うん、そろそろ取ってもらいましょう。(後編)
こんにちは、シストです。
犯罪者クラブ、最終試験。
ここまでうちのメンバーを含む全員が残っております。
情報は逐一僕の元へと入ってきていて。
「・・・・・・ラストミール」
参加者の一人、新人殺人鬼ラストミール。
とても気になります。
今まで聞いた事がない名前。
でも、最終試験まで難なく生き残っている。
「・・・・・・そして切り裂きまで参加しているとは。そうなるとこの最終試験の課題・・・・・・」
「なになに、おネニー様、あいつらうまくやってる?」
「アタシは紅子が心配だね」
僕に近づくはタシイと目黒さん、一応メンバーの動向は気になってるみたい。
「どうだろうねぇ。イレギュラーな存在が多すぎる。このまま何事もなければいいけど」
◇
時間は様々。
「クソですわ、クソですわ、クソですわぁあ!」
「なんで切り裂きが参加してるんや。あいつすでにプラチナ会員やろっ」
思惑通りいかない空音と古論の二人が憤る。
「こうなると、課題をクリアするにはあの得体の知れない女を殺すしかないですわね」
「・・・・・・正直、あれには手を出したくないで」
「そうですわね。ラストミールでしたっけ。あれは殺人鬼とかそういうレベルじゃないです、もっと違う何かですわ」
話の最中。
「キャンっ」
「な、なんですのっ!」
空音の飼い犬が一斉に小さく鳴いたと思ったら。
「い、痛い、い、ったい、きゃあ」
空音の持つリードを払う勢いで犬たちが全力疾走。
五匹の犬が空音を強く引っ張る。
「ちょっと、ちょっと、貴方達どうしたのですのっ!」
「なんや、どうしたっ」
「わ、わ、わ、わああああああああああ」
空音は犬たちの力に抗えずそのまま引きづられるようにその場から離れた。
「お、おい、空音、待てや」
古論もそれを追う。
その数秒後。
「あら、ここに人間が二人いたような気がしたんですけど」
壁からひょっこり顔を出す女。
両手を拘束する鉄のブロックはすでに赤く。
「気のせいではないですね。残り香が強く。勘の良い子がいるようです」
背を丸め体勢は低く、いつでも飛びかかれるように。
「まぁ、いいです。残り三人、誰でもいいのですから」
優しい微笑み、何もかも包み込むような慈愛。
◇
時間は様々。
ういっす、紅子っす!
今、私はよく分からない連中にめっちゃ追われております。
「ラストミールさん、どこ行ったっすかぁ」
今でも目を疑う光景。
取り囲んでいた刺客の連中が一瞬で肉塊に代わった。
ラストミールさんが叩き付けた相手の頭部。
普通は陥没するとか血が噴き出す程度の事っす。
でも、違う。
彼女の場合。
頭部が無くなる。
文字通り消失するんす。
広範囲に中身が散らばって。
そのラストミールさんは、後五人とか言いながらどっかに消えちゃいました。
一緒についていけば私の課題もすんなり達成できたものを。
私は一時もその姿を目から離さなかった。
でも、彼女は消えたんす。
「うおおおおおおおおおおお」
それはともかく、この連中、プロっす。賞金稼ぎの類いっす。
私は全力で逃げるも全く振り切れず。
また五人。
流石に勝てそうにない。
私は何度ピンチになればいいのだろう。
その度、私は奇跡的に助かってきた。
いつも誰かが手を差し伸べてくれたっす。
でも、今は完全に一人。
私の大好きな殺人鬼連合の仲間はいない。
空音さんも古論さんもどこにいることやら。
それに彼女達とはまだ打ち解けてない。
彼女達が従ってるのはあくまでシストさんやタシイさん。
殺人鬼連合には所属してるけど、なんかこう違うっていうか。
「一人なら・・・・・・・やるっきゃないっすかねっ」
もう覚悟を決める。
誰も助けてくれないのなら自分の力でなんとかするしかない。
足を止めて、振り向いて。
「さぁ、もう逃げるのはやめっす。かかってこい」
ナイフを握って。
「殺人鬼連合、第三殺、紅 紅子こと殺人鬼スキンラバー。私の首はでかいっすよっ!」
最初に人を殺した時に決めたんだ。私は止まらず最後まで殺し続けると。
「よく言ったの、だ。流石キラキラのところのメンバーなの、だ」
挟み込むように、刺客の後ろからの声。
「円様っ!?」
眠そうな目、ギザギザの歯。
あのドールコレクターの後継者。
「円ちゃん、助けるの? あいつは敵だよ」
隣には雨宮種。
「敵だが、あいつは白頭巾の友達なの、だ。あいつがいなくなると白頭巾が学校で一人になってしまう」
「ふ~ん。まぁいいけどね。円ちゃんが決めた事に私はなにも口出ししないよ」
円さまぁあああ。
殺人鬼の中で円さまに勝てる者はいない。
現役最強、切り裂き円。
そこから事態は一変した。
喉から血が次々と吹き上がっていく。
円さまのスピードに誰も反応できず。
刺客達は地面に倒れ込んでいった。
「あ、ありがとうございますっ」
私は駆け寄り深く頭を下げる。
「お礼はいい。その代わりこれからも白頭巾と仲良くやってくれなの、だ。あいつは普段強がってるが、とても弱い子なの、だ」
「は、はいっ! 勿論ですっ!」
そんな話の最中。
円様が振り向いて。
バックジャンプ、思いっきり距離をとった。
「種っ! スキンラバー、 こっちへ来るの、だっ! 今すぐっ!」
雑魚と戦ってる時とはまるで違う。
足に力がこもっているのが分かる。
全神経を前だけに集中。
「血の臭いがします。後何人でしたっけ。えっと・・・・・・」
影から姿を見せたのは。
「ラストミールさんっ」
両肩を上げ、首は下げ、背を丸め、ゆっくり歩いてきたその女性。
手には人間のようなものを持って引き摺っていた。
「円ちゃん、あれ相当ヤバい?」
「さっきは分からなかったが、なにかスイッチが入ってもう別人なの、だ。あの雰囲気、前に出会ったあいつらのよう・・・・・・」
え、え、みんなどうしちゃったの、円様達の形相がとても怖くて。
「三〇秒稼ぐ、種はスキンラバーをつれて逃げるの、だ」
「え~、円ちゃんと置いて逃げるわけないじゃん。姉様に怒られちゃう」
雨宮種もハサミを相手にむける。
「なら、ここで全滅なの、だ」
円様、雨宮種、この二人を見て。
頭に侵入してくる。
[殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す]
脳を埋めつくるその言葉。
果てしない狂気。
「わぁあ、素敵。やっぱり本物。貴方達もです。やはりあそこにいた三人の殺人鬼は貴方達で間違いないですね」
ラストミールさんが背筋を伸ばした。
「これで一〇人目でした。なので私の課題はクリアですね」
ラストミールさんが手に持ってた死体を投げる。
腕は片方もげ、足はつま先と踵が逆に、そして頭部は無かった。
「では、私はお先に失礼しますね」
そういいラストミールさんはまた姿を消した。
途端、その場に倒れる円様。
「な、なんだったのだ、あれは」
「・・・・・・・・・・・・」
安堵する円さまの隣で雨宮種だけが無言で何かを考えていた。
◇
時間は様々。
「あぁ、あああ、なんですの、なんですのっ! なんなんですのっ!」
「空音、少し落ち着けや」
標的のラストミールを探すもどこにも見当たらない。
時たま犬たちが気が触れたように制御できなくなる。
「このままじゃ課題のクリアは絶望的ですわっ!」
「そうやな・・・・・・そうなると」
二人の課題内容、空音は参加者一人の殺害。古論が参加者一人の足止め。
「もう一人しかおらへんなぁ」
「そうですわね、仕方ないですわ」
ラストミールは見つからず、雨宮種には切り裂き円が付いている。
そうなると消去方で残りは一人。
「何かを達成するには犠牲は付きものですわ」
「そうやな、これはしょうがないこと。仲間とはいえ私達が失敗すればシストくん達に顔向けできへんし」
二人は標的を変更。
それは、同じ殺人鬼連合の。
紅 紅子。
戦闘能力はそれなりにあるものの二人の敵ではなく。
仲間なのであちらも油断してるはず。
「そうと決まれば紅子さんを探し・・・・・・」
その時、空音のスマホが震えだした。
「ん、あ、タシイさんからですわ」
相手を確認して急いで着信に応じる。
古論にも聞こえるようにスピーカーモードにすると見知った声が聞こえだした。
「よう、空音、調子はどう?」
「これはタシイさん、私も古論さんも今の所とても順調ですわ。これから最終試験の課題をこなし戻れば無事合格です」
「そう、それは何より。後、紅子はそこにいる?」
「あ、いえ。紅子さんとは二次試験の内容上、はぐれてしまって今は別行動してますわ」
「そうなんだ、それなら二人は引き続き試験頑張ってね」
「はい、お気遣いありがとうございますわ」
「あぁ、そうそう、最後に一つだけ・・・・・・」
「? はい?」
「お前らを参加させたのは紅子が心配だったからだ」
「はい?」
「紅子に何かあったら、お前ら・・・・・・」
声のトーンが変わる。
「ぶっ殺すぞ・・・・・・」
「は、はい。そ、それはもうちゃんと心得ております、わ」
こうして通話は終わり。
「・・・・・・どうしましょう」
「・・・・・・とりあえずどっちにしろ紅子ちゃん探さなあかんな」
◇
時は様々。
ここは第二次試験のスタート地点。
および、最終試験のゴール地点でもあった。
「おめでとうございますっ! 一番乗りは雨宮種様、課題の一億稼ぐも達成されましたのでプラチナ試験合格とさせていただきますっ!」
「やったね~」
最初にゴールしたのは雨宮種。
「あの車を犯罪者クラブのネットワークを使って売却、取引を終えると同時に飛行機で最寄りの空港まで戻って待機していた仲間の車でここまで来る。制限時間もたっぷり残ったね」
「続きまして同着、課題の一日生き残るも見事達成しました、紅 紅子様、同じく合格とさせて頂きますっ!」
「いいのかなぁ・・・・・・」
結局、その後も種達と一緒に行動していた紅子がちゃっかり最後まで付いていったので同着だった。
そしてその数時間後。
「うお~、間に合いましたわっ!」
「なんやねん、紅子ちゃん、もう先に着いてるやんかっ!」
ギリギリまで紅子を探していた二人も到着。
「無事に辿り着けて何よりでございます。しかし、貴方達は課題をクリアしていないようですが?」
「? これじゃいけませんか?」
空音が助手席から女性の生首を地面へと放り投げた。
「ひっ! これはっ!」
「なんか、最初に課題を出してた運営の人です。運営も参加者でしょ? ならこの人の殺害でもいいのではないでしょうか」
「そうや、そうや、なにも問題あらへん」
「え、いや、駄目じゃないでしょうか。一応本部に問い合わせますが」
この時点で二人は自身たっぷりであった。
さらにその六時間後。
「到着ですね~」
「はい、残念、時間切れですっ!」
「え~」
ゆっくりと走ってきたラストミールが残念そうに眉を下げる。
「そうですか、駄目でしたか。まぁ私ごときではまだ早かったという事ですね。これからもっと精進します」
車から降りてきたラストミール。
それに近づく雨宮種。
「ねぇ、貴方、うちに入らないかな?」
「ん~?」
「おい、種、どういう事なの、だ」
「円ちゃん、私達に足りないのは規格外の戦闘力を持つ者。この人がいれば他の陣営にもきっと対抗できる」
「それはそうだが。分かってるか、種。これはいつ爆発するか分からない爆弾を抱えて生活するようなもの、だ、ぞ」
「うん、それでも私は彼女が欲しい。彼女がいればあの時、蚕も揚羽も死なずにすんだかもしれない」
「・・・・・・・・・・・・」
「ラストミール、貴方は殺人鬼に憧れているんでしょ、ならうちが最適。姉様は至高、殺人鬼の中で姉様より上はいない、ううん、全てのカテゴリーで姉様が一番」
「確かに私は殺人鬼に憧れてはいますけど、その方は私の親友より上なのでしょうか、じゃなきゃ私には興味がありません」
「その親友とは誰の事かな?」
「素敵な方です。狂いに狂った、狂気の殺人鬼、ヴィセライーターのカリバちゃんです」
「ヴィセライーター・・・・・・」
「・・・・・・確かにあれは凄まじい。だが、問題ない。はっきり言うの、だ。姉御はヴィセライーターより上だ。以前、ぶつかったが姉御の敵ではなかった」
「へぇ、それは本当ですか。・・・・・・嘘なら親友を侮辱された気分になってしまいますよぉ」
空気が淀む。
それでも向かい合う二人が態度を変えることはなかった。
「この命をかけても誓うよ。姉様が一番、姉様が、姉様こそ、姉様、あぁあ姉様」
「私も誓おう、姉御に勝てる奴はいない、私も種も、ヴィセライーターだろうが、九相図、眼球アルバム、キラキラ、レンレン誰もだ、誰も姉御は越えられない」
「真実はともあれ、すごい信頼ですね。貴方達ほどの殺人鬼が一切の曇りない眼でそこまでいうお方、がぜん興味が出てきました。で、その方はどこに?」
「・・・・・・もういないの、だ」
「違う、私の心にずっといるの、寝ても覚めても、ずっと、耳を澄ませばいつでも声をかけてくれる、姉様はいる、ずっと私の傍にっ」
「つまり、もう死んでるのですね。それでは話が違います」
「違う、違う、姉様はいるの、世界を包んで、姉様が全てを管理している、姉様、姉様が、姉様ぁああ」
「越えられはしないが。私が、私達がいつか辿り着いてみせるの、だ」
「・・・・・・先行投資という事ですか」
ラストミールがここで紅子の方に顔を向ける。
「別の殺人鬼の貴方は今の話を聞いてどう思いましたか?」
「えっ、私っすか? えっと・・・・・・」
この一言が今後の状況を一変させる。
そんな事は一切思わず。
「まぁ、ドールコレクターが殺人鬼の中で一番なのは誰もが認めるはずっす。それこそシストさんやタシイさん、目黒さんだってそう言うはずっす。同じ殺人鬼として認めるしかない、ドールコレクターはそういう人っすよ」
「そうですか・・・・・・」
「そして、その二人ならそんなドールコレクターの域に達せるはずっす。今、一番彼女に近いのはその二人っすから」
濁りの無い視線。
これが決めてになったのだろう。
「分かりました。私、貴方達の元で勉強させて頂こうと思います」
そう言うと、ラストミールは何かを円に投げつける。
「これは?」
「鍵です。この手枷、足枷の。貴方達にそれを託します、解放するときはお気をつけ下さいね」
こうして葵シスターズに新たな仲間が加わった。
これで葵シスターズの戦力が一気に増す事となり。
各勢力が均衡する。
蓮華の蛇苺、シストの瑞雀、当主の魔鏡。
それらに対抗できる規格外の戦闘力を要する人物。
葵シスターズはここで漸く手に入れるのであった。
ちなみに空音、古論の流石に認められないという事で。
不合格になった。
「なんでですの~!」
「理不尽や」
近々リョナ子の拷問話、別枠で投稿するかもです。