うん、そろそろ取ってもらいましょう。(中編)
こんにちは、シストです。
犯罪者にとってとても大きな恩恵をもたらす犯罪者クラブ。
そのプラチナ会員試験に今まさにうちのメンバー三人が挑んでおります。
一次試験は全員無事合格したとの知らせを受けましたが・・・・・・。
二次試験は他の会場で合格した者達とも合流する予定だとか。
僕はまだ他の合格者の詳細は得てはいませんが、一体どんな方々がおられるのでしょうかね。
◇
ここは犯罪者クラブの本部ビル。
中核を担う面々が顔を揃えていた。
「これは認められんぞっ! よりによって運営の者に手をかけるなどっ!」
激しく憤っている者が一人。
「まぁまぁ、孝明さん、そう怒らず、少し落ち着いてください」
「・・・・・・テンドウさん。しかしですなぁっ」
「確かに彼女達は少々無茶苦茶ではあります。しかし我ら犯罪者クラブの理念をお忘れですか。犯罪者は本当なら誰も犯罪など犯したくはない。しなくてはならない、するように運命つけられた、だからこそ犯罪者達は犯罪を犯すのです」
「・・・・・・それはそうですが・・・・・・」
「裕福なら誰も盗みません、怒りや嫉妬を抱かないように生まれていれば暴力も振るわない。犯罪は生まれた環境や境遇に紐付いておられるのです。我らは罪を憎まず、人も憎まず、そういう精神の元集った有志達ではありませんか。ここは彼女達を赦し、そして少し見守ろうではありませんか」
「・・・・・・分かりました。テンドウさんがそこまで仰るなら一次試験の事は水に流すとしましょう。しかし、失格にしない代わりに二次試験は私が少々口出しさせて頂きます、よろしいですね?」
「ええ、ご自由に」
怒り狂っていた男はまだ腹の虫が治まらない様子でその場を離れた。
「やれやれ、あの子達ももう少し大人しくしてくれればこちらも楽に手助けできるのだけどね」
◇
どもっす、紅子っす。
一次試験の後、誘導されるまま長時間の移動。
ついた先はどこかの外国でした。
四方なにもなく、見えるのは地平線だけ。
後は果てしなく続く、一本の舗装された道路。
「え~、皆さん、第二次試験の場のようこそ」
運営の人が少し離れた場所から拡声器を使って話してる。
今、この場にいる参加者は私達三人だけ。
もしかして一次試験に通ったのは私達だけなのか・・・・・・。
「他の参加者が集うまで今しばらくお待ちください」
いや、違うみたい。
他にもあの小難しいテストを突破した者達がいるのか。
一体、どんな連中・・・・・・。
そう考えていた矢先。
一台のバスが到着。
中からぞろぞろと人が降りてくる。
合格者、多っ!
最初は人数に驚いた私だったが。
ん、あれ、ん、ん、あれあれあれ。
「あ、あ、あ、あの連中はっ!」
集団の先頭。
表面の黒髪が風に靡き、中からピンクの髪が晒される。
「あ、葵シスターズっ!?」
ま、間違いない。あれは数ヶ月前くらいにうちら殺人鬼連合とガチでやりやった葵シスターズ。あの真ん中は実質ナンバー2のシード・ザ・プラント、雨宮種。
「あれ~、これはこれは奇遇だねぇ」
こちらに気付いた。
途端、葵シスターズ達の雰囲気ががらりと変わった。
「あわわわわわ」
「あ~?」
「なんなんなんですの~?」
私はビビったけど、他の二人は真っ向から睨み合う。
「そ、空音さん、古論さん、こいつら葵シスターズっすっ! やばい連中っすよ!」
「は~ん? 葵シスターズ? あぁ、あれか、ちょっと前にシスト君達に挑んでボコボコにされた、あの、葵シスターズか」
「あら、そうでしたの、そういやうちの家族も参加したとかなんとか。随分手痛くやられたみたいですわね。仲間も何人か、死んだとか?」
二人はそう言い、含み笑いを見せた。
うお~い、なんで挑発しちゃうかなっ。
「なんだぁ、おい、舐めてんのかぁぁぁああ」
「殺しましょう、そうしましょう」
雨宮種の両隣の女達が怒気を高める。
こいつら葵シスターズの実行部隊だ。ステゴロでやっても勝ち目がないっす。
「まぁまぁ、事実だし言わせておこうよ。君達も試験を受けに来たんでしょ? お互い頑張ろうね。応援し、てる、よ」
おぅ、さすが葵シスターズの頭脳だけあって挑発には乗らないっす。
そんなこんなのいざこざの中。
また一台、バスが向かってきた。
「おっと、ここで最後の参加者が到着しました」
降りてきたのは今度は一人。
一見妙齢に見えるが、その落ち着いた雰囲気、そして全てを包み込むような母性的なやつ、多分私よりずっと年上。
長い髪を真ん中から分け。
黒を基調とした厚手の服には所々わざと切り裂いたような開き。そこから中地の紫色が覗かせる奇抜な服。
いや、それよりもっと目を引いたのは。
「なんだ、あの人」
手にはコンクリートブロックのような大きな手枷。素材は鉄のようでとても重厚感たっぷりなのが見て取れる。足にも可動域こそ確保しているものの同じく太い鎖で両足首が繋がれていた。
「あ、参加者の方々ですか? はじめまして、わたくし新人殺人鬼ラストミールと申します。親友が殺人鬼をやってましてそれにずっと前から憧れていたのですよ。最近漸く身の回りも落ち着いてきたもので念願叶って殺人鬼に転職してみました。今日は殺人鬼の先輩に会えるかなと思い、とても楽しみにしてたのですよ。色々ご教授頂ければ幸いですっ」
見た目と反してとても社交的。
しかし、誰も返事はしない。
彼女を見て皆様々な感情を抱いている最中。
中身が見えない。
得体が知れないとはまさにこのこと。
「あぁ、やっぱり。殺人鬼が3人もいらっしゃるじゃないですか。これは来たかいがありました」
女性は全体を見渡しそんな事を言った。ちょっと待って、今3人って言ったよね。私達とシードで本来四人じゃないのか、これは私が抜かされてるって事!?
「さぁ、合格者の5人が全員揃った所で第二次試験の説明を開始したいと思います」
ふと我に返る。
ちょっとまだ待って、合格者5人て。じゃあぞろぞろいるあの葵シスターズはなんなのだ。
「第二次試験は最終試験の場所までの移動でございますっ! 制限時間あり、(妨害あり、ぼそ)移動手段は車でございますっ! こちらで何台か用意しましたのでご自由に選んでください」
係の人が指刺した先には車が10数台並んでいた。
「あの~、私、免許持ってないんですけど~」
とれる歳でもない。
「大丈夫ですっ! ここは海外っ! ここでは15才から免許を持てますっ!」
「いや、そうだとしても」
15才になってすらいませんし。
「そもそも犯罪者がなに免許とか細かい事言ってるんですか。犯罪者の屑は無免許が当たり前でしょう」
「確かに」
「私はおそば付きになるための教育の中に当然運転技術は求められていたので取得はしてます。免許はもっておりませんが」
「私もや、こういうのは仕組みが分かってればどうにでもなるもんやで」
こっちの二人は自身満々。
「困ったなあ。私、車の知識はあまり無いから。どれがいいんだろう」
葵シスターズ、雨宮種の方は少々途惑ってるご様子。
「あ、私、これにしますね。Zボックスですか。小さくて運転しやすそうですしっ」
その中で一番先に車を選んだのは件の女性、ラストミール。
「では、お先に失礼しますー」
ラストミールは白い小さな車に乗り込むと先に走り出す。
あれ、軽自動車だよね。時間制限ありだからできるだけ速い車がいいんじゃ。
「じゃあ、私はこれにするよ~」
次に雨宮種が選んだ。
彼女が選んだのはなんか凄そうな黒い車。
「ブガッティだっけ? うちで一番詳しい人がこれをお勧めしたよ」
「種さんっ! これ二人乗りだ。そうなるとあっしらは種さんと一緒にいけないぞっ」
「そうです、せめてこっちの4人乗りの方でっ!」
あぁ、そうか。もしかして雨宮種は持ち込める物に仲間とか無茶苦茶な事通したのかな。うちらも人のこと言えないけど。
しかし、そうなるとこれも運営の思惑かもしれない。
出来るだけ速い車を選ぶなら人数は制限されるから。
ここで実行部隊の二人がいなくなるのはこちらにとってかなりでかい。
「私も車はよく分かりませんので、名前だけ知ってるこのフェラーリ〜にしますわ」
「じゃあ私はこれや、マクラ〜レンにするわ」
おっと、こっちの2人も決めた模様。
空音さんが無理矢理犬達を車内に押し込んでいる。
私はどうする、何を選べばいいんだ。
そういえば、タシイさんが乗ってた車の中で最高だってべた褒めしていたやつがあったな。
普段は赤いジャガーEだかなんだかタイプに乗ってるけど、その時はお父さんに借りたとかで・・・・・・。
あれは確か白い車の・・・・・・。
「そうだ、2000GTっ」
「2000GTですね。あるにはありますが、この条件下だと誰も選ばないだろうと台数合わせとして置いていただけでした・・・・・・」
「それにするっすっ!」
こうして私は一番最後に走り出す。
いや、走り出せない。
このレバーをどうするか分からない。
そこで見かねた運営の人に操作方法を一通り教えてもらい。
一時間後にスタートする事となった。
いまさらながら、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
ラストミールの脳内ボイスは早見さんですね。