おや、まだ見えませんね。
こんにちは、蓮華です。
モニターごし、管轄内やその周辺で起きた事件、事故に目を通します。
勿論、その情報はテレビのニュースなどよりは早く、凶悪な案件になればなるほどラグは無いに等しい。
「殺人事件、体中を滅多刺し、動機は・・・・・・人を殺したかった、はぁ、またですか」
私の一番嫌いな理由です。動機ですらない。
まだ愛憎や怨恨、金銭目的の方が理解できます。
そういう人は今すぐ紛争地帯や、治安の悪い海外にでも行ってギャングとかになってください。いくらでも人を殺せますよ。無論、自分も殺される側になるのも往々にありますけどね。
平穏な世界なら崩すのは誰にでもできます。蟻を踏みつぶすごとく簡単です。
でも人は知性があり、理性がある。
それが人が生態系の上に立っていられる理由でもあります。
殺したいからといってそれを実行する下等生物は、共食いするゴキブリ以下でしょう。
ちなみに刺した数は恨みの数ともいいますが、大抵小心者が反撃を恐れて過剰に攻撃するから滅多刺しになるんです。
この先もこういう者達は減る事はないでしょう。
◇
壁の全面にモニターが所狭しと並べられ。
床には、雑誌、や新聞が散乱。
「うまくいったね。あの子、事件を起こしたよ」
「そうなんだね、で、何人殺したのかな?」
「残念だけど一人だよ」
「そうなんだね、男? 女? 年齢は?」
「それなりに若い女だったよ」
「そうなんだね、で・・・・・・彼女は何か言ってたのかな?」
「うん、言ってたよ」
「なんて、言ってたんだい?」
「それがね・・・・・・死にたくないって」
「ひゃあがたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「きょうああふぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
悶える、最高の言葉。
求めうる最大の。
死にたくなかったんだと、まだまだ生きたかったんだと。
想像する、悔しさ、辛さ、理不尽、何が脳を巡ったのか。
何カ所を刺された、一カ所刺される度、何を思ったか。
いや、考える余裕などないはず、もう逃げたいのか、逃げられないか、どうなった、どこを最初に刺された、その痛みはどれほどか、溢れる、色々、もう心臓がドクドク動く、破裂しそう、はぁあ、もうその時には、二回、三回、容易く、そうでもないのか、いや、柔肌、されど素人、血で滑る、素人、小物、臆病で、何度も、だから簡単に動く、頭が悪くて、衝動を抑えられない、簡単、だから糸がいつのまにか絡まってることに気付かず、楽しい、なんて愉悦。
「もっと、もっと絶望を、教えてぇええええええええええええええええええええええええ」
「そうなんだよ、もっと詳しく知りたい、どうなった、あの子はどうやって殺した、見たい、でも我慢、それは現実、それは多分越えられない」
「次は誰にしよう、候補は多い、乖離、脳を、弄る、勘違いさせ、自分は特別だと、違うのに、むしろ弱者、自ら実行するタダの手、昆虫の細い、細い足、無脊椎の人格、でも教えてくれる、先生、先生、もっと、もっとご教授くださいっ」
◇
こんにちは、蓮華です。
最近、私達昆虫採集部が捕まえた殺人鬼がいます。
通称、ベビーシッター。
妊婦を襲い、その腹を割き、中から胎児を取り出して。
そして自分でそれを育てておりました。
その数、五人。
不幸中の幸いか、五人の子供は愛情込めて育てられていたようですが。
彼女は取り調べの時に、動機についてこう言いました。
「もっともだと思ったの。私は子供が作れず絶望していて、そんな時、声がかかったの、出来ないなら代わりを連れてくればいいじゃないと」
声をかけたのが誰かは分からないと。
気付いたら、自分は妊婦の腹を割き、血だらけの両手で胎児を取り上げていたと。
最近、このような供述が増えているんですよね。
誰か影で糸を引いているのでしょうか。
平穏な日常を満喫し、されど狂気も体感する。
リスクは他に押しつけ、自分は安全な場所で楽しんでいる。
もし、そんな存在が実際にいるのなら。
最低ながら、うまくやってますね。
◇
壁全面に何台ものモニター。そこに映るのはライブニュースやネットの情報。
床には紙、紙、事件や事故の記事。
「彼女、捕まったよ」
「そうなんだね。思ったより早かったね」
「そうだね、標的や行動は管理していたんだけど捜査の方が上だったよ」
「後、数人の妊婦のデータは用意してたんだけど、いらなくなったね」
「まぁでも勉強になったね。幸せの絶頂といってもいい、そこから一気に堕とされるのは想像するだけでも・・・・・・・・・・」
「そうだね、新たな命を授かって、夫婦の絶望は相当なものだよ」
「あぁ、また、思い出すね」
「何回もだね、こうかな、こうかなって、腹を割かれた愛する者、これから愛情を一身に注ぐ予定だった、あ、あああああ、ああああん、だ、旦那さん、駄目、ごめんなさい、そんな顔しないで、おね、おねおえねおえねおねがい、これ以上は、いいいいいいいいいいいいいひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「あぁあ、あああそれ酷い、伝染する、すする、見て、もっと見てよ、その暗い、暗い穴の中を、奥まで奥まで、でも何もない、何もないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
◇
こんにちは、蓮華です。
最近、犯人が捕まった事件。
容疑者は、不動産会社の社員。
新しく引っ越そうとする者を事前に選別。
物件に案内するふりをして、この社員は自分が管理している部屋へと入居希望者を連れ込みます。
そこは個人が所有する、快楽部屋だったのです。
犯人は、標的に暴行、監禁、最終的に殺害しております。
捜査の末、犯人の目星はついたのですが、いかせんせん、囮をするにも円さんや白頭巾では選別に引っかかりません。なので、これは態々、私が出向いて、そして返り討ちにして捕まえたわけですが。
「元々自分には前科があった、誰かは知らないが、それを知っていた誰かが、言ったんだ、こうすれば安全にできますよって、好きにしていいんですよって、なんでもって」
確かのこの犯人には前科がありました、未成年時に幼女の頭を殴ったり、また別の幼女の腹を蹴るなどの暴行を数件起こしておりました。
その誰かは、この犯人の性的趣向に目をつけ道を作ったんです。
近いですね。
お互い引きこもってては会えませんよ。
歩み寄らないといけません。
互いの範囲が重なる、その場所まで。
◇
狭い部屋、白い部屋、モニターだらけの部屋、紙が散乱する部屋。
「また捕まったよ」
「・・・・・・今度は誰かな?」
「不動さんだよ。四人目で終わったよ」
「慎重にやってたのに、なにかヘマをしたのかな?」
「目立ったミスはしてないよ。でも、捕まったよ」
「何故かな?」
「何故だろ」
「普通なら見つからないよ。でも駄目だよ、誰かいるのかな」
「誰かいるね、じゃなきゃ説明つかないよ」
「不動さんを捕まえたのは、囮役の女だったらしいよ」
「他に捜査員はいっぱいいたんだね?」
「いや、それがいなかったんだよ、終始女一人だったんだよ」
「単独で、それはあり得ないよ、どんな手順を踏んだんだろ」
「不動さん、勿体ないね。案内されて、相手がドアの中に入るまでの動画、あれだけで良かった」
「そう、あれだけでいい。その先はいらない、もう頭の中にある、その後、どうなったか、完結する、不動さんは、それを四つ提供してくれた。それは不動さんも知らない、こちらで仕掛けた入り口の近くが見える、映像、それだけでいい、本体はいらない、臭いだけでいい」
「それに映ってたんだよ、白い緑色の女だった、不異議な目、カメラを見た、あの目、恐れない、誰も、彼女は知ってる、自分は至高だと、だから恐れない、何者にも」
「それは怖い、でも高い場所から落ちれば落ちるほど精神は肉体同様に損傷が激しくなるね」
「そうだね、彼女はおそらく、とても高い場所から見ている、堕としたいね、目で追いたい、上から下と」
「理想郷を欲する者はまだまだいるよ、不動さんは実に分かりやすかった、女、子供しか狙わない、弱者、スポンジのような頭にはよく詰め込められる」
「理想郷はあるよ、でも決して辿り着けない、道だけは作り、塞ぐ、歩み寄り、求めれば与え、時には戒め、理解し、満たし、自分の力を錯覚させ、後は勝手に動く、いっぱい、見返りをっ」
「そう、教えて、お願い、ありがとう、いつも、我ら・・・・・・」
「シャーデンフロイデのために」
◇
蓮華です。
円さんが帰ってきました。
白頭巾の怪我も治り。
漸くですね。
仕事はいっぱい溜まってますよ。
昆虫採集部、万全の状態で復活です。