ういうい、久しぶりなの、だ(続 頂上決戦編 其の一)
シャーデンフロイデ戦跨ぎます。
ういうい、円、だ。
シャーデンフロイデの件から数ヶ月。
私の元にメールが届いたの、だ。
「私にメール。どういう事なの、だ。この端末は完全に仕事用、連絡先はレンレンと白頭巾しか知らないはず・・・・・・」
なにか偶然による手違いか。
とりあえず確認してみる。
そこには。
久しぶりだね、君に会いたい、所定の場所にて待つ。
そう書かれていたの、だ。
「?? どういう事なの、だ」
そしてこの文字とは別に画像として張られていた意味不明の文字列。
「??? 一体これはなんなの、だ??」
暗号の類いか。
なら私はこういうのが得意なんだ。
昔、姉御でも解けない暗号を解いて褒められたことがあったの、だ。
あれは確か、狸の絵があって、それを見た私は天才的な機転で文字からタを抜いて正解を導いたの、だ。
「ふむふむ、なら、これも簡単にいけそうなの、だ」
それから数時間後。
簡単に解けると思った私だったが、一向にちんぷんかんぷんだったの、だ。
「レンレン、これなんだが・・・・・・」
私はレンレンの元へと。
分からないからレンレンに相談しに来たのではない。
仕事用の端末に送られてきた謎のメールについて一応報告するためなの、だ。
決して私が音を上げた訳ではないの、だ。
「ふむ・・・・・・なるほど。最後の数字は何型か、ですかね。となるとその通りにこの文字列を回していけば・・・・・・大丈夫です、今は原理が判明されてますので」
びっくりするくらい、あっさり解いたの、だ。
「なにか、分かったのか?」
「いえ、また別の文字列になりました。これはURLですね」
今度はそれを打ち込みリンク先へと。
すると。
「画像と文字が出てきたの、だ。なになに・・・・・・何語なのだ、これ」
「北方の言葉ですね。えっと、翻訳すると・・・・・・残念、これは外れ、どうやら君とは会えそうにない、と書かれてますね」
「えぇ、じゃあ、最初のが間違ってたの、か?」
「いえ、文字の中に、ある単語が潜んでいます。それを組み合わせると、一つの暗号ソフトに繋がりますね」
「ほう?」
「このソフトはあるデータを別のデータの中に埋め込んで隠す事ができるというものなのですが。これで先ほどの画像を解析してみますと・・・・・・」
「あ、またURLが出てきたの、だ!」
「そうですね、とりあえず飛んでみましょう」
「ん、これは通販サイトか?」
「なにかの本のようですね。しかも、個人的な・・・・・・価格は無料です」
「ならその電子書籍版を購入してみるの、だ」
「・・・・・・紹介文にはなにか明らかに鍵になりそうな文面がありますね。ちょっと待ってください・・・・・・158ページには何があります?」
「真っ白なの、だ」
「・・・・・・なら、これはノンブル自体を組み合わせろっと事ですかね・・・・・・」
「む、なんか電話番号ぽくなったぞ」
「・・・・・・かけてみましょう」
もしかしたら送り主に直接繋がるかと思ったのだが。
「録音された機械的な音声なの、だ」
「なんて言ってます?」
「なんか、最初の画像から6つの数字を導き出して型の数字と掛けろと。と。でも最初の画像は最後の3しか見当たらないのだ」
「回した時も数字にはなりませんでした、となると別の切り口が・・・・・・円さん、画像自体のデータはどうなってます?」
「えっと、一般的な拡張子の画像ファイルで・・・・・・あ、サイズっ!」
「そうです、縦横、どちらも三桁ではありせんか?」
「ビンゴなの、だ。画像のサイズは412×398、これをそのまま最初の数字と合わせて掛け算すると・・・・・・」
「その数字にドットコムをつけると・・・・・・また画像が出てきました」
「・・・・・・これはQRコードなの、だ」
「読み込んでみましょう」
「あれ、またさっきの通販サイト、今度は音楽データ、だ」
「これもタダですね。一応、落として・・・・・・」
レンレンは落とした曲を楽譜に書き起こすと、そこからまた別の文字列を導いた。
「これはダイアドでしょうか、少々お待ちを・・・・・・」
出てきたのはまたリンク。
「ん、でもこんなドメイン見た事ないの、だ」
「これは所謂ダークウェブのドメインですね」
「打ち込んだらまた文字と何か入力する画面が出てきたの、だ」
「文字にはなんて、書いてあります?」
「なんか、ここにアドレスを入れろと、すぐに返信するって書いてあるのだ」
「お、ようやく送った本人と直接やり取りできるんでしょうか」
「とりあえず入れてみるの、だ」
◇
ういうい、円、だ。
最終的に辿り着いた先にあったのは座標。
その場所へ向かう途中の出来事。
「なんなんの、だっ!」
追われている。
常人にはとても出せない殺すという感情。
ただ深く、ただ鋭い。
これだけで死にそうなほど。
人混みを掻き分ける。
纏わり付く視線と殺気は決して振り切れない。
こいつは私を殺るの、だ。
いつ、いかなる場所でも。
誰にも気付かれず、静かに私を殺せる。
大量の一般人に囲まれた状態で、それを可能とする技量。
「一体誰なの、だっ」
私は罠にはめられたの、か。
あの意味不明なメールは私をおびき寄せるための。
「いや、違う」
私には確信があった、メールの送り主に。
そもそもあんな難解な暗号文を作る意味もない。
ただ走る。
座標の場所まで後少し。
近道である裏路地へ。
そして目の前に人影。
「ち、一人じゃなかったの、だっ!」
これは追ってくる奴の仲間。
雰囲気が、色が同じなの、だ。
「おうおう、すげぇなお前、ここまであいつから逃げ切れるとは」
目の前の男が感嘆の声を上げる。
このままじゃ、挟み撃ち。
私は左右の壁に視線を移し。
飛ぶ。
僅かな足場を頼りに。
飛び上がる。
手をかけ、足をかけ、上へ上へと。
「おいおい、お前思ったよりずっといいじゃん」
男はそういうと。
「まぢで、なんなの、だっ」
まったく同じ、いや私を上回る速度で壁をよじ登ってきた。
フェンスさえ飛び越え。
ビルの屋上へと足をつける。
ほぼ同時、男はすぐ後ろ。
「・・・・・・」
そして前には。
「手間かけさせんなやぁ」
でかい眼鏡、猫耳フードパーカーにホットパンツというキュート全開の格好に対して。
その目つきはあまりにも鋭かった。
追ってきてたのはこいつ。
瞬きほどの足止めで先回りされた。
「よく逃げた方だが、ここまでだな」
後ろの全身傷だらけの男、ゆっくりと近づいてくる。
「・・・・・・・・・・・・」
もう逃げる事は不可能。
出し惜しみは即死。
私の基準の最上、よく分からない強さ、それが二人。
心を落ち着かせる。
暴風雨の中でさえ音を遮断し。
数年後の自分。
蛇師匠の元で成長し続けた自分を。
無理矢理引き出す。
「っ!」
私のナイフと、女の足先の刃物が激しくぶつかる。
閃光、それは何度も瞬く。
私は全神経を女だけに集中。
二人がかりで来られたら何も出来ずに死ぬ。
だから、割り込めないほどの速度を。
二人だけの世界を。
「・・・・・・・・・・・・」
反転、ナイフ、殺す、届け、ナイフ、反転、ナイフ、届け、肉体へ、死ね。
光は、花火のように。
「こいつ、前情報より全然強いじゃないか、あのアマ、また嘘つきやがったなぁああ」
女の体が地面を滑る。
両足を開き、ウインドミルのように回転しながら攻撃してくる。
音を光量はどんどん増していき。
「ぐっ」
軋む、体。
このレベルまで引き上げるのはそうとう無理があったの、だ。
私が想像できる最高峰は蛇師匠の強さ。
今の私は僅かな時間だけその動きを模倣しているだけに過ぎない。
当然リミッターは外れ、限界は近づいてくる。
だが。
もう勝つ事はとうに諦めている。
狙われた時点で私は詰んでいたの、だ。
なら、私は今何をしているのか。
足掻いているだけ。
藻掻いているだけ。
否。
伝えているの、だ。
「私はここにいるの、だぁあああああああああああああああああああああ」
刃物が交差して甲高い音が周囲に響く。
光も爆ぜる。
そして天には声を。
指定された座標はもうすぐそこ。
届け。
私の存在を示し。
届け。
触れあったのはほんの少しの時間。
届け。
でも確かな繋がりは感じたの、だ。
生まれた国も、境遇も、歳も、人種も、なにもかも異なったが。
「ようやく会えたね」
声は届いた。
その者の存在にいち早く気付いた眼鏡女の姿はすでに遠く。
逆に傷男の雰囲気が急変。
殺気が段違い、一気に頂点へ。
開戦の合図はない。
「リンシャンッ! こいつは俺のだっ! 俺がやる、絶対だっ! これは俺のだっ!!!」
傷男、次の瞬間には私の目の前に。
そして。
相手の拳と彼女の拳がぶつかり合う。
その衝撃を間近で受けた私は地面に体を引き摺られ。
傷男の目は血走り、涎さえ垂れ流す。
それほど興奮していた。
もはや目で追うのも困難な二人の動きを見ながら。
やはりメールの相手に間違いは無く。
私は正しかったと胸をなで下ろした。
◇
ういうい、円、だ。
数々の暗号を解いていった先。
「おや、これは座標ですかね」
「これはどこ、だ?」
「えっと、あれ、これこの街ですよ」
「ん~?」
「文字も添えられてますね。・・・・・・まどっちへ、私はここで待つ、ですって。どうやら最初から貴方宛だったんですね、心当たりは?」
「ふみゅ~、まったく無いの・・・・・・いや、まどっち、って確か・・・・・・」
すぐに頭に顔が映し出される。
そして、名前。
忘れるはずもない。
最後に声。
彼女はこう名乗った。
チャイカと。
◇
強烈が風が二人を包み込んでいて。
実際それを起こしているのは他でもないその者達。
漆黒の髪が、吹き上がる。
初手から永遠に続くかのような攻防。
先に均衡を破ったのは。
チャイカの膝、からの足を伸ばした強烈な追蹴り。
防御したまま傷男が吹き飛ぶ。
それと入れ替わるように眼鏡女が突っこんできた。
「二人がかりね、まぁいいけど」
刃物付きの空間を切り裂く蹴り、シュ、シュ、シュと、上段、顔狙い、下段、足狙い、体を回転、させて、今度は腸を狙い、だが全部髪一重で躱す。
「なんだよ、お前、こいつの仲間かよ!?? あの女、これも隠してたってか、いやこのレベル、ここまでくると依頼そのものが破綻するほど、さすがに、じゃあなんだってんだっ!?」
まるで地面との摩擦がないかのように、眼鏡女は両足を上にして地面を滑る。
高度なダンステクニックと、殺人技が融合したように。
ギロチン蹴りは少しでも触れれば肉は裂け、血が噴き出す。
それらがチャイカの体に届くことはない。
全て躱しきると、伸びきった相手の足首を掴んだ。
眼鏡女の体が宙へと持ち上げられ。
地面へと叩き付けられる。
一度では終わらない。
叩き付けると同時に飛び上がり。
前転しながらまた叩き付ける。
前へ前へ。
コンクリートの堅い地へと相手の体を激しくぶつけながら進んでいく。
「おい、余所見するな、俺だけだっ! 俺だけを見ろやあああああああ」
傷男がいつの間にか背中へ。
チャイカは眼鏡女から手を離すと、その手で傷男の拳撃をいなす。
倒れていた眼鏡女のダメージなど無いかのような真下からの斬撃。
それを海老反りで躱し、そのまま浮かした体で。
側転、右のつま先は傷男の顎を強く弾き、左のつま先は眼鏡女の顔面、頬を強く叩く。
同時に攻撃を受けた二人。
少しだけ位置はずらされるも、すぐさま体勢が戻る。
「えぇ・・・・・・あんたら、何者さ。なんで立ってんの?」
チャイカが首を傾げる。
「それはこっちが聞きてぇわ、お前、まじでなんだ」
「はぁ、最高だ、今回の死事、まさか二人いるとは・・・・・・」
眼鏡女は曲がった眼鏡を投げ捨てると、腰を落とした、目つきはさらに鋭く。
傷男は愉悦そうに構えた。
「はぁ、もういいや。まどっち、行こう。色々案内してよ」
「え・・・・・・あぁ、それは、いいが・・・・・・」
相手がこのまま見逃してくれるとは思えない。
現にあちらは殺る気満々で。
「ニカ、ローシャ、後は任せた」
チャイカが名前を呼ぶと。
傷男と眼鏡女(眼鏡無し)の姿が消えた。
どこからともなく現れた二つの影は。
傷男と眼鏡女(眼鏡無し)の二人の体を巻き込みながら。
別々の方向に屋上から地面へと落ちていった。
「え、あれ、今、落ち・・・・・・」
程なく左右の耳に入ってくる怒声混じりの戦闘音。
あ、全員、問題なさそうなの、だ。
「私がこの国に行くって言ったら、みんな一緒に来るとだだをこねてね。しょうが無いから連れてきたんだよ」
「えっと、大丈夫なの、か? さっきの奴ら、相当ヤバいの、だ」
「ん? あぁ、問題ない、私達は絶対死なないから」
そのチャイカの言葉には確かな自信に満ちあふれていた。