おや、これは餌ではなく劇薬ですね。(続 頂上決戦編 其の二)
こんにちは、蓮華です。
私を中心に広がる円網。
8つのモニターは、まさに蜘蛛の瞳。
糸を揺らすは。
「おやおや、これは、これは・・・・・・」
簡単に引き千切られ、逆に引き寄せられる程の者達。
「一体、なんの用でしょう、尾が三本」
通常、一本で事足りる死事。
それが今回は三本です。
ターゲットはよほど大物か。
それとも・・・・・・。
「糸にはかかりましたが・・・・・・私は動かず様子を見た方が良さそうですね」
不用意に近づけば。
喰われるのはこちらになってしまいます。
◇
こんにちは、種です。
「それでさ~」
「ぐはは、それは最高ですな」
「まったくです」
螺苛、刺苛と談笑しながら街を練り歩く。
特に目的は無かったの。
あくまで自然に。
お喋りに夢中で。
でも今、気づく。
無意識に私達は選ばされていた。
自然に、こちらの道はなにか嫌な感じがする、みたいな。
強制的に選択させられ。
いつのまにか、人気はなく。
まるで異空間に飛ばされたような。
「・・・・・・誰かな?」
違和感が確信に変わった瞬間。
私達は、身構えた。
「あぁ? 本当にこいつらで間違いないんか?」
「私が知るかよ。おう、ラオユエ、どうなんだよ?」
「ふむ、間違いなき。この三人はターゲットの中でも最優先」
とにかく目つきが悪い若い男女、そして落ち着いた雰囲気の大柄な男、合わせて三人。
顔、首、肩から伸びる筋肉質の腕、見える部分からは埋め尽くされた傷、傷、傷。
大きめの眼鏡をかけるおさげ女。猫耳パーカー、ホットパンツといった見た目に反して、その表情は猛獣のよう。
この二人は殺気を隠さない、見せつけるように、相手を威圧するように、その体からとてつもない総量の黒い靄が立ち上る。
対象的に大柄な男は、深き森の中の澄んだ泉のような静寂さを持ち合わせて。
「・・・・・・種さん、悪い、もう逃げられないわ」
「・・・・・・ええ、ごめんなさい、私達、ここで死にます」
逃げるという選択肢は考えようともしなかった。
それほどの、所謂詰むといった状態。
この三人を、今、この距離で、目にしていること。
それが終わりの始まり。
「・・・・・・九・・・・・・」
言いかけて、とっさに口を噤んだ。
危ない、危ない、正体を知ってると悟られれば、もう死ぬまで追われる。
今ならまだ惨劇を回避する事はできるのだから。
そう、私はまだ生きる事を諦めてはいない。
「・・・・・・質問があるの。多分、貴方達は殺し屋さんだと思うのだけど、仮にこちらが先にそっちの依頼人を特定して始末した場合、依頼自体は無効になるのかな?」
そちらの正体、そして依頼人、見当はついてるけどある程度ぼやかして質問してみる。
あくまで淡い期待。
「あぁあ? んなわけあるか、依頼は必ず完遂する決まりだぁ」
「もういい、サンアン、さっさと殺せや。なんで、こんなのにうちらが三人も・・・・・・」
「ターゲットはこやつらだけではない、そういう意味では人数は多いに越したことはあるまい」
淡い期待はあっさり打ち砕かれ。
でも、そう・・・・・・。
隠したね。
さぁ、ここからは依頼人である貴方と私の賭け事。
どっちが勝つか。
貴方か。
それとも私か。
「答えはすぐだよぉ」
私達は、軽く後ろへとステップ。
少しだけ距離をとる。
前方の三つの尾は、私達の行動を完全に捉えていた。
私達が仮に無数のパターンで逃げようとしても、その全てはもう死に繋がっている。
漫画やゲームのように何万回リセットできようが、また何万回殺されるだけなのだ。
割って入ったのは雷光。
稲光のようなそれは私達を見事に遮断した。
「ふう、これはびっくりですぅ。まさか、こんなとこで貴方達に再会するなんて」
両目の光が仄暗く揺らめく。
長い黒髪は真ん中で綺麗に分かれ。
全体的に黒い服の切り込みからは中地の紫色がアクセントになっていた。
手首には大きな四角い鉄の塊、足首には太い鎖。
どちらも彼女の行動を大きく制限するものだったけど。
丸まった背中、顔だけを三つの尾に向けた。
私は目を疑った。
さっきまですぐ近くにいたのに。
いつ動いたと。
三本の尾は、最初の位置から大きく距離をとり、かなり後方へと下がっていた。
「おいおいおいおいおい、冗談だろ・・・・・・」
「思わず頭を下げそうになったわ」
「・・・・・・なぜ貴方がここに・・・・・・」
これは。
いや、まだ分からない。
どっちだ。
「ラストミールさん、鍵はいる?」
彼女の制限を解除する最終アイテム。
それを、彼女は首を軽く振り。
「いいえ、必要ありません」
そういい、微笑んだ。
「退くぞ、三人じゃ勝てん」
まず一番冷静な男がそう小さく呟いて。
「・・・・・・シンイーさん、久しぶりに家族に会いたいでしょう」
女が睨みながらゆっくり下がる。
「また来ます。今度は全員で・・・・・・・」
傷男も、目は離さずに後ずさり。
そして。
瞬きの間に、その姿は消えた。
「どうやら、賭けは私の勝ちのようだね」
しかも大勝ち。まさか戦闘にすらならないなんて。
でも、これでなんとなく察しがついたよ。
ラストミールさんの異常な強さ。そしてあの一族となぜ繋がりがあったか。
「やばいねぇ。もしかしたら私達が爆心地かなぁ」
うふふ、上等じゃないの。
震える、自分を抱きしめて、楽しい、人を殺すのと同じように。
どこまで広がる、この破滅的な爆風は。
やばいあやいあややい、強力なカードを持ち合わせて、ぶつけあうの。
とけるの、とけちゃう、しぬの、しんじゃう、どっち、はてはあるの、あぁ。
私、今日も生きてる。
少しでもずれてれば死んでた。
でも、生きてる。
感謝しなきゃ。
あぁ、姉様、
あなたの、種は。
今日も元気です