うん、こんなのいずれうまく使えるのでしょうか(九尾死事編 前編)
こんにちは、シストです。
最近起きた一連のいざこざもなんとか収まり。
その中でも僕に最も強い印象を残した人物達がいました。
九尾。
ババ様と呼ばれる本体。
それに従う九本の尾。
とにかく超弩級の殺し屋集団。
◇
ある国。
ここは長年別国が統治していた。
その中の一画は租借地であったが、様々な理由を経て。
いつしか互いの国が干渉しない。
無法地帯となっていた。
この地にはルールなど何も無い。
勿論、建築法などの縛りもなく、建物は所狭しと積み上げられていった。
乱雑に組まれた建物はどんどん縦に伸び、それはまるで出来損ないの城のようで。
太陽の光さえ遮り、一日中夜のようなこの場所で。
二人の少女が懸命に生きていた。
「はぁ、はぁ・・・・・・」
手には血の滴るナイフ。
腹を真っ赤に倒れる男に面識はなく。
ただ奪うため。
この日を乗り切るため。
奪うために殺し。
奪われないために殺す。
「リライ、いくネ。これで今日はなんとかなりそうヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
薄汚い服を纏う二人の少女。
服は日に日に血で赤く、黒く染まっていく。
親もなく、頼れる者は互いだけ。
孤児など珍しくはなく。
集団で行動していた仲間はどんどん減って、今は二人きり。
夢もなく、希望も無く、無い物だらけでただ今日を生きる事だけを考えて。
その日も物色していた。
今日は誰を殺すのか。
殺せばいいか。
建物の上からじっと見る。
すると目にとまる、一人の女性。
女が一人で歩いている。
この街ではあり得ない事。
「・・・・・・しかも珍しく上等な服ネ」
女の年齢は分かりづらかったが、身なりがいい事だけは間違いなかった。
二人はすぐに行動を起こす。
「リライ、今日は少しマシなものが食えるかもネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「そうネ。たまにはネズミ以上のご馳走欲しいヨ」
逃げられないよう、狭い路地を挟みこむように追い込む。
息をひそめて女性の背後をとる。
手にはナイフ。
もう何度も肉を貫いた相棒。
後はこのまま走り出し。
背中を刺し。
刺し。
刺し。
刺して。
刺して、血がでて。
刺して、もっと刺して、死んでも刺して。
刺して、刺して。
いつもと同じように。
でも。
その日は違った。
いや、できなかった。
「・・・・・・なんネ。なんで体が・・・・・・動かないネ」
脳が踏み出せと命じても一向に体が付いてこない。
女性の背中はがら空き。
タイミングは今。
なのに。
「不思議か? そうじゃろ、だが、それは当然、なんせお前は・・・・・・」
女性が振り向いた。
「もう死んでおるのじゃから」
女と目が合う。
その瞬間悟る。
あぁ、私はもう死んでるのだと。
息はしている。
心の臓の鼓動もはっきり響く。
生きているのに死んでいるという矛盾。
逆側のリライもそれは同じで。
「ここは蠱毒。その中でその歳まで生き伸びたお主達は選ばれた者達じゃ」
様々な毒蟲を一つの壺にいれ。
最後まで残った虫が最凶。
これが。
「お主達、妾と一緒に来るのじゃ。今よりはほんの少しだけマシな生き方ができるじゃろ」
ババ様との出会い。
◇
時は経ち。
その間も建物はどんどん上に伸びていき。
この腐った街が一望できる最上の場所で。
「皆、集まったようじゃの」
ババ様が座るボロボロのソファの前には。
その身に宿す複数の尾。
「いえ、一人。サンアンがまだ・・・・・・」
「うん? サンアンなら・・・・・・」
部屋の隅。
気配はなく。
されど姿ははっきりと。
「おらぁ、婆ぁあ、死ねやぁああああああああああああ」
この場にいる者以外には突然出現したように見れたはず。
体中傷だらけの男がババ様に急遽襲いかかる。
だが、それもすぐに消える。
壁には穴。
これは九尾のメンバーにも見えてなかった。
ババ様が何をしたのか。
その場の全員が認識しないまま。
「ああぁあああああああああ、糞、今日も勝てねぇ、いつ勝てんだっ」
瓦礫を吹っ飛ばし男が立ち上がる。
「ふん、サンアン、お前じゃ一生無理だな」
「もういい加減諦めなさい」
「きゃぱぱ、今日で何敗ね~☆」
他のメンバーも呆れる。
「あぁ? なんだ、お前らでもいいぞ、ほら、かかってこいや、ほらぁ、ほらぁあ」
サンアンと呼ばれた男が他を挑発するも誰も相手にしない。
「さて、お主達を呼んだのは他でもない。勿論死事の話じゃ」
ババ様も構わず話を進める。
「今回の死事は、〈橋〉からの特例三種の一つ」
基本は依頼人すら抹殺する九尾だが、特例は〈橋〉が特に秘匿に努め相互の関係を遮断する処置。この場合、依頼する側は国家レベルの可能性が高い。
「ある宗教団体がその宗教上の理由から隣国へと移住した。その地で最近、その信者達が皆殺しにあうという事件が起こった。だが背景は単純、この地では近年麻薬組織同士の抗争が激化している。こいつらはその近くにいたせいで巻き込まれただけじゃな」
国境の境に拠点があったのが災いを呼んだのだろう。
信者達は団体で移動中に襲撃された。
敵対組織と間違われてという見解が今のところ濃厚であったが。
男、女、子供関係なく銃撃されたあげく火をつけられ、何人かの少女は行方不明になっていた。
問題は信者達が二重国籍だった事。これに激怒したのは一方の国。
「標的は麻薬組織三団体」
ババ様が立ち上がる。
「九本の尾を三つに分ける。内訳はお主らで勝手に決めるのじゃ、分かったかの?」
「はいっ」「は~い☆」「はい」「はい」「おうよ」「分かりました」「分かったネ」「ええ」
八人ははっきり返事したが。
その中でリライだけが。
「・・・・・・ボソボソ」
その瞬間。
リライの体が奥の壁を貫く。
「おい、リライ、駄目じゃろ。何回言わせるんじゃ。妾と話す時は、はっきり目を見て、はっきり喋れ」
二つ空いた穴の一つ。
その中からリライがよろよろと立ち上げる。
「はいっ! ババ様っ!」
そして大きく返事をする。
「よし、いいぞ。リライ、今、妾は先月ならお主が死ぬくらいの強さで蹴りつけた。だが、お主は今生きておる。ちゃんと精進しておるな。偉いぞ」
「はいっ! ありがとうございます」
心より喜びの声をあげるリライ。
リライがはっきり喋るのはババ様の前のみ。
「よ~し、では散れ。妾達は誰一人として神を信じぬ。が今回はその真似事じゃ。こやつらが信じた神に代わって鉄槌を・・・・・・」
九本の尾が揺らぐ。
「皆殺しには皆殺しじゃ」
せっかく出したので、もう少し掘り下げ回。