ういうい、大見得切った結果がこれなの、だ(血染めの制服少女 後編)
ういうい、円、だ。
何だかかんだで血染めの制服少女の手助けをする事になったのだが。
「・・・・・・あれは無理なの、だ」
一応ターゲットを捕捉。
雲美の力も使って行動を観察してはみたが。
「周りの三人、ありゃ只者じゃありませんぜ」
「私達でどうにかできるかどうか」
一緒に見ていた螺苛と刺苛はそう呟く。
そうなの、だ。
流石分家の中でも一際大きな力を持つを言われる万里小路家。
その次期当主ともなれば。
「あの護衛達、まるで隙がないの、だ」
全員スーツで。
とにかくでかい男、長髪で髭を蓄えたダンディな男、若いさわやかイケメン。
その三人ががっちり万里小路結をガードしている。
「あいつらをなんとかしないかぎりあの女には近づけないの、だ」
戦う前から分かる、一挙手一投足、どれを見ても手練れ中の手練れのそれ。
あれは本職なの、だ。
私達のような半端者では届かない。
こうなったら。
◇
「おねがしゃすっ!」
「うん、じゃあ一人2000万」
「ういうい、一人2000万・・・・・・あひゃぁああ」
本職には本職なの、だ。
てことで蛇師匠に頼んでは見たが。
「いくらなんでも高すぎなの、だっ!」
「いや、確認させてもらったけど、ありゃ、これくらい貰わないと割りにあわない」
「そんなにか」
「うん、そんなに」
全員で6000万。そんなお金あるはずもなく。
「そんなお金あるはずもなく、今回は諦めるの、だ」
肩を落としてその場を去ろうとしたが。
「まぁ、待て待て。お前の姉からある程度金は預かっている。何かあった時助けてやってくれと言われていたんだよ」
「え、まぢ、なの、かっ」
あ、姉御ぉ。
「でも、これを他人のために使う気か。私としてはあまりお勧めしない。お前はこの先、より困難な事態に遭遇するような気がしてならない。なのでこのカードはまだ使うべきではないと思う」
「え、でも、約束、しちゃった、し、なの、だ」
大見得切って、私達が手伝うの、だっ、なんてかっこよく言い放ったの、だ。
「それなら私から提案がある」
その提案がとにかく地獄であった。
集められたのは四人。
私、螺苛、刺苛、そして白頭巾。
「今から三ヶ月間、私がお前らを指導してやる。そこの三人は最低でも今の円くらいにはなってもらう」
「「「イエッサーっ!」」」
皆とんでもなく気合いが入っているの、だ。
私だけはもう今すぐ逃げ出したい。
これから何が起こるからある程度予想できていたから。
皆、蛇師匠の強さは前に映像で見ているから素直なものなの、だ。
だけど、そのスパルタぶりはまだ誰も知らない。
「よし、じゃあ、まずウォーミングアップに42.195キロ走り込みだっ!」
「「「イエッ・・・・・・えぇえええ?」」」
フルマラソンなの、だ。
「全力スパーリング、休みなし、五分間、終わったら相手を変えて、また五分、終わったらまた相手を変えて、休み無しっ!」
「「「イエッ・・・・・・げふり」」」
「筋力強化、階段500段、重りをつけて登っては降りて、登っては降りて、を果てしなくっ」
「「「イエ・・・・・・・・・っごふり」」」
三日後、全員逃げたが。
三時間後、全員捕まったの、だ。
「罰として今日はずっと水の中だっ!」
「「「イ・・・・・・・・・・・・」」」
言葉通り、この日はずっとプールの中でしごかれた。顔を出せば即座に沈められたの、だ。
こうして三ヶ月間、毎日、私達は殺されかけた。
白頭巾は学校があるからと途中抜けたが。
「あの子は素質があるな。円もうかうかしてると追い抜かれるぞ」
蛇師匠からの評価は高かったの、だ。
「残りの期間は私と殺し合い、ずっとだ。気を抜けば死ぬからつねに全力を出せ」
まぁこれがまた地獄。
二秒ごとに、私達は地面に顔をつけ。
また起こされ。
その二秒後には床を舐めていた。
この鬼教官の短期間集中トレーニングは。
一応の成果は出た。
最終的に私達は蛇師匠との本気スパーリングに五秒は耐えられるようになっていた。
こうして。
あらかじめ予定していた場所。
「ん、何よ、あんた達?」
満を持して万里小路の前に立つ。
「黙れっ! 全てはこの日のためなの、だっ!」
「そうだっ!」
私達は違う意味でこいつらに恨みを抱いていた。
「なんだ、嬢ちゃん達、これ以上この方に近づくと・・・・・・」
瞬時に私達は二手に分かれた。
二体一の形を取る。
私と白頭巾。
螺苛と刺苛。
いくつかパターンは試してみたがやはりこれが一番しっくりきた。
相手もプロ。
一瞬の判断ミスが命取り。
だが、それは何十回、何百回と経験した。
極限まで高まった集中力。
体が勝手に動いた。
ナイフに血が伝い落ちる。
最後は白頭巾のナイフが相手のこめかみに突き刺さった。
なんとか勝てたの、だ。
螺苛と刺苛の方は・・・・・・。
「はぁはぁ、こいつやべぇ」
「髪一重でしたね」
倒れているのはとにかく大きな男。
二人はしっかり地面に足をつけていた。
「あ、終わった? なら私は帰るから」
「「「「お、お疲れ様でしたぁあああああああああああああああああ」」」
結局、私達だけでは三人は無理と判断。
一人だけは蛇師匠に頼んだ。
もう、パン、パン、だったの、だ。
パンで、相手の首が曲がり、パンで相手の足が変な形になった。
「2000万、と言いたいところだけど今回はみんな頑張ったから半額の1000万でいいや、じゃあ、またねぇ」
「び、秒給、1000万・・・・・・」
こんな簡単なら最初からタダでやってくれても。
と思ってしまうが。
この領域に達するまでの時間や努力という労力を省いてはならんの、だ。
「な、なんなの、よ、あ、あんた達・・・・・・」
全身から力が抜けたのか、その場にへたり込む女。
万里小路 結。
「・・・・・・お前の番なの、だ」
私がそう言うと、奥から姿を見せる。
血染めの制服少女。
「お、お前・・・・・・っ」
手にはナイフ。
ここからは二人だけにするのだ。
折角の逢瀬。
邪魔するのも野暮ってもの、なのだ。
◇
歩いて、歩いて。
私の傍には誰もいなくなって。
それでも歩いて。
途中、二人の女が隣に立つも。
また消える。
やっと出会えた二人も消える。
私はまた一人。
私の傍には誰もいなくなって。
もう歩くのは止めようと。
足を止めたその時。
誰かが手を差し伸べた。
◇
こんにちは、シストです。
今日はメンバー全員集まっての定例会。
「この子が今日から僕達の仲間になる柊 芳香だ」
一人抜け、一人補充。
「よろしく、です」
歳は丁度、奏と同じか。
紅子とかとも近いし、すぐ馴染むだろう。
これから少しみんなと話をしてもらって・・・・・・。
と思っていた矢先だった。
「うらぁああああああああああああああああああああああ」
扉を開けてこの場に入ってきたのは。
凄い形相で叫ぶ。
分家、現万里小路当主、万里小路賜おば様。
車椅子に座る彼女は、数人の男達を引き連れこの場にズカズカ乗り込んできた。
「見つけたぁあぞぉお、そいつね、そいつが、私の可愛い娘を、あんなに、あんな目にぉお、殺す、あらゆる苦痛を与えて、簡単には殺すか、殺すものか、どうしてくれよう、あぁ、どうしてやろうかぁあああああああ」
う~ん、恐ろしい。
「お前達ぃい、そいつを捕まえなさい、早く、帰るわよ、早く、あぁどうしてやろう、どうしてくれようか、早く、そいつを早く、捕まえろぉおおおおおおおおおおお」
賜おば様の声に、取り巻きの男達が動く。
それを。
「いやいや、賜おば様、ちょっと待って下さい。この子はもう殺人鬼連合のメンバーで、僕達の仲間です。勝手に連れてってもらっては困りますね」
「あぁああはあああああ??????」
芳香の前に立つ。
「おネニー様のいう通り、私達の仲間に手を出すって事は私達に手を出すって事と同義」
バールを肩に、タシイも横に並ぶ。
「アタシらはリーダーに従うのみ。勿論仲間は守る」
目黒さんも芳香を庇う。
同時に、他のメンバーも武器を構えた。
「なんなの、なんなの、なんなのぉおおおおおおおおおお、どうでもいい、そんな事、私の可愛い結が、あんな目に、そもそも結はここのメンバーだったでしょっ! ならなぜ守らなかったっ! おかしいだろ、あぁあああああ、なんで結だけっ、いいから、いいから渡せ、そいつを寄こせぇえええええええええええええええええええ」
「それに関しては謝罪します。でも彼女が言ったんですよ。私には優秀な護衛がいるから私には極力構わないでって。僕としましてはこの件を反省しまして今後の・・・・・・」
「ごちゃごちゃうるせぁあああああ、お前らもうどうでもいいから捕まえろ、邪魔するなら全員殺せぇええええええええええええええええええ」
やれやれですね。
でも、そのお言葉頂きました。
「五月蝿いのは、貴方よぉ。少し落ち着きなさ~い」
影、柱に背中をつけて。
くるくる包丁を回す、クルクルクル。
「っ、カリバ・・・・・・」
賜おば様のトーンが一気に下がる。
「私の可愛い子供達になにするってぇ? もう一度言ってみなさい、た、ま、えぇえええええええええええええええええええええええ」
「・・・・・・っ」
完全に黙ってしまいましたね。
「今のは聞かなかった事にします。なのでこの場は大人しくお引き取りを」
「・・・・・・・・・・・・」
唇を噛みしめ、そこから血が流れ出ている。
「お引き取りを」
「くそ、くそ、くそがぁあああああああああああああああ、覚えていろ、絶対、このままでは許さない、くそ、くそ、絶対、絶対、だ、このままでは済まさんぞぉおおおお、くそがぁああああああああああああああ」
賜おば様は最後まで喚き散らしながら渋々この場を去っていく。
ふぅ、母さんにいてもらって助かった。
僕もまだまだ親離れできませんね。
「あ、あの・・・・・・」
今のやり取りで、芳香も少し途惑っている。
その頭を優しく撫でる。
「大丈夫、これからは僕達が傍にいますから」
◇
歩いて、歩いて。
私は一人。
周りには誰もいなくなって。
ついに私は立ち止まる。
そこに差し出された手。
引き寄せられた先。
そこには沢山の人が。
私は囲まれて。
また歩き出す。