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おや、いつぶりでしょうかね。(合同文化祭編 其の四)

こんにちは、蓮華です。


 いつぶりでしょうかね。


 直近でこの部屋から出たのは。


「おや、まだまだ私もいけるじゃないですか」


 記憶と共に押し込めていた制服を身に纏い。


 いつぶりでしょうかね。


 一人に戻るのは。


 扉は開かれ。


 最下層から。


 地上へ。


 エレベーターならすぐです。



  

 まずは母校でもある・・・・・・。


 覇聖堂から。


 校門にはなにか見えない壁があったように。


 それは私だけが感じて。


 透明な膜は引き剥がし。


 音は無く。


 時計の針だけが逆回転。


 高速に、遡る。


 景色はセピア。


 音は無く。


「・・・・・・・・・・・・・っ」


 我に返る。


 周囲は色を取り戻し。


 学生達の賑やかな声も。


「まだ思い出に浸るのは早いですね」


 その前にやることはやってしまわないと。


 無音の世界。


 その中で微かな声が聞こえたような気がしました。  


  


 ここでの目的は止めること。


 殺人鬼連合のメンバーである二人を。


 アダムキラー奏。


 そして、血染めの制服少女、芳香。

 

殺人鬼連合のメンバーに手を出すのは本来禁忌です。


 もしなにかしようものなら、えげつない報復を受けるでしょう。

    

 でも流石に一般人に手を出し始めたのを知ったからには放置はできません。


 

 全部知ってます。


 メンバー全員。


 どこにいて。


 なにをしているか。


 目を凝らせばですが。



 人気は疎らに。


 やがて喧噪も弱まり。


 ここも変わりませんね。


 この先を抜ければ自販機があって。


 さらに奥へ進めば。


 ほとんど使われてない兼用トイレが。


「・・・・・・あぁ、ありました」


 入り口。


 見張りか、順番待ちか。


 立ちふさがるように目を光らせていたのは。


 血染めの制服少女こと、芳香さんですね。


「こんにちは~」


 声をかけて。


 そこからは一瞬です。


 一気に距離をつめ。


 腕を掴むと。


 足を払って。


 背負い投げ。


 地面に強く打ち付けます。


 これでも充分なのですが。


 私はここで一応、鳩尾目掛けてつま先を食い込ませました。


 流れるようにドアをあけ、中へ。


 そこにいたのは。


ナイフを持つアダムキラー。


 ほぼ死体になった者の首を持ってました。


 彼女が振り向いた時にはもう遅いです。


 すでに密着。


 同じように手首を握ると。

 

 それを捻り、手に持つナイフをアダムキラーの顔へ無理矢理向けます。


 トリガーの細工を操作。


 知ってるんです。


 彼女がどんな得物を使うか。


 彼女はどのように人を殺すのか。


 切っ先は飛び出します。


 アダムキラー奏の顔を掠めるように。


 それはすぐ後ろの壁に深く突き刺さりました。


「あら、残念、外れちゃいましたねぇ」


 まぁ当てる気はありませんでしたが。


 それでも最初のアプローチは成功でした。


 アダムキラーのつま先を踏みつけ、関節を可動させないよう固定。


「・・・・・・深緑・・・・・・深層・・・・・・」


「はい、私です。なので、もう分かりますね?」


 彼女は小さく頷きました。


 手首に手錠をつけ、配管と繋げます。


「スマホ貸してください。私は直接かけてもいいのですけど、こちらのほうが分かりやすいでしょう」


 私は奏さんからスマホを受け取ります。


 連絡先を表示して。


 着信。


 相手はもちろん、あの人です。



         ◇


 風が塩の臭いを運ぶ。


 地面はコンクリート、視界は海。


 この場にいたのは。


 殺人鬼連合の四人。


「タシイ、新しいの来たけど、これ今回の件と関係ないんじゃない?」


 奏、芳香組からまた届いた覇聖堂の生徒が二人。


「・・・・・・そうだね~、なんか見た感じ一般人ぽいかも」


 芋虫のように、手足を縛られ。


 目の無い生き餌のように視界は布で塞がれ。


 見下ろすのは、殺人鬼連合のタシイと目黒。


 二人は同類を見分ける目鼻を持つ。


 そんな二人がどちらも思った。


 こいつらは奏達が間違えて送ってきた一般人だと。


 そしてどちらも思った。


 まぁ、別にいいかと。


「おい、空音、古論、こいつらお前らにやるわ」

 

「え、本当ですかっ!?」


「おー、ありがとうございますー」  

 

一仕事終えた二人がタシイの元、もとい新しい玩具の元へと駆け寄る。


「あぁ、どうやって遊びましょう」


「そうやな~」


 目をぎらつかせ、餌を見つめる。


「クレーン二台で、両腕引っ張りあうってのはどうでしょう?」


「一番上から落とすのも面白いかもしれへんな」


 遊戯の方法を話し合う二人。


 その時、タシイのスマホに着信。


「ん、噂をすれば奏からだ。一応注意しとくかぁ」


 耳にあてがう。


 聞こえてきたのは別の声だった。


「あ、こんにちは、蓮華です~」


「・・・・・・あぁ? なんだ深緑深層。なんでお前が奏のスマホでかけてきてる?」


「そちらに学生二人運ばれているはずです。その人達は一般人です。だから今すぐ解放してください」


「・・・・・・だからなんだ、私達がお前のいうこと聞く義理はね~ぞ、あぁ?」


「勘違いしないでください。私はお願いしているわけじゃありませんよぉ」


「なんだ、その言いぐさはぁあ???」


「奏さんと芳香さん、このまま当局に引き渡せば確実にレベルブレイカーになるでしょうねぇ。その場合、想像を絶する執行が何度も行われるでしょう」


「脅してんのか? この私を?」


「いえいえ、命令してるだけですよぉ」


「・・・・・・・・・・・・」


「今すぐ、解放しろ、九相図の殺人鬼」


「・・・・・・深緑深層ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 強く握られたスマホの画面に罅が入る。


「・・・・・・おい、そいつら元いた場所に戻してこい」


「え? なんでですの? これからこの子達で色々するんですの」


「そうやで、タシイさんが好きにしていいっ・・・・・・」


 状況を察してない二人が異議を唱えようとするも。


「おい、タシイが理性保ってるうちに言う事聞いたほうがいいよ」


 目黒のフォロー、二人はその一言でタシイの様子に気づきすぐに行動を起こした。


「か、かしこまりましたわ」


「い、いますぐっ」


 会話は終わり。


 タシイの手からスマホが滑り墜ちる。


 地面に墜ちたその機器を。


 タシイは取り出したバールで叩き割る。


「舐めやがってぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ、あのくそあまがぁああああああああああああああああああああ」


「落ち着きなよ。これはしょうが無い。忘れがちだけど、あいつの二つ名は深緑深層のマーダーマーダー」


 この国唯一の。


「殺人鬼キラー」



         ◇


 こんにちは、蓮華です。


 覇聖堂は一先ず一段落。


 この足で今度はラヴ女に向かいます。


 こっちはさらに楽ですね。


 私が完全に管理している白頭巾がいます。


 楽ってのは探すって事で、対象はそうではありません。


 なんせこっちにはヴィセライーターがいますので。


 殺人鬼の中ではトップクラスです。


「あ、種さんですか。ええ、はい、そうなんです」


 なので到着前に布石を打っておきます。


 ここらも事前情報の賜物ですね。


 校舎へ入ると、すぐ三人の元へ。


 

 そこは華道部の部室でしょうか。


 今、いるのは、あの三人と。


「こんにちはー、そこまでです」


 堂々と入ります。


 直後、二つの影は私を交互左右に迫りました。


 首元に二本のナイフ。


 白頭巾とスキンラバーの二人が向けたものですね。


 甲高い音が室内に。


 二つの刃は重なり。


 私はしゃがんで下へ。


 真下からそのクロスする二人の手首へ手錠を滑り込ませます。


 二つの体を一つに纏め。


 こうなると強みの機動力もがた落ちです。


 片方の体の体勢を崩してやれば、もう片方も纏めて倒れ込みました。


「・・・・・・これは珍しいわねぇ、貴方が巣から出てくるなんて」


「お、お姉ちゃん??」


「・・・・・・い、いたた、重い、白雪ちゃんの体が私の足の上に、あぁ退かしてっす、いたい、いたい」 


 

ここで三人が私の正体に気付きます。


「ヴィセライーターとスキンラバーはこのまま大人しく帰ってください。後は私が引き継ぎますので」

 

「そんなの嫌よぉ、楽しくなってきた所なの、邪魔しないで欲しいわねぇ」


 ヴィセライーターは両手の包丁をくるくる手の中で回転させ始めました。


 まぁこっちも素直にいうこと聞くとは思ってませんけどね。


「そうっすっ! 今最高に面白いところなんすよ、よく分からないけど邪魔してほしくないっすねっ!」


 この子は白頭巾の下敷きになりながらも声だけは威勢がいいですね。


「お姉ちゃん、せっかくいい所なんだから、途中からしゃしゃり出ないで」


 あら、白頭巾まで。


 これは完全に悪い大人の影響ですねぇ。


 さて、本物の殺人鬼が三人。


 その中でもヴィセライーターはいつ襲いかかってきてもおかしくない状況です。


「せっかく安全な巣があるのに、自分から抜け出すなんて、なんてお馬鹿さんなのかしらぁ」


「おば様っ! この礼儀知らずに教えてやってくださいっ! 殺人鬼の恐ろしさをっ!」


 今だ地面に俯せ状態のスキンラバーがイキっております。


 とはいえ私もヴィセライーターと真っ向からやるつもりはありませんよ。 


「ヴィセライーター、この人はご存じでしょうか?」


 私は自分のスマホを取り出し、画像を見せました。


 その瞬間、ヴィセライーターの顔色が急変しました。


「こ、こいつは。な、なぜ・・・・・・こいつが・・・・・・」


「懐かしいでしょうか? 積もる話もあるかと思い、ここにお呼び出ししてるんですよ。あともう少しで着くのではないでしょうか」


 嘘ですけどね。


「い、嫌よっ! なんで、あぁ、早く、ここから離れないとっ!」


 ヴィセライーターは焦った様子で私を押しのけ逃げ出すようにこの場から去りました。


「え? あれ、おば様? どうしたんすか、え? ちょっと」


 重なるように倒れている二人に目を移します。


「で? さっき何か言いました? もう一度聞きますので、順番にどうぞ」


 微笑みます。


 すでに手には部室の中にあった剣山を拝借しました。


これを二人の手の甲にあてがい。


 勿論、針が無数に着いているほうです。


「ほら、言いなさい、もう一度」


 思いっきり踏みつけました。


「「ふがやああああああああああああああああああああああああああああああああ」」


 昔はこういう注射があったそうですよ。


 今の子は知らないでしょうね。

   

 貴方達は体験できて良かったですね。



     ◇


 再び、覇聖堂へ戻ってまいりました。


 結論からいえば、ホロスコープの大元の身柄はすでに確保しております。


 手足に信念がないのは最初の時点で判明してましたので、それらを利用してた人物がいたのは明白。


 年々生徒数が減少傾向にあった今回の二校。


 水面下で合併の話が出ていたらしいですね。


 伝統を重んじる二校の上層部がそれを阻止しようと互いに問題を起こそうとした。


 ですが、両者は別に共謀していないんです。


 手足であるホロスコープの者達が協力しているにも関わらずです。


 つまり、ホロスコープ達は今回のために別に集められた者達で、それらを斡旋した別の者がいるって事です。


 日が傾き始めました。


 いつぶりでしょうか。


 屋上から見渡す景色。


 セピア色の景色。


 それを染めていくのは。


 空から落ちてくるオレンジ色。 


 そして・・・・・・。

 

「ええ、問題ありませんよ。だから見守っていてください」


 顔はそのまま。


 横を向けば泣いてしまいそうだから。


 視線は夕焼けが放射状に広がるパノラマに。


 この見下げるどこかにいるのでしょう。


 すぐに見つけてあげるから。


 今はいくらでも笑っててくださいね。




         ◇


 某刻、某所。


「5人死んだよ、残りは全員捕まったよ」


「そうなんだね。関係ない人は何人死んだんだい?」


「どっちも一人ずつ2人だよ」


「思ったより少ないね。ホロスコープも5人死んじゃったんだね」


「そうだよ。本当は散々一般人を巻き込んで殺して最後には全員捕まってレベルブレイカーになるのが目的だったのに残念だよ」


「みんな、とてつもない拷問を受けて欲しかったのにね」


「想定外の事が起こったんだよ。邪魔者がいたんだよ」

 

「確かに想定外の事が起こったね。でもそれすら纏めて片付けた者がいたんだよ」


「誰かな」


「誰だろ、でも障害になるね」


「そうだね、世界は不幸で溢れてる」


「でも、まだ足りない。もっと欲しいね」


「そうだよ、ニュースで見聞きくるだけじゃ満たされない」


「もっと近くでなんだね」


「自ら不幸になりたい者は沢山いるよ」


「それらを使って、感じるんだよ」


「そう、少ないけど死んだよ。楽しい文化祭で」


「そうだね、リンクしよう」


「ぁああああ、いい、死んだ、死んだんだね、不幸だね、不幸だね」


「理不尽、死んだ、いいね、いいよ、もっと、もっと、不幸を」


「これが至福、幸せ、我ら・・・・・・」


「シャーデンフロイデの喜び」


 どれだけ痛かったのか、どれだけの絶望を感じたのか。


 それらを深く同調しようと試みて。


 涎や涙や止まらなく、染みが広がる。

またなんか出てきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蓮華さん、予想以上に、そして色んな意味で強かった!!これが蓮華無双!? カリバさんがいても対策は色々あったのですね。以前はお千代さん、今回はラストミールさんですかね? 以前登場した時はトリム…
[一言] 更新ありがとうございます! 蓮華ちゃんも数年を経るうちに進化しているのを感じさせられた回でした。 それに何気やってることが怖い笑 あのおばさまに弱点があるとは‥!! 奏ちゃんたちは落ち着く…
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