おや、これはあわわですね(頂上決戦編 其の伍)
こんにちは、蓮華です。
今、私の複眼がまた新たな映像を捉えておりました。
アンノウン、謎の白い少女二人組。
彼女達がゾディファミのベアトリスに接触したのを確認。
どういう経緯があるか分かりませんが、何故か彼女を助けた模様。
三人は一頻り会話をした後、その場を離れました。
彼女達の行動を逆探知。
正規にこの国へ入った事は分かりました。
登録名も本名。生い立ちを見ましたが特異した点はありません。
それが逆に不自然。
あの常識外の戦闘力。
となると国家ぐるみで彼女達の裏の顔を隠蔽してるのでしょうか。
なら、彼女達の正体は・・・・・・おそらく。
今回のいざこざと彼女達はおそらく無関係。
ですが、明らかに台風の目になっております。
その証拠に。
ベアトリスさんと別れた五分後でした。
また彼女達は巻き込まれます。
いや、引き寄せたというのが正解でしょうか。
◇
二人の少女が上機嫌で歩き出す。
「はわわわわ、本物だった。本物のベアトリスちゃん。おほ、おほほほほほほほほほ」
「そうね、凄い偶然だわ。やはり私達と殺蜘蛛はこう運命みたいなもので繋がってるのかもしれないわね」
いつもクールなヴィクトリアとは思えないほど興奮していた。
そんな横顔をアナスタシアは優しく眺める。
そんな微笑ましい光景もすぐに激変。
またすれ違う。
今度は一人の女。
二人はこの女も只者ではないとすぐに直感したが。
問題はこの女ではなかった。
「ヴィーカっ!」
「分かってるっ!」
頭上より飛んでくるは矢。
洋弓のもの。
何本も。
初撃、二人は身を翻しそれを躱す。
地面に突き刺さる矢。
その数を確認する前に。
二人は左右に散開。
両端の壁を伝って。
上へと。
建物は三階建てほど。
二人ならものの数秒で屋上へと到達する。
それを阻止したのは、下からの攻撃。
それは先ほどすれ違った女とは別人。
「ちっ!」
「もう一人いたっ!」
まるで重力などこの二人には作用していないかのように。
壁を走る。
鎖鎌がその場を切り裂く。
回って回り、斬撃の円は二人を交互に襲う。
その間も、矢は確実に彼女達の元へと向かって行く。
「こいつ、私達の動きを見据えて先に撃ってる」
「本当、なんなのこの国。こんなレベルがゴロゴロいるっていうのかしら」
今走り去った場所へと矢が次々と突き刺さっていく。
「ヴィーカ、下、任せるっ!」
「了解っ!」
アナスタシアの掛け声、共に手には愛銃、PL-15。
矢の雨は、銃弾で相殺。
トリガーを引きながらアナスタシアは壁を垂直に頂上へと駆ける。
屋上へと足をつけ。
目には矢の先端。
顔を背け。
お返しの一発。
お互いの攻撃は当たらず。
襲撃者の顔は。
「見られた。貴方凄いね。普通その前に死んでる」
アーチェリーを構えた女。
腰には束ねた矢が十数本。
黒い服。赤いリボン。腕には包帯。
「あんた、どういうつもり、何者よ」
つい最近同じような事を口にしたような気がしたが。
目の前の相手には他の事を考えている余裕はなかった。
洋弓女は容赦なく矢を放つ。
「溜めの動作が全くない。それに・・・・・・」
確実に顔を狙ってきていた。
足で行動を、腕で武器を。
そんな考えはない。
もうただただ一撃で葬る気。
近寄れない。
でも、こちらの得物は銃。
どちらが先に決定打を与えるかが勝負の分かれ目。
リロードしながらも。
腰に携えている矢の本数を数える。
弾切れしたほうが圧倒的不利。
それなら単純にこちらのほうに分がある。
迫ってくる矢はまるで光。
だがアナスタシアには反応できている。
矢に矢を刺す正確さ。
こちらの次の行動を読んでの速射。
逆にアナスタシアにはありがたい。
高いレベルでの戦闘は自分にとっても・・・・・・。
ここで気付く。
洋弓女は同じ場所に留まってはおらず。
360度、瞬時に移動し矢を放つ。
溜めの動作がないとはいえ単発はこちらの方が速い。
当初、矢は銃弾で防いでいたが。
洋弓女はすぐに軌道をかえてあえて弾を自分の方へ引き寄せている。
狙いを微妙に変え弾と矢をぶつからないように調整している。
その理由。
「矢が減ってない」
洋弓女は移動しながら矢を回収している。
これでは無限。
深く刺さる矢を一瞬で引き抜く力。
常に自分より高所へと位置取りする速さ。
なにより正確なシューティングラインを維持するその集中力。
全てにおいてハイスペック。
長期戦になればこちらは敗戦濃厚。
「それならっ!」
距離を詰める。
今の自分が可能なかぎり。
軌道の角度は近づけば小さくなる。
自分の体に突き刺さる矢。
その直前に。
爆ぜる。
洋弓女の矢が。
アナスタシアの前で粉々に砕け散る。
ストライド数は。
「後・・・・・・12本」
屋上での死闘。
それは地面でも同様に行われていた。
弧を描いて迫る鎌。
「・・・・・・普通、飛ばすのは重りの方じゃないの」
等間隔で飛んでくる刃先。
それを避けながらもヴィクトリアは間合いを詰める。
自分の足が届く距離。
相手の顔面にささる強烈な蹴り。
「いや、違うっ」
それは。
「どっちも鎌っ」
この者も。
相手の動きを止めるとか。
相手の武器を無効化しようとか。
そんな考えはない。
一に殺して。
二に殺して。
三も殺す。
黒い燕尾服の男。
ただテイルが地に着きそうなほど異様に長い。
気付くのが遅かったら。
ヴィクトリアの足は切り裂かれていた。
ふわりと。
蹴りの勢いを無に返し。
相手の腕に優しく触れるように。
そこを起点にヴィクトリアの動きが加速する。
影は背に。
相手は無防備に。
ならない。
目が合う。
鎌が光る。
それは避ける。
も。
もう一方。
遠く離れていた一対が舞い戻る。
二連撃。
そこから始まる。
二人の高速ダンス。
空気が切り裂かれていく。
何度も何度も。
本当に切れるのでないか。
それほどの斬撃が。
それほどの拳、蹴りが。
鎌男、基本は近接右手の鎌。
不定期に飛ばす左の鎌。
一定間隔で戻るさいヴィクトリアを背後から襲う。
ヴィクトリアは振り向かない。
一定間隔で戻る鎌、体を傾け凌ぐ。
体術を駆使して鎌男に攻撃を繰り返す。
「君、背中に目でもついてるの?」
「いいえ、ついてないわ。ついてるとすれば・・・・・・」
ヴィクトリアが地面を蹴る。
宙に浮く体。
その足がつく刹那。
「っ! っ!!!!!」
ヴィクトリアの体がぐるぐる回った。
体を球体のように回転、その間に一体何発繰り出したのか。
最後に放ったバイシクルキック。
鎖男は鎖を両手で張りそれを防ぐも。
轢き千切る。
つま先は鎖男の頭上に。
一気に二人が離れた。
「なるほど、信じられない対空時間。ついているのは翼だったと」
大きく吹き飛ばされた鎖男だったが。
「これでノーダメ? もうウンザリなんだけど」
直撃どころか触ってもいない。
鎖男は直前で自らから後方へと飛んでいた。
「鎖は切られてしまったけど、まだやる?」
「そうね。ライブは今日じゃないの。だから時間はたっぷりあるわ」
ヴィクトリアは少し乱れた髪を掻き分けた。
◇
ういうい、蓮華なの、いえ、蓮華です。
また凄いものを見てしまったので少し動揺してしまいました。
「あわあわ、まるで蛇苺さんが四人いるみたいです」
いや、着眼点はそこではありません。
「でも、そうですか」
あの二人とすれ違った人物。
それを見て。
ようやく分かってきましたよ。
そういう事でしたか。
だから蛇苺さんも。
やはりボタンの掛け違いには気をつけないと。
「となるともう私のやることはありませんね」
一応シストくんには教えておきますか。
そして私の痕跡の一切合切消去しなければなりません。
あんなのに狙われるのはごめんですから。
まさか一話まるまる部外者の戦闘シーンになるとは。ある一定レベルを越えた同士の戦いはとにかくスピード感重視を心がけてますので書いてる方も訳分からなくなります。