おや、確かに合同は合同ですけど。(合同文化祭編 其の一)
こんにちは、蓮華です。
今年もこの季節が巡ってきました。
「合同文化祭ですか、確か相手は私の母校でしたね」
まぁ、私自身の在籍記録はすでに抹消されてますけど。
時計塔から見渡すオレンジ色の景色が今でも思い起こせます。
いい思い出も、そしていやな記憶も。
「そうなの、なんでもここらじゃうちの学校と双璧をなす優秀校だって」
「そりゃそうでしょう、なんといっても私が通ってたんですから。でも双璧ではないですね、もう一つありますよ、何だかんだであそこが一番上でしょう、確かドールコレクターが捕まるまでの一時期通ってたところですね」
「ん、姉御? 今、姉御の話をしたの、か? なんだ? どんな、だ?」
円さんは奥でゲームに集中してるかと思えばドールコレクターの事になると耳が良くなります。
「とにかく白頭巾も楽しんできてください。学生時代のそういうイベントは一生ものですから」
何気ないこの一言が別の意味に昇華する事になるとは。
この時点では、この場の全員が知りませんでした。
◇
廃屋、集うは二つの制服に身を包む一〇人以上の人物。
「ついに来ました。我らホロスコープの晴れ舞台です」
「これで私の人生に一変の悔いなし。ここで全部出し切るしだい」
「どちらがいっぱい殺すか、勝負だね」
「勿論、ラブ女の私達」
「いやいや、覇聖堂の私達でしょ」
「はいはい、今はまだ仲良くやりましょう、私達は同士」
「このまま年老いてもなにも良いことはない。なら絶頂の今が好機」
「文化祭まで後数日、お互い制服を交換したら・・・・・・」
「殺しまくりましょう」
「派手な子も」
「大人しそうな子も」
「みんな、みんな」
◇
ういっす、紅子っす。
今日は指折り数えた文化祭当日っす。
白雪ちゃんといっぱい出店を回すつもりっすよ~。
まぁ、私が勝手について行ってるだけっすけどね。
「お~、覇聖堂の生徒も続々こっちに来てるっす」
「あの、白い制服?」
「そう、あっちの制服可愛いっすよねぇ。こっちの地味なやつとは大違いっす」
「・・・・・・別にどっちでもいい」
相変わらず無愛想な白雪ちゃんと学内を回る。
「ん?」
廊下は生徒達でごった返し。
そんな中。
横切るのは覇聖堂の女子生徒。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
私、そして白雪ちゃんもきっと感じた。
振り向いた時にはもうその姿は人混みに紛れ。
「・・・・・・今の子、あっちから来たっすよね」
「うん・・・・・・」
準備道具が置かれた空き教室。
その中で。
探す事もなく一直線にロッカーへ。
開けると、倒れ込んできた。
そのまま床へと落ちる。
ラヴ女の制服を着たその体は。
「うわ~、マジっすか」
「間違いなくさっきの奴の仕業」
足で死体を転がす。
その顔は鋭い刃物で切り刻まれていた。
「さて・・・・・・どうするかっすね」
「とりあえず、相談する」
お互い、スマホを手に取って。
「あ、タシイさんすか。今合同文化祭の真っ最中なんすけど、あぁ、そうです。タシイさん達がいた覇聖堂っす。で、なんすけど・・・・・・」
「あ、蓮華お姉ちゃん。なんかね、事件みたい」
◇
こんにちは、蓮華です。
「とりあえず、その怪しい人物を先に確保してください。その先の指示は後ほど・・・・・・・あ、切れちゃいました」
まさか、合同文化祭でこんな血なまぐさい事が起こるとは。
「いそ、いそっ!」
「ん? なにしてるんです、円さん?」
「何って、潜入なの、だっ! あそこの制服どこやったか、なの、だ」
「いや、貴方は別になにもしなくていいんですよ、それにもう学生は無理でしょ」
「え? だって、白頭巾が心配なの、だ」
「まだ、状況は分かってませんよ。それより問題なのは、事件が起こった場所です。報告によると被害者はラヴ女の生徒、そして容疑者は覇聖堂の生徒です」
「それの何が問題なの、だ?」
「ラヴ女の理事長はあのシスト君のお婆さんですよ。そして覇聖堂はシストくんやタシイさんの卒業高です。そんな場所で事件が起これば、その二校の評判に関わるでしょう」
「となると、なのだ?」
「無茶苦茶にしますよ。特に・・・・・・」
◇
ういっす、紅子です。
タシイさんに連絡をとった私でしたが。
「あぁ? ラヴ女はお祖母様の持ち物だろう、そして覇聖堂はうちらの卒業高だ。合同文化祭はお互いの友愛なる交流場で、それに水を差す馬鹿はどこのどいつだ。紅子ぉ、よく聞け。とりあえず、怪しい奴は全員殺せ、疑わしきは皆殺しだ、後始末は全部私がしてやるから、とことん追い込め、好き勝手暴れろやぁあああああああああああああああああ」
「かしこまりましたぁああああああああああああああああ」
という具合っす。
対する白雪ちゃんは。
「うん、分かった。でもそれは無理、穏やかになんてできない。お姉ちゃんは分かってない」
相手は深緑深層か。
「私は殺人鬼だから」
流石に深緑深層はタシイさんのような指示は出さない。
でも。
「行くよ、紅子。さっきの奴をまずは探そう」
「そうすっすね、あれはまだまだ殺りそうっす」
こうして私達は死体をロッカーに戻すと。
廊下へと出て人の流れに身を委ねた。
◇
こんにちは、蓮華です。
「とにかく、事件を明るみにはせず、水面下で解決するのがベストですね」
しかし、あの二人ではそんな上手く立ち回れるはずもないでしょう。
「やはり、ここは私が行くべきなの、だっ! ラヴ女の制服、どこやったっけか、なの、だっ!」
「いや、合同文化祭はセキュリティの観点からどちらかの生徒だけしか入場できませんよ。部外者の貴方だと目立ちすぎます。ただでさえ貴方は受け継がれしなんちゃらなんでしょうから」
「なら、どうするの、だ。あの二人はとにかく頭が悪いの、だっ!」
「そうですね、まれに見るほどあの二人は頭が悪い。でも、こっちにいなくてもあっちにいるんですよ」
「ん? どういう事なの、だ」
「うまく連携してくれればいいんですけどねぇ」
◇
ういっす、紅子っす。
死体がまた見つかったっす。
一応隠蔽工作はしてるみたいで、うまく隠してあるっす。
でも、私達はすぐ気付く。
残り香を追いかける。
それは幾つもに分離していて。
「これ、一人の犯行じゃないっすね」
「うん、少なくとも数人はいる」
ここで、タシイさんから着信が入る。
「あ、紅子っす。いや、まだ見つかってないっすね。え、まじっすか。てことは・・・・・・」
通話を終え。
「白雪ちゃん、どうやらあっちでも同様の事が起こってるみたいっすね」
「あっちって、覇聖堂?」
「そうっす、で、あっちでも死体を見つ・・・・・・」
言いかけて。
「紅子、いた。最初の奴じゃないけど、多分・・・・・・」
「あぁ、間違いないっすね」
目に飛びこんできたのは覇聖堂の制服を着た女生徒。
「とりあえず話聞きますか」
◇
覇聖堂学園。
ここもまた合同文化祭の舞台とあって双方の生徒達で賑わっていた。
そんな中でも人通りの少ない場所にある用具入れ。
一人の少女が、ラヴ女の制服を着た生徒を滅多刺しにしていた。
「これで二人目、よし、いいペース。校内を案内するふりでおびき寄せるのは簡単、あぁ、もう死んでるけど、手が止まらないの、刺すのを止められないのぉおおおお」
言葉の通り、少女は持つナイフを何度も柔肉を蹂躙する。
その最中。
「・・・・・・あ、ん?」
背中からお腹へ強い衝撃。
自身の腹部に視線を落とす。
そこには貫かれたナイフの先端が見えた。
「あれ? なに、これ? え、あ、痛い、かも」
少女が振り向くと、少し離れた入り口付近、そこには二つの人影。
「だ、誰・・・・・・うぐっ!」
また熱い衝撃。
飛んできたナイフに今度は胸を貫かれる。
「現行犯、言い逃れはできませんね」
「多分、こいつの他にもいるよね」
「うん、だから聞きましょう、色々」
反射した眼鏡が光る。
すぐに別のものが光を放った。
眼鏡の女の手元から勢いよく飛んでくる刃先。
太股に突き刺さる。
「あぁああああ、いだあああああああああ」
堪らず膝を着く。
その直後だった。
後頭部に何かが落とされる。
頭から地面に叩き付けられる。
「芳香ちゃん、殺しちゃ駄目だよ」
「うん、大丈夫手加減したよ」
振り下ろされたのは土ならし。
それを今度は少女のナイフを持つ手に落とされる。
「あぁあ、あいああがあああああああああああああああああ」
手の甲に突き刺さる鉄の爪。
「仲間、いるでしょ? 教えて。大丈夫、私は女の子には優しいの」
「同じとこ、いくね」
再び、爪痕がしっかり残る手の甲へと。
「ひぁああああああああああああああああああああああああああ」
少しずらされたそれは、見事に点線を繋げた。
「ラヴ女にもいるはず。だから人数は多い。全部、貴方の知ってること全部教えて。大丈夫、私、女の子には優しいのよ」
ナイフを一つ、眼鏡の少女は取り出して。
「あ、あ、知らない、私一人でやってる、こ・・・・・・」
眼球付近でちらつかせていたナイフ、その先端が凄まじい勢いで柄から離れる。
彼女の得物はスペツナズ・ナイフ。
刃先が弾道のように発射され中距離からも攻撃可能。
でも、今は超至近距離から放たれ。
そのナイフは、少女の眼球に深く突き刺さった。
「なふゃぁやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
「嘘言わないで。いくら私が女の子には優しいといっても嘘つきは嫌い」
「ふふ、奏ちゃんは優しいなぁ。私は平等だから次は太股行くね」
土ならしを振り上げ、目的は白い太股。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああ」
まるで鮫か何かに噛みつかれたように。
それは歯形、抉れ、潰れ、血が穴から吹き上がる。
◇
ういっす。紅子っす。
今、一人、確保したっす。
女子トイレの個室に連れ込んで。
証拠はないっす。
でも、私達がこいつだと判断したっす。
「ぬぐぅううううううううううううううううううううう」
白雪ちゃんが指を折る。これで五本目、右手はコンプリート。
騒がれちゃ不味いので、口にスカーフを押し込んでおります。
「さぁ、目的はなんすか、早く言わないと・・・・・・」
頬骨のラインにナイフで切り込みを入れていく。
勿論、最後に顔の皮を剥ぐために。
「なにも、言わない。ならこれなら」
お腹にナイフをあてがい、そして。
「むぐうああああああああううううううううううううううううう」
横薙ぎ、ゆっくり開いていく。
「あ~あ。早く言わないと、お腹の中身出てくるっすよぉ」
白雪ちゃんがその前に、その穴に手を突っこんだ。
「むぐあぁ、むあがあ、あがうああうあぐあああああああああああああ」
かき混ぜる。臓物を、弾力、綺麗な。
涙と血が途中で混ざり、流れる。
「強情っすね。なら、切り込みは入れたし・・・・・・」
私は顔の皮を掴むと。
引き剥がす。
ゆっくり、力を、時間をかけて。
丁寧に。
肉も一緒に。
赤い、生地が見え始め。
「むああが、あがあゆあうあ、あぐあうああ」
しばらく、優しく問いかけたんす。
でも、声は聞こえなくなって。
動かなくなって。
「結局、なにも喋らなかったっすね」
「うん。中々の根性」
いや、待て。
死体を見下ろし、ふと思う。
「これ、もしかして言いたくても言えなかったんじゃないっすかね」
「・・・・・・その可能性は否定できない」
「まぁ、でも、まだ容疑者はいるっす」
「そうだね、早く捕まえよう」
◇
覇聖堂学園。
「はい、後の事はよろしくお願いします。え、紅子ちゃんのところもですか。はい、分かりました」
「タシイさんなんだって?」
「後の事は気にするな、思いっきりやれって。後、紅子ちゃんのとこにも出てるみたい」
「てことは、この合同文化祭に標準を合わせてたって訳だね。えっと、ホロスコープだっけ。全部で一二人」
「うん、紅子ちゃんも一人片付けたみたいだから、残りは・・・・・・」
「一〇人だね」
「芳香ちゃん、制服に血が付いてるよ」
「あぁ、頭潰したからね、あれで血が飛び散った。白い制服だから目立つね」
「今は文化祭でコスプレしてる子も多いから大丈夫かも。でも、その姿、前みたいだね」
「そうかも。あの時よりは血が少ないけど」
「血染めの制服少女。大丈夫だよ、まだいっぱいいるんだもん。もっと血が染みこむね」
◇
紅子っす。
学内を徘徊。
あぁ、いた。
見つけた。
すぐ分かる。
ちょっとおかしいもん。
何て言うか、世界を拒絶してる感じ。
でも、まだ愛は残ってる。
あんなもんじゃない。
私の周囲には愛はない。
私達は拒絶してるのではなく、拒絶されているのだ。
ひび割れた大地と、乾いた空気と、つねに鼻につく腐臭。
「紅子、いた」
「そうっすね、あぁ、漏れそうっす」
もう駄目、完全に入った。
抑えないと。
あの、後ろ姿。
見てるだけで。
浴槽で、私は浮かび上がる。
鞄にはさっきの子の顔が。
本当は早くつけたい、自分の顔に重ねたい。
別人になる、鏡をみて、私は私じゃ無くなって。
「今日はいくつもの人格に出会えそう」
次は騒がれてもいいように。
場所はどこがいい。
考えつく前に殺しちゃいそう。