おや、腰が重いとも言ってられませんね。(対シャーデンフロイデ 其の一)
其の一ですが、シャーデンフロイデ自体は文化祭あたりから出ております。
こんにちは、蓮華です。
特殊任務から円さんが戻ってきました。
白頭巾はすでに待機済み。
「では・・・・・・そろそろ引きずり出しますかね」
ここ最近起きてる事件の数々。
一見繋がりのなさそうな複数の事件。
加害者、被害者、どれも接点はなく。
でも、これらには裏で手を引く人物がいるのです。
うまく隠れています。
自分の手は汚さず、自分では何もせず。
暗闇に手を伸ばします。
私の手は見えない何かを掴むことでしょう。
◇
壁一面にはびっしり並ぶモニター。
床には週刊誌、新聞の山。
ここはどこかの部屋。
「これなんか、どうかな?」
「どれどれ、お、いいね。両親は・・・・・・良い感じで屑だね」
「そうだよ、親はアルコール依存、ギャンブル依存、勿論虐待を日常的に行っていたよ」
「素質は充分だね。で、この子の現状はどうかな?」
「結構な歳までおねしょをしてたみたいだね、小動物への虐待も確認してるよ」
「友人もいない、つねに孤独。素晴らしいね」
「そうだね、次の候補はこの人にするよ」
「いいと思うよ、じゃあ準備をしようか」
◇
蓮華です。
これは例の犯人たちの一人が取り調べ時に言った言葉です。
「これは使命だと思ったの。SNSには悪魔達がいっぱい潜んでいたから」
逮捕されたのはまだ10代の少女でした。
「ある日、ディスクが送られてきて。それは知らない映画だった」
内容は、よくある勧善懲悪のヒーロー物だったと。
その主人公が女性で犯罪者を軽快に叩きのめす姿が描かれていて。
「私も出来るんじゃないかって。何回も見たわ。そう、もう壊れるくらい。いつしか私は主人公のミラルダと同化したの。彼女の持ち物は全部調べて集めたわ。それこそ作中、悪者を刺し殺したナイフなんかも」
彼女は自分でいうように作品の中に取り込まれてしまったのでしょう。
そしてそれはフィクションと現実の境界線すら曖昧にし。
「えぇ、何回も刺したわ。ちゃんと数えてた。最初の男は23回。最後は10回、うまくなった、だから死んだらもう手を止めたの」
この少女は淡々とそう供述してました。
送られてきたディスクの心当たりは全く無かったようで。
でも、これが件の犯人達を繋ぐ糸になってました。
犯人達の境遇は似ていて、どれも幸福とはほど遠い幼少期を送っております。
「厳選してますね。この先導者はとても質が悪い」
危うい綱渡り、助けるどころか突き落とす、吐き気すらしますね。
◇
狭い一室、インクの臭い、モニターから広がる白い光。
「ミラルダも捕まっちゃったね。彼女はとても優秀だったよ」
「そうだね、彼女は完全にミラルダになっていた。作中のように悪を倒したね」
「彼女が発信すれば欲望に塗れた大人達が簡単に釣れたよ。そんな男達の期待を想像すると溜まらないね」
「そうだね、あわよくばだね、うまくいけば、若い、体を、貪り尽くして・・・・・・」
「ドキドキだね、簡単に会えたと、これはやれるって、直前までは・・・・・・」
「でも、どうなの? どうだったの?」
「それが、死んだよ、何回も、刺されてぇ」
「うふゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、何回もっ」
「ぎゃはかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、うん、出したのは大量の血」
「素晴らしい、素晴らしいぃおおお、頂上からどん底へ落とされる、あぁああ、ななんなななんて素晴らしい」
「あぁあ、ミラルダ、ミラルダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、君は最高のヒヒヒヒヒヒヒヒーーーローーーだ」
絶叫は渦のように。
それは古い洗濯機を見てるようで。
汚れと泡と水が合わさって、回って回る、これはなんとも似ていた。
◇
蓮華です。
これはまた別の事件の犯人の供述。
「僕の母親はとても攻撃的な人だったんだ。いつも怒鳴り散らし、よく物が飛んできたよ」
この犯人の幼少期もかなり悲惨な状況でした。
「知らない男の人もよく訪れた。一番長くても3ヶ月くらいかな。居座る時間こそ違ったけど、共通してたのは母親と一緒に僕に暴力を振るうって事だったね」
この加害者はまだ若く。
「で、ある日だよ。車で買い物に出たんだ。僕は後部座席で、母親と男は前に座ってた。そして事故は起こったんだよ。元々運転は荒かったからそれは必然だったのかもしれない。フロントは潰れ、前にいた二人は足を挟まれた、潰されたっていったほうが正解かな。僕はといえば運良く軽傷だった。でね、前の二人が僕にいうんだよ・・・・・・」
今まで無表情だった青年がその時初めて笑ったようですね。
「助けろって」
青年は笑いを堪えきれず心から微笑んだと。
「僕にとって絶対的な存在だった二人がだよ、よりによって毎日虫けらのように扱っていた僕に助けを求めたんだ。心臓が飛び跳ねたね。あいつら泣いて、苦痛の表情で、僕に助けろと、誰か呼んでこいって、何度もいうんだ、早く、早くって」
これが切っ掛けですね。
この青年の犯行傾向。
相手の動きを完全に制限してからの。
絞殺。
「ずっと見てたよ。二人が死ぬまでね」
◇
耳を澄ませば息遣いが鮮明に聞こえるような部屋で。
「マザファザキラーが捕まったね」
「そうだね、彼はとてもいい逸材だったのに残念だよ」
「最終的に3人くらい絞殺したみたいだよ」
「そうだね、思ったより少なかったと思うよ」
「確かにそうだね。でも・・・・・・」
「そう、それは重要ではないね」
「彼に期待したのは別の部分だよ」
「うん、なんたって、彼は・・・・・・」
「うん、なんたって、彼は・・・・・・」
何かが噛み砕かれて。
「キキキキキキキキウキキ既婚者でぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ、小さい、小さい、子供がいるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「なああぁあああああああああああああああああああああんんて、いいいいい、いい、いいっ!!!! どうなの、奧さん、奧さん、どうです、どうあんんです??? 夫がさ、旦那さんが、連続殺人犯ってどうなのかな? かなあ?? 聞きたい、聞きたいです、どうなんですあぁあああああああああああああああああああああ」
涎が、零れる、溢れる、口から無限に湧き出る。
「子供、どうする、どうなる、いきなり、いなくなる、パパ、いないのぁ、急にいなくなっちゃあうううううううううううううううううううううううううう」
「昨日までいたのに、いたんだよ、遊んでくれたの、でも今日はね、いないの、だって、捕まったから、人をいっぱい殺して、捕まったからぁあああああああああああああああああああ」
想像する、同期する。
「もっと教えて、もっともっと」
「そう、いつもありがとう、でももっと欲しい、おしえて、我らシャーデンフロイデに」
◇
こんにちは、蓮華です。
椅子から腰を起こして。
「円さん行きますよ」
「・・・・・・ういうい」
先導者は知りたいんですね。
分かってますよ
「円さん、利用された犯人・・・・・・導かれた者達の元にはディスクの他に一枚の紙が挟まっていたみたいですよ」
「ほう、なにが書かれていたの、だ?」
「人によって内容はまちまちみたいですが、なにかテストのようなものだったと」
「テスト?」
「ええ、最終審査のつもりだったのか。確認する手段はなかったはずなんですがね、ようは質問です」
「どんな質問だったの、だ?」
「えっと、その中の一つにはこう書かれてました、[貴方は殺人鬼でこれから人を殺しに行こうとしています。そこで貴方は凶器の包丁を用意する事にしました。一つは安物で使い古された包丁、もう一つは数万もする新品の高級包丁です。貴方はどちらを持っていきますか?]です。円さんならどちらにしますか?」
「う~ん、そうだ、な。私なら安物のボロ包丁なの、だ」
「ほう、それはどうしてです?」
私達はエレベーターに乗り込み。
「どうせ殺すの、だ。切れ味の悪い方が余計に痛みを与えられ、より苦しめられるの、だ」
円さんは自然にそう答えたのでしょうが。
それ正解ですよ。
勿論、悪い方にですけどね。
頂上決戦編と交互にやっていこうかと思います。
関係ありませんが、かげきしょうじょ!!は人物の心理描写、構成など、なにもかも素晴らしいです。