ういうい、また海外に飛ばされたの、だ。前編
ういうい、円、だ。
今、私は某国へと来ておる。
正確にはレンレンの無茶ぶりで体よく送られたの、だ。
「それにしても・・・・・・」
ビルの上からこの国の今を見下ろす。
「・・・・・・ひどい、もの、なのだ」
市街地、中心部に集結する市民。
それはデモ隊。
迎えうつはこの国の軍隊や警察。
互いは何度も衝突しては。
その都度、路上には大量の血が流れた。
◇
それはラヴ女と覇聖堂の合同文化祭の真っ最中。
「円さん、ちょっと、現在クーデターの起きている国の治安が非常に悪化しております。なので、その国にいる我が国民の保護措置をお願いします」
「ういうい、現在クーデターが起きて非常に治安が悪化しかなりの危険地帯になっている国にいって、そこにいる自国民を保護すればいいの、ってええぇええええええええええええええええ」
そんな感じなの、だ。
こういうのは普通、国家部隊がやるものなの、だ。
「実は大多数の輸送はすでに済んでいるのですよ。でも取りこぼしがありました。なので、対象の自国民は一人です。輸送自体は自国民護衛部隊が行いますので、貴方はその場所まで誘導および護衛をして頂きたい」
つまり、対象の民間人のいる場所から、自国民護衛部隊が待つ空港なり港湾まで連れて行けと。
いくらその民間人が一人だとしても、なの、だ。
現地は混沌としていて軍や警察は勿論、デモ隊の一般市民も武装しておる。
「護衛中、襲われたらどうするの、だ? まさか無抵抗でなんとかしろ、なんて言わないの、だ?」
こういう場所では拘束されるだけでも厄介な事になる。下手すれば一生出てこられない。
「以前はそもそも民間人自ら、その場所まで行かなければ駄目だったんです。しかし法改正によって、保護のための武器使用が可能になりました。それにより輸送間、武装集団から襲撃された場合、守りながら戦う事が可能になったのですよ」
そうなのだ、これは輸送ではなく、救出。
何が何でも守るという覚悟が必要。
◇
そして、現在。
「ちょっと、甘く考えていたの、だ」
そもそもクーデターを起こしたのはこの国の軍隊。
軍事政権と化した今の現状は悲惨。
民間人相手の鎮圧に平気でアサルトライフルをぶっ放すの、だ。
エスカレートする弾圧。
死者は日に日に増え。
デモを見守る者や子供までが犠牲になっていた。
中心部。
今もこの高い場所から下を覗き見るとそこは地獄。
「この状態で、そもそも私が目的地まで辿り着けるの、か」
秩序などないに等しい。不当な拘束、人はニワトリのように殺され、これはもうただの大量虐殺。
この状況下で他国は何をするべきか。
制裁措置をする国家がある一方。
内政不干渉を掲げたり、そしてそもそも国軍寄りの国家はこれをクーデターと認めてない場合もあるの、だ。
特に大国が後者だと中々事は進展しない。
もうこの国に安全な場所などない。
一刻も早く自国民の救出を行わなければ・・・・・・。
◇
一人の女がこの国の大地に足をつけた。
女は休暇中で、この国には観光で来ていた。
とはいえこの国は今クーデターの真っ最中で。
本来、渡航許可すらおりないはずであった。
だが、女はこの地に確かに足をつけていた。
◇
ういうい、円、だ。
いきなり交戦中なの、だ。
影のように、目立たず、ゆっくり、されど俊敏に。
それが理想だったの、だ。
だけど、だ。
路上で負傷した少女。
それを治療しようとしていた民間の医療従事者達。
さらにそれを襲撃している兵士達。
銃を持ち、無抵抗の医療従事者達に暴行を加えていた。
素通りしようと。
でも、頭から血を流す少女。
その髪色、背丈、顔は見えなかったが、されどかぶった。
よく知っている姿に。
だから動いた。
「ウゴガガイヤエエイナ!?」
兵士達、何を言ってるか分からないが。
手首が飛ぶ、血飛沫を上げて。
銃ごと体から離す。
私のナイフ。
全てを切り裂く。
相手は三人。
両手に握るナイフが駒のように回る。
一回転、その間、三人の喉に線が引かれた。
崩れる兵士達。
「く、やっちゃったの、だ」
近くに仲間が多数。
大声を上げられた。
すぐに集まってくる。
だからといって私が逃げたらこの場にいる全員が殺されるの、だ。
「ウゴウゴルーガっ!」
「ウゴンゴウゴンドっ!」
言ってる傍から四方八方、兵士が駆けつけてきた。
勿論全員武装していて。
10人、11人、12人、まだまだ増える。
相手は正規兵、そしてもう正義の名の下、なんでもあり。
取り囲まれている、逆にいえば銃の乱射は控える、はず。
勝機があえばそこ、なの、だ。
撃てない銃など、木刀にも劣る、の、だ。
覚悟を決め、敵の一帯に飛び込む。
その途中。
私の前を高速で横切っていく人影。
通り過ぎたのは、左側にいた兵士の一人。
「軍人が守るべき民間人に銃を向けるなど、なんと愚かな事よ」
いつの間にかそいつはいたの、だ。
数秒前、いやコンマ何秒前にはそこにいなかった。
こいつ、瞬間移動でもしたのか。本気でそう思えるほど。
いくらなんでも攻撃時には気配が倍増する。
なのに、こいつからそれすら感じとれなかった。
異次元の速さ。
打撃。
血が天に伸び。
斬撃。
ナイフか、なにか。
そいつは動き回って。
止まったと思ったら。
その場にいた兵士達全員が倒れていた。
女は拳銃を向けると、倒れていた兵士へと止めをさす、パンパンと。
私は何もする事もなく。
死体を見下ろすその横顔。
瞳は碧眼、まるで宝石。
透き通るような白い肌、それとは対象的な漆黒の髪。
ふとイメージしたのは自分がよくやるゲームの世界でのエルフそのもの。
「うん、うん、そうだ、そうに決まっている」
女はこちらに顔を向けた。
白い頬には赤い返り血、それがよく目立つ。
少し垂れた目で私をしっかり見つめる。
魔眼で睨まれたように、私は全く動けなくなる。
それは選択しているからなの、だ。頭の中で、どうすればいいのかずっと考えて。
そして答えがでない。
こいつ、本当にゲームの世界から飛び出してきたような存在で。
この短時間ではっきりした事は一つ。
この女。
私が今まで出会った者の中でも。
三本の指に入るほど。
強い、の、だ。