ういうい、やばい奴らが集まってきたの、だ。(頂上決戦編 其の一)
ういうい、円、だ。
その日は白頭巾と二人で色んな街をフラフラしておったの、だ。
とある駅の構内。
観光客のような二人組の女性がキョロキョロしていた。
「フム、出口分かりにくい、迷たネ」
「・・・・・・ボソボソ」
なんだか困っている様子。
「ういうい、どうしたの、だ?」
つい声をかけてしまった。
「あ~、なんカこの駅広いシどこから出ていいカわからないネ」
確かにここは分かりづらいの、だ。
「どこに出たいの、だ?」
「んと、〇〇街出口ネ」
「あ~、なら、そこをあーいってこーいくの、だ」
「お~、助かたヨ、この国のヒト、親切ネ、なんかオ礼したいネ」
「いや、別にいいの、だ」
「そうはいかないネ、ウチの教え、ヒトに借りを作るナ、作るなら・・・・・・まぁそういう事ネ」
「よく分からんが、なら丁度喉も渇いてたとこだ、なにか飲み物でも・・・・・・」
「分かたネ」
そんな流れで私達は近くのカフェに入った。
四人で色々雑談。
こいつらはここに仕事に来たらしい。
よく喋る方。片方だけ編みこんだ黒髪、黒いノースリーブで丈の長い服。
名はシャレイ。
長い髪が顔全体を覆うボソボソ何を言ってるか分からない女、こちらも同じような格好。
名はリライ。
「おぅ、もうこんな時間ネ。じゃあ、そろそろ私タチはいくヨ。色々助かたネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「ういうい、道中気をつけるの、だ」
二人は立ち上がり。
最後にこちらを振り向いた。
「・・・・・・ところで、アナタ達、[九尾]って団体知ってるカ?」
この時、大気の流れが急に止まったような気がした。
「キュウビ? いや、知らんの、だ」
「私も聞いた事ないなぁ」
私達は聞き覚えのない単語に首を傾げた。
「・・・・・・それは良かたネ。どうも二人は只者じゃない気がしたからネ。こっちの気のせいで何よりネ。じゃあ機会があったらまた、ヨ」
こうして二人は雑踏に紛れ姿を消した。
完全にいなくなってから。
「・・・・・・それはこっちのセリフなの、だ。あいつら絶対堅気じゃないの、だ」
「うん、まったく隙がなかったね」
まぁそれも別れたからにはもうどうでも良いこと。
どれ、私達も行こうかと。
そう思い。
席を立とうとしたのだ、が。
「・・・・・・あれ。なんだ、力が入らん」
「私も、だ。なんだろう、腰が・・・・・・」
うまく立てない。
とくになにかされた訳ではない。
なのに。
私達はしばらく力が抜けたようにその場に座り込んでいたのだが。
その理由はすぐに分かる事になる。
翌日。
レンレンの部屋。
そこで大きな事件の一報が飛び込んでくる。
「これは大変な事になりましたよ」
レンレンの顔がマジなの、だ。
「何かあったのか?」
私達も丁度部屋に詰めていた。
いつものように呑気にゲーム。
しかし一気に緊迫した状況に陥る。
「シスト君一族の分家、九曜桜、甘露寺家、両家の邸宅が昨夜全焼、中から複数の遺体が確認されました。まだ身元は判明してませんが・・・・・・おそらく」
キラキラ一族の分家といえば、この国有数の有力者集団なの、だ。
その分セキュリティ対策は万全。
単に一つなら火の不始末かと疑うとこだが、これが同時ならその可能性は薄い。
「明らかに襲撃の類い。でもこの国であの一族をどうこうできる、いや考えようとする組織、ないし人物は皆無です。となると考えられるのは、いや、それなら」
レンレンが考えこんでしまった。
しかし、それも分かる。
分家に手を出すのは一族全てを敵に回すと言う事。
黒幕が誰であれ、その命には誰も従わないだろう。
なら、そんな事情も知らない無知か。
はたまた破滅主義者か。
それともこの国の人間ではない・・・・・・か。
ここで私の脳裏に一つ気がかりが浮かんだ。
「・・・・・・レンレン、ちょっと聞きたい事があるのだが」
「え、なんです、今、私はこれからの・・・・・・」
「キュウビって聞いた事ある、か?」
その名を出した時のレンレンの顔は。
少し怖かった。
九尾。
世界最高峰の9人からなる殺し屋集団。
メンバーは腰から背中に伸びる9本のキツネの尾の刺青。
その中の一つだけに色がついており、全員位置が違うらしい。
メンバーの詳細は分からない。
関わった者全員死ぬから。
「その二人が本物だとしてよく無事でしたね。多分円さん達が一般人ではないと見抜き試したのでしょう。故意に自分達に近づいたのではないかと。本当に知らなかったのが幸いしましたね。じゃなきゃ今頃葬儀の真っ最中でした」
「それほどか」
私もそれなりに腕に自信はあるのだ。
「それほどです。大抵の仕事はメンバー一人で事足ります。でも今回二人。よっぽど大仕事なのでしょうね。例えば・・・・・・」
「ある強大な一族を標的にした場合・・・・・・か」
「まだ憶測の域は出ませんが。もし九尾が関わっているとすればこれ以上に厄介な事はない。過去に一度だけ別の国で九尾のメンバーが一人捕まったんですよ。そのお陰で少しだけ情報が漏れましたが、次の日にはそのメンバーごと関係者全員が死体で見つかりましたよ。とにかく規格外の連中なのは間違いないですね」
キラキラも大変な奴らに目をつけられたものなの、だ。
さて、あいつらどう動く?
◇
こんにちは、シストです。
どうにもこうにも面倒な事になってきました。
「空音、古論、君達は本家でしばらく匿う。準備しだいすぐに向かってくれ」
よもや一族が狙われるとはね。
「おネニー様、私達は?」
「目的は分家というより僕達本家の人間だろう。となると一カ所に纏まるよりバラバラにいた方が連携は取りやすい」
と思う。
でもそれだと一つ問題が生じる。
魔鏡さんは勿論お祖母様につきっきり。
瑞雀さんも父さん母さんの護衛につくだろう。
そうなるとゾディファミを加えたとしても僕達の周囲は手薄すぎる。
「しょうが無い、こうなったら少し心許ないが、彼女達に助けを乞おうか」
一日で分家二つを同時に皆殺しにできる相手。
彼女達だけでは焼け石に水程度だけど。
うまくいけば奥に控える彼女をひっぱってこれるかもしれない。
◇
数時間前。
煌々と燃えさかり。
黒煙は夜空に吸い込まれて行く。
「誰も出てこないネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「ん、そうネ。外に出れば死、中にいても死、でも奴らは中で焼け死ぬことを選んだネ」
「・・・・・・ボソボソ」
「その通りネ。今回もぬるい死事。九尾が二人も来る必要なかったネ。でもまだ死事は終わってないヨ。本来の標的は6人ネ。これはただの下準備ヨ」
朱色が彼女達の全身を照らす。
まだ本番はこれから。
◇
奇しくも同日。
空港に二人組が搭乗口を抜けてきた。
髪と顔も睫、服装さえも雪色の女。
二人の外見はほぼ同じ、髪型と目つきだけが違うだけ。
「やっと着いたわ。あー長かった」
「うん、長かった」
ゆっくりと背筋を伸ばす。
「ここにいるのね、あのおじ様を倒した者が」
「未だに信じられない、あのクリメントおじ様を越える者がいるなんて」
「それを確かめにきたのでしょう。それに目的はもう一つ」
「殺蜘蛛っ!」
「そうっ! ネットじゃない、生で殺蜘蛛の歌が聴けるっ!」
「ライブ、楽しみっ!」
二人は全身から喜びをあふれ出していた。
「強い奴、そして殺戮女郎蜘蛛のライブ、二重の楽しみ」
「生のベアトリスちゃんが見れる」
「私はやっぱり歌音よ。あの子はやばいわ。初めて見たとき痙攣したもの」
カラカラと。
スーツケースを引きながら。
「まずはクリメントおじ様を倒した奴を探しましょう。うちの情報機関ならすぐよ」
「ライブまでまだ日程はある。そうしよう。おじ様は元だったけど・・・・・・」
「そう、私達は現役。負けるはずはない、なんせ私達の所属は・・・・・・」
「参謀本部情報総局、第26特殊任務連隊、ニパビヂーマスチっ!」
誰も知らぬ、誰もが知る、世界最強部隊。
「ライブの前座、精々楽しませてもらいましょう」