ういうい、また海外に飛ばされたの、だ。後編
生き延びて。
前へ、前へ。
生き延びて。
前へ、前へ。
ただ生き延びて。
ただ、前へ。
◇
ういうい、円、だ。
適当に強奪した軍用車両でひた走る。
運転するのは、私。
そして、助手席には。
「ほうほうっ! まどっち、それで、それで?!」
「それで、当時プレイストレージ1とスガジュピターはほぼ同時に発売したの、だ。だがどちらも買えるほどの余裕はなく、私は選択したの、だ」
「うんうん、それは勿論~?」
「スガジュピターなの、だっ!」
「さすがっ! さすが、まどっちっ! あの時はプレストは一般向け、ジュピターはマニア向けって言われていたよねっ!」
「言われていたかは知らぬが、あの時は格闘ゲームの全盛期といっても過言ではなく、ジュピターのコントローラーがこれまた格ゲーをやるためにあるような抜群の操作性だったの、だ」
「分かるぅ、私もあの頃のゲームはやりこんだよー、パイオニアサイバー、キングダムハンターズ、他にも色々っ」
「お、私もサイバーは得意なの、だ。マイキャラはカマキリ娘で・・・・・・」
「私は、ララスっ! インペリアルダンスからの挟み撃ちが・・・・・・」
会話が止まる。
せっかく弾んで良い感じだったのだ、が。
「検問なの、だ。どうする?」
「ん、ちょっと止めて。行ってくる」
前方、道を塞ぐように銃を持った兵士が数人。
強行突破という選択肢もあったのだが、隣の女がそうはしなかった。
黒髪、碧眼、その少し垂れた瞳の両側にある泣きぼくろ。
黒いタンクトップ、その肌の露出している両腕には隙間なくびっしり彫られたタトゥー。
それは何か文字列のように見えるが。
兵士達も油断はしていなかったのだろう。
だが、女が車から降りた時には。
五人並んでいた兵士の喉にナイフが突き刺さっていた。
兵士達はまだ立っている。
多分、気付いていない。
自分の喉にナイフが刺さっている事に。
そして女が距離を詰め。
水平に蹴りを放った。
狙いはナイフの柄。
彼女のつま先が順番に通り過ぎ。。
五つの首が回転しながら宙に少し浮いた。
兵士達はまだ立っている。
多分、気付いていない。
自分が死んだ事に。
「でねでね、さっきの話なんだけど・・・・・・」
「お、おう」
何事もなかったかのように車に乗り込んでくる女。
軽快に話を続ける。
走り出す車。
サイドミラーを覗く。
小さくなっていく首無し兵士達。
ここで漸くそのうちの一つが崩れていった。
そんなこんなで、私達は。
進んでは止まり。
進んでは殺しを繰り返し。
少しずつ、だが着実に目的地に近づいていた。
とにかくこの女は強かった。
私は基本運転と。
ゲームの話をしていただけ、だった。
「まどっちの国にはいつか行きたいね、レトロゲーム買いあさりたいしっ」
「なら案内するの、だ。それにパイオニアセイバーも今だに根強いファンも多くて、定期的に大会が開かれていたりしているの、だ」
「えぇ、本当かいっ! もう稼働してから10年以上経ってるというのに。それなら是非私も出たいねぇ」
そんな呑気な話題と相まって、途中からなんかただのドライブ感覚になっていたの、だ。
だが、周囲を見ると一瞬で現実へと戻される。
この国はクーデターの真っ最中で。
軍とデモ隊の衝突は毎日のように起こって。
それに伴い、死者はどんどん増えていっている。
女は、チャイカと名乗った。
ここには休暇を利用して観光に来たという。
もうその時点でおかしいのだが、何故か彼女が嘘をついているような気はしなかった。
私は自分の力量と近い、もしくは上の者にはただ単純に戦うなという心のブレーキがかかるの、だ。
これは生存率を上げると代わりに、チャンスを逃すことにもなる。
なので、できるだけその辺の見極めを高めるのが課題といってもいい。
で、このチャイカなのだが。
正直、どれほど強いか分からない。
というのも例えるなら人間の耳で聞こえる高い周波数の限界は20000Hzくらいなの、だ。
それを越えれば、30000Hzだろうが100000Hzだろうが聞こえなければ同じなの、だ。
そんな感じで、このチャイカの分類は[よく分からないほどの強さ]なの、だ。
これと同じ感覚を私は最近味わったの、だ。
それは種の付き添いで、犯罪者クラブのプラチナ試験に参加した時。
その時の参加者の一人がまったく同じだった。
[よく分からないほどの強さ]
これはあくまで私の力量が低いせいであって、私より強い蛇師匠や瑞雀なんかがチャイカを見るとまた違った評価をすると思うの、だ。
まぁ、そんなこんなで逆に恐怖心が薄れる。
警戒心だけは他とは比べられないほど高くなるが、それも馴染んだ今ではもう無いに等しい。
「そろそろ、目的地なの、だ」
自国民が動けずにいる建物へと到着。
「お~い、助けにきたの、だっ!」
大声で呼びかける。
「おお、こっちだっ!」
建物から顔を出す自国民。
「よし、無事だったの、だ。後はこれを自国民護衛部隊がいる空港まで・・・・・・」
「追いつかれたね」
砂埃、多数の車が近づいてくる音。
「あれだけ派手に行動してればこうなる、か」
道しるべのように兵士達の死体。
兵士達はもちろんそれを追ってくる。
「私は残るから、まどっちはその人を連れて早く脱出したほうがいいよ」
「ええ、どんどん集まってくるの、だっ!」
「大丈夫、元々これが私の目的だった」
「? どういう事なの、だ??」
「少しの間だったけど楽しかった。また会おう、いつかきっと」
「・・・・・・なら車は置いてくの、だ」
「ん? あぁ、そういう事か。ならお言葉に甘えよう」
ここに来た時に目についたの、だ。
建物の下にある一台のバイク。
元々この軍用車両では新たな追っ手を振り切るのは難しい。
だけど、このバイクなら。
「これもまどっちの国で造られた物。世界に誇れる物だね」
「そうなの、だ。最高速は300キロ越え、市販としては世界最高速」
「護衛対象者の所有物みたいだけど、運転はどうする? あれは化け物マシーンだよ」
「勿論、私が運転するの、だ。化け物マシーンなら普段から乗っておる」
まぁそれは車であってバイクはそれほど乗ってはいないの、だ。
「しっかり捕まってるの、だっ! 私の運転は凶悪だ、ぞっ」
「ひ、ひい、大丈夫?、これやばいバイクよ、いつもゆっくり、運転してるんだけどっ」
怯える自国民を後ろに乗せ。
「ここまで世話になったの、だ。チャイカがいなければここまで辿り着けなかったと思う」
「いや、私の都合に付き合われた側面もある。君に会えて良かった」
私達は拳を合わせると。
逆方向に体を。
◇
旅の仲間が離れていく。
まるで大空を翔る鳥のように。
爆音とともに地平線へと。
「口だけじゃなくマシンの性能を全部引き出してるね、只者ではないとは思っていたけど、やるじゃない、まどっち」
周囲にこの国の兵士がワラワラ集まってくる。
彼女にすればこいつらは兵士の格好をしているだけで兵士とは認めていない。
兵士とは国のため、自国民を助け守るために存在しているもの。
なのに、こいつらは国を混乱に導き、あろう事か民間人に銃を向けていた。
「ただの殺戮者。まぁ、今は私も同じか」
生き残って。
自分だけ。
生き残って。
置き去りに。
自分だけが。
先に進んでいった。
「今は一人の人間として、お前達を粛正する」
飛び込む。
銃弾、避けていく。
自分は決して死なない。
死なせてくれない。
兵士の一人、額にナイフ。
続いて別の兵士にもナイフ。
足、胸、腕、別々、色々。
距離をつめたチャイカ。そのナイフの柄に。
蹴り、拳を打ち付ける。
釘をハンマーで叩き付けるように。
ナイフは消える、肉の中へと全て埋まる。
◇
ういうい、円、だ。
なんとか、無事に自国民を救助部隊に引き渡す事ができた。
その後チャイカの事が気になった私だったが引き返す事もできず、メディアだけの情報では満足のいく答えは得られなかった。
ただ、漠然とチャイカなら大丈夫だろうと思えた。
理由は分からない。
だけど。
ちょっこり顔を出して。
近いうちにまた出会えるような気がしていた。
◇
某国、某基地内。
一人の女が休暇を終え、職場へと戻ってきた。
戦場ではいつも生き残り。
仲間を失い続け。
自分だけが先に進む。
刻む名はどんどん増える。
だが、それもここにきて漸く止まった。
最終的にここへと辿り着いた精鋭達。
ここでは誰も死ぬ事はない。
死の神すら遠ざける者達の集まり。
「おかえりなさい、休暇どうでした?」
隊員の一人が声をかける。
「うん、中々有意義だったよ」
「クスクス、で、何人殺したんですぅ?」
「232人、まぁこんなものかな」
「いくら気に入らないからってよくやりますね~」
女の目的は、兵士としてあるまじき行為をする者達への自分なりの制裁。
「皮肉。あの国軍に武器を提供しているのは我が国」
そう、だから女は休暇を使ってプライベートで動いた。
独自のスイッチ、それが昔からの処世術でもあった。
「なに、ただの憂さ晴らし。それに思いがけない出会いもあった」
「それはそうとさっそく任務が入ってますよ」
「皮肉、クーデターが起きてる国に対して批判を高める外交官、それの暗殺」
「・・・・・・そうか」
「クスクス、これはまだまだ混乱は続きますねぇ、チャイカ隊長ぉ」
踵を返す。
周囲の隊員達が自分に続く。
「上が決めた事、ならば我らはただそれに従うまで」
ここの隊員達は誰も死なない。
自分を置いていかない。
悲しむ必要がない。
守る必要さえない。
「我らは参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチ」
彼女達を知る者はこの部隊をこう呼ぶ。
ダンピール集団と。