ういうい、裏で動いているの、だ。
ういうい、円、だ。
葵シスターズという者達がおる。
姉御を慕い、姉御に心酔し、姉御のためだけに動いた者達。
以前、姉御の造った人形を巡って争いが起こり。
そのうちの数人が犠牲になった。
原因は明らかだった。
相手に対して私達は。
あまりに無力で。
何もかもが劣っていた。
情報も。
力も。
だから、みんな、あんな、挽肉のようになって。
◇
夜の帳が降りた、ここはこの国最大の歓楽街。
一人の女性が足早にその一角へと足を伸ばす。
店内に入るとズカズカと奥へと。
そこには数人のスーツ姿の男達。
「こ、これは、オーナーっ!」
中央で座っていた恰幅のいい男が慌てて立ち上がる。
「挨拶はいいわ、これどういう状況が教えなさい」
「は、はいっ! それがですね・・・・・・」
男が説明を終えて。
「で、お前ら、もう見つけたの?」
「あ、いえ、今、若い衆を中心に必死に探させてはいるんですが・・・・・・」
「・・・・・・ふ~ん」
女は徐ろに男の頭を掴むと。
「なにぉいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?????」
目の前のガラステーブルに叩き付けた。
「見つかってないのなら、お前も動けやぁあああああああああああああ、なにのうのうとここにいるっ!????」
ガラスは粉々に割れ、めり込む顔、滴る血液。
「こいつの後釜は?」
「私です」
「そう、なら、上も下も全部使ってすぐに見つけなさい。私の庭を荒らすなんて真似、この国の人間じゃ考えられないけど・・・・・・手当たり次第当たりなさい」
「承知しました」
「あぁあ、イライラする、一体どこのどいつなのか、見つけ次第・・・・・・この世の地獄を見せてやらなきゃねぇ」
◇
こんにちは、蓮華です。
「あら、あら、これは、これは・・・・・・」
中々大きな事件が舞い込んで来ました。
「不死蝶街で、大規模火災ですか」
キャバクラ、ホストなどの飲み屋から風俗店などが軒を連ねるこの国最大の歓楽街。
火の手はその数件の店から上がり。
それだけではありません、特に人気のお店はそこの店長などの首がテーブルに置いてあったとか。
従業員や客などに一切被害がない所を見ると。
確実に狙い撃ちしてますね。
私が思うにこれは宣戦布告に近い。
表向きは反社会的勢力が仕切っているように見せてますが。
その実、あの一帯をとりまとめているのは。
不死蝶街の女王。
ヴィセライーターの妹で、シストくんのおばさんでもある、本家次女マキナ。
「これは荒れますよぉ」
ちらりと横の円さんと白頭巾を見ます。
朝も早くからここに来てテレビを見ているうちのメンバー。
「ヤミヤミヤミヤミ、ヤミレンジャ~、ヤミナベヤミナベ、ヤミレンジャーっ♪」
なんか二人で戦隊もののダンスを愉快に踊っています。
「これは荒れますよぉ~」
わざと聞こえるように言ってるんですがね。
「ヤミヤミヤミヤミ、ヤミレンジャー、落ち込め、沈んで、這い上がれっ♪ ヤミヤミヤミヤミ、ヤミレンジャー、全身、黒に染め抜いて~♪」
駄目ですね、これ。全力で歌って踊ってます。
◇
どうも、どうも、種ちゃんです。
ハサミをチョッキン。
立ち上がり。
それに続くは同じ志を持つメンバー達。
「みんな、行くよぉ」
「いよいよだな、種さんっ!」
「これで漸く、あの子達に花を捧げられます」
そうだねぇ。
揚羽、蚕、そして散々弄ばれたうちのメンバー達。
「標的は二人・・・・・・まずは三女、トリムから。・・・・・・空美さん?」
「もう捕捉してる」
「さすが。じゃあ・・・・・・」
吊されていた。
指の骨、全身の骨、なにもかも折られ。
顔は原型のないほど腫れ、歯は全て無かった。
それでもあの子達は最後まで貫いたんだ。
「私は誇る。彼女達は紛れもなく葵シスターズの一員だった」
◇
マキナの憤りは遙か高く。
「どういうことっ。私自ら探しているのに痕跡が見つからない。並の組織の仕業ではない。情報戦で遅れを取るなどあり得ないっ」
自分を出し抜く可能性があるとしたら、深緑深層くらいのもの。
いや、もう一人いたと。
ふと、脳裏に浮かぶ。
過去にどれだけ潜っても影も形も見えなかった人物。
初めて自分が劣っていると感じた瞬間。
「・・・・・・ドールコレクター。いや、でも彼女はもう・・・・・・まさかっ!」
魂はいくつもに分かれ、そして宿る。
「そうか、心当たりはある。あいつらなら私達に深い恨みがあるだろう、しかし、頭のシードはとても優秀。私達に勝てないと知ってるから手を出したくても出せない。決して感情では動かず損得勘定がちゃんとできる人物。それが何故、今になって・・・・・・」
ピースははまるが答えに確信は持てない。
「面倒だわ。直接聞きましょう。確か、そこそこ使える実行部隊は二人だけ。あの時の黒いのや白いのと大差ないはず。なら・・・・・・」
マキナの物差し、適当にランク6辺りのそれ専門の者を集める。
「答え合わせが済んだら、どうしてくれよう、私の美しい庭を荒らした罰、どうしてくれようか、全員だ、全員、あぁあ、どうしてくれよう、どうしてやろう、どうすればいいの」
◇
どうも、どうも、種ちゃんです。
ハサミをチョッキン。
目の前には目的の人物。
「あああっぁあああああああああああああああああ?????? なんだ、なんなんだ、お前ら、なんだ、ああああ????」
「葵シスターズ。雨宮種だよ」
「んんんんん?????? あぁああ、見た事ある気がする、だから、なんだ、殺されたいのか、そうか、殺す、じゃあ、殺す、死ね、死ね死ね死ね」
伸ばしっぱなしの髪を振り乱し、両手がかぎ爪のように。
あれに掴まれると、その部分が破裂する。
とんでもないピンチ力。
多分、殺人鬼の中では円ちゃんと並ぶほどの戦闘力。
前まではだけど、ね。
「先生、お願いします~」
「は~い」
後ろのメンバーから一人、前に出る。
分厚い鉄の手錠、巨大な足枷。
「この人ですねぇ。ん、あれ、この方、以前、どこかで・・・・・・」
「あぁあああ??????? なんだ、お前、死にたいのか、死にたいんだな、そうか、じゃあ、しねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
問答無用でトリムが襲いかかってきて。
その直後、その体がどこかへ消えた。
◇
マキナの憤りは止まらない。
「何ですってっ!」
妹であるトリムが瀕死の状態で発見された。
全身の骨という骨が折られ、顔は元が分からないほど腫れ、歯は全部無かった。
その体はある場所で吊されていたのだが。
「・・・・・・この場所は」
以前、葵シスターズの一人の死体を吊した場所。
「答え合わせは済んだわ・・・・・・」
怒りで体が震える。自分でもどうしていいか分からないほど。
すぐに居場所を探るも。
「そう、待ってるのね。いいわ、望み通りにしてあげましょう」
とても分かりやすい。
「後、五人追加。どうせ全員でトリムをなぶり殺しにしたのでしょうけど、そうはいかないわ」
マキナの見立てでは葵シスターズ全員合わせてもランク6の殺し屋数人で充分殲滅できる。
それでも慎重にさらに人数を増やした。
「私に楯突いた事、絶望の中の絶望で後悔させてやる。絶対、殺してやらないから・・・・・・」
◇
どうも、どうも、種ちゃんです。
「これはこれは、不死蝶の女王自らご足労、痛み入ります」
「・・・・・・貴方、もう少し賢いかと思ってたのに、がっかりね」
マキナを囲むように十人の男。
「まぁ、いいわ。とりあえず旅行に行きましょう。勿論、全員で。多分、帰れないわ」
マキナが合図を出した。
同時に動く、多分マキナが雇った手練れの殺し屋達。
「先生、鍵は必要?」
「いえ、必要ありません~」
後ろから飛び出す先生。
例えば、プチトマトをテーブルに置いて、それをハンマーで思いっきり叩いたような。
血と中身が広範囲に広がって。
先生が腕を振ると、面白いように男が潰れる。
これだけの重量を手や足につけてこのスピード。
「なっ」
これには次女も驚きを隠せないよね。
眼前に見えるのは、生きた胡桃割り人形。
一〇個の胡桃が順に割られていく。
「こいつ、まさか・・・・・・」
トリムは気付かなかったけど、さすがにマキナは分かったみたい。
「なんで、貴方がここに・・・・・・」
「ん~? あぁ、どこかで見たと思ったらもしかしてマキナちゃん? 大きくなりましたね~。すっかり美人さんになって」
「・・・・・・そう。そういうこと。なら、トリムやこいつらじゃ手も足も出ないわけね」
うふふ、そう、それ。その顔、その顔だよ。
「いいね、その顔が見たかった。プライドの塊が砕けるその様。貴方は自分が特別だっていつも他人を上から見てた、とんでもない勘違い。私達を上から見ていいのは、姉様だけ」
「は、なんて憐れ。玩具を手に入れてはしゃいでるのね。自分の力でもないのに、自慢しにきた子供かしら」
「そうだよ、見せにきた。使えるものはなんでも使う、そこに信念やプライドなどない。結果が全てだよ。それができるのもまた強さ、姉様だってきっとそうする」
「そう、私もトリムのようにするのかしら、どうぞ、ご自由に」
「いいえ。それじゃ痛みで何も考えられなくなる。貴方は直接なにかするより、こうした方がダメージが大きいと思った。だから何もしない。自分の城を崩されて、眠れない毎日を送るの。あぁ、貴方、今、いい顔してるよぉ」
「・・・・・・・・・雨宮 種ぇええ」
「あぁ、貴方達を殺さないのはもう一つ理由がある。娘が殺されたら当主様が動くかもしれない。さすがにあの人は敵に回したくない。うふふ、お子様、親が偉大で良かったねぇ」
去り際に一言。
それを聞いたマキナ。歯を食いしばって、顔を真っ赤にして、なんて可愛いのだろう。
◇
マキナの憤りは振り切れる。
「くそがあ、くそがぁあ、あのくそあまああぁあああああああああああああああああああ」
気が収まらない、しかし、どうしようもない。
経緯は知らずともあの女があっちに付いたかぎり武力ではどう足掻いても太刀打ち出来ない。
あいつらはもう私を見ていない、さらに先のお母様を見ていたんだ。
もう私など取るに足りない存在のように。
「こうなれば、どうでもいい、誰でもいい、少しだけでも、少しでも」
マキナは枝を辿る。
今の自分が刈り取れる部分まで。
「前は失敗したけど・・・・・・そうだ、あいつにしよう」
目をつけたのは、以前殺し損ねた切り裂きの妹分、白頭巾。
「今度こそ、殺す、ズタボロにしてあいつらの王に送りつけてやるっ」
すぐに動く。
今日は休日、どこでなにをしているのか。
マキナは人通りの多い街でその姿を捉えた。
隣にはあの時と同じくもう一人いて。
「あれは確か殺人鬼連合の一人で・・・・・・まぁ関係ないわ。邪魔するなら一緒に連れて行く」
自分では抑えられないほどの狂気を振りまいて。
マキナは近づこうとするも。
「・・・・・・どういう事」
止めろという。他ならぬ自分が。
目の先にいる二人がこの前よりずっと大きく見えた。
男子、三日会わざれば刮目して見よとはいうが。
それは女子も一緒で。
「あれ~、マキナちゃん。どうしたの、そんな怖い顔して」
「ん? こいつ・・・・・・」
背後から声が掛かって。
「タシイ、それに・・・・・・。貴方こそなんでここに・・・・・・」
よりにもよってかわいい姪は、切り裂きと一緒。
「あぁ、今日休みだからね。ちょっと切り裂き達と買い物に来てたのよ」
「貴方達、敵同士でしょ、それなのに仲良く買い物なんておかしいんじゃない??」
「ん~、そうなんだけど、どっちかというと今日はお守りだよ。そこにいる奴の」
「・・・・・・私もだ、また変な奴が寄ってくるかもしれん、から、な」
この二人はあの子達の付き添い。
タシイはお守りと言ったが。
「紅子は、私が可愛がってる。あいつになんかあったら・・・・・・」
「白頭巾は私の妹、だ。手を出そうものなら、誰であろう許さない、の、だ」
まさにその通り。
タシイの目は、自分の姉と瓜二つ、いや、どちらかといえば。
そして切り裂きや、あの子達も。
「どいつもこいつも、上の者に似てきてるわね。忌まわしいかぎりだわ」
そう言い残し、マキナは背中を見せる。
「おい、葵シスターズの王は私なの、だ。何かあったら真っ先に私の元に来るの、だ。全部纏めて受けて立つの、だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で去るマキナ。
切り裂きは馬鹿のように見えて、ちゃんと回りは把握している。
マキナは人気のない所まで来て。
「くそがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
大声で叫んだ。
リアル時間で一年越しのリベンジでした。