさかこんな異国の地まで来て戦闘とか」
「ま、しゃーなしっしょ、これも運命、そう俺らはもう生まれた時から戦う宿命」
砂糖のような白い二人の衣装。
低身長の金髪マッシュの女、口には黒い歯形のマスク。それに手を添えて笑いを抑える。
その女よりは少しだけ背の高い男。両目は猫のようで、口は同じ黒い歯形のマスク。つねに肩を左右に揺らしフラフラしている。
それらに向かい合うは。
「・・・・・・スーアン、こいつらの詳細は」
「う~ん、まったくもって不明☆」
黒い服はブラックペッパー。
中肉中背、長い髪を後ろで束ねる男、左の黒目に色素はなく白く眩い。
隣には黒いドレスを着こなす小柄な少女。
「こいつらには死相が見えない。こんな事滅多になきこと」
「そうだね☆ この人達、やば強だ~★」
互いになにかを口にして。
そして。
合図などない。
鳥が飛び立つ時のような波紋もなく。
離れていた二人が。
同時に飛び込み。
唐突に戦闘が始まる。
どちらかの足か、腕か。
まずぶつかり。
弾かれ、しかし、それは生かされ、瞬時に次の手へ。
「しゃっ!」
黒い陣営、飛び込んできたのは男の方。
九尾筆頭、一尾ロウトウ。
その拳が打ち上げるように白い陣営の女の胸を激しく打ち付ける。
その衝撃からか女の体は空へと舞い上がる。
追撃は回し蹴り、一瞬宙に浮いた女の体が一気に横へと吹き飛んだ。
「ありゃりゃ、もう終わり?★」
遠目で見ていた仲間がそう確信したのも無理はなく。
仲間だからこそよく理解している今の二撃。
普通なら最初のだけでも肋骨は砕かれ骨が肺に突き刺さる致命傷。
しかし。
「くすくす、痛いなぁ」
女は飛ばされながらもくるっと体勢を整え、膝をつきながらも元の位置へと戻った。
「・・・・・・手応えは確かにあった。どういう事だ」
「くすくす、教えな~い」
笑いながらも、また距離をつめる。
参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチ所属。
死の通達人、マトローナ。
彼女に。
「シャ、シャ、シャアァアっ!」
ロウトウの強烈な打撃が続けざまにマトローナの体を破壊しにかかる。
も。
「くすくす、だから痛いって~」
打撃は一切通じない。
マトローナの表情は涼しげ。
「ちっ、面妖な」
ロウトウの足の裏から煙りが上がる。
渾身を込めた打撃。
否。
いつの間にから手には刃物が握られていて。
「おっとっ!」
射られた矢のような直進をマトローナは体を捻り躱す。
「くすくす、流石にそれは防げない」
ロウトウは瞬時に効果的と判断、流れるように刃物を振るった。
「わ、わ、わ、危ない、危ないって」
高速で指揮棒を操る指揮者のように。
その切っ先は。
「腋、手首、首、狙うは確実にナンバリング。クスクス、だけどそれが逆に分かりやすい」
マトローナは髪一重でそれを避けながらも、後ろへ視線。
それは仲間に向けられたもので。
その意図を察した白い猫目の男は。
「ほれ、持ち込めない銃の代わりってね」
マトローナの元へ何かを投げつけた。
「ありがと、これで・・・・・・」
回転しながら飛び込んできたものは。
光が爆ぜる。
ロウトウの刃と。
マトローナが受け取った小さなシャベルが激しくぶつかり反発。
シャベルの丸い柄がロウトウの腕に当たる。
瞬間崩れるロウトウの体。
「くすくす、反撃できる」
膝はロウトウの顔を歪ませて。
反対に仲間の元へと戻される。
◇
同じ街の、だけど違う場所で。
「ホントなんネ、こいつら」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、こんな割の合わない死事なかなかないヨ」
九尾、シャレイとリライが戦ってる相手は。
白いジャケットを着た大男。
スキンヘッドでとにかく巨体が目立つ。
シャレイのナイフによる投擲、リライの鉄の糸。
それら全てが男の拳によって弾かれる。
「あれなんネ、メリケンサックってやつカ?」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、ワタシ達にはとても相性悪いネ」
こんなに苦戦したのはいつぶりかと二人は考え。
案外最近だったと思い出す。
目に映るのは大男だけだったが。
二人はちゃんと気付いていた。
身を隠しているがもう一人近くにいる。
これがまた厄介で。
どう行動してくるか分からない分、意識が分散する。
「このままじゃただ時間稼ぎされるだけネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、どうするか考えないとダメヨ」
二人が攻めあぐねていると。
今まで晴れ渡っていた空に。
急に暗雲が集まりだし。
暗く。
光を遮り。
どんよりと。
重く。
「どうやら考える必要なくなったネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、これでこちらの準備は万端ヨ」
二人は何を思ったか、中央を開けるように左右に分かれ。
目を瞑り、頭を下げる。
そこに出来た道。
それは覇道。
「ほう、お前達でも苦戦するか。これは中々楽しめそうじゃ」
奥からゆっくり歩いてくる者。
「お疲れサマデスネ」
「お疲れ様です、ババ様」
普段小さい声のリライが唯一大きい声を上げる時。
「ふむ、山のように大きく強靱な肉体を持った男じゃな。だがお主・・・・・・」
九本の尾は全てこの身に。
「死相が見えておるぞ?」
それは厄災そのもの。
スペシャライズドにも乗ってるので今回出してみました。S-WORKSではないですけど。