おや、これなんかそれっぽいですね(九尾死事編 中編)
こんにちは、蓮華です。
先日突如この国へ来訪した超絶殺し屋集団。
九尾。
あれから少しだけ。
抑えられない好奇心のせいで。
ほんのちょっとです、この人達が関わったと思われる案件を探ってみました。
◇
〈橋〉からの依頼。
この日、滅多にないレアケース。
九尾のメンバー、その全てが動いていた。
某国、某地区 某酒場。
「ここにいるはずネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「はぁ、さっさと終わらそーぜ」
古びた扉を開けて入ってきた人影は三人。
片方だけ編み込んだ黒髪、ノースリーブの黒い服、名はシャレイ。
三六〇度全てを覆う長い黒髪、長い袖の黒い服、名はリライ。
でかいメガネ、目つきは悪く、猫耳フードパーカーのホットパンツ、両手はつねにポケットの中、名はリンシャン。
中は客で賑わっていた。
標的は麻薬組織の者達。
ここはその組織の仲間達がよく利用していた場所。
勿論、それが全てではなく。
ここには関係のない街の者も多数訪れていたが。
「おら」
リンシャンが両手をポケットに入れたまま、足を振り上げる。
入り口近くにいた男。
その頭部が転げ落ちる。
それはまさしく口火のようで。
「先走りすぎネ。ま、いいケド」
「・・・・・・ボソボソ」
続いて見えない投擲。
見えない糸。
彼女達の周囲から立っている者がいなくなる。
突き刺さる刃物は深々と。
通り過ぎる糸は、肉を解体。
誰も声を上げない。
行動を起こす前に命が先に散る。
客は皆、ただ三人を見ている。
シャレイがその中で。
マスターらしき人に声をかける。
「悪いネ、今日は貸し切りヨ。・・・・・・永遠に、ネ」
それが終わる前。
最奥にいたはずのマスターの顔に斜め半分切れ目が入る。
消えたリンシャン。
刃物を仕込んだ靴。
蹴り上げた蹴りが元の位置に戻る頃には。
マスターの顔がずれ始めていた。
◇
某国、某地区、某屋敷。
「ここが幹部の家らしいよ~☆」
黒いゴスロリ服を着た小柄な少女、名はスーアン。
「そうか。なら我らは我らの死事をするのみ」
黒い胴着を着る長身筋肉質の男。長く重い鉄の棒を担ぐ、名はラオユエ。
「どうでもいいぃ、どうせ強え奴なんていねぇーんだっ! さっさと終わらすっ!」
黒いタンクトップ、下は黒いジャージ、見える素肌は傷だらけ。名はサンアン。
三人は堂々と正面玄関から侵入していく。
すでにそこには顔の潰れた死体。
顔の穴全てから血を垂れ流す死体。
頭部が陥没した死体。
一番槍、最初に突入したのはサンアン。
屋敷の中、組織の者が侵入者に気付いた時にはもう遅い。
銃を構えるまえに首が捻り曲がる。
後を追うようにラオユエも駆ける。
鉄の棒が人体を容易く破壊する。
粘土のように体が変形していく。
「もう、みんな早いよ~☆」
そう言いながらもゆっくり歩くスーアン。
異変に気付き後から駆けつけた者達が彼女を囲む。
も。
瞬時に悶え苦しむ。
喉を掻きむしり。
泡を吐き。
血を噴き出させる。
「もう待ってよ~☆」
バタバタと倒れる人を踏みつけながら。
彼女はのんびり後を追う。
◇
某国、某地区、某町外れ。
「三組織、所属メンバー全員の所在を把握。さらに家族、恋人、隣人、友人、全て殺せ」
根絶やし。
その数は膨大。
だが、殺す。
枝別れが終えるまで。
とにかく殺す。
真ん中を歩くは。
ババ様の孫、九尾の現リーダー。長い髪を後ろへ一つに纏め、その左目には色素がない白眼。名はロウトウ。
「一体、何人いるんかね」
面倒そうにそう語る、テールの長い燕尾服、鎖を両手に絡める背は低めの男、名をジールイ。
「文句を言うな。私達はババ様の一部。脳が命じた事に体が拒否する道理はない」
黒い制服、腕には包帯、弓を持ち矢を携える、名をユーファン。
三人の会話が続く中。
詰め所の一つに辿り着く。
「さぁ、無駄口はいい。死事だ」
建物内に響き出すは、鎖が宙を切り裂く音。
矢が空気を貫く音。
二つの刃が肉、骨を断つ風切り。
死にゆく者の声だけは無音。
三人をその瞳に映した時、それはこの世から旅立つ時。
◇
関係者、外堀は三つに分けたメンバーがそれぞれ駆け回る。
肝心の各組織のボス。
その駆除に訪れたのは。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
標的の一つでもあるボスの邸宅。
一際警備は厳重。
そこを守る手下の数も尋常ではなく。
皆、サブマシンガンを持ち。
近づく者は警告無し、容赦なく蜂の巣。
そんな場所に近づく者一人。
本来ならもう無数の銃弾が撃ち込まれている。
だが、誰もその手に持つ銃を構えない。
ただ棒立ちでその者を見ている。
「動けんか、まぁそうじゃろ、そうじゃろ」
女は男達を目もくれず素通りで中へ進んでいく。
「お主らは帰り際に処理してやる、だから今は大人しくそこで待っとるんじゃな」
女はただ歩く。
最初から道が用意されているように。
◇
某国、某地区、某酒場。
テーブルにはコップや皿の代わりに肉片。
薄暗い照明が血を黒く魅せる。
「とりあえずここは終わりネ」
今、ここで立っているのは三人だけ。
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ、早く次いくヨ」
「ちっ、人手がないとはいえこんなゴミ掃除にあたいらが動かなきゃならんとは」
「しょうがないネ、でもちゃんと一番面倒な所はババ様自ら行ってるヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ。ババ様にとっては何もかも同じネ」
「ババ様はいいよなぁ。なんたって誰も敵意を向けようとしない」
ババ様を前に大抵の者が同じ行動を取る。
いや取らされる。
一瞬で理解させられる。
◇
某国、某地区、某屋敷。
「この人が幹部だね☆」
顔面がひしゃげ、肌が変色し絶命している男。
「よし、ならばここはもう終わりだな。早く次に向かうとしようぞ」
「けっ、とんだ雑用だっ! ババアはいいよな、いつも一番美味しいとこ持ってくんだからよぉ」
「きゃらら、文句あるなら直接ババ様に言えば~☆ またボコボコにされるだけだけど~☆」
「うむ、また体の傷が増えるぞ、サンアン」
「うっせーっ、いつか絶ってー勝ってあのババアを見下ろしてやるっ!」
「その前に体中傷で埋め尽くされるんじゃないの~☆」
「そうだな、だがあのババ様に何回も立ち向かっていけるだけで大したものである。大抵のものはあの方を目にすると放棄する」
「そうそう、ババ様を見るととんでもない思い違いを起こす、私も最初はそうだったな~☆」
「それを乗り越え一歩踏み出せた者、それが今の九尾メンバーだ、俺はそこからさらに近づき、必ずあのババアの首を取ってやる!!!」
◇
某国、某地区、某町外れ。
「こいつら、反応こそ遅いが我々相手に抵抗する意志は感じとれた」
強く地面に叩き付けられた人形のような死体。
「いっちょ前に生きようとしたんだね」
小間切れにされた人だったもの。
「私達もまだまだって事。ババ様なら皆無条件に受け入れる。死そのものを」
眉間の丁度真ん中に突き刺さる矢。
それを抜くユーフェンが最後に小さく呟く。
「輪廻転死。強い者は見ただけで分かるのレベルではない。ババ様の場合見た途端に死が確定し、自分はもう死んでいるとそう錯覚する。全ての選択肢が死に繋がった場合、人は本能的に察するのだな」
「分かるな~、好きなサッカーチームが後半アデッショナルタイムで5ー0で負けてたらもうここからどうしたって勝てないって思うもんね。応援すら気さえ起こらない」
「なんだ、その例えは。まぁ簡単にいえば諦めだろう。そうなったらもう後はババ様のなすがまま」
「ババ様はもはや仙人の域。でも、それってさ・・・・・・」
「・・・・・・そうね」
「・・・・・・仕方あるまい、それでこそ九尾の本体たりえ、ババ様こそが・・・・・・」
九本の尾が繋がるは一体。
「原点にして頂点」
◇
誰も恐怖しない、だってもう死んでいるのだから。
誰も抵抗しない、だってもう死んでいるのだから。
誰も声をあげない、だってその体に魂はもう存在していないから。
ババ様の拳が振りかざすたび、その場に生物はいなくなる。
大きな波紋が体に浮かぶ。
本格的な衝撃を前に人の体が波を打つ。
一度潰れた部位は二度と同じ形には戻らない。
もう二度と人には戻れない。
「・・・・・・妾は殺すのが死事。だがいつも最後には虚しさだけが残る」
死事である以上簡単にことが済むに越したことはない。
それでもどこかで求めている。
もしかしたら今回の死事で出会えるかもと。
だからこうして自ら進んで死事に関わる。
もはや自分の相手が多少勤まるのは他でもない九尾のみ。
しかし、そこは自分の尾であり、文字通り一心同体の可愛い身内、とても本気など出せない。
日々はただ流れ足下には屍が積み上がっていくだけ。
「少しでいいのじゃ、ほんの少しの時間だけでも・・・・・・」
◇
こんにちは、蓮華です。
これなんか怪しいですね。隠蔽工作が明らかにえぐいです。
巨大なマーケットを仕切っていた麻薬組織、それも三団体全てが一気に消えた。
いえ、拠点としていた街ごとを言っていいでしょうか。
かなり域込んだ介入ですね。
「おっと、いい加減このくらいにしておきましょう、もうそろそろ時間ですし」
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、です。
好奇心は猫を殺すですし、深追いはやめておきましょう。
それに今日は待ちに待ったライブの日。
私は拷問士のファンであり、この殺戮女郎蜘蛛のギターボーカルの歌音さんは特級拷問士。
必然的にこのバンドも好きになりました。
普段滅多に外には出ませんが今日はそんな事いってられません。
しかし最近は物騒なんてレベルではないのも事実。
誰かに付き添ってもらうのがいいかもしれませんね。
ここ最近あり得ない映像ばかり見ているので少し臆病になっております。
となれば、やはり一番頼りになる方に一緒にいてもらうほうがいいでしょう。
◇
本家、トーラ邸宅、客室。
ババ様が一人、着替えを終えた。
数日ここで過ごしていたが、さすがに退屈しはじめた。
「何人か、近くにめぼしい者はおるにはおるが・・・・・・」
如何せん、そいつらは親友の子飼い、遊ぶには些か気を遣う。
ならばと。
「六尾ジールイ、七尾ユーフェン、両者に傷をつけた者がおる」
贔屓目だとしてもとても信じられない。
「尾は妾の一部、尾が傷つけられたとなればそれは妾自身に傷がついたという事」
大きく開いた背中から見えるは九本の尾の刺青。
狐のように目を細め。
ババ様は部屋を後にした。
◇
裏路地を二人の少女が歩く。
「ついにっ! ついにこの日が来たわっ!」
「うん、この日を指折り数えた」
全身真っ白の少女達は声が嬉しさで弾む。
「「殺蜘蛛のライブっ!」」
少女達のこの国に来た一番の理由。
もう一つは数々のトラブルを経てもうどうでも良くなっていた。
「やっと生歌音を見られるのねっ!」
「生ベアトリスちゃんは見られたけど、やっぱり演奏も聴きたい!」
すぐに訪れる未来を想像して二人のテンションは上がっていたが。
数秒後、二人の頭上に暗雲が垂れ込める。
二人は同じタイミング、同じ方向に顔を向け。
そして完全なる構えを見えた。
二人が目にした場所。
獣、否、妖怪、否、それは神獣。
「よう、じゃりん子共、少しババアの戯れに付き合ってはくれぬかの」
天から湧いて降ってきた厄災のよう。
こちらを見据える一人の女。
見た目は言動のような歳には見えない。鍛え抜かれた肉体は若々しく。
その鋭すぎる眼光が二人を捉える。
「・・・・・・ヴィーカ。ライブまであとどれくらいだっけ?」
「三〇分くらい・・・・・・」
「そっか。それはちょっと・・・・・・厳しそうね」
雰囲気でこの前戦った奴らの同類だと二人は即座に感づいたが。
同類というのはあくまで雰囲気の事で。
アナスタシアの顔に一筋の汗が流れ落ちる。
思ってたのと違う展開になってますが頂上決戦編の捕捉って事で。