うん、やはり時期尚早でしたか。(頂上決戦編 其の四)
こんにちは、シストです。
今、僕は。
深い、それはそれは深き底へと。
◇
本家、最奥、当主自室。
濃い血臭、されど自身達には一滴たりとも赤い染みは付いておらず。
「これで締めヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
広い書斎。
扉を開ければ、奥に古びた机。
そこへ座るは。
「ほう、思ったより早かったじゃないか」
現当主、トーラ。
「そりゃそうヨ。私達は九尾。死事は早いネ」
「・・・・・・ボソボソ」
二人はゆっくりトーラへと近づいていく。
一歩。
顔が歪む。
また一歩。
二人の腕に血管が浮き出る。
もう一歩。
その足が地面に付く前に。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
九尾の二人の動きが止まる。
横から静かに。
「・・・・・・誰ネ」
「・・・・・・ボソボソ」
九尾とトーラを遮るように。
小さな壁が現れた。
「・・・・・・お前達は笑わんのだな。皆、小さな私がこうして立つと哀れむ、あるいはあざ笑う」
低身長の女はそう言い二人と向き合った。
「人を見た目で判断するのは三流ネ。それに私にはお前がとても大きく見えるヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
会話はここまで。
その刹那。
九尾の二人が左右から挟み込む。
判断は同時。
魔鏡がシャレイの方へと距離を詰める。
張り付くように魔鏡はシャレイの懐へと。
この時点でシャレイの投擲はすでに済んでいて。
魔鏡の背には無数の鉄の糸が襲いかかっていた最中。
覆い被さるような鉄糸を弾いたのシャレイの投げた金属。
シャレイの意図とは別に。
放たれた刃物の軌道が変わる。
否、変えられる。
「・・・・・・どういう事ネっ」
あまりに高いシャレイの身体能力。
自分でも無意識に一度で行われる投擲は数発同時。
その全てが。
横殴りの鉄の雨が。
後方のリライに向かっていく。
「・・・・・・ボソボソっ」
リライは高速で飛んでくる無数のナイフを必死に防ぐ。
「違うネ。私じゃないヨ。これはこいつの仕業ネっ!」
信じられない芸当。
こちらの神速を逆に利用され攻撃に転じている。
魔鏡は九尾の二人が遠距離型と即座に見抜き、片方に近接戦を持ち込む。
そして防御と攻撃を同時に行っている。
「このレベルが二人、些か面倒だよ」
リライは九尾の一人、生半可な攻撃は無駄。
しかし、それが同じ九尾のシャレイの場合。
止めどなく飛んでくるナイフにリライは防御に徹していた。
打開はシンプル、シャレイが手を止めればいいだけ。
だが、それは自身が無防備になると同義。
本来魔鏡は防御特化で攻撃は相手の能力に依存する。
それを知らないシャレイには攻撃の手は緩められない。
ただでさえ、こちらの速度に対応している。
「なんネ。お前もネ。お前もついてこれるのカっ!」
距離をとりたいシャレイ。だがすぐ後ろは壁。
ここが外ならまた違う戦い方もできたのだがと。
「なら、切り替えネっ」
投げようとしたナイフを握り直し。
即座に斬りつける。
その切っ先が。
自分の首へと向いていた。
「っ!」
常人なら突き刺さっていた刃先。
シャレイは超反応でそれを間一髪、急停止。
「訳が分からないネ・・・・・・。どんな魔法使ってるヨっ」
シャレイが切り替えたことでリライが自由になる。
敵と味方はほぼくっついている。
巻き込む事を恐れたリライは標的を変更。
鉄の糸の行く先をトーラへと定めた。
放つ直前、目の前には急接近してきた敵の姿。
シャレイのナイフを振る力。
それを変換、腕を足場にリライ側へと瞬間移動。
大きな衝撃と共にリライの両腕が天を向く。
今度はフリーになったシャレイが続けざまにトーラを狙う投擲。
リライは弾かれた両腕を力任せに振り下ろす。
それに伴い細い複数の糸が長い袖の奥から光を放つ。
魔鏡を格子柄に切り裂くはずの糸が。
シャレイの投げたナイフを絡め取った。
勿論それは魔鏡がリライの糸の行く末を指示した結果。
一歩間違えればトーラはすでに二回死んでいた。
しかし、当のトーラは表情一つ崩さず眼前の戦闘をじっと見ていた。
「私達二人相手に他を守る余裕があるカ。いいネ、ならこっちもギアを数段あげるとするヨ」
「・・・・・・ボソボソ」
二人の姿勢が下がる。
戦闘を楽しんでいたシャレイから笑みが消え。
「ほう、さらに早くなるというのか。なら、こちらもそれに合わせるだけ」
九尾の二人の目には魔鏡しか映らない。
狙い澄まし。
余計な思考は排除。
今はこの小さな巨人だけを。
殺す。
◇
ういうい、円、だ。
「むぅ、これは無理かもなの、だ」
レンレンの指示で助けにきたのだ。
正直言われたまま来たからよく分かってない。
「なんだ嬢ちゃん、まさか俺とやるつもりなのか?」
三手に別れたキラキラ達。
キラキラの所にはミドシュラが行ったの、だ。
で、こっちにも追っ手は来ていて追いつかれそうだった。
そこに立ちふさがるように華麗に登場したのが私だった。
だったのだが。
ツンツン頭で、片方の腕だけが異様に太くでかい男。
殺人鬼連合の護衛対象はすぐ近くの建物へ隠した。
だが逃げ場はない。こうしている間にも追っ手の人員は増え続け囲みが完成する。
幸いなのはその連中がこちらには来ないことだ。
連中の役割は標的を決して逃がさない事。
「できればやりたくはないの、だ」
やる前から分かる。あれは蛇師匠側の人間。
私程度ではそんな曖昧な評価しかできない。
ある一定のレベルを越えると全て同じに感じる。
これはただヤバいと。
「はたして時間稼ぎくらいはできる、か」
ナイフを握る。
レンレンはこちらにもう一人送ってくれたのだ。
こいつ、もしかしてあの九尾という組織の一人か。
なら、私ではどう足掻いても勝てない。
でも。
「ほら、潰してやるよ、嬢ちゃんっ!」
巨大な腕が通り過ぎる。
は、早い。予想以上。
私は意図せず後退する。
少しだけ擦っただけだ。
それだけで私は強制的に下げられた。
あんなのまともに受けたら即座に戦闘不能になりそうなの、だ。
速さなら対抗できるか。
でも、あれを一回でもくらえば。
フラッシュバック。
先日出会った二人。
あの時はなんでもなかったのに。
あいつらが立ち去った直後。
自分が生きてるか死んでいるのか分からなくなった。
後から正体を知って。
こいつが同じ仲間なら。
「早く、蛇師匠・・・・・・」
完全に弱腰になったいた。
雑念は動きを鈍らせる。
「ほら、どうしたっ!」
大きな動作、生じる隙。
さえど余りある破壊力。
戦えるのか。
挑んでいいのか。
蛇師匠と本気で戦う事になったらこんな感じなのだろう。
強さを知った上で立ち向かうにはそれなりの覚悟と力量が伴わなければならない。
考えたくない事を考えないようにまた別な事を考えて。
散漫していた。
「しまったの、だ」
後退する踵が地面を擦った。
僅かに崩れるバランス。
「はい、ぶっ潰れっ!」
衝突する巨腕。
その拳は地面を割っていた。
「・・・・・・あ」
地を砕いた拳。
その上に置かれていたのは。
「もう何やってるんだよ」
蛇師匠の足。
私にぶつかる直前、蛇師匠の踵落としが男の腕を地面に押しつけた。
「・・・・・・・・・・・・」
男は蛇師匠を見るなり後ろへと飛び跳ねた。
「へ、蛇師匠」
「うん、あぁ、そうなんだけど。ふむ、これはどういう事かな。仲間、いや、そうか。そういうことか」
蛇師匠はなんか一人でブツブツ言ってるの、だ。
「なるほど。あれが九尾。つまりはそういう事だ」
「な、なに一人で納得してるの、だ。いいからあいつをぶっ飛ばしてくれなの、だ」
「いや、私はこれから別の場所へ行くよ。そっちがその気なら私の出番はない。折角だ、他の二人のほうが楽しそうだし、ここは円に任せたっ」
「え、いやいや、無理なの、だっ、あれは蛇師匠じゃないと」
「はぁ? お前は本当に・・・・・・。なら、あの子に任せな。そしてよく見ておくんだね」
「あの子?」
蛇師匠が顔を向ける方に首を回す。
「やれやれだわ。ピンチの時って、こう何度も何度もむかえられるとこっちもいい迷惑なんだけど」
「お前は・・・・・・」
以前格闘大会に一緒に参加したメンバーで。
目には花柄の布。
「汐見。なんで、お前がここにって、あ、蛇師匠がいないの、だっ」
まさしく目を離した隙にいなくなったの、だ。
「取り囲んでいた変な奴らは行動不能にしておいたわ。だから、残りはあいつだけ」
汐見が男の方に体を向けた。
「弱虫の負け犬は早くここから立ち去りなさい。目障りよ」
「なんだ、とっ。おお、私もやってやるの、だ。お前を手伝ってやるっ」
「ふん、邪魔するの間違いでしょ」
そこまで言われてこっちも黙っていられないの、だ。
これでも私はレコード持ちのレベルブレイカー。
姉御の妹で、蛇師匠の弟子で、妹は白頭巾で、上司はレンレンなのだ。
◇
シストです。
頭が熱い。
血管が波打つ。
「はぁはぉ、駄目だ、途中で途切れた」
シストシミュレーションは不完全に終わりました。
情報が足りなすぎる。
最後に朧気に見えたのは、魔鏡さんと九尾と思われる二人の戦闘。
あの二人がお祖母様の前に姿を見せたという事は・・・・・・。
他は全て排除されたという事。
僕も含めて。
ピースを集めなければ。
この思考には重要なパーツが欠けている。