ういうい、なんとしても手に入れるの、だ(頂上決戦編 其の二)
ういうい、円、だ。
私達は今、レンレンの指令、キラキラの要請で殺人鬼連合のアジトに来ていた。
「これは円さん、白頭巾、わざわざご足労すいません」
中央にキラキラ、そこから扇形に広がるように他のメンバーが揃う。
ん、新人か、初めて、いやどこかで見た事のある者もいる。
「よう、切り裂き、今回は共同戦線だ、よろしく頼むわ」
「白雪ちゃん、一緒にがんばろっ!」
タシイと紅子が近づいてくるも。
「なにが共同戦線なのだ、本来私達は全く関係ないの、だ。レンレンに言われたから仕方なくだ・・・・・・正直面倒臭いったらありゃしないの、だ。まぁでも私にも目論見はあったりするの、だ」
と、本当は心でそう思っていても実際口には出さない賢い私なの、だ。
「はは、まぁまぁ、そう言わず。僕達も結構窮地なんですよ。だから助けてください。貴方達の力が必要なんです」
「嘘だ、な。じゃなきゃ買いかぶりすぎ、なのだ。正直、お前ら本家に喧嘩を売って実際実行できている奴らを私達でどうこうできるとは思えない。お前は私達を最初から見ていない。見ているのは、私の後ろ、レンレンと蛇師匠だ。それでも私には目論見があるの、だ」
と、本音を隠して何も知らないふりでこいつらに借りを作るの、だ。
「ほう、その目論見とはなんでしょう?」
「とりあえず、こいつら金も権力も持ってるから、なんか適当に力を貸す素振りを見せて、今度発売するプレイストレージ7を発売日に買ってもらうの、だ。あれは大人気ですでに転売屋による価格高騰が・・・・・・」
「お姉ちゃん」
「ん?」
「全部、出てる」
「・・・・・・全部出てた、か」
「うん」
「よし! キラキラ。私達は全力でお前達に力を貸そうと思う。例え、この身が滅びてもお前達を絶対・・・・・・」
「お姉ちゃん、もうここからは無理」
「キラキラ、私頑張るから、プレイストレージ7、買ってくださいっ」
◇
同日。
九尾の二人が街に溶け込む。
「そろそろ、定時連絡ネ。お、噂をすれば、ネ」
時間ぴったりに二人へと指示が飛ぶ。
提示された建物に向かい中に入る。
伽藍とした室内。
中央には目を隠され、椅子に拘束されている男が二人。
「お前らが連絡役ネ、情報早く伝えるネ」
「あぁ! 来たかっ! 見ての通り、俺達は喋る事しかできない。お前達も全く見えてないっ!」
「それは見れば分かるネ。いいから早く伝えるヨ」
九尾の正体を知られてはならない。
顔を見られるなどもっての外。
それは依頼人もよく理解していて、連絡役にはこのような対処をしていた。
「あ、ああ、お前達の標的なのだが、あちらもつねに護衛がついている。この前のもそいつらが関わってる、そいつらの詳細は・・・・・・」
男達は緊張から口がどもるも、情報役としての任務は真っ当した。
「・・・・・・以上だっ」
「ふむ、そうか、そうネ。それはA級ネ。でも、まぁ私達に掛かれば無問題ヨ」
「お、俺達の仕事はこれで終わりだ。早くここから立ち去ってくれっ!」
目隠しをされてても、いや視界を封じられているからか、男達の恐怖がどんどん募っていく。
得体の知れない者達が二人。
その存在感が否応なしに伝わってきていた。
「ん、それは駄目ネ。お前達は知りすぎたヨ。リライ」
シャレイの掛け声に隣で俯いていた女が男達の背後に回る。
「お、おいっ! おいおいおいおいっ! 見えてない、お前達の顔はっ」
「冗談だろっ! 本当だ、なにも分からない、真っ暗なんだよっ!」
「声を聞いたネ。そして名前も・・・・・・知ったネ」
リライの両手、ドデカいナイフが男達の首元に深く突き刺さる。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
「あっがああがああああああああああああああああああああああ」
さらに、その切っ先は背中に向かって。
血飛沫が派手に上がる。
肉の華が開花する。
「さて、どれから行こうかネ」
完全に息の音が止まった事を確認した後二人はこの場を後にする。
その数分後だった。
二人にとって。
相手にとって。
劇的な出会い。
何事もなかったように街に戻ろうと。
あれだけの血を噴き出させたにもかかわらずリライの体には返り血一滴もついておらず。
でも臭いだけは微かに残る。
「だから~、歌音があのバントで一番存在感がっ」
「いや、ベアトリスちゃんのテクニックは神。あれで歌音の歌がかなり引き立って・・・・・・」
裏路地。
二人組同士が通り過ぎるギリギリの狭さ。
九尾二人の前に、ガラガラとスーツケースを引きずる女が二人。
髪も睫も、肌まで真っ白な女達。
職業柄か、無意識で人混みを避ける癖が二組にはあった。
それがこの四人を邂逅される。
ほどなく二組はすれ違う。
一瞬の思考。
数々の考え、結論はすぐ。
行き着く先。
辿り着いた答え。
それは。
[こいつらは自分達を殺せる]
一点。
敵か味方か。
その判断は二の次。
遅れは死。
つねに背中に纏わり付いてくる死。
気を抜けば死。
隣でいつも誰かが死んで。
それでも自分達は生き残ってきた。
何よりも死に敏感で。
だからこそ。
自分達はここに立っている。
振り向きざま。
二本のナイフ。
シャレイの高速投擲。
それをスーツケースで防ぐ。
深く突き刺さるナイフを見て。
向かい合う二組、その片割れが同時に消える。
壁を蹴り、宙を舞い。
即座に戦闘開始。
衝突するは九尾リライ、ニパビヂーマスチはベアトリス推しのヴィクトリア。
左右、上下の壁、地面を蹴りながら、蜘蛛の巣を張るように移動。
金属音と光が、今だ動かない二人の周囲に展開されていく。
黒い線だけが引かれ続け。
「あんた達、どういうつもり? てか誰よ」
「それはこちの言葉ネ。何者ヨ」
平静を保ちながらも二人の身体にはすでに力が充填されている。
どのような行動を起こされても即座に対応できるだけの集中力。
もう互いに眼前の相手しか見えていない。
連れの戦闘を気にかける余裕はない。
裏返せば仲間を信頼している証。
後れを取るはずはないと。
だから自分の相手は。
「ニパビヂーマスチ所属、アナスタシアよ」
「九尾、シャレイ、ネ」
皮肉にも世界最高峰、ゆえに秘匿されその名前は表には出ない。
二人は敵の詳細も分からぬまま。
我先にと動いた。
影を置き去りに。
シャレイのナイフが手元から放たれ一本先行。
それを追いかけるシャレイ、さらにナイフを上、下からと挟みこむようにアナスタシアに向ける。
三種同時攻撃。
投げられた最初の一本、二本の指で止めるとそれを反転、自分の得物に変えてシャレイのナイフを凌ぐ。
上は止め、下はまだ。
シャレイの握るナイフ、それは投擲の時ほど容易くない。
素手で止めようものなら指が吹き飛ぶ。
しかし、もうそこにあった。
利き手にはハンドガン。
PL‐15の底でそれを防ぐ。
ナイフの切っ先をいなしながら銃口をシャレイに。
放たれる銃弾は三発。
だが、その全てが外れ。
シャレイは避けると同時にナイフを振るう。
指先で華麗に軌道を変える。
刃先が瞬きのうちに別の方を向き。
アナスタシアも負けじとその全てに対応。
フェイントも混じる攻撃に、釣られることなく見事に凌いだ。
「見えてるカっ、見えてるネっ! なんネ、なんなんネ、お前、本当に何者ネっ!」
笑う、堪えられない。
殺せない。
死なない。
常人ならすでに何度も殺している。
だがなぜかこの女はまだ生きている。
それがシャレイには嬉しい。
「誇りなさいっ! 私だってギリギリよっ!」
戦場で気持ちが折れたら死と同義。
上からの指示。
つねに死地へ赴き、されど確実に任務を完遂してきた。
精鋭が集まる軍の中で。
一握りが進む先。
特殊部隊に入るも。
そこからさらにふるいにかけられ。
資質、運、なに一つ取りこぼす事なく。
先天的な適正を持った上で努力を惜しまずつねに上を目指し辿り着いた場所。
それがアナスタシアの部隊。
参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチ。
死ぬ事を許されない。
死などあり得ない。
だが、今、アナスタシアは確かに感じていた。
つねに近くに、されど自分の力量がそれをつねに遠ざけていた。
「久しぶりに思い出したわ、これが死の恐怖」
ナイフに目を移せば、その体は背後に回っている。
次の一手が馬鹿げたレベルで早い。
近距離での銃と刃物の攻防。
得物の一撃は言わずとも。
打撃の一つ。
それさえくらえば終わり。
何一つ決定打をもらうわけにもいかず。
手が二本、足が二本。
本当は倍あるのではないか。
そう錯覚するほどの。
なぜ今のが当たらないのかと。
連続する疑問符。
それを抱え込んだまま。
互いに一歩も引かないまま続いていく。
横槍が入れば一気に崩れる。
されどそれはないとシャレイもアナスタシアも確信していた。
あちらはあちらでこっちを気にしている余裕などないはずと。
リライ、ヴィクトリアは今だにつかず離れず衝突を繰り返している。
その弊害か。
壁に設置されていた巨大な看板が。
「!っ」
「!っ」
天から落下。
看板は二組を引き裂くように大きな音を立てて地面を揺らした。
砂煙と破片が飛び散り。
「・・・・・・まだネ、こんな楽しい事滅多にないネ、まだやるヨ」
「そうね、もうあんたが誰とかどうでもいいわ。こうなりゃ死んでも知らないから」
二人の足に力がこもる。
仕切り直しとなるはずも。
「・・・・・・ボソボソ」
「ナスチャ、私は付き合いきれないわ。やるならご自由に」
他の二人はその限りではなく。
「・・・・・・そうネ。リライの言う通りヨ。私達はここに死事できたネ。遊んでる場合じゃなかたヨ」
「ちょっと、ヴィーカ、待ってよ。さすがに二人がかりで来られたら瞬殺されちゃう」
一気に二人の沸点が下がり始める。
熱くなっているように見えて引き際は知っており、一線は決して踏み込まない冷静さを保てているのもこの二人がここまで生存してこれた理由の一つ。
「知らないようで良かったネ。じゃなきゃなんとしても殺すはめになってたヨ」
「あんた達もね。一応こっちもかなりの機密だから知ってたら困りものね」
「・・・・・・ボソボソ」
「いやナスチャが勝手に名乗ったからじゃない。大っぴらに言う癖いい加減直して欲しいのだけど」
片割れが当然のように戒めるも。
「そうネ、今度から気をつけるヨ」
「だってしょうがないじゃない。私の誇りなんだもん」
当の本人達はそれほど深く考えてはいなかった。
◇
こんにちは、蓮華です。
「いや~、えらいもの見ちゃいましたねぇ」
私の眼の一つが捉えた映像。
これはどちらにとって想定外の事態だったのでしょう。
お陰でこうして知る事ができました。
これ見た事がバレたら命がいくつあっても足りませんねぇ。
「さて、そうなるとどっちかが確実に九尾ですね」
行動はロックしつつ痕跡は絶対消さないとです。
調べようにも過程でこちらの存在が露呈するのはまずいです。
でもやらなきゃですねぇ。
ボタンの掛け違いで取り返しのつかない事になるのはごめんですから。
ちなみに、アナスタシアの愛称がナスチャ。ヴィクトリアの愛称がヴィーカです。