ういうい、一難去ってまた一難なの、だ。(血染めの制服少女、前編)
ういうい、円、だ。
「血染めの制服女~?」
「ええ、最近、よく目撃されているのですよ」
白いシャツ、そして顔。
赤く、赤く。
「そしてですね、決まってその姿を見た周辺には・・・・・・」
まるで都市伝説のような話。
「死体が見つかるんです」
◇
最初は無視されるくらいだった。
私のなにがそんなに気に入らなかったのか。
それすら分からないまま。
どんどんエスカレートしていく。
もう想像できるだけの事はされてきた。
皆、私の死を望んだ。
早く、早くと。
急き立てる。
じゃあ、もうそうするしかないじゃない。
泣いて、悩んで、吐いて、藻掻いて。
なんで。
なんで。
ここまでされて。
私が死ななければならない。
逆じゃないのか。
死ぬのは・・・・・・。
◇
ういうい、円、だ。
そうわけで一応見回りなの、だ。
本当にそんな奴いるのかどうか。
「お姉ちゃん、蓮華お姉ちゃんがいうんだから多分いるんだよ」
私の思いを察したか一緒に歩く白頭巾がそんな事をいう。
「まぁ、そうだ、な。だが、それはそれで解せぬの、だ」
レンレンがその存在を認めて、本気で見つけようとしたならとっくに詳細は得ているはず。
それを曖昧なまま私達にこうして足で探させている。
「これは完全な勘ですけど、次はここら辺にいそうな気がするんですよねぇ~」
レンレンはそれだけを言い私達を送り出した。
どんな勘なの、だ。
そんなのでいるわけ。
とにかく人気が無い場所。
人どころか猫一匹・・・・・・。
「いたよ、お姉ちゃん」
「そうか、いたか、ってえぇえ、まぢでいた」
路地から出てきたのは。
血染めの制服少女。
少女はこちらに気付くと。
うつろな目で、口元だけ僅かに動いた。
笑ったのか。
そのまま少女は何もなかったかのように歩き去って行く。
「お、おい、ちょっと、待つの、だ!」
慌てて引き留めようとするが。
「・・・・・・・・・・・・」
私の言葉は無視、歩みは止まらない。
本当なら追いかけたい。
だが、足が動かなかった。
相手の狂気に圧されてたわけではない。
その証明に隣の白頭巾は言葉すら出さない。
これは思うに。
覚悟。
何があっても、誰が相手でも、自分は決して止まらないという意志。
完全に少女を見失ってから。
いやぁ、まぢでいたのだ。
改めてそう思った。
「あれ、違う意味でやばいね。私が声も出せなかった」
「そういえば、あれにあったら、なんかあるん、だったな」
「えっと、たしか、近くに死体が・・・・・・」
私達は少女が出てきた路地へと入っていく。
血が点々と、私達を導くように。
辿る先。
そこには。
「なるほど、確かに・・・・・・」
「あったね」
鼻に血の臭い。
耳には絶叫。
口には味が、それは昔の記憶。
自分の持ち合わせているそれらを容易に思い出させるような光景。
男か、女か。
近づくまではただの肉。
赤く染まったただの肉。
刺し傷からは今だ血が溢れている。
「いったい何カ所刺してるの、だ」
「刺し傷の数は恨みの深さに比例するというけど」
とりあえずレンレンに報告なの、だ。
◇
あの女は支配者だった。
あの女が黒といえば白も黒になった。
完全に周囲をコントロールしていた。
女の発言がクラスメイト全員の指針になった。
生まれつきの資質なのか。
女は人間の扱いに長けていた。
女は家柄もよく成績もよく顔もよく。
女にすれば誰でも良かったのだ。
それがたまたま私だったってだけで。
女は笑う。
自分の盤面で全て駒が思い通りに動くのを確かめるように。
私にも味方はいた。
でも、一人ずつ消えていく。
女に逆らう者は忽然と。
いつしか周りには誰もいなくなった。
◇
ういうい、円、だ。
レンレンに報告したら。
「あぁ、そうですか。ではこの先はお任せします。私は今からちょっと手が離せない状態に入りますのでここからは貴方の判断に委ねますねぇ~」
そういい、また勘で次の予想出現地点を教えてくれたの、だ。
「丸投げされたの、だ」
「どうするの?」
「レンレンの勘は2時間後。先回りする、か」
血染めの制服少女。
果たしてまたレンレンの勘は当たるかどうか。
2時間後。
「まぢでいたの、だ」
「蓮華お姉ちゃん、一体あの人なんなの・・・・・・」
林を抜けた先。
森と呼ばれる前の狭間。
少女に気付かれないように後ろからついて行く。
少女の動きが止まる。
その目線の先には。
「ぬぐぅううう、むふうう」
木に縛りつけられている男。
声は出せないように口もしっかり塞がれていた。
「・・・・・・・・・・・・」
少女はナイフを握って無言で男に近づいていく。
「そこまでなの、だっ!」
私が後ろから声をかける。
血染めの制服少女はゆっくり振り返る。
「・・・・・・誰?」
「昆虫採集部、切り裂き円、だ」
「同じく、白頭巾・・・・・・」
そう名乗るが、少女は全く興味を示さず。
「・・・・・・そう」
再び男に向き直し歩き始めた。
「ちょっと、待つの、だっ!」
完全に無視されてるの、だ。
「お前は誰だ、その男は誰だ、なんでこんな事をしている!?」
早口でまくし立てる。
「・・・・・・はぁ。話したら邪魔しない?」
「それは聞いてからなの、だ」
少女は渋々と話し始めた。
自分がある女に目をつけられ。
そこから地獄の日々が始まった事を。
もう死ぬしかない。
そう思っていたある日、差出人不明の手紙が届いた。
そこには自分を地獄に叩き落として苦しめていたクラスメイトの情報。
そしてそこにはこう書かれていた。
貴方がその気なら協力しますと。
「私はそれに従った。指示された場所にいくと標的が身動き出来ない状態でいるの。私はそれに手を加えるだけ」
これで12人目、と彼女は締めくくった。
「・・・・・・そうか」
「・・・・・・お姉ちゃん」
その協力者というのが気になるが・・・・・・。
「話したよ。で、貴方達邪魔するの、邪魔するならしょうが無い、しょうが無いよね」
少女の体勢が前屈みになる。
返り討ちにするのは簡単だが。
「いや、好きにするの、だ」
「うん、そうだね」
私も白頭巾も止める気などなかった。
「・・・・・・え、いいの。それじゃ・・・・・・」
少女は男の元へ向かう。
「むぐぐううううう、ふがむぁあああああああああ」
男は必死に抵抗しようと試みるも、身体はぎっちり固定されている。
そして。
少女の制服に。
さらに血が染みこむことになる。
男の顔が地面を向いて垂れ下がる。
両目は抉られ、両耳は切り落とされ、胸、腹には無数の刺し傷。
「終わったか」
「なかなかやるね」
私達は黙ってそれを見ていた。
やはり素人な部分も多かったが12人もやれば手際も良くなる。
「まだこれは続くの、か」
後何人いるか知らぬが、この先も上手くいくとは限らない。
「後一人だけ。全ての元凶、あの女だけ」
少女は空に顔を向ける。
「でも、その女だけは捕まらない。指示も届かない。噂ではなにか裏があるとか」
後一人なのに、と少女は呟く。
「その女、どんな奴なのだ、裏の顔を持っているなら私達の知っている奴かもしれない」
ここで私も勘というのが働いたの、だ。
それも嫌な予感なの、だ。
「万里小路 結。それがあの女の名前」
すぐに電話をかける。
レンレンではない。
「種か。私なの、だ。万里小路ってなんか聞いた事があったのだが、なんだっけなの、だ」
「万里小路って、あの万里小路かな? ならシストくんとこの分家の一つだよ。そして確か娘がいてその子、今・・・・・・」
私の勘、特に嫌な予感てのはよく当たるの、だ。
「殺人鬼連合だよ」
話が繋がってきたの、だ。
どうやら私達はいつの間にかレールにのせられたって事、か。
通話を終え。
血染めの制服少女を向き合う。
「お前の最後の標的。お前では少々荷が重そうなの、だ。だから・・・・・・」
◇
誰もいなくなって。
私は一人。
白い私は。
どんどん染まる。
歩くだけ。
歩いて。
でも周りには誰もいない。
それでも歩いて。
歩いて。
そして出会った。
それは二人の女。
誰もいなかった私に・・・・・・。
◇
ういうい、円、だ。
レンレンは言ったここからは貴方達に委ねますと。
ならそうさせてもらう。
「ここからは私達がお前を手伝うの、だ」