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うん、そろそろ取ってもらいましょう。中編の二

こんにちは、シストです。


 犯罪者クラブのプラチナ会員認定試験。


 今は、その二次試験の真っ最中ですかね。


 試験内容は各自好きな車を選んで目的地まで制限時間以内に到着すればいいとの事ですが。 

今回受けてるうちのメンバーは誰も免許を持ってないけど大丈夫なのでしょうか。



       ◇


 犯罪者クラブ、本部組織。


「なにっ! 参加者の一人がもう目的地に着いただとっ!?」


 本部役員が驚きの声を上げる。


「え、ええ。エントリーナンバー415、雨宮種が一番乗りで到着しました」


「あ、ありえん、いや理論上可能だが、そうなると最初から最後まであの車の最高速を維持しつつ走行しなければ・・・・・・」


 雨宮種の選んだ車は、ブガッティ・シロン。最高速は400キロを越えるモンスターマシン。


 二次試験開始の選択肢の中では最速の車。


「後続の妨害車も追いつけず、前から行けば一瞬で見失う。まさに狂気の走行だったと・・・・・・」


「し、信じられん。書類ではあの女は免許すら持ってないはず。なのに、なぜそのような事が可能なのか・・・・・・」


「ちなみに他の参加者、百目鬼 空音、大下倉 古論も妨害車を振り切って後2時間ほどで到着予定です」


 ある一定のスピードさえでる車を選んでいれば妨害車を振り切れる事ができる。


 逆に妨害車より遅い車を選んでいた場合は。



       ◇


 あああ、紅子っす。


 今、めっちゃ煽られてるっす。


 拙い運転で皆より1時間も遅れてスタート。


 途中、軽自動車に乗っていたラストミールこそ追い抜いたものの。


「あああ、やめろっ! 煽り運転は犯罪っすよっ!」


 いつの間にか迫ってきた数台の後続車に取り囲まれております。


 私は免許もなく、ただでさえこの車はハンドルは重いし操作も複雑だし、窓もくるくるハンドルで開けなきゃだし、あぁあ、もう無理。


「ぎゃあぁああああああああああああああああ」


 リアをコツコツされた私は、夢中でアクセルを踏んでいた事もあってそれはもう簡単に制御を失う。


「ひぎゃあああああああああああああああああ」


 車はグルグル回って道路からはみ出し、赤い大地を砂埃を上げながらまだ回る。


 回転は横軸では止まらない、途中小岩に乗り上げ今度は縦軸回転。


「いやああああああああああああああああああああああああ」


 光の無い海中を泳ぐように、もうどこが上で下で右で左か分からない。


 車は上下逆にお腹を見せながらやっと停止した。


 ドアを蹴り上げる。


「うおおお、死ぬ、死ぬかと思った・・・・・・」


 這いずるように外へ。


 妨害していた車はすでにもう姿はなかった。


「・・・・・・はぁはぁ、えぇ、どうするのこれ」


 乗っていた車はどう見ても動きそうにない。


 目的地まで後何キロあるかも分からない。


「え? ここで終わり・・・・・・?」


 頭は真っ白。ここから歩いていくべきか、車を一応確認するべきか、そんな絶望的な事すら考えられない。


 時間だけが過ぎる。


 体育座りで道の横で小さくなっていた。


「・・・・・・えぐ。あの二人はもう着いたのかな。えぐ、私だけ落ちたら、タシイさんや目黒さんに顔向けできないっす、えぐ」


 半べそかいて俯いていたその時。


 ブーブー。


「ん?」


 ブーブー。


「ん? あ」


 一台の車が私の横に止まった。


「どうしました~? もしかして事故ってしまわれたのでしょうか?」


「・・・・・・はい。なんか凄い回ったっす」


「そうでしたか~。なら、私の車に乗っていかれます? 目的地は一緒ですし~」


「っ! いいんすか??」


「はい、どうぞ~」


 白い車の軽自動車。その窓からこちらに向かって微笑むのは。


 今回の参加者の一人。


 新人殺人鬼のラストミールだった。


  

        ◇


 どうも、どうも、種ちゃんです。


 目的地だったのはこの大陸でも特に大きな都市。


「は~い、二次試験合格おめでとうございます。貴方が一番乗りです! では早速最終試験の課題を選んでください」


 若い女性の運営から差し出されたのは穴の開いた小さな箱。   

 

「・・・・・・中身はランダムって事なのかな」


「その通りでございます」


 中に手を入れると数枚の紙の感触。


 その一つを抜き出す。


「内容を確認します」


 開いた紙に書かれていたものは。


「・・・・・・この街で一億稼いでスタート地点に戻れ」


 ふ~ん。なるほどね。


「課題をクリアし二次試験のスタート地点へとまた戻ってください。辿り着いた時点で貴方ははれてプラチナ会員でございます。期限は二日となっております」


「二日で一億か」


 まぁ、なんとかなるでしょ。


「あくまでこの街で稼いでください。元から持っているものでは不可とさせてもらいます」


「うん、分かったよ~」


 そうなると早速動くとしますか。


 この条件は他に思惑もありそうだね、できれば他の参加者が到着する前にこなしたい。



         ◇

 

 二時間後、遅れてこの街へ到着したのは。


 殺人鬼連合、空音、古論の両名。


「ふぅ、やっと着きましたわね」


「あ~、疲れたわぁ」


 空音は詰め込んだ犬達も降ろす。こちらも少しぐったりしていた。


「お疲れ様でございます。お二人とも時間内の到着でしたので早速最終試験の内容を選らんでいただきます」


 雨宮種の時と同様に白い箱から紙を取り出した二人。


「・・・・・・古論さん、どんな内容でした?」


「私はこれや、空音は?」


 二人の最終試験の内容。


 空音の紙に書かれていたのは。


[この街で同試験の参加者を一人殺害してその死体と共に二次試験のスタート地点に戻ってくる事。期限は二日]


 古論の場合は。


[この街で同試験の参加者を二日足止めした後、二次試験のスタート地点に戻ってくる事。期限は三日]


 それを見た空音は考える。


「これは協力できそうですわね。参加者5人のうち、三人は仲間。となるとターゲットは二人に絞られますわ」


「あっちはやめとき。あれはなんやしらんけど近寄らんほうがええ。となると・・・・・・」


「ええ、あの護衛でもある実行部隊の二人を失った雨宮種。彼女自身に戦闘能力はほとんどありません。この課題容易いかと」


 二人は標的を決めると動き出す。


     

        ◇


 空音、古論が到着したその六時間後。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 滑り込むように一台の車が街へと入ってきた。


「あっぶなぁああああああああああああああ、残り三十秒だったっすっ!」


「あらあら、ギリギリでしたね~」


 二人が車から降りると待ちかねていたように運営の人物が近づいてきた。


「お疲れ様です。お二人とも間一髪でございました。二次試験は合格とし、これより三次試験の内容を選んで頂きます」


 若い男性が箱を差し出す。


「は、はいっす。えっとこの中から取るんすね」


 紅子が引いた紙の内容。


[この街で一日間生き延びろ。その後二次試験のスタート地点へ戻るってくること。期限は二日] 


 そして次に引いたラストミールは。


[この街で10人殺害して二次試験のスタート地点へ戻ってくること。期限は一日]      



 犯罪者クラブ、本部。


「孝明さんも中々意地悪な方だね」


 最終試験の内容を確認するテンドウがそう漏らす。


「できるだけ合格者を出したくないらしい」


 参加者一人の殺害でまず一人は落ちる。それを達成できない場合も同義。


 他は概ね足止めが目的。


 戻る時間を考えれば制限時間は思っている以上に少ない。


 さらに孝明氏は犯罪者クラブのネットワークを使い参加者達に懸賞金をかけた。


 特に運営に手を出したあの三人を目の敵にしている。


「さぁ、これをどう乗り切るか。私はもうしばらく静観させてもらうとするよ」


     

        ◇


 起こった時間は様々。


雨宮種の前に殺人鬼連合の二人が立ちふさがる。


「試験内容。参加者一人の殺害ですの~」


「こっちは二日の足止め。てことはや・・・・・・」


 空音の両手には牙剥き出しの10匹の猛犬。


「お前を殺せば、どっちも課題達成や」


 古論の手には大型レンチ。


「ふ~ん。それで私の所に来たって訳だね」


 種は得物すら出さずに二人と向き合う。


「随分余裕ですわね。ご自慢の実行部隊もいませんのに」


「お前一人を殺すのなんて訳ないで」


 不敵に笑う、空音と古論。


 それを涼しい顔で微笑み返す雨宮種。


「そうだね、私だけじゃ勝ち目はない。でもそうじゃないの。私にはちゃんと仲間がいる」


「? 葵シスターズの中で腕利きの実行部隊はあの二人だけのはずです。それを置いてきた時点で他に誰がいるのでしょう?」


「そうや、お前が乗ってきた車は二人乗り・・・・・・。 っ!? まさか誰か他に乗っていたんか?!」


 種の後ろからフードを深くかぶる人物が種の横に並んだ。


「私は仲間の中で選んだの。あの車を一番うまく操れる人物。そして・・・・・・」


 隣の女がフードを取った。


「仲間の中で最も信頼できる最強の子を」


 毛先の黒い金髪。


 眠そうで、されど鋭い瞳。


 歯はギザギザ。


「き、切り裂き・・・・・・」


 二人は途惑う。


 同時に、手に繋がれた犬たちが。

 

 キュウン、と一斉に泣くと震えながら空音の後ろへと姿を隠した。


「あ、貴方達、ちょっとどうしたのですっ!?」


「・・・・・・怖がっとる」


「ど、どういう事ですの!? 切り裂きは貴方達の王でしょう!? それをこんな貴方の手伝いのような事をさせて」 


 空音の疑問も種はすぐに返す。


「確かに円ちゃんは私達の王。だけど、貴方達は勘違いしている。私達の中に序列はない、王の上には神がいて、私達が崇拝するのはその方のみ。それが誰だか分かるよね?」


 問いかけるその顔が、嫌でもその者を思い起こされる。

 

 隣り合う二人の背中から明白なイメージ湧き上がる。


「・・・・・・ドールコレクター」

「・・・・・・最悪の殺人鬼や」


 円が一歩足を踏み出す。


「どうする? 私はどっちでもいいの、だ。さっさと早く終わらせて農業をするゲームをしたいの、だ」


「わ、私達に手を出せば、シスト君達が・・・・・・」


「無駄や。こいつのバックは深緑深層。同じ分家の十日がどうなったか、覚えとるやろ」


「くっ!」


 二人は歯を食いしばりながら後ずさっていく。決して目を離さないようゆっくりと距離を離していった。




 起こった時間は様々。


 紅子の前に数人の黒ずくめの男。


「こいつら、一体なんなんすか」

 

正体は分からない。しかし、明白な殺気だけは見て取れる。


 相手は5人。手には刃物や拳銃。しかも明らかに暴力を職業にしている輩。


 勝ち目は薄い。


 今度こそ万事休すか。


 そう思う紅子だったが。


 闘争本能だけは消えずに残る。


「人を殺して、殺して、殺して、今度は自分が殺される。それはとても自然な事で。でもっすよ。私も殺人鬼。殺された分殺してやりますよ」


 使い古したナイフを取り出す。


 紅子が持ち込んだのはこのナイフのみ。


 他の何よりも優先した。


「顔の皮を剥いで、剥いで、剥いで、だから最後もきっと私は皮を剥ぐ」


 葛藤している時間も余裕もなかった。


 だから紅子はすでに本能だけで動く。


 生きたい、逃げたい、それらを放棄して。


 最後に残ったのは。


 殺したい、であった。


「わぁ、やっぱり、凄い」


 それを見ていたラストミールが目を輝かす。


「これです、これ。私が憧れたのはこれなのです。人を殺して殺して、でもいつしか気付いた、違う、そうじゃないと、私が求めていたのは別、親友のあの子のようなどこまでも純粋な感情、あぁ、貴方はやっぱり紛れもなく・・・・・・」


 ラストミールがうっとりと紅子を見つめ。


「本物の殺人鬼ですぅ」


 襲撃者はそんなやり取りの中お構いなしに二人へ襲いかかる。


 それは閃光か。


 紅子は一瞬目が眩んだような気がした。

 

 次の瞬間。


 倒れる男。


 四散し完全に失われた頭部。


 地面には脳や頭蓋、血が地図のように広がっていて。


 ラストミールの重そうな手枷に血がこびり付く。


「これで後9人ですね~」


       ◇


時間は様々。


 犯罪者クラブ、本部。


「テンドウさんっ! これは一体・・・・・・」


 その場は騒然としていて。


「ははは、まぁ過ぎた事はもうどうしようもありません。後は自分でなんとかしますので」


 テンドウは何事もなかったようにその場を離れる。


 何が起きても一切動じない男。


 つねに表情を崩さず、つねに穏やかで。


 そんな彼が部屋を出て一人になった途端。


 膝から崩れ落ちる。


 今起こった事とはまるで無関係の事で激しく動揺していた。


「わ、私の自慢の・・・・・・2000GTが・・・・・・」


 二次試験の内容を見て、自分の愛車を並べてみたくなった。


 最新の名車にもひけをとらない、今を色あせず輝き続ける自分の愛車。


 まさかあんな姿で戻ってくるとは。


 テンドウは泣いた。


「うぅ、妻と子供達の次に大事な、私の・・・・・・2000GT・・・・・・」

 終わりませんでした。また出た、中編の二。

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― 新着の感想 ―
[一言] 円ちゃん来てたのか!? 葵ちゃんの時といい、白雪ちゃんの時といい、強力な味方が毎回いるよ。でも、今回も蓮華さんが言い出したのですかね。それとも種ちゃんが行くということで蓮華さん関係なくだった…
[一言] 今週もありがとうございます。 種ちゃん可愛い〜!!!先週、お返事いただいた感想の通りに円ちゃんがバックにいたんですね。種ちゃんさすがです。円ちゃんが王ということにはなっていますが、彼女も種ち…
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