なんか、僕もかなりやるみたい。
「今年の拷問士代表は・・・・・・リョナ子っ!」
誰かがそう言った。
「・・・・・・え? また?」
まさか再び自分が選ばれるとは思ってもいなかったから面をくらってしまった。
「え、ちょっと・・・・・・待ってくださいよ」
僕が口を開くと同時くらい。
他の人達から溜息が零れた。
「あ~あ、また終わったな」
「今年はもうなにもかも絶望的ね」
「はい、解散、解散」
そう言ったのは、天城さんとそちらサイドの拷問士達だった。
そもそも、僕が今度は何に選ばれたかというと。
執行庁主催、毎年行われる交流大会。
各部署から一人選出、部署の威信をかけて毎年熱戦が繰り広げられる。
ちなみにスポーツ大会とは別でこちらは毎年内容はランダムなのだ。
今回も賞品は非常に豪華。
「やっぱりくじ引きは駄目だな」
「やるなら最初からリョナ子は抜いとかないと」
天城さん達がここぞとばかりに文句を言ってくる。
でも今回も反論はない。
僕の運動神経は皆無。
「天城さんの仰る通りです。なのでもう一度くじ引きを・・・・・・」
僕としては全力で辞退したい。
だが、ここで物言いが入る。
「いやいや待つっす。天城さん、ちょっとリョナッちを舐めすぎじゃないっすかね?」
案の定殺菜ちゃんが口を挟んだ。
「おい、何言ってんだっ、実際前回駄目だっただろう!」
「この前は急な腹痛で出られなかっただけっす。もし参加してたら大活躍だったはずっすよ」
「私もそう思いますっ! リョナ子さんはなんでも出来る完璧超人ですっ! だから出れば余裕です!」
「そうね、リョナ子は私ほどではないけど、やればできる子よ。他の部署の奴らなんか蹴散らしてくれるわ」
ましろちゃんとドク枝さんもいらない援護射撃をかましてきた。
「なにが急な腹痛だっ! どう考えても仮病だろうがっ!」
天城さんの言動に僕は全力で顔を背けた。
「ちょっと天城さん、それは流石にリョナッちに失礼っすよ。仮にも正義の名の下に法を行使する我々がそんな愚かな嘘をつくとは思えないっすよっ! ね、リョナっち?」
「う、うん。そうだ、僕はソンナ愚カナ嘘ハツカナイヨ」
「ほらっ! 私が言った通りっす」
「うむ、リョナ氏は真面目な子だ。そんな愚かな嘘はつくまい」
「そうですよ、リョナ子さんにかぎってそんな愚かな事するはずありませんっ!」
モウ、モウヤメテ。
「よ~し、そこまで言うなら今回は絶対勝ってもらうからなっ! また腹痛にならないように体調管理はしっかりしとけよっ!」
「もちろんすよっ! 圧勝っすっ! ね、リョナッちっ!?」
「う、うん。マカセトケ~」
こうして僕はもう腹痛すら起こせない状態へと追い込まれていた。
大会まで後二週間。
こうなりゃ、出来る事はなんでもやろうと思う。
◇◇◇
そして大会の日はやってきた。
今回の会場は森林。
内容は。
「さぁー、今年もやってまいりましたっ! 執行庁部署対抗交流大会っ! 果たして今年はどの部署が優勝するのでしょうかっ!」
代表者は16人。
観客席にはいくつものモニターが設置してあり、参加者の動きがよく分かる。
「今回の交流戦はなんとサバイバルゲームですっ! まずはルールを説明いたしましょう。全員敵同士の殲滅戦、最後まで生き残った選手が優勝となりますっ!」
誰だこれに決めたのは。ボードゲームとかならまだしも、なぜサバゲーなのだ。
僕はアイウェアの役割にもなる猫ニャンサバゲー仕様マスクをかけ。
手にはすでに弾速チェックを終えた銃を持っている。
こういうのなら汐見ちゃんとかが適任なんだろうけど、何故かこれ系の大会は不参加なんだよね。そういえば銃花さんも同じだった。なにか理由でもあるのだろうか。
「参加者はあらかじめ決められた初期位置にて待機してもらっております。開始のブザーとともに行動してくださいっ!」
周りは木々に囲まれ視界は良いとは言えない。
足場も悪い。
でも、僕はとても落ち着いていた。
ここでブザーが鳴り響く。
「いよいよ開始ですっ! 各選手一斉に動き出しますっ!」
実際には様子見のため全く動こうとしない選手もいるが。
僕は一気に駆け出した。
「おっとゼッケン13番、リョナ子選手、いきなり走り出しましたっ! これは早い、まるで木々を縫うように移動しておりますっ!」
すぐさま標的を目視。
「お、リョナ子選手、早くも他の選手と鉢合わせましたっ! ん、あれれ? なにもせずに素通りか?」
「ヒットっ!」
「いや、違いますっ! 通り過ぎる瞬間、撃ち込んでいたようですっ!」
相手の選手が手を大きく上げてヒットコール。
「今改めてハイスピードカメラで確認したところ、リョナ子選手、一瞬で心臓に二発、頭部に一発、完璧なモザンビーク・ドリルを披露しておりましたっ!」
僕の足は止まらない。
「ヒットっ!」
「ヒットっ!」
「ヒットっ!」
次々と他の選手に銃弾を浴びせている。
「リョナ子選手、凄まじい活躍ですっ! まさに一騎当千っ! 鬼人猫マスクだぁあああああああああ」
他の選手にも脅威は伝わったか。
まずは僕を排除しようと協力しはじめる。
だが。
「リョナ子選手、躱す、躱す、躱すぅうううううううううう、前方から放たれるスコーピオンの乱れ撃ちもなんのそのっ! あ、だが、左右からも容赦なく撃ち込まれるっ! これは流石に躱せないかぁああああああああああああ!?」
逃げ場のないほどの弾道。
普通なら避けられない。
そう、普通なら、ね。
「あぁ、リョナ子選手、さすがにこれは避けられなかったかぁああ、弾は無情にもその体を突き抜けるぅううううううううううううっ! んんんん、いやいや、違う、違いますっ! これはぁあああああああああああああああ」
確かに命中したと思われた。
しかしそれは。
「残像だぁああああああああああああああああ」
「ヒ、ヒットっ!」
「ヒット・・・・・・」
その間にも僕の弾丸は敵を捕らえていた。
「し、信じられない、なんだあいつは・・・・・・」
「ま、まるで質量を持った残像だ」
あまりのスピードで少しずつ着ていた服が脱げていく。
「おっと、リョナ子選手、肌が露出していっております、今、ちらりとお腹が見えました。ん、これは、このお腹はっ!」
あ・・・・・・。
「見事なシックスパックだぁあああああああああああああああああああああああ」
くっきり腹筋が割れている。
これには観客席にいた他の拷問士達もざわつく。
「え、なにあのリョナ子のあり得ないほどの筋肉は」
「仕上がりすぎでしょ」
「もうプロの格闘家レベルよ」
「よく、見たら、なんかあのリョナ子ちょっと背高くない?」
あぁ、やばいぞ、これ。
「リョナ子選手、ハンドガンを巧みに使いこなして参加者の数をどんどん減らしておりますっ! ウィークハンドなど無いと言わんばかりに左右へと切り替えて、的確、精密、これは本当にプロの殺し屋のようですっ! 」
大地を、木を、踏みつけ、鏡に反射する光のように。
もう残りの参加者も僅か。
このまま一気に・・・・・・。
「ん、ちょっと待って下さい。ここで運営サイドからなにやら連絡が入りました」
あ、このパティーンは。
「えっと、ここまで天下無双の活躍を見せているリョナ子選手ですが、なにやら物言いが入った模様です」
やっぱり・・・・・・。
「サバイバルゲームという事でマスクの着用はルール上認められておりましたが、ここにきていくらなんでもおかしいと替え玉の疑惑が出て参りましたっ!」
そうなると。
「今確認のため、スタッフがリョナ子選手の元へ駆け寄りますっ!」
スーツ姿の黒服集団がリョナ子に迫る。
「い、今、スタッフがリョナ子選手を取り囲みましたっ!」
この時、リョナ子の周囲に風が舞い上がった。
「あっ! なんという事でしょう、取り囲んでいたスタッフが一瞬でバタバタ倒れ出しましたっ!」
スタッフがやられた事で、今度は完全武装の屈強なガードマンが会場に投入され始めた。
「おっとー、今度はガチの運営直属汎用決戦スペシャルガードがリョナ子選手に向かっていきますっ!」
そのガードマンも10人近くいたんだけど。
「あ、リョナ子選手、地面に拳を打ちつけましたっ! これにより周囲のガードマンが宙に吹っ飛んだぁあああああっ!」
あのリョナ子やばいね。
「もう完全に格闘戦ですっ! ガードマンは一瞬で全滅ぅううううううう」
よし、これで戦線を離脱できれば・・・・・・。
「いや、まだですっ! こんな事もあろうかと、今回は刑執行庁の特殊任務支隊ヘリオガバルスが待機しておりましたっ! こちらはマジの本職ですっ! これはさすがのリョナ子選手も万事休すかぁああああああああああ」
うお、ヘリオガバルスまで投入するのか。
「え、え、いや、し、信じられません。あのヘリオガバルスの隊員さえも次々と地に伏せていきます。あ、今、隊長がリョナ子選手を捉えました」
他の隊員はリョナ子の前に為す術なく倒れたが。
あの隊長だけは違った。
「うぉおおおおおおおおおおおお、凄まじい、凄まじい攻防ですっ! 隊長の人体急所を狙った六連撃、その全てをリョナ子選手弾きました。その後のカウンター、でも隊長も間髪避ける、あ、消えた、いや、後ろだっ!」
どっちも人間離れした動きを見せております。
あぁ、でもリョナ子の方が押してる。
あの隊長も凄く強いけど、リョナ子の方が上だっ!
「き、決まったぁあああああああああああああ、リョナ子選手の強烈な蹴りが膝を捉え、体勢を崩した隊長の体に拳が数発、すいません、自分には何発入れたのか見えませんでしたぁああああああああ」
よし、邪魔者は全部排除した。こうなったら。
僕は森の端まで走った。
「蓮華ちゃんの紹介で僕の代わりに出てもらってた方、こっちですっ!」
離脱した偽リョナ子(蓮華ちゃんの紹介で僕の代わりに出てもらっていた人)と合流する。
「もう充分ですっ! ここからスイッチしましょうっ!」
「いいの? かなり楽しめたから私はいいけど。でもまさかあの子と戦えるとは思えなかったよ、嬉しい誤算だった」
すでに同じ格好はしていたので、このまま何食わぬ顔でフィールドに戻った。
「怖い顔して迫ってきたらそりゃ戦うでしょっ! 返り討ちにするでしょっ!」
と逆ギレしてその場を収める。
「あ、何だかんだでリョナ子選手戻ってきたようです。そして確認したところ・・・・・・」
戻った僕は真っ先にお腹をチェックされ。
「リョナ子選手のお腹はまったく割れておらず、それどころか筋肉など皆無の骨と皮のようなガリガリ体型だったために偽物と判断されましたっ! よってリョナ子選手失格ですっ!」
あっさりバレました。
「よって優勝は最後まで初期位置から全く動かず生き残った人事部だぁあああああああああああああああああ」
人事部だぁああああああああ。
人事部だぁああああああああ。
◇◇◇
こんにちは、蓮華です。
「と、私も色々シミュレーションしてみましたが、やっぱり不正はよくありませんし、ズルして勝つ事になんの意味もありませんよ」
「だよね。よし、当日は腹痛じゃなくて頭痛になるよっ!」
こうして、リョナ子さんの部署対抗交流大会は始まる前に終わりを告げました。