わわ、もうどうでも良くなってきたっすよ(合同文化祭編 其の三)
ういっす、紅子っす。
今、私達は・・・・・・。
「う~ん、見つからないっすね~」
「こんなのが近くにいるんじゃ鼻も鈍る」
「なによぉ、私のせいだっていうのかしらぁ~」
私ははっきりとは言わないけど(言えない)、白雪ちゃんの言ってる事は概ね正しい。
廊下に溢れる生徒はみな同じ。
純粋にこの文化祭を楽しんでいる者達ばかり。
でも顔は真っ黒、手も足も漆黒。
全部、全部、カリバさんのせい。
この人が染め上げてるんす。
浸食っす。
もう区別つかないっす。
現時点で一番狂ってて、一番ヤバい殺人鬼は間違いなくこの人っす。
シストさんやタシイさんすら止めることはできず。
長女ゆえ、マキナさんやトリムさんよりも立場は上。
ただ欲望に忠実で。
免罪符なんすよ、この人は。
私達に自由を。
タガが外れたっていいんす。
どれだけやっても許されるんす。
この人の傍にいれば。
「もういいわぁ。適当に狩りましょう、間違ってたらそれはそれ」
「うん、分からないならそうするしかない」
「そうっすよ。秩序は多少の犠牲の上に成り立つものっす」
染めるんすよ。
浸食っす。
それは私達にすら。
もう。
◇
覇聖堂、校門前。
一人の女生徒が学園から外へ出た。
そこに横付ける赤い車。
「こんにちは~、貴方、何年生?」
オープンカーから声をかけるのは目を見張るほどの美少女だった。
「え、っと。三年ですけど・・・・・・」
「ふ~ん、そうなんだ。私に見覚えは?」
「? え、知りませんけど、一体さっきから何なんですか?」
「はい、確保~」
美少女が声をかけると。
学生は複数の人物に一瞬で取り囲まれ。
別の車にそれはもう流れるように押し込まれた。
「なんで、あの子って分かったのかい?」
助手席に同乗していたおかっぱの女性がそう問いかける。
「三年てことは、私が在籍していた時にはいたって事だよ」
「そうだね、で?」
「同じ学校に通ってて私を知らないやつはいない。一目見れば誰もが強烈な印象を受け見惚れるから」
「は、自分でいうか。でも、そうだね。タシイはとにかく存在が派手ではある」
「そういう事、だからさっきの子は、覇聖堂の生徒ではなく。制服だけ着ていた偽者ってことだよ」
「学園内でこいつらは連絡手段を絶っていた。定期的に外に出る可能性があるって言ったのは奏で、その予想は当たってた訳だ」
「とりあえずまた一匹確保。さぁ今度はどうやって聞き出そうか」
◇
紅子っす。
とりあえずこいつだって。
どちらかが言ったんすよ。
いや、自分だったのかも。
とにかく、もう。
まぁ、殺したんすけど。
「どうかしらぁ~」
「当たりかな・・・・・・」
地面に横たわる死体。
何したんすかね。
皮は剥いだっす。
白雪ちゃんは、キャンデーみたいな可愛い包丁で色々してたんす。
これは赤くて。
なにってもう赤いんす。
カリバさんはどうですかね。
首元に噛みついた気がするっす。
柔らかい部分から狙うように。
野生の獣。
動画を見てる感覚で。
画面の外から。
まるで自分はそこにいないかのように。
でも目の前では起こってるんす。
文化祭は大盛り上がりで。
キャーキャーってどこからかひっきりなしに聞こえてくる。
だから、ギャーってのもグワーってのも全部同じで。
音量をいくら大きくしたくても、それは不可能で。
だからなるべく刺したんす。
痛いように。
◇
いくつもある殺人鬼連合のアジトの一つ。
確保された女は、運び込まれ。
両腕を紐か何かで縛られて。
天井の剥き出しの鉄筋から吊される。
足はプラプラ、地面には付かず。
後、少し、もう少し、でもつま先はギリギリ触れることはなく。
「さぁって、この前の二人はあっさり殺しちゃったから、お前には詳しく聞くわ」
対面、椅子に座るタシイ、その横に立つ目黒。
吊された女の両サイドには、空音と古論。
二人の手には大きなノコギリ。
「名前、目的、仲間、一つずつ質問してくわぁ」
名前。
質問。
女は、射済 弓子と名乗った。
目的。
質問。
女は、崇高なる儀式と語った。
仲間。
質問。
女は同士は売れないと言った。
「空美、やれ」
「かしこまりました」
だから、横腹にノコギリの歯が突き刺さった。
「い、いあがああああああ」
一回だけ。
一回だけ引いた、肉は無数の刃に轢かれる。
仲間。
質問。
女はまた同士は売れないと言った。
「古論、やれ」
「はいな」
だから、今度は反対の横腹にノコギリの歯が突き刺さる。
「ひぎあぁあああああああああ」
柔肌、柔肉、破られる。
これも一回。
一回だけ。
「12人いるのは分かってる。もう数人死んでるが、その中に黒幕はいるのか、それとも別に手を引いてるのがいるのか、とりあえず知ってること全部話しな・・・・・・」
目配せ。
それを受け二人は同時に進んだ歯を引き戻す。
ノコギリは元の位置に。
「死ぬ前にな」
「ひぎゃぁあああああああああああああああああああああああ」
質問。
答え。
ノコギリ。
質問。
答え。
ノコギリ、ギリ、ギリ。
◇
覇聖堂、学園内部。
「奏ちゃん、こいつ、女だよ」
「うん、知ってた。なんでよりにもよって」
覇聖堂は共学。
今日は文化祭。
普段、着ることのない男子生徒用の制服。
今思えば、男装する生徒もいてもおかしくはなかった。
だが、奏にはそれが目について。
それが許せなかった。
男はこの世で一番醜いもの。
なのに、この子は自分から飛び込んだ。
許せない。
意味が分からない。
だから、ナイフが何本を体に突き刺さる事になった。
「な、な・・・・・・ど、うし・・・・・・」
飛ばす。
ナイフを。
柄から勢いよく。
噴射され刃だけが飛び出す。
それは簡単に人の肉など貫いて。
「紛らわしい。なんでそんな格好したの、だから間違えたじゃない」
「冷静な奏ちゃんでも間違えることあるんだね」
二人は学内の怪しい人物を探して、探して。
違和感。
それが真実。
でも実際は勘違い。
「なんでせっかく女に生まれたのに、なんで? どうして? そんな真似したの? そんなんじゃ私優しくできないよ?」
理解できない。
なんでって、奏の脳は疑問符で埋め尽くされ。
他の事を考えられなくなっていた。
「でも、奏ちゃんの考えは間違ってない。お互い制服を交換してるならラヴ女には逆パターンで侵入してるかも」
◇
ノコギリ、ギリギリ。
プラプラプラプラ。
腰からフラフラ、足下はもうすぐ地面に向かう。
「崇高なる目的、聞いて呆れる」
女の体は伸びて。
中身で伸びて。
女には明白な目的などなく。
なので未来もなく。
なにもなく。
道はここまでで。
「こいつは取り込まれただけだ。中身がないから軽い、どこにでも飛んでいく。なんでもいいから中身がしっかり詰まってる奴は動かない」
もういいと、タシイは最後の合図を送った。
何回往復したのか。
何度も海に放り投げられた生き餌のように。
その体は落ちる。
腰から半分だけ。
ぼたりと墜ちた。
◇
紅子っす。
こいつ、男っす。
ラヴ女の制服を着た男でした。
カリバさんが傍にいるからもう狂気で判断することは難しく。
だって、そうでしょ、真っ暗になってるんす。
月明かりすらない、暗い夜道で黒い石を探すようなもんす。
だから違う感覚が働いたんす。
私達にはまだ強く発現してない。
雌の本能。
カリバさんがあれは雄だって。
だから確かめてみたら。
ちゃんと付いてるんすよ。
私、まじまじと見てしまったっす。
あ、でも途中でなくなったっす。
二人のうちのどっちかが、この格好には必要ないでしょって。
あぁ、私だったかも。それ言ったの。
いや、思ってはいたから、ううん、どうかな。
でもどうでもいいすよ。
後は、もう同じっす。
もう誰が怪しいとか、こいつか、あいつかって。
結局、殺したら同じなんすよ。
男か、女かって、若い、背、髪の長さとか、一重とか、鼻筋とか、指の長さ。
もう死んだら同じでしょ。
だって、死んでるんすよ。なんの意味もないっす。
ぁ、あ文化祭なんて楽しいんすかね。
そういえば、隣のクラスのあの子。
ちょっと欲しかったんす。
同級生枠で。
本当は白雪ちゃんのが欲しいんだけど。
いつも部屋に一緒って素敵っすよ。
寝ても、覚めても、近くにいるんす。
でも、それは最後で、今は少し浮気するっす。
もらえないかな。
文化祭だし。
あの子、今どこにいるのかな。
顔、頂戴って。
言ってこないと。
◇
こんにちは、蓮華です。
私は上から盤面を眺めます。
最初はちゃんと駒の役割をしていました。
歩は一コマだけ進み。角は斜めに、飛車は十字に。
でも途中から香車が戻ったり、銀が横に、玉が飛び越えたり。
もう無茶苦茶です。
「はぁ、これだから殺人鬼ってのは」
円さんはあまりに五月蝿いので別の任務を与えこの件から外しました。
白頭巾は今や私の部下で・・・・・・かぞ・・・・・・。
しっかり褒めて、そしてしっかり怒ってらないとです。
そして。
オレンジ色の景色が広がり。
時計が巻戻る。
引き千切られた肉片すら空へと。
一際輝き。
私が心から笑えたあの日々。
二度と戻らない。
もう全て消え失せた。
私はなにを思ったのか。
もう一度、あの景色を欲しってしまった。
思い出してしまった。
それは油断だったのでしょう。
押し込めて、無理矢理、でもそれは力を抜けばすぐに飛び出してきてしまう。
ほぼ一日中座っている椅子から立ち上がります。
「制服・・・・・・捨てられなかったんですよねぇ」
他はほぼ無に返したのに。
それは私が着て。
隣で貴方が着ていた。
思いが詰まって。
ささやかな願いがあるとすれば。
「分かってますよ。貴方がいないことは・・・・・・」
でも。
もしかしたら。
もう一度だけでも。
会いたい。
幻想でも。
私の記憶の造りだした何かだとしても。
理由が欲しかったんです。
貴方の笑顔が見たいって。
でもそれは辛いだけで。
それでもやっぱり。
会いたい。
案の定暴走してきたので、後はもう蓮華丸投げモードで。