うん、そろそろ取ってもらいましょう。(前編)
こんにちは、シストです。
今日は溜まり場の一つで、とあるメンバー達を呼び出しておりました。
「古論、空音、紅子。君達三人はこのたび行われる犯罪者クラブのプラチナ会員試験に挑んでもらう」
うちではすでにタシイと目黒さんは所得済み。
僕は犯罪者ではないただの一般人なので参加資格はない。
正直僕達はこのクラブの力を借りずとも大抵の事は自分達でどうにかできるのだけど。
その場合裏取りや申請に手間がかかる場合がある。
その点、ここは犯罪者同士のネットワークが確立されていて会員証さえあればすぐに認証可能。
「え、シストさん。プラチナっていきなりっすか? あれ普通ブロンズからコツコツ名を上げて一定のポイントを・・・・・・」
「それは大丈夫、殺人鬼連合所属の時点でプラチナ挑戦権は得ているよ」
「いや、でもプラチナ試験て相当難しいって聞きますけど・・・・・・」
「そうだね、生半可で挑むと普通に死ぬ。現在プラチナ会員なのは、うちのタシイ、目黒さん、そして切り裂き、レッドドット。その四人だけだ。切り裂きでさえ相当更新時には苦労してたよ」
「えぇ、あの円様でさえっすか。てか白雪ちゃんも何気にプラチナなんだ・・・・・・」
「正直にいってうちの二人は少し不正をした。切り裂きが苦労したのはまだ未熟な白頭巾を連れ立っていたせいもある」
まぁ、切り裂きと同じようにハンデを背負ってなお楽にクリアした人物も過去にはいたけどね。
幻の初代プラチナ会員。
「今回も君達が望めば楽なコースを用意する事もできるけど・・・・・・」
「あっ、それなら・・・・・・」
紅子の声を遮って。
「冗談ではないですわ。私達にそんなお気遣い無用です」
「ほんまにそんな心配せんといてください」
空音と古論がそういった。
「え、いや、二人とも、せっかくシストさんが・・・・・・」
「流石だね。それでこそ殺人鬼連合のメンバーだ。今回は参加者が多いみたいだから充分気をつけてくれ」
「「はい」」
「いや、え、えぇえ」
こうして三人は犯罪者クラブの試験を受けるのであった。
◇
はいはい、紅子です。
殺人鬼連合第三殺、紅 紅子です。
会場につきました。
今年は未知なウイルスが流行ってるとの事で会場もいくつかに分かれてるみたい。
私達は第三会場。
ここは普通にどこかの大学だった。
教室に入れられ、席は離され。
そしたら誰かが入って来た。
「はい、皆さん、こんにちは。ここの試験官です。さっそくですが皆さんには試験をしてもらいます」
はい、終わりました。
噂に聞いてたけど年度によっては意味が分からない筆記試験があるってのは本当だった。
よりによって今年とは。
会場には数十人。
私と同じようにいきなり絶望した者も少なくない。
「その前に皆様には一つだけ持ち込みを許可しております。ですか、そこの貴方、それはなんでしょう?」
試験官は空音さんに目を向けた。
「はい? 犬ですが? なにか?」
「いや、それは見れば分かります。なんで何匹もいるんですか?」
「? 犬です。一まとめで犬なんです」
空音さんの飼い犬はよく躾けられているらしくとても大人しい。
リードに繋がれているのは5匹。
「いやいや、このさい生き物でもよしとしましょう。でも数が多いようですね。持ち込むのは一匹にして頂かないと」
「? いや一つと仰っていたので、犬という一つの括りでつれて参りました。何か不都合でも?」
「いやいやいや、だから・・・・・・」
「この子達は家族です。なら家族という括りで・・・・・・」
この問答は実に30分以上続いた。
「もういいです。分かりました。とりあえず試験を始めます・・・・・・。もしこの試験が通った時改めて話し合いましょう」
「? 承知しました」
あ、終わった? とんでもない不毛な時間を共有してしまった。
試験問題が配られる。
それを見た私は再び思った。
終了。
少しくらい分かるかな~、なんて淡い期待を抱いたりしたが、もうさっぱり分からない。
空音さんや古論さんはどうかな?
ちらりと少し離れた二人を見る。
「う~ん、理数系以外は少し厳しそうですねぇ」
「うちも文系以外まるでわからへん」
お二人も得意分野があるらしく、頭を抱えている。
これは大口叩いてここで全滅なのか。
「お~い、空音。理数系教えて」
「そうですね、じゃあ文系は古論さん教えてください」
二人は立ち上がり隣同士に並ぶとお互い答えを見せ合った。
「ちょい、ちょい、そこの二人、なにしてるの!?」
まぁ試験官もそう言いますわな。
「? 分からない箇所を教え合ってるのですが?」
「なんや、いちゃもんつける気か?」
「いや、なんなのこの人達、駄目に決まってるでしょ!?」
「? え、駄目なんですか?」
「はぁ? あかんのかい」
「もう、いいですっ! 貴方達は失格ですっ! いますぐここから出て行きなさいっ!」
「? いや、それは困ります。それでは次期当主様達の期待に背きますので」
「そうや、そうや」
「何言ってるの、この子達は、いいから出て行きなさい、さもなければ・・・・・・」
試験官が何かを言いかけて。
その口が塞がれる。
「あぁ、面倒くさい。ちゃんと試験は受けます。だから少し黙ってください」
「失格にはさせへん。ようは駄目でもバレなきゃええんやで」
次の瞬間、二人が動いた。
「食い破れ」
空音さんが命じる。
リードは解き放たれ。
五匹の犬が一斉に周囲に襲いかかった。
入り口に周り込んだ古論さん。
いち早く逃げ場を塞いで。
持ち込んだのは工具箱、取り出すは大型レンチ。
躊躇なく近くの者の頭をフルスイング。
すぐにここは阿鼻叫喚の巷。
そして。
「ここはこうなります。あぁ、もう面倒なので写しちゃってください」
「は、はい」
私の席の両隣にお二人が。
床には血。壁にも血。机にも血。
私は血の滲む答案にペンを走らせる。
書き終えると空音さんは三枚の答案を手にし。
「試験官さん、終わりました。ここに置いておきますね」
体を食い千切られ痙攣し倒れている試験官の顔に答案を置く。
「多分満点だと思いますよ」
半分血に染まった答案がヒラヒラ風に揺られる。
試験官の顔の上。
教室には他の参加者の死体が点在。
頭は陥没、顔面の鼻を曲がり、骨は折られ。
噛みきられた肉片が散らばり、それら全てに血のコーティング。
とりあえず第一試験は突破し、たのかな、これ。
◇
こんにちは、シストです。
「お、あの三人、無事第一次試験通ったみたいだね」
すぐに結果は耳に届きました。
正直、紅子には荷が重いかと思うけど、あの二人がいれば大丈夫そうかな。
百目鬼 空音。殺人鬼は作れるという百目鬼家の家訓通りに、幼少時よりひたすら虐待されて育てられた。その後は正反対に傍付きとしての躾けを徹底的に叩き込まれる。
愛犬のピットブル達はとても凶暴、しかし空音の言う事だけは聞く。
幼少期より食事は虫だけ、現在もそれは続きそれ以外は口にしない。本人いわく昆虫はどれもとても美味しいので不満はないらしい。
大下倉 古論。彼女の家系は後始末が主な役割。なので解体はお手の物。子供の時からなんでも分解していた。無機物、有機物、なんでもだ。その逆も可能、縫合などの軽い医療行為なら難なくこなす。されど手先が器用なだけで知識面はさほど持ち合わせてはいない。古論は完璧な菜食主義者で植物性食品しか食べない。理由はよく分からないけど、生物を解体するとき物のように扱ってるからなのかもしれない。本人にすれば石を食べるような感覚なのだろうか。
「今年の参加者は運が悪かったみたいだね。試験問題はとても難しかったみたい」
他の会場での合格者は皆無に等しい。
「あの三人以外だと第一会場で一人だけ・・・・・・」
いや、運が良かったのかもしれない。
もし、あの最悪の殺人鬼が同じ試験を受けていたのなら。
最終的に全員殺される。
幸い彼女はもういないけれど・・・・・・。
◇
持ち込んだのは。
仲間。
誰よりも早く試験を終え。
「はい、これ。見なくてもいいよ~。満点だから」
黒板に寄りかかるように立つ試験官の前に差し出す。
その喉はパッカリ切り開かれ溢れ出す血液、両目には開いたハサミが突き刺さる。
早々持ち込みに口を出した試験官はその瞬間もう何も言えなくなった。
「まぁ、見られないだろうけど」
一人教室を出る。
いや、それに続く数人の人影。
その者達は挑戦者ではない。
挑むのは彼女のみ。
「姉様の通った道。私はなぞる。姉様を少しでも近くに。あぁ、姉様、私の、私達の・・・・・・」
今現在、最悪の殺人鬼に・・・・・・。
もっとも近い人物。
恒例のクリスマス争奪戦書けたら書きます。