わわ、とんでもない来訪者の登場っす。(合同文化祭編 其の二)
ういっす、紅子っす。
私達の通うラヴ女と、シストさん達の母校である覇聖堂との合同文化祭。
そんな中起きた惨劇。
お互いの学園で見つかる死体。
「覇聖堂には奏ちゃんと芳香ちゃんがいるっす。あっちは二人に任せておけば大丈夫なはずっす」
「芳香って、あぁ、あの時の血染めの制服少女か。そういえば殺人鬼連合入ったんだっけ」
二人はすでに犯人達の一人を殺害。私達と違ってちゃんと情報を聞き出していたっす。
ホロスコープ。
互いの学生達で形成されたよく分からない集団。
全員で一二人。
私達と奏ちゃん達で一人ずつ始末してるから。
残りは・・・・・・。
一〇人。
◇
二人の女生徒が動画を撮っていた。
「きゃ~、可愛いっ! なんて愛くるしいのっ!」
「ほんと、やばいねっ、見てみて、このつぶらな瞳。あ~可愛い」
二人が手で愛でるはハムスター。
どちらの小動物もちょこちょこと手の中で走り回っている。
「あ~、ほ、んとう、に可愛い」
片方が手の中のハムスターを徐に地面へと離すと。
「ほらぁああああああああああああああああああああああああ」
踏みつける、力いっぱい、一気に四散する肉片。
「あぁあ、これこれ、この感触、最高ぉおおおおおおおおおおお」
「いやいや、違うでしょ、もっとゆっくりだよ、ゆっくり、ゆっくり」
もう片方も同じように床にハムスターを置くと。
動けないように足の裏で押さえる。
そして、言葉通り、静かに、じっくり力を込めていく。
「あぁ、こっちよ、こっち、徐々に、徐々によ、あぁ、潰れてく」
足に伝わる感触を楽しむように。
「さっきまであんなに可愛かった姿が、手の中で一生懸命動いていた体が、どんどんだよ、どんどん、ただの肉に、なっていくぅうう」
これが二人の日課だった。
毎日新しいハムスターを買っては。
こうして動画を撮りながら。
潰していた。
◇
海の見える防波堤。
そこに場違いな丸いテーブルを置いて、対面に座りながら食事をとる人物が二人。
殺人鬼連合、分家、大下倉 古論。
同、殺人鬼連合、分家、百目鬼 空音。
手にはナイフとフォーク、潮風の中、優雅に昼食を楽しんでいた。
「うげ、なんや、それ」
「何って、コオロギですわ」
「でかすぎやろ、そんなきもい虫食わんと野菜くえや」
「嫌ですわ、芋虫じゃあるまいし」
「虫はそっちやろ」
「昆虫は今後の人口増加による食糧難を補うためにも重要なタンパク質源ですわ。そんな草では栄養は偏りますし何よりお腹が満たされません」
「生き物を食べるために育てて殺すなんて可哀想やろ、虫だって生きてるんや」
「人は平気で殺しますのに、なにを言ってるのやら、いいから虫食べなさい」
互いに主張を言い合うも。
「やめよか、虫食いを強要されるのはこっちもいややし」
「そうですわね、お互いマイノリティーだと自覚して勝手にすればいいのです」
そんな最中。
こちらに近づいてくる人影。
それに気付いた二人はすぐに椅子から立ち上がった。
「よう、古論、空音。調子はどうよ」
「二人ともお疲れ」
現れたのは、九相図の殺人鬼ことタシイと。
眼球アルバムの目黒。
二人は殺人鬼連合のWエース。
「お疲れ様ですわ、タシイさんに目黒さん」
「お疲れ様ですー。こっちはまぁぼちぼちですわ」
軽く挨拶した後。
「で、あれがそうか?」
タシイが二人に問いかける。
目線の先には。
地面に等間隔で固定されている二人の少女。
一人は立ったまま。
もう一人は横にされていて。
共に覇聖堂の白い制服を身に纏っていた。
「ええ、奏さん達から受け取りました。あの二人は流石ですね、迅速、慎重に行動し、対象を見つけると確保だけし自分達では始末せずこちらに任せました」
「その分、次の対象の捜索にすぐ移れるってわけや」
両学園の外はもう抑えてある。
「身元は調べたか?」
「ええ、二人とも覇聖堂の制服を着ていますが、その実、ラブクラフト女学園の生徒でしたわ。他は概ね新しい情報は得られませんでした」
「これこいつらのスマホなんですけどちょっと見たってください」
古論がタシイに少女達のスマホを手渡す。
「あぁ、動画?」
スマホの中には彼女達が撮った動画がびっちり記憶されていた。
内容はどれもほぼ同じ。
ハムスターを愉悦に踏みつぶす映像。
笑い声がスマホから響く。
「ほ~、中々エグい事してるじゃん、こいつら」
タシイが再び少女達に目線を送る。
「よしよし、じゃあ、始めるか」
タシイが古論と空音に命じる。
二人は左右に分かれると。
用意してあった大型のクレーンに乗り込む。
クレーンの先には巨大なコンテナが吊されていて。
それは彼女達の頭上へと上げられ、その下に大きな影をつくった。
「むぐううう、うううううううううううう」
「あぐううううう、ひいいいいいいいいいい」
手足、口を封じられている少女達はその光景に目を見開く。
「こいつら、顔が同じだけど双子か? どっちがどっちか分からんな」
まぁ、いいと。タシイは叫ぶ。
「そっちはゆっくり降ろせ。じっくり、重みを体全体に味合わせてやれ」
古論がタシイの指示をうけ、コンテナを少女へとゆっくり降ろしていく。
やがて頭に到達、でも止まらない。
緩い速度でもそれは確実に地面へと近づいていった。
「むぐあくうううう、やあまあっぁあああああああああああああああ」
まず首を曲げて逃げる、体は固定されているから曲げられない。
それでも、曲げざるを得ない。
自分の意志とはもはや別に体が歪んでいく。
「むふああああふううう、むふうううううううううう」
必死に上げるは呻き声。
「おらぁ、そっちもちゃんと見とけよ、片割れがどんどん潰れてくぞぉおお」
もう片方の女は、寝させられたまま、それを見せられる。
同時に生まれた姉妹が。
同じ顔、姿が形を変えていく。
コンテナの進みは止まらない。
声はいつしか途切れ、もう体の半分は見えなくなっていて。
それでも両足はしっかり地面に立っていた。
それもすぐに短くなって。
足下には血だまりが広がっていく。
「よ~し、じゃあ、そっちは一気に落とせ。同時だ、同時に生まれて・・・・・・」
空音がクレーンを操作。
「同時に死ねやぁあああああああああああああああああああああああ」
こっちは簡単、ただ落とすだけ。
一気に。
落下。
凄まじい音と衝撃。
寝ていた体は一瞬でコンテナの下敷きになった。
ほぼ同時にもう一つのコンテナも地に完全に接触。
その場には二つのコンテナだけが鎮座した。
「これでまた二人。残りは何人だ?」
「8人だねぇ。普通に考えればラヴ女に6人、覇聖堂に6人かな」
「となると、紅子の方にはまだ5人いるって事か。あいつら大丈夫かぁ」
「どうかね。なんせ身元を調べようにもその前に顔の皮を剥いでもう判別不可能にするくらいだし。いくら分家の処理班が助力しようも実際行動してるのはあの二人」
「う~ん、あのガキ共じゃ見境なくやって見つかり大騒ぎってのが落ちかもね」
やはり、ここは無理にでも仲間の誰かをラヴ女に送り込もうかと。
そんな考えを過ぎらせたタシイだったが。
「話は聞かせて貰ったわぁ」
急に背中からそんな声が聞こえた。
◇
ういっす、紅子っす。
今、私達は二人目を追跡中っす。
でも時間が経つにつれ来場生徒数が増えてきて校内は大盛況っす。
「う~ん、なんかよく分からなくなった」
「そっすね。プールに一滴インクを落としたみたいになんか混じって薄れてる感じっす」
それでも規格外の異常さを放ってればすぐ気付くんすけどねぇ。
所詮、相手は小物の偽も・・・・・・。
「・・・・・・なんだ、これ」
「・・・・・・いる。近い」
不意に鼻につく。
しっかりと見える。
黒い道。
まるで獣が通ったような。
強烈な残り香。
追いかける。
いいのか。
そう思いながらも。
人混みを掻き分けて。
先行する白雪ちゃんを追うように。
止めるべきか。
嫌な予感。
気配はどんどん強く。
胸が焼き付く、チリチリと。
足を止め。
周囲に人はなく。
目先にはドア一つ。
この扉を開けば多分。
焼き付く。
私の思いとは裏腹に。
白雪ちゃんは臆する事なく中へ。
そこには。
「ん~、あらぁ~遅かったのねぇ」
口を血で真っ赤に染めた獣。
「貴方は・・・・・・」
「ヴィセライーターっ」
シストくんとタシイさんの母親。
この国最高の犯罪レベルを記録したレコード持ちの殺人鬼、カリバ。
「え、えっと。な、なにしてるんすか?」
カリバさんは一人の少女を抱えている。
その少女の首元はすでに肉がそぎ落とされており。
目は光無く虚ろ、体はカリバさんに力無く凭れている。
「何って、貴方達を手伝いに来たのよぉ」
カリバはそう一言告げると。
「ちょっと、まってなさいぃ」
少女の口に自分の口を重ねた。
味わうように舐め回し。
少女の唇を自分の口に含むと。
「・・・・・・ひぐっ」
噛み千切った。
もう意識混濁の少女は叫ぶことはなく。
ただただ体だけが跳ねた。
私達はその後の租借、行動を黙って待つしかなかった。
「はぁ、やっぱり若い子はいいわねぇ」
満足げのカリバさんが少女から手を離す。
その体はどすんと地面に吸い込まれて行った。
「あ、あの。改めてなぜカリバさんがここにおられるの、でしょう、か」
「ん~、だから貴方達を手伝いに来たのよぉ」
「その格好、さすがにないわ」
カリバさんはラヴ女の制服を着ていた。
私はなるべくそこには突っこまないようにしてたのに、白雪ちゃんが口走る。
「ふふ、似合うでしょ? まだまだ私もいけるわねぇ」
「いやいやいやいや」
「ちょっ、白雪ちゃん。いや、全くその通りでありまして、もう現役生徒と遜色のつかないほど、さすが、若々しく、ほんとに、素晴らしい」
機嫌を損なうと普通に殺されるっす。この人の前じゃ、私が殺人鬼連合だとか、白雪ちゃんが昆虫採集部だとかまるで関係ないっす。
「そうよね、そうよね。それにこの学園には何らかの理由で学園に通えなかった者や途中で辞めざるを得なくなった者などを対象に特別なクラスが設けてあるのよぉ。世間は勘違いしてるけど学生に年齢は関係ないのよ、勉強はしたいときにすればいいの」
「・・・・・・なるほど、じゃあ、ヴィセライーターはここの生徒なんだ」
「それは違うわぁ、確かにここの生徒だったけどもう数十年前に卒業したもの」
「え、じゃあどうやってここに入ったんすか? セキュリティは厳しくお互いの在学中の生徒しか入れないはずっすよ」
「あぁ、そういえば入り口でごちゃごちゃ五月蝿いのいたわねぇ」
これは無理矢理入ったんすね。深くは聞かないことにするっす。
「そもそも態々私が来たのも、貴方達が頼りないからよぉ。相手の身元を確認せずに顔の皮を剥いだり、そんなんじゃ大事なお母様の学園は守れないわぁ」
「それは・・・・・・」
確かに不甲斐ないっす。ただ衝動にかられ、ただ殺しただけっす。
「いや、そういうヴィセライーターも人の事言えない。なに、これ」
白雪ちゃんの言葉に、死体を見る。
これは、ひどい。
大部分が噛みきられてピンクの肉が斑点をつくる。
「まぁまぁ、いいじゃない。まだいるでしょ? 残り何人かしらぁ」
大丈夫っすか、これ。
「ほら、貴方達行くわよぉ。ラヴ女の秩序は私達が守るのよぉ」
こうして新たな頼もしい? 仲間を得て。
私達はまた人の流れに身を任せるのでした。